装甲騎兵録カイジ   作:勇樹のぞみ

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 この作品向けに書き溜めていたスコープドッグ・ショーティのお話を別作品に転用してアップしたんですが、友人に、
「『装甲騎兵録カイジ』だけの読者も居るんだから、そっちでも上げたら」
 と指摘されまして。
 そんなわけで、元々書いていたこちらの原稿を掲載させていただきます。
 なお、戦闘シーンの流れ自体は転用先と同じですが、心理戦とか駆け引き部分についてはカイジらしい、違ったものになっています。


第4話 ソードダンサーと踊る夜

 食う者と食われる者、そのおこぼれを狙う者。

 牙を持たぬ者は生きて行かれぬ暴力の街。

 あらゆる悪徳が武装する、エヒメの街。

 ここは皇国西領軍腐敗が産み落としたソドムの市。

 カイジの体に染みついた硝煙の臭いに引かれて、危険な奴らが集まってくる。

 

「やぁやぁ、久しぶり」

 

 張りのある、良く通る女性の声が響く。

 仕事(ビズ)の依頼を受け、AT四機で赴いたカイジたちの前に現れたのは、

 

「あんたは、あの時の……」

 

 真紅に染め上げられた防刃防弾服と腰に下げられた一対の双剣。

 一目見たら忘れられない銀の髪の美女は、以前と変わらぬ不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 

「最近は『幸運の片耳烏』なんて呼ばれてるそうじゃない」

 

 そう、にこやかに微笑む彼女は、そのカイジの二つ名の元になった、片耳が千切れ飛ぶほどの負傷をしながらも何とか生き残った、過去の仕事(ビズ)に参加していたアーチャーと名乗る独立傭兵。

 人は彼女を『ソードダンサー』と呼ぶ。

 

 

 

第4話 ソードダンサーと踊る夜

 

 

 

「面白いのに乗ってるねぇ……」

 

 カイジの乗機、スコープドッグ・ショーティ。

 

【挿絵表示】

 

 その左肩からマントのようにかけられた布をめくってみた彼女は、

 

「あらら?」

 

 と目を丸くする。

 それはそうだ。

 カイジの機体には現状、左腕が付いていない。

 かけられたボロマントは、それを隠すための偽装に過ぎなかった。

 

「ひざ下が壊れたからってカカトと直接つなぎ、左腕も無しって……」

「膝から下の降着機構のフレームをぶった切ってカカトとつなげてあるのは最初からの仕様だ!」

 

 と反論するカイジだったが。

 

「それじゃあ、左腕は?」

 

 と聞かれて、情けない顔をし目を逸らす。

 

「班のやつらが腕、壊し過ぎて……」

 

 このエヒメの街のガレージを取り仕切るブローカー兼メカニックであるアイザックが、西領にアーマードトルーパー、ATを売り込むためにノーマルのスコープドッグに付けてくれたシールドだったが……

 何とか20ミリを通さない耐弾性能を有するが、今度は保持する腕が衝撃に耐えられないという問題を抱えていた。

 カスタムにありがちな、一か所を強化すると別の個所がついていけずに不具合が出る、というパターンである。

 それじゃあ、そこを直して、とするとまたほかに不満が出て結局全体に手を入れる大改修になり、その費用でもっと強い高級機が買えた、となるやつだ。

 

 無論、ATは動き回ってなんぼ。

 いくら装甲があっても、足を止めて撃ち合うものではない。

 だからこそ素のスコープドッグは機動力重視で最低限の装甲しか持たないのであり、シールドに頼って被弾している連中の方が運用方法を間違えているだけなのだが、その結果……

 

「部品の在庫が無くて、他の機体に取られた」

 

 いわゆる予備パーツ不足からくる、共食い整備というやつであった。

 新人の工藤涯はパワーファイタータイプであり、完全な機体を宛がった方が班の戦力が上がり、結果としてカイジたちの生存率が向上するから対象外にするとして。

 残りの二人、そもそもシールドに頼ることで機体を損傷させてしまった石田たちのスコープドッグのどちらかを片腕無しにする。

 片腕ならシールドを持てまい、という具合に荒療治するという手も考えたが、

 

「ダメだっ…… オレはダメなんだ……」

 

