幻想郷からこの幻想世界に帰ってきて一週間が経った。主に彼らを表に出たりでなかったりして支えたり支えなかったりした玲奈は今、俺の横でアイコスというタバコを吸っている。
「ねえ、ここ一応喫茶店としてまた使うつもりなんだから、あまりタバコは控えて欲しいんだけどな……」
「害なんかねえんだから良いだろ。俺の吐く煙は、さも消臭力のように部屋全体の臭いを消すんだぞ?さらに健康にもなれる、忘れたわけじゃねえだろうな?お前が――」
「『お前がそう思ってるから俺は出来るんだ』だっけ?久々に聞いたな、それ」
「言う機会がねえんだよ。ここんとこ劉禅はまるで動かねえし、やっぱ口だけだったのかなあいつ」
劉禅。この幻想世界に現れ、「蜀を再興する」といって神社へ火を放ったのを皮切りに無数の私兵を連れて侵略活動を開始した男。奴が玲奈を一度殺した事によって玲奈は千年封印していた「常識破り」の力を解き放ち、劉禅を圧倒した。
このまま何もなければ、ハッキリ言って負ける要素がまるでない、退屈な戦いになるだろう。だからこそ、月桜の願いに応じて原作幻想郷の世界に三人で助けに向かったのだが。
「お前も吸うか?紙タバコとほとんど吸い心地変わんねえぞ」
「断る。俺にとってはタバコは害のままだし喫茶店がタバコ臭くなるのは御免だ。それに俺はアメスピしか吸わん」
「お前生き方適当なのにタバコの種類だけはこだわるよなー。臆病なんだか頑固なんだか」
「その二者択一なら頑固と言え……ああ、そんなこと話してたら吸いたくなってきた。ライター貸せ」
「おいひったくるなよ!俺のモンだぞ!!」
眉をひそめ、力強くドアを閉めて店の外に出る。お前は毎日のように火をつけようとする瞬間でも構いなくひったくってくるからお返しだ。
「ったく。この頃大輔の奴いつもふてくされてるよな。困ったことがあったら俺に相談しろって念を押してるのに」
「君以上に悩みを打ち明けたくない人はいないよ……それに、悩んでてこうなってるかはわからないよ?」
「ああ、生理ってこと?」
「それを言うなよ!!言うとしてもオブラートに包んでくれ!!」
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「チッ……オイル切らしてんじゃねえか。だからあいつ加熱式とかいうやつに手を出してたのか」
心のむかつきを晴らすためにタバコを吸おうとしたが、なんと玲奈からひったくったライターはオイル切れを起こしていた。もっと冷静になって盗めばよかった。
玲奈の生理かと疑う発言に思いっきり机をたたいて注意する耕の声が聞こえる。別にそうだからイライラしてるわけじゃない。
向こうでの、耕と玲奈の活躍ぶりに嫉妬し始めただけだ。
耕はBARを開いて拠点を作り、篝由良の「非正義非悪党」という立場を明らかにした。
玲奈は多くの仲間をその”強さ”で導き、二度世界を救う手伝いをした。
俺は……何をした?あいつらに、何を与えることができた?技術とか、成果とかそんなのじゃない。風間大輔は、人生の後輩たちに一体何を見せられたんだという話だ。
耕や玲奈は一個人として立ち回れる存在感が確かにあるが、俺にそれはない。ただ悪魔となり、技術を与えただけだ。篝の改心だって、河城にとりが美味しいところ持って行ったし。
……気に食わない。俺は、最前線の後ろで立ち回るお膳立てなんてする気がなかったのに、まるで最初からそうなりたかったかのような立ち回りをしなければならなかった。
あいつらがちょっと強かったせいで、協同戦線のセンターの座からはじかれた。玲奈と肩を並べて戦いたかったのに。
俺は、何をすればいいんだ。何をどうすれば、もっと強くなれて、もっと目立った行動が出来るんだ。悔しくて、悔しくて仕方がない!
「おう、どうした。お前らしくもないぞそんな拳なんぞ握って」
気が付くと、玲奈がすぐ後ろに立ってて、冷たい銀色のビール缶を頬に当ててきた。
「……玲奈。どうして来た」
「何、少しお前に言いたいことができただけだ。ライターの詫びにな」
「やっぱり知ってて追わなかったんだな……!それで、言いたいことって?」
まずは受け取れと言わんばかりにもう一度ビール缶を当ててきた。返事に夢中になってて受け取るのを忘れてた。
缶を受け取ると、直ぐにドアノブをつかんで中に入ろうとするので咄嗟に呼び止めると――
「気にすんな、全人類の目線を釘付けにすることなんてできんからな。だがとりあえず俺達にとってお前は、共に肩を並べて戦う戦士だよ」
そう一言いい残し、店の中へ入っていった。
…………
缶の飲み口を開け、口に付ける。そういえば、誰に「目立ってたよ」と言われたかったのか、決めてなかった。
けど今、玲奈に「共に戦う戦士」だと教えられて、今まで持ってた怒りがが吹き飛んだ。
大体、狙って何かを人に学ばせるなんて無理な事だ。俺の姿を見て何を学んだかなんて本人にしかわからないこと。
俺は俺らしく自由に生きて、玲奈と共に生きていけばいい。
口角が上がる。いつもの顔になった。悪魔らしい邪悪な笑みが浮かぶ。
手に持った空の缶ビールを握りつぶして空へ投げる。ふと腰に下げた拳銃に意識が向く。
メロンを持って走る男、それを追う女。状況は大体想像がつく。
景気づけ、にはならないかもしれないが。
咄嗟に拳銃を構え、男の頭を狙って発砲した。