「流石はロックや、えらく豪勢やな。美味しそ〜」
目を輝かせるシズさんと、
「早く食べようよ、良いよね?」
ヨダレを垂らす友奈。
テーブルに並べている料理を食べるのが二人とも待ちきれないようだ。
「フッ、弥勒にかかればこれぐらいお手の物ですシズさん。弥勒がいるのならば明日の任務は既に達成したも同然。前祝いです。
友奈は待てをしている犬みたいで可愛いわね…フッ、沢山作ったから焦らずよく噛んで食べるのよ」
神世紀72年。私《ミロク》-弥勒蓮華はライバルであり仕事仲間である友奈-赤嶺友奈、私達のリーダーかつ巫女であるシズ先輩-桐生静。この三人でチームを組みお役目を果たすために訓練を重ねてきた。
そのお役目というのは、この四国を守ってくださる神樹様を信仰するのではなく人を滅ぼそうとする存在である天の神を崇める人々の信仰を止めることだ。
世界を絶望で覆った天の神を信奉するなど正気の沙汰では無いと思うが信者達がいるのが現実だ。
信仰は力になる。もし信仰により天の神が更に力をつけ再度バーテックス達を遣わしてきたら現在抗う術はないという。
私達は三人で一つの矢。悪を打ち払う鏑矢だ。結束が硬く気が置けないこの三人の空間は居心地が良い。大人になった後もこの三人で仲良くしていたいなぁと常日頃思う。
「ほなまた明日な〜しっかり寝るんやで、ロック、赤奈」
夕食を取り終わり少ししてシズさんはひらひらと手を振りながら自室へ戻っていった。湯浴みもすまし今は寝る前の歯磨きだ。
「仕上げは弥勒に任せなさい。ほらお口あーん」
「ふぁい」
少しウトウトしてきた友奈は素直に口を大きく開ける。
フッ、ライバルの歯の一本に至るまで完璧に管理する…流石私だわ。
床に入りしばらくして、少し離れたベッドで友奈が不安そうに話しかけてきた。
「明日の実戦…渡された武具で本当に殺しちゃわないかな?」
どこまでも相手のことを考えてしまう優しい友奈。それは美徳である反面この任務には向かない性格だなと常々思う。
私は2人で何度も確認したことを言う。
「大赦の技術班の人達曰く友奈なら手甲。弥勒なら剣身。
天の神の信者達。つまり神と通じやすくなっている者へ意志を込めて攻撃を与えれば魂だけを強制的に神樹様とパスを繋げて昏睡状態にさせる。
そして神樹様の元へ魂が送られると少なくとも半年程度は強制的に神樹様の元へ囚われ、神樹様がお認めになった者から目覚める…
フッ、こればかりはあの人達の言うことを信じるかないわね。」
「そう…だよね。」
数分間無言の時間が続く
「技術班のトップ(?)の人…リリエンソールさん、だっけ。ほんと美人さんだよね〜私女優さんかと思ったよ」
友奈が暗い雰囲気を変えるべく話を逸らしてきた。
「ふっ…そうね。この弥勒もあの美貌を認めるわ。
とても50代とは信じられない。きっとああいう方を美魔女と言うのね。」
年上にこういうのも失礼かもしれないが友奈の顔と似た可愛らしさもありそれでいて見惚れてしまうような美しさを備えており、下手な芸能人よりもオーラが出ていた。私や友奈と肩を並べる美人っぷりだった。
(「哀訴嘆願。弥勒君。赤嶺君。四国を、未来を頼んだよ」)去り際に背を向けた私たちにそう溢した彼女の声はとても切実だった。過去に何かあったのだろう。
「…さあ、明日も早いのだし寝るわよ。不安なら一緒に寝てあげるわ友奈」
「子供じゃないんだから大丈夫だよぉ」