 とボロボロ、ボロボロと泣いて嫌がる、シールド無しでは身がすくんで動けないと言うので、仕方なくカイジの機体から提供した経緯にある。

 

「これが一番、班の戦力低下が抑えられるパターンではあるのですが」

 

 と説明するのは、カイジが着込んでいるAT用の気密服、その右腰の雑嚢ポーチからひょっこりと顔を出した手のひらサイズの侍女型自動人形。

 メイド型A.I.Doll-phone、個体識別名『メイ』である。

 

「主の機体、スコープドッグ・ショーティが装備しているのはGAT-22Cヘビィマシンガン改。元となったGAT-22の銃身長が1500ミリだったのに対し、約1/4の382ミリのショートバレルに換装、カウンターウェイトとなるストックも取り外されたこの武器は、重量が軽くなったがゆえに、片腕でも取り回しがしやすくなっています」

 

 ということに加え、

 

「あとは頭部アンテナが右側に移設されているので、万が一マントがおかしな具合にめくれ上がって被さってきてもアンテナに引っかかることが無い、ということなどもありますし」

 

 スコープドッグの頭部アンテナは左側に付けられるのが標準だが、スコープドッグ・ショーティでは右側に移設されていることが多い。

 

「これは背中に装備するミッションパックの左側にミサイルランチャーを付けても干渉しないようにするための処置でしたが」

 

 右手で銃器を持ち、ミサイルランチャーも右側に付けるとなると、機体重量の軽いスコープドッグ・ショーティでは機体左右のバランスのモーメントチューンがシビアになる。

 そのためにミッションパック左側にミサイルランチャーを付けられるようにするためのもの。

 

「まぁ、射撃のことのみを考えるなら脚部のショート化によりもたらされる低重心、安定性の向上から必要は薄くて、あくまでも機体の運動性向上のためのものですが」

 

 スコープドッグ・ショーティでなくとも機体バランスを重視したり、右腕に重量のかさむ大型の火器を持ち、さらにミッションパックにミサイルランチャーを装備したいという重武装時には行われる処置ではある。

 

 そんな説明をするメイだったが、それを真面目な顔をして聞いていた彼女、アーチャーはというと、

 

「カイジ君、この子私にちょうだいな」

 

 まったく別のことを考えていたりした。

 

「あげませんよ!」

 

 可愛いもの…… 可愛い子が好みなのか無茶を言うアーチャー。

 カイジはペットじゃないんだからと慌てて拒否するが、彼女は聞いてはおらず、

 

「ほら、怖くない」

 

 と優しく、しかし獲物を見る目で手を、指をメイに差し伸べる。

 

「あ、あの……」

 

 セメント系冷静侍女風味にAIをセットアップされ、滅多に表情が崩れないはずのメイが、引き攣った顔で助けを求めるようにチラチラと主であるカイジに視線を走らせる。

 それを受けてカイジも、

 

「明らかに怖がってますから!」

 

 と腰が引けつつも言うが、

 

「おびえていただけなんだよね。ウフッ、ウフフ……」

「俺の話を聞いてくれっ……!」

 

 暴走するアーチャー(なお、カイジの実力ではこの女傑を止めるのは絶対に無理な模様)に悲鳴を上げるのだった……

 

 

 

 それはそれとしてビジネスの話である。

 

「相手は野盗化した脱走兵よ。装備はボロボロのはずだけれど、まだ動く中、軽量級の装甲スーツがあるかも」

「げぇっ!?」

 

 アーチャーの語る今回の仕事(ビズ)の内容に、顔を引き攣らせるカイジたち。

 

「まぁ、軽量級が接近戦を挑んでくれるなら喜んで私が相手をするんだけれど」

 

 と肉食獣を思わせる笑みを浮かべる彼女に頼もしいものを感じるが、

 

「距離を保って退き撃ちでペチペチやられるとね。いや、それならいい方で、即座に全力で逃げられた日には……」

「そのための我々ですか」

 

 と納得するメイ。

 

「ええ、作戦を説明するわ」

 

 そんなわけで……

 

 

 

「敵の主力を石田さんたちに待ち伏せ(アンブッシュ)で潰してもらい、私たちは敵のねぐらを同時に殲滅、ですか」

 

