速い仲居さんはウマ娘ッ! 作:ちくわ
「トレーナー。何時まで乗ってればいいの~? ボクお尻が痛くなってきちゃったよぉ~」
「我慢しようテイオー。今回ばかりは仕方ないのだろう? トレーナー」
「お姉ちゃんが運転してくれる車だもん! カレンは平気だよ?」
「くじ運酷くてごめんね……休憩したかったら何時でも言ってよ?」
トレセン学園を出発してから2時間、先ほどまで広がっていた綺麗な田舎景色は、何時しか木しか見えない醜い山と化していた。ルート上はこっちで合っている筈なのだが、少々不安になってくる。
今回私達は夏季合宿と称して他のチームと行先を決めるくじの勝負に出たのだが、昔からくじ運が悪かった私は今回初めて行先の候補に選ばれた山奥の旅館を引き当ててしまった。
新しい場所なのはいいことではあるのだが、立地が悪く皆かなり嫌がっていたらしい。当然私も『だるい』とは思ったがそれほどのものじゃないでしょと高をくくっていたのがダメだったようだ。確かにこれは酷い。
山の道に入ってから、一向に建物の影すら見えないのは事故でしょう事故。マルゼンスキーが見ても苦笑いするレベルだと思う。
トウカイテイオーは案の定その長すぎる車内に悲鳴を上げていたが、その他の二人、オグリキャップとカレンチャンは平気そうで安心した。三人とも全滅だったら運転する気力無くしてたかもしれない。
「しかし、結構崖ギリギリの道だな。トレーナーにここまでの運転技術があるとは……」
「私も不思議でならないんだけど。寧ろ私が一番驚いてる」
「落ちたら骨折どころの騒ぎじゃないよぉ~」
「大丈夫大丈夫! ……だよね?」
「カレンチャンまで不安にならないで!!」
山を越え谷を越え――って程ではないが、かなり長い事山道を進むこと数十分、ようやく木々の隙間から木造建築の屋根がチラリと見える。
『やっとか』と安堵しそうになったが、それで運転が鈍って落ちたら洒落にならないので、最後まで気を抜かず運転する。
右に曲がってすぐ と書かれた看板を曲がると、ようやく目的の場所へと到着する。
「~~~~~っついたー! 長いよトレーナー!」
「本当にごめんなさい」
「気にする事は無い。私は結構楽しかったぞ?」
「カレンもカレンも!」
「うぅ、ありがとう二人とも」
二人の言葉を聞いた後、改めて建物の全貌を視界に入れる。美しい白樺の木々で建設された風情のある旅館。その隣にはすべての距離に対応したレース場も完備されていた。さすがウマ娘の為につくられた旅館、色々考えられている。
「うわ~おっきいコート! ボク速く走りたーい!」
「はいはい、旅館の人に挨拶して部屋に荷物送ったらね~」
急かすテイオーを後目に旅館の入り口の方へ眼をやると、一人の女性が優しい笑顔で出迎えてくれた。橙色の可愛らしい着物から推測するに、この旅館の仲居さんの一人だろうか?
だがそれよりも、私達は彼女の容姿を見て驚愕した。頭上でヒクヒクと動く可愛らしい耳に、淡茶色の髪、そして綺麗に整えられた尻尾――間違いない、彼女は紛れもなくウマ娘だった。
トレセン学園で彼女を見た事は一度もない、つまりは普通に生活しているウマ娘の一人だろうか? 今時珍しいものである。年齢は恐らくオグリと同じ高等部だろうか?
「? どうかされましたか?」
「……えっと、ウマ、娘?」
「わーボクたちと同じだー!」
「お姉ちゃん服可愛いねー!」
「これは、驚いたな……ウマ娘が働く例はよくあるけれど」
「ですよね、ははは。変、ですか?」
「いやいや全然! それじゃあ案内お願いできるかな?」
「はい! こちらです!」
彼女は快活な足取りで私達を部屋に案内してくれた。その時の足取りを観察して分かったのだが、さすがはウマ娘というべきか、無駄な動きなど何一つ見当たらなかった。
それはオグリも気が付いていたようで、小声で『彼女も素質があるな』と耳打ちしてくれた。実際、私はそれを否定しなかった。
もし彼女がレースに出バしたなら、どれほどの力を発揮できるのだろうか? 気になるところではあるが、無理を強いてしまえば嫌われてしまうだろうし、何より私が言うべき事でもないだろう。
彼女が今のままでいいと思っているのなら、それでいいじゃないか。とオグリに言い、彼女も頷いた。
今年の夏季合宿、果たして彼女と仲良くなれるのだろうか? そして3人はどれだけ成長できるだろうか?
今から、楽しみでならない。
長年書き溜めてた設定を、ようやく出せそうでよかったです。
続きも投稿されたら是非ご覧ください!