少しムッとした声音で言い返してくる友奈
戦闘力向上のため作られた洞窟は精霊と訓練をすることができるというもので私達が強くなるにつれ難易度を上げていった。
色々な種類の精霊達に協力してもらいながらあざを作り、血を流しながら必死に鍛えてきた。
任務に失敗するはずがないという自信と微かな不安の狭間で私は眠りに落ちていった。
翌日、私達は無事にお役目を果たした。
祝詞を付与されていない者には危険性が高い可能性があるということで私と友奈。後方からの祝詞付与のためのシズさんの三人だけで事に当たった。
旧世紀に人を殺すために作られたという銃と呼ばれる武具を使われたことや精霊が敵として出てきたことには驚いたが、自分達も精霊を相手に訓練を重ねておりましてやシズさんの祝詞つきだ。軽い傷はあるものの大した問題なく制圧を完了。死者も出さず大手柄だ。
私達は大規模な天の神の信者達の儀式を止めることができた。もし行われていれば何も知らない無関係な一般人が生贄として3桁規模で犠牲になっていたという。
一般的にはテロということになってはいるが表にしろ裏にしろ弥勒と赤嶺の両者が活躍したことは報じられた。今後も名家として名を馳せて行くことだろう
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「ごめんなさい…ごめんなさい…」
うなされている友奈の声で目が覚めた。
ああ、まただ。
彼女は覚醒時には明るく振る舞ってはいるものの日に日に目の隈が深くなってきていることは隠せず暗い表情を見せることも多くなっていった。
初期は一緒に眠ることで彼女は安眠できていた。しかし最近はそれでも尚うなされる頻度が増してきている。
あれで私たちの任務は終わる…かと思われた。
しかし週に一度は任務がある。
あの戦いで大半の信者を捕らえた。
あとは虱潰しに数人、或いは単数の信者を捕捉するだけなので任務自体は比較的楽ではあるものであるもののやはり人に危害を加えることに対して優しい彼女は心を痛めているようだ。何度止めても
「自分がしたことだから」
と時間がある時は病院へ行き昏睡状態の人々が死んでしまっていないか、異常はないかを確かめ、そこで親族や友達の悲しむ様子を見て心を更に痛め罪悪感で日に日にやつれていった。
できうるかぎりの優しさを込めて落ち着かせるため頭を撫でる。十分程して漸く安らかな寝息へと変化した。
彼女の限界は近いだろう。どうか彼女に平穏な日々を…
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「人類存続のバトンを繋いでくださった四人の勇者様方。最後の一人にして災厄を経験した最後の一人でもある乃木若葉様が亡くなったことはご存知かと思います。
大赦はそのお力を有力な者たちに取り込ませるつもりです。」
いつからか仮面をつけるようになっていたシズさんが機械のアナウンスのように淡々と告げた。
「あの…取り込むってどういうことですか…?」
友奈が恐る恐る聞く。
「有り体にいえば先日亡くなった乃木若葉様を力ある巫女や神官達が食べる儀式を執り行います。乃木若葉様を食すことでその力を身に宿すのです。
あなたたちのお役目は邪魔をする者達の排除です」
少し声が震えて聞こえたようなものの勤めて冷静に話そうとするシズさん
耳を疑った。大赦は何を考えている?