 スコープドッグ・ショーティにインストールされたメイが、カイジにささやく。

 要するに、アーチャーは奇襲で盗賊たちを潰せるだけの情報を持っていたが、それだと拠点に残る頭に逃げられる可能性がある。

 逆に拠点を先に潰しても、主力が野放しでは問題だし、頭を失って散り散りにでもなられたら追いかけるのが面倒すぎる。

 一網打尽にするにはどうしても二か所同時に戦力が要る、ということで人員を求めたようだった。

 

「通常行動時は副長である石田さんに指揮権があるが、戦闘に関しては涯の指示に従うように言ってあるから、あいつが何とかするだろ」

 

 とカイジ。

 新人だった工藤涯だが、その実力は本物で安心して隊を分けることができた。

 一方、

 

「ATM-09-LRC、スコープドッグ・ショーティか……」

 

 アーチャーに再生機扱いされたこの機体だが、メイ曰く、

 

「実際、この機体の始まりは、ひざ下が大破していたスコープドッグを何とか再生するために行われたものという話ですから、そう思われても仕方が無いのかも知れませんね」

 

 降着機構のフレームは、これだけで膝上の荷重を支える頑丈なものなので無事だったことから、それをぶった切って超ショートフレームに加工、カカトの関節と接続することで稼働機体に仕立て上げたのが最初だとか。

 

「機体制御OSにも変更は必要ですが、プログラムは公開されていて入手は簡単ですし、何なら自分でミッションディスクをいじっても問題はありません」

 

 とメイが言うとおり。

 足を短くした結果、重心が下がって安定性が増した上に、アーマードトルーパーの脚部をサスペンションと考えれば、ばね下荷重が大幅に減るのと同じ効果をもたらす結果となり運動性能、操縦性が大幅に向上しているため、制御にも問題は出ない。

(車において「バネ下を軽量化するとフットワークがよくなる」や「バネ下1kgはバネ上10kgに相当」という話はよく聞かれるところ)

 特にスコープドッグは重い機体重量を支えるのとローラーダッシュ走行を安定させるために人体に比べ脚部の肥大化が著しく、これを改善できたことはかなりの効果を上げることとなっていた。

 

「同じ軽量化カスタム機であるATM-09-LCライト・スコープドッグは極限まで装甲と装備を削った結果、高機動性を獲得していましたが、このスコープドッグ・ショーティは原型機のスコープドッグと変わらぬ防御力を保ちつつ、それ以上の軽量化を実現。高機動性を獲得しているものですね」

 

 また低身長化に伴う前方投影面積の縮小、隠密性の向上もあり、本機は偵察や特殊任務向けの機体に位置づけられている。

 

「あれが奴らの根城か」

 

 夜の闇を超えて前方に見えてきたのは、廃墟と化した街の郊外に建つドーム状の全天候型スタジアム。

 既に枯れた遺跡として放置されていたそこ。

 脱走した際に持ち出した装甲車や、その後、消耗していく戦力を補うため民間向け車両に武装を施しテクニカルと呼ばれる即製戦闘車両を仕立て上げ使っているという盗賊たちだったが、そのガレージ代わりにでもしているのだろう。

 

「しかし、こちらに気付いた様子が無いが……」

「そこが、Light Reconnaissance Custom、軽偵察型の機体として登録されている所以ですよ」

 

 とメイ。

 

「全高がノーマルなスコープドッグの3804ミリから3メートルを割る2930ミリに下げられているだけでなく」

 

 低い全高はそれだけで隠密性を引き上げるが、

 

「通常機体とは異なる、人体比率から著しくかけ離れたシルエットを持つスコープドッグ・ショーティは機体アウトラインが検出しづらいのです。特にこんな低光量環境下(ローライト・コンディション)で用いられる機械の目、赤外線カメラやスターライトスコープによる映像では」

 

 判別は困難か。

 そういう理由から、偵察機として軍に型式を与えられ、用いられているのだ。

 

「その上、アイザック様が間に合わせにとくれたこのマント、ボロボロですけど元は軍用車両の幌か何かですね。赤外線放射量を抑え、背景となる自然環境に疑似的に同化、さらには単色に見えて実際には赤外線反射率が異なる染料で迷彩塗装が施されています」

 

 そんなものをまとっているので、検知はますます困難になっている。

 どこかの大手スカヴェンジャーチームからの処分品らしくモノは良いが、このとおり半端な大きさに切り取られていて他の用途にも使いづらく。

 アイザックも持て余していたものを、ちょうどいいとばかりに押し付けられたのだが。

 

