オルタニウムを死守し、デストロンを退けるのに成功したサイバトロンたち。
彼らの導き手であるプロテクターは、いつになく無自覚な感傷に身を浸していた。

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バイナルテック#20後のお話です。




 

 あのときブラックウィドーは、自分を制止した相手が誰だったのか直ちに気づいた。この可変式人型マシン、バイナルテックボディに目を奪われた彼女の狼狽ぶりは忘れられない。

 

 むろん、私の姿を見て驚いたのではない。この姿をした私の声がセンサーの琴線に触れたのだ。

 

「あらプロテクター、珍しいじゃない」

 

 モニター越しに星々を眺めるこちらへと一直線に歩み寄ってきたのはカーリーだった。EDC宇宙センター会議室から溢れ出てくる、背を丸めた職員たちを掻き分け、大仰に手を振っている。

 

「カーリー、調子はどうだ」

 

「『あれ』から? すこぶるいいのよ。さっきだって、会議に紛れたコンカレンスの残党を炙り出したわ、このエスパーで」

 

 ネイビーブルーの瞳をまっすぐとこちらを向け、得意気に腕を組んで私の隣に立つ。カーリーは「釣果」を報告すると、解放感からか、そのまま私の堅固の腕にもたれかかった。が、本当の意図を悟るのに少し時間がかかった。

 

「自身の思念をコントロールするばかりか、サイコメトリーまで習得したと? 君の超心理への適正は未知数だな──まさか」

 

「そのまさかよ。でも、上手くいかなかったみたい。貴方には通じないのね」

 

 サイケデバイスによって、カーリーは外科的手術を経ずに脳開発を経験した。この小さき生命体は、夥しい情報量の送受に耐え、そして今も適応を続けている。全く新しい感覚、第六感というものなのだろうか。

 

 書類を小脇に抱えた研究員たちがまばらになり、やがて雑踏ごと姿を消す。彼らは、自身らが問題を抱えて悩まないために、研究をしてまた悩んでいる。発展のための試行錯誤、われわれトランスフォーマーの歴史も同じだった。

 

 歴史。……

 

「君たちとは、身体のつくりが違うからだろう。確か水分に満ちているものには通じると聞くが」

 

「フフ、そうね……でも勘違いしないで、探ろうだなんて思っていないの」

 

 サイコメトリーは、対象になる物質に肌を触れることで成立する。私の、幾度となく換装してきたボディに触れて何になろうか。

 

「分かっているよカーリー。君の善性は、テレパシーを経なくても伝わるさ。でなければ、私はあの装置に君を座らせたりはしない」

 

「黙ってしたってのに、褒めてくれるのね。本当は、貴方を癒してあげたかったんだけどね」

 

「……癒す?」

 

 カーリーがこちらに向き直り、両手を合わせる。

 

「そう。だってプロテクター、貴方とても疲れている声をしているから」

 

 発声回路に支障はないが。

 

「フム? 君の思い違いじゃないかな」

 

「あら、精神感応者と女の勘は鋭いのよ。でも残念ね。貴方にどういう過去があるのか、やっぱり少しだけ気になったけれど」

 

 きめ細やかなブロンドヘアに指を通し、滑らかに二、三回梳くと、彼女は踵を返す。

 

「本当は、もう覗いたのではないか?」

 

「いいえ? でも本当に見れるのなら、きっとチップが関心を持つわね」

 

「関心か。君たちの進化は目覚ましいが、流石の君でも、人である以上数億年の情報量には耐えられないだろう。……君たち、誰一人として危険な目に遭わせたくはないんだ。何があっても、ね」

 

「んもう! 大丈夫よ、プロテクターって過保護ね」

 

 

 

 

「人類は、ちゃんと守られていたよ」

 

 地球に帰還してから、今度は青い星空を眺望していた。今日は、あの空の向こうが、宇宙の深遠部が、どうしても頭脳回路から処理しきれない。原因は明らかだ。

 

 ブラックウィドーと再会し、私のメモリーが感慨を欠片も感じなかったのは、彼女が存命だったからだ。数億年という、我々にとっても気の遠くなる時間で以っても、生きていると分かっていればまた会える、プロテクターとしての活動もあってか確信があるのだ。

 

 生きていると分かっていれば。

 

『生まれ変わったら、仲間になろうぜ──』

 

 人類と、そして私たちと、その未来を守ってくれた一人の戦士が思い出される。蛮勇で、戦いの歴史の証左のような存在。戦って死ぬべきという、乾ききったニヒルの生き様。

 

「お前がこの未来をつくったんだ。皮肉にも、彼らも戦いばかりしているがね」

 

 未来は、すべての生者のためにある。四百万年の時を超え、空に還った彼がその身をもって教えてくれたことだった。

 

 だから私は、何億年経っても忘れないのである。歴史を教え、そして歴史を切り開いた英雄を。


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