彼女を食べることで力が継承できると本気で考えているようだ。
なんでも昔はたくさんあったという「シュウキョウ」のうちのひとつを参考にしているようだ。人類存続のためならなりふり構わないとはいかにも大赦らしい。
儀式場はマリンドーム…近々勇者様や平和に貢献した巫女達の慰霊碑になる予定の場所で行うそうだ。
ボーッとした頭でその内容だけは覚えているあたりどうやら任務に頭が慣れすぎてしまったらしい。
儀式は警備を除けば極少人数で行うという。
死して尚彼女に安寧はもたされないのか。
私と友奈、無言の空間が続き夜になった。シャワーは今日は一人ずつ入るということになり友奈を先に行かせた。
その間に渡された資料を読み込みしっかりと頭に入れていく。
電話だ。
「もしもし、弥勒です」
「桐生静です。
明日の打ち合わせのために現在大赦本部にいるのですが合間に他の部屋の話が気になったため聞き耳を立ててきました。
大赦の上層部はあなた達の武装の霊的部分に細工をしたようで、一般人にも無理矢理神樹様とのパスを開かせ昏睡状態に陥るようにしたようです。」
やはりか…
あまりにも多すぎる昏睡者。天の神の形跡が一切ない場所を襲撃することが増えてきており薄々そうではないかと感じていた。
「どうやらあなた達に大赦や個人の障害、危険と判断した人たちを昏睡させ眠らせている期間の間に隠蔽、変更を行っているようです
…内部事情を知り過ぎたウチを消す口実のためにわざと盗み聞きさせたのかもな」
自嘲気味に笑う彼女。故意的なのか余裕がなくなってきたのか昔の優しい口調になった。
「ロックは強い子や。耐えれると思う。けどアカナがこれを知ったらそれこそ精神が潰れてまう。早よ逃げ。
もう切るで
…またな。」
電話が切れた。
シズさんは私たちを買いかぶりすぎだ。
数々の裏事情を知っている私達の逃亡を大赦が許すはずがない。
私たちにはお役目の報奨金があり十数年間は暮らせる額を持っている。とはいえ大赦にとって銀行の差し押さえなどたやすいだろう。
四国は広いようで狭い。美少女二人だけで生活しているなんて目立つに決まっているし大赦のことだ。すぐに私達を発見するだろう。
見つかった後、私たちの処分だけならまだ良い。私たちが関わったすべての人々が「口止め」される可能性もある。やはり逃げることなど無理だ。
…ああ、私は無力だ
眠れぬ朝を迎えた。
迎えに来た車から出てきたのは知らない巫女。
「シズさんは?」
答えは分かっているが聞いてみる
「桐生静様は他のお役目があるようです。」
死んだな。どこか冷静に時代を受け止めてしまっている自分が嫌になる。
「本日、我々は英雄乃木若葉様の力を身に宿す。
若葉様。私たちに力をお与えください」
声高らかに開会の儀の宣言した仮面を被った神官。
周りにいるのはたしか…大赦のトップ層だったか。
自分達の尊厳をそんなにまでして高め、確固たるものにしたいか。
高台に乗せられ白い布を被せられているのがきっと乃木様のご遺体なのだろう
任務に支障をきたすため出来る限り考えないようにしていたが布で覆われた彼女のシルエットを見るだけで記憶が甦ってくる。
まず思い出されたのが初めてお会いした時だ。
テレビなどではたまに目にしていたが実際に浮世離れした彼女をひと目見て、格の違いが分かった。
人はこうも美しく生命力に溢れた存在になれるのか。80代とは思えぬ美貌と若々しさであった。
友奈の顔を見て驚き、名前を聞き再び驚きそして…微笑んだ。凛々しいお姿しか知らなかった自分達は人間らしさを感じるギャップに驚いた。
名前と顔で驚いたということは高嶋友奈様を思い出されたのかも知らない。友奈はそんなに似ていたのだろうか。
次の記憶は自分たちが訓練中にお見えになった時のことだ。
私の剣使い粗を即座に見抜き、指摘してくださった。
徒手空拳の友奈に対しても同じようにされていて剣はまだしも拳で戦う武術にも心得があることに驚いた。
乃木様は
「昔の友を何年間も間近で見ていて教わりもしていた。昔とった杵柄ってやつだな」と朗らかに笑った。
そして最も新しい記憶であるのがひなたさまの葬式だ。
「今までありがとうひなた。私ももう少しでそちらへいく。ゆっくり休んでくれ。」