「そもそも…… スコープドッグにはエンジンが積まれていませんから音、静粛性の面でも有利ですしね」

 

 全身に配されたマッスルシリンダーで駆動しているので、動力源となるエンジンは積まなくていいのだ。

 両足のグライディングホイールは、マッスルシリンダー駆動用のポリマーリンゲル液を改質して発電する燃料電池駆動なのだし。

 なお、

 

「あの人も居るはずなのですが、まったく反応がありませんね」

 

 とメイは共に隠密行動を取っているはずのアーチャーを検知できないことに感嘆の声を上げる。

 

「あの赤い防刃防弾服は目立つはずなんだがなぁ」

 

 同意するカイジだったが、

 

「赤は闇に溶け込みやすく夜間迷彩として優秀なのですよ」

 

 メイにそう言われ、戸惑う。

 

「えっ?」

「黒や青系は夜間などの低光量環境下(ローライト・コンディション)では逆に目立つのです。忍者が着ていた忍び装束も現実には黒ではなく蘇芳色と言われる濃い赤紫色などが使われていたと言いますし」

 

 という話。

 そして、

 

「気付かれた!?」

「この距離になると、さすがに異常を検知しますよね」

 

 敵が慌ただしく出てくるが、

 

「ここまで来れば、もう遅い! 突っ込むぞ!」

「はい!」

「バルカン・セレクター!」

 

 スコープドッグはこう見えて搭乗者の音声認識システムを持つ。

 カイジの音声コマンドを受けたスコープドッグ・ショーティは短銃身のGAT-22Cヘビィマシンガン改のセレクターレバーを、グリップを保持した右手親指で弾くようにしてフルオート位置に切り替え。

 乱射しながら敵戦闘車両を蹴散らし、ドームへと突っ込む!

 こちらが派手に暴れれば、アーチャーに対する目くらましになるだろうし、彼女だったら下手を打ってこちらの攻撃に巻き込まれるような行動もすまい、という目論みだ。

 実際、封鎖を解除した無線からは剣戟の音と、本当に戦いを楽しんでいると分かるソードダンサーの弾むような笑い声が伝わって来ていた……

 

 

 

「何でまた『バルカン・セレクター』なんだ?」

 

 突然のことで対応しきれていない敵拠点の留守を預かる集団を掃射で潰しながら聞く余裕がある…… と見えて実際には緊張と恐怖をメイとの会話で紛らわせようとするカイジ。

 履帯、無限軌道をキャタピラー社の商標であるキャタピラーと呼ぶがごとく、この業界ではガトリング砲全般をバルカンと呼ぶ。

 しかし、さすがにヘビィマシンガン、機関砲に対して使うのは誤用かと首をひねるのだが、

 

「『バルカン・セレクター』はミッションディスクプログラムの名称です」

 

 とメイ。

 アーマードトルーパーのミッションディスクプログラムはパイロットを補助するもので、様々な役割を持つが、

 

「ヘビィマシンガンには専用のボックスマガジンに120発の弾が入るため歩兵で言うアサルトライフル、自動小銃ではなく分隊支援火器(Squad automatic weapon, SAW)、軽機関銃だと認識してフルオートで使おうとされる方が多いのですが」

 

 しかし、

 

「発射レートが高いので、それだとすぐに弾切れしますし、何より振動で弾が散り命中率が下がります。だからGAT-22ヘビィマシンガンは通常、単射での運用が推奨されるのです」

 

 これはスコープドッグを戦力として使っている北領皇国軍の熟練兵も一緒だ。

 

「だが、そうも言ってられない場合もあるよな?」

 

 今、この時のように多数を相手取る場合などにはフルオート射撃は必要である。

 

「そうですね、ですからフルオート射撃時には、その反動を制御し命中率を向上させるミッションディスクプログラムの併用が望ましいのです」

 

 ということ。

 

「スコープドッグにもGAT-42ガトリングガンという手持ちのガトリング砲が用意されていまして。その激しい反動を制御するために組まれたのが『バルカン・セレクター』と呼ばれるミッションディスクプログラムです。これがヘビィマシンガンのフルオート射撃時にも非常に有効なので、流用されているのですね」

 

 そういうことであった。

 そうやって、周囲の敵を潰し終えたカイジだったが……

 

「危険です!!」

 

 メイの警告に反応し、回避行動を取る。

 その機体を追いかけるようにして放たれる重機関銃の掃射がスコープドッグ・ショーティを襲う!

 

「何だぁ、すっぽ抜けただとぉ!?」

 

 質の悪いスピーカー越しに、男の割れた声がドーム内に響く。

 当たったのは機体左肩、腕に相当する部分に被せられた偽装用のボロ布で、当然中身が無いので銃弾は生地に穴を開けるばかり。

 機体に損害は無い。

 

「だぶついた布により敵の目標を誤らせて攻撃をかわすことができたのですね」

 

 とメイ。

 偽装用に纏ったボロ布には、そういう効果もあったらしい。

 そう推察しながらも彼女は並行して頭部、三連カメラターレットを広角レンズに切り替えサーチ、敵を捕捉していた。

 相手は全高4メートル超過の人型の機体。

 スコープドッグより大型のヘビィ級アーマードトルーパー。

 

「スタンディングトータスってやつか?」

 

 その両胸に内装された11ミリ機関銃による射撃だった。

 しかも、

 

マークツーと言えぇい(Say Mk-II)!!」

 

 と叫んだかと思うと、背面のロケットエンジンを吹かし、上昇。

 飛行しながら攻撃を仕掛けて来る。

 

「なんだなんだぁ!?」

「あれはヘビィ級アーマードトルーパー、ATH-14-SA スタンディングトータスMk-II。SAはスペースアサルトを意味すると言われている宇宙機で……」

 

 メイが敵機体を識別。

 

「推力の大きさから重力環境下でも短時間の飛行が可能なのです」

 

 これもまた北領皇国軍で使われている機体だが。

 スコープドッグ同様、この西領に売り込むために持ち込まれたものだろうか。

 ハイテクの塊で維持の難しい装甲スーツより、アーマードトルーパーのようなローテク機体の方が、野盗と化した脱走兵たちには扱いやすいと言えるのだろうが。

 

「宇宙! スペース! ATH-14-SA スタンディングトータスMk-II、おまえがナンバー1だ!!」

 

 そう機体の名を誇示しながら、

 

「スコープドッグは空からの敵には弱い! 俺ならスコープドッグを空から攻めるね!」

 

 と攻撃を仕掛けて来る。

 元兵士とは思えないイカレタ言動をする相手にカイジは、

 

「くそっ!」

 

 と悪態をつきながらもヘビィマシンガンで迎撃を図るが、機体各所に姿勢制御ロケットを備えるスタンディングトータスMk-IIはそれをひらりとかわして見せる。

 そうして回避から急速接近!

 

「これでも食らいな!」

 

 左腕から繰り出されるアームパンチ!

 

「その程度!」

 

 とカイジの操縦を助け、スウェーで躱そうとするメイだったが、

 

「当たった!?」

 

 スタンディングトータスMk-IIの拳がスコープドッグ・ショーティの顔面にめり込み、ターレット式三連カメラを粉砕!

 

「前が見えねェ」

 

 状態に。

 

「あの機体、アームパンチの伸縮幅(ストローク)を基準より延長しています! 自らの機体を壊しかねない危険行為なのですが……」

 

 とメイ。

 アームパンチは機体に負荷がかかるため、その炸薬量およびストロークには厳密な取り決めがある。

 それを勝手にいじった場合、アームパンチ機構のみならず本体の損壊にまで発展する重大なトラブルを引き起こしかねないのだ。

 

 

 

「ハッハー! ママのオッパイをしゃぶってな!」

 

 至近から左胸部11ミリ機関銃をスコープドッグ・ショーティの頭部に向けるスタンディングトータスMk-II。

 カメラを粉砕、視界を奪ってやった。

 そうされた場合、スコープドッグはバイザーを上げて有視界で戦闘をするしか無いだろうが、そこを狙うのだ。

 しかし、

 

「何っ!?」

 

 

 

 メイはスコープドッグ・ショーティの頭部を180度回転。

 リアカメラを正面に構えることで敵影を捉える。

 

【挿絵表示】

 

「そこだ!」

 

 間髪入れずカイジはアームパンチを動作させ、こちらに向けられていた敵の左胸部の11ミリマシンガンを粉砕する!