見ているこちらの胸が締め付けられるような悲しそうなそして慈悲深い微笑みを浮かべ上里様の頬を撫でられていた。
乃木様と上里様は女性同士ではあるが比翼連理という言葉がぴったりのお二人であった。大赦の内と外をそれぞれ長い間支えてきたその片翼が没したのだ。
後追い自殺をするのではないかと気が気でない人々もいたようだが乃木様は毅然としたままで上里様が彼女へ当てた遺言状に従って遺産整理やもろもろを上里家のものと行いそれを終えると若葉さまは大赦の一切から手を引くと宣言。
引継ぎを行い一週間ほど前にやっと大赦のしがらみから解放され数日もたたないうちに息を引き取られた。
生を最後の最後まで全力で走り切られたのだろう。
いざ、宣言した神官の一人が布を取ろう…というところで動きがあった。
乃木家の人々や乃木様に近しかったもの達が乱入してきたのだ。
ああ、乃木様はたくさんの人々に愛された
「…火色舞うよ」
友奈は人々を止めるためゆっくりそちらへ向かっていった。
私は…動けなかった。
任務としては止めるべきなのだろう。頭では分かっている。しかし体が、心がこれを阻止するべきではないと叫んでいる。
「何をしている鏑矢!」
神官の一人が叫ぶ。知ったことか。
夜逃げせず現場には来たのだ。参加せずとも私たちの命まで取られることはないだろう。
ふと友奈を見やると容赦なく乱入してきた人々を殴り、蹴り、力を使って昏睡状態に…と暴力の嵐が起こっていた
「何しているの友奈!
人として間違っているのはこちらなのよ!」
「…邪魔しないでレンち」
友奈の目からは生気が感じられず虚を見ていた。
友奈はきっと気づいていたのだろう。
大赦の嘘も、逃げられないことも。彼女の心はもう既にどこかで折れていたのだろう。
殴りかかってきた。…想いを込めた手甲でだ。
(ああ、ヤられる側ってこんな風なのか)
どこか冷静に考えてしまう自分がいた。
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気がつくとひたすら落下していくような感覚が全身を包み込む。私の魂は神樹様の元へ向かっているのだろう。真っ白い世界。私自身もまるで幽霊かのように白い姿になっている。
神聖さを感じる心落ち着く場所が見えてきた。膨大な数のボヤッと光る人型が見える。あれが私達が昏睡させた人々の魂なのだろうか。私も今から仲間入りを果たすのだろう。
突如、眩い光に包まれ膨大な情報が入ってきた。あの乱入は友奈と50年前からあるという大赦の治安組織である烏丸部隊が武力行使を行い死傷者ゼロなものの負傷者多数という結果で終わった。乃木家は若葉様の偉大な功績から今回のことは「無かったこと」として扱われたがそれ以外の人々は…想像にたやすかった。
シズさんは鏑矢の任務中に「殉死」したこととして扱われたらしい。反吐が出る。
友奈は私の立場をこれ以上悪くさせないために強制退場させるために私を昏睡させたようで事態が収まったのち必死に大赦へ弁明してくれたようだ。本当に優しい子だ。
しかし大赦は裏切りを許さない。弥勒家の名前は地に落ちた。けれど昔から弥勒家は繁栄と衰退を繰り返してきた家だという。数年後、数十年後、はたまた数百年後か…弥勒家はきっと再び咲き誇ってくれる。
そして次に神樹様の内部での情報が頭に流れ込んできた。
中立神に人の可能性を見せるために神樹内部の敵として演じる造反神。
各時代の勇者、巫女達。
造反神側の勇者として独り呼ばれ戦うこととなった友奈。
戦闘の中、友奈が「レンちは人として正しいことをした」と言っていた…よかった、分かってくれていたのか。
造反神…ひいては神樹様の試練は終わり中立神が天の神側につかず敵対しないようにすることができた。
戦いが終わり後は帰るまでの猶予で記憶を残す方法を模索している中、中立神が神樹内部に介入し次の試練が始まった。
私はこれに呼ばれたようだ
これは騙され使い続けられたわたしたち3人へのご褒美、ひとときの夢なのかもしれない。その夢を覚そうとするならば勇者達…例え乃木様…いえ、神であろうと抗っていこう。私はそのためにこの力を使っていく。
※作者に特定の宗教を否定するアレとかはないです
あゆゆ2章はよ