 

「少しばかりスコープドッグについて知っている風でしたが、甘いですよ」

 

 とメイ。

 コストの安いスコープドッグは後部カメラが省略されていたり、後方監視は動体センサーのみとなっている機体も多く、確かにその場合はメインカメラが損傷すると、バイザーを開けての有視界行動に移らざるを得ないが。

 この機体はツヴァークやラビドリードッグの正面カメラにも採用されることになった平面素子によるイメージセンサー、その元となったものを搭載していた。

 ゆえに頭部を180度回転させることで視界を得て、行動を継続することができるのだった。

 

 

 

「クソッタレ!」

 

 叫び、背部、そして脚部のロケットエンジンを強く1、2度わざと吹かし、立ち上る土煙で視界を遮ってからホバリングするように宙に浮き、離脱しようとするスタンディングトータスMk-II。

 しかし、

 

「何!?」

 

 土煙の向こうから、こちらの位置が見えているかのように飛び出してくる、ワイヤー付きアンカーフック!

 

【挿絵表示】

 

 内蔵されたマグネットが胴体に吸着し、巻き取られるワイヤーによって機体が手繰り寄せられる。

 

「おおお!」

 

 

 

「この後部イメージセンサーは可視光域と赤外域の切り替えができるのです!」

 

 メイによる種明かし。

 遠赤外線は可視光線と比較して解像度が劣る一方で透過能力に優れるため、ある程度であれば土煙越しに像を捕らえることもできる。

 しかも相手はロケットエンジンを吹かし、高熱を発しているのだ。

 赤外線画像なら捉えるのは難しくない。

 

「アイゼンっ!」

「はい!」

 

 カイジの指示で両足側面に配されたターンピックをスパイク、アイゼン代わりに地面に突き立て、そしてウィンチでワイヤーを巻き取りにかかる。

 ライト級並みに軽量化されているスコープドッグ・ショーティと、ヘビー級のスタンディングトータスMk-II、単なる引き合いなら勝てるはずも無かったが、これにより機体が地面に固定されたことと、

 

「地に足が付いていないことが、お前の敗因だっ!」

 

 相手が空中に浮いていて踏ん張りが効かないことから、強引に手繰り寄せることに成功!

 そして突き出していた腕、拳に敵機が衝突した後に、その拳をねじ込むようにずらし脇腹に押し付け、一拍置いて、

 

「オラァッ!!」

 

 低い位置から斜め上にかち上げるようにしてアームパンチが炸裂する!!

 

 

 

「がっ、はぁ!?」

 

 スコープドッグ・ショーティのアームパンチを胴体側面に受けたスタンディングトータスMk-II。

 衝撃で側面監視用窓の防弾ガラスが割れ、コクピット内に飛散する!

 

「がああああっ!!」

 

 ロケットエンジン全開で上昇するスタンディングトータスMk-II、危うくドーム天井に激突しそうになるのを避け、

 

「もう許さねぇ!」

 

 右手に持っていた大型の8連装HMAT-38ハンドミサイルランチャーを下方、スコープドッグ・ショーティへと向ける。

 

 

 

「バカ野郎! いくら広いドームったって、そんなもん中で使うやつがあるか!?」

 

 大型の弾頭を備えたミサイルが次々に飛来する。

 カイジは手放していたヘビィマシンガンを、ワイヤーウインチユニットを使いアンカー内蔵のマグネットで吸着、手繰り寄せることで素早く回収、迎撃を図るのだが、

 

「何だこの照準! 当たらないぞ!!」

「さすがに後部カメラでミサイルのような動く的への精密射撃は無理……」

 

 ですよ、とメイが言いかけたところに一発目が着弾!

 直撃は避けたものの、爆風で吹き飛ばされそうに、いや、全高を低くカスタマイズしているスコープドッグ・ショーティだから耐えられただけで、ノーマルな機体だったならなぎ倒されていただろう衝撃波が襲う!

 

「うぉおおぉぉぉっ!!」

 

 カイジはヘビィマシンガンを連射するが、外れた弾がドームの天井の強化ガラスを破るだけで次々に飛来するミサイルには当たらない。

 そして続けざまにミサイルが爆発し、ドーム内は閃光に包まれた……

 

 

 

「メイちゃん!?」

 

 ドーム外でお目当ての軽装甲スーツと戦っていたアーチャーだったが、その爆発に目を見張る。

 カイジではなく、メイの方の心配をするところが……

 

 

 

「塵も残さず吹っ飛んだか」

 

 大穴が空き、すり鉢状にくぼんだ地面、その横に降り立つスタンディングトータスMk-II。

 

「ん?」

 

 天井が壊れたのか、上方で何かが揺れ動く気配。

 機体を反らしてカメラを向けると、そこには、

 

「げぇっ!?」

 

 ガラスが割れて枠だけになってしまったドーム天井にアンカーを引っ掛け、ワイヤーで宙吊りになっているスコープドッグ・ショーティ!

 そう、ミサイルが炸裂する前に連射されたヘビィマシンガンは、こうするのに邪魔になる天井ガラスを排除すると同時に、ワイヤーの射出を隠すための目くらましの役目を果たしていたのだ。

 そして、空中で機体を揺らせたスコープドッグ・ショーティが、スタンディングトータスMk-II目掛け、落ちてくる!

 空中に避けようとするが、

 

 

 

「ブースターがオーバーヒートして飛べないのも計算の内です!!」

 

 とメイ。

 ミサイル攻撃と、その後、爆風をやり過ごすために滞空制限ギリギリまでロケットエンジンを酷使していたことを彼女は見抜いていたのだ。

 敵機に落下の衝撃を加えたキックを叩き込み!

 傾斜を滑り落ちて行くスタンディングトータスMk-IIに馬乗りになり、その胴体に直付けされた頭部三連カメラを右手で握り込む。

 

「アイゼン!」

「はい!」

 

 カイジの指示で再び脚部、ターンピックを作動!

 敵の機体に鉄杭を撃ち込み、損害を与えると同時に離れられなくする。

 スタンディングトータスMk-IIは左のアームパンチで抵抗しようとするが、

 

「それも予測済みです!」

 

 動作せず、あまつさえ動作用カートリッジの暴発でスタンディングトータスMk-IIの左腕が吹き飛ぶ!

 

「さっきの強引にストロークを伸ばした一撃で、既に逝っていたのですよ、その左腕は!!」

 

 そして地の底に敵機が叩きつけられると同時に、

 

「アームパンチ!」

 

 アームパンチ機構を動作!

 通常とは違い、敵の頭部を握っていた手のひら、掌底が突き出されカメラを粉砕すると同時に、その頭部をもぎり取る!

 そして伸ばされた腕が元に戻る反動で指が閉じ、もぎ取った顔を握りつぶした!

 頭部カメラを剥ぎ取ったおかげで晒されたスタンディングトータスMk-IIのコクピット、驚愕の表情を浮かべる敵の顔に、

 

「動くな!」

 

 ワイヤーウインチユニットを向けるカイジ。

 これはアームパンチとの排他装備としてバウンティドッグに採用されたものより小型で、腕の外側ではなく内側に装備されているもの。

 機体重量が軽いため、バウンティドッグのように強化した肘関節と一体型のフレームに搭載する必要が無く、ノーマルな腕に付けるだけでも強度的に問題が無いこと、射出されるアンカーを小さく、ワイヤーも細くできること、さらには、

 

「このワイヤーウインチユニットはアームパンチの動作ガスをアンカーの射出に利用しているんだ……」

 

 動作原理はライフルの銃口にセットし空砲のガス圧で射出する旧式なライフルグレネードと一緒で、アームパンチ機構をロックして、動作用カートリッジのガスを追加した分岐ルートを介しフックの射出に利用する。

 故に射出機構が不要で、外見的に追加された部分にはワイヤーウィンチしか入っていない。

 正確にはさらに前腕内部の空きスペースまで活用することでここまで小型化出来たものだ。

 そして、

 

「それを人間に撃ち込んだらどうなるか…… 分かるだろ?」

 

 そう告げる。

 相手は少しの沈黙の後、引き攣った、しかしいやらしい笑みを見せて。

 それを見たカイジは、

 

「アンタ、考えてるな…… このワイヤーウインチユニットの連続使用可能回数はアームパンチのマガジンに納まるカートリッジ数、合計7発分までで、アームパンチを利用すればその分減るし、逆もまた同じ。果たしてまだカートリッジが残っているだろうかって……」

 

 そうしてカイジは笑う。

 

「実は俺にも分からないんだ。無我夢中だったからな……」

 

 しかし……

 

「だがな、言ったとおり、このワイヤーウインチユニットはアームパンチの動作ガスを使ってアンカーを飛ばしてるんだ……」

 

 繰り返しになるが。

 

「アンタの頭くらいは軽く吹き飛ばすぞ…… どうだ、それでも賭けてみるか?」

 

 相手の返事は、

 

「この短足野郎(ショートドッグ)が!」

 

 だった。

 同時にスタンディングトータスMk-IIに残された武器、まだ無事だった右胸11ミリ機関銃がこの至近距離から火を噴く!

 

「あ?」

 

 しかし吐き出された銃弾はスコープドッグ・ショーティの左肩……

 偽装用のボロ布を貫いただけで終わる。

 最初の銃撃で同じように効果が無かったことを忘れたのか、それともからくりを見抜けなかったのか。

 

「………」

 

 カイジは無言でワイヤーウインチユニットからアンカーをぶち込んだ。

 

短足野郎(ショートドッグ)、ですか……」

 

 それは奇しくも北領皇国軍でスコープドッグ・ショーティとそのパイロットを蔑むのに用いられている呼称だった。

 欧米の路上生活者(ホームレス)が判を押したように持っている酒瓶のことを示す俗語(スラング)でもあり、最低野郎共(ボトムズ)の、さらに底辺という皮肉も込められた蔑称でもある。

 本機は偵察や特殊任務向けの機体であるが、一般兵に馴染みがあるのは前者。

 つまり自分だけ背が低く目立たなく被弾しにくい機体でこそこそと動き、積極的に戦闘に参加しようとしない臆病者の短足野郎、という扱いなのである。

 まぁ、それはそれとして、

 

「最後のお芝居、要りました?」

 

 と呆れた様子で言うメイに、カイジはバツが悪そうに視線を外し、

 

「いや実際、アームパンチ用カートリッジの残りの数、把握できてなかったし」

「……はい?」

 

 メイがフリーズしたかのように固まる。

 

「あれだけドタバタしてたら数えてられないだろ!?」

 

 カイジ、まさかの…… ハッタリであった。

 

「は? はぁぁあぁぁぁっ!?」

 

 セメント系冷静侍女風味にセットアップされ、滅多に口調の崩れないメイの口から、驚愕と呆れの入り混じった、まるで魂が抜け出るかのような声が上がった。

 

 実際にはあの瞬間、スタンディングトータスMk-IIの11ミリ機関銃の正面にスコープドッグ・ショーティの胴体があって、下手をすると相打ち、アームパンチのカートリッジが切れていたら、それこそ一方的にやられるだけという状況にあったための演技だった。

 だから会話で気を逸らしつつ、ゆっくりと機体をずらすことで射線を外したのだ。

 偽装用のぼろマントが、その意図を上手く隠してくれていた。

 カイジが欲したのはそれを仕掛けるだけの時間……!

 

(疑ってくれてありがとう……!)

 

 ハッタリと見せかけて、同時に敢えてこちらが負けるかも知れない要素を口にする。

 相手は粗野な言動とは裏腹に、飛べないスコープドッグに対して有利になる空から攻めたり、こちらがアームパンチのストロークを読むことを予測してその伸縮幅を延長していたり、カメラがやられたらバイザーを開けるだろうと予測した立ち回りをしたり。

 しかしそれは……

 

(そういった策を弄するだけの頭があるということ……!)

 

 だからカイジがああいう風に言ったら、

 

(必ず考える…… 考えるさ…… それだけの頭があるんだから……!)

 

 そうして成った策だった……

 しかし、この読み合いを脱力しているメイに説明したとして果たして納得してもらえるだろうか?

 逆にギャンブルじみた行いだと怒られやしないだろうかと内心びくつくカイジは、

 

「ま、まぁ、あの時はそうするほか無かったし、第一、万が一にもカートリッジが切れていたなら、お前が教えてくれるはずだろ?」

 

 と口にする。

 

「それは…… そうですが」

 

 そう、態度を軟化させるメイに、カイジは言う。

 

「お前を信じていた、信頼していたからこその手だったんだよ」

 

 もちろんそんなこと、あの瞬間は考えてはいなかったのだが……

 しかし、無意識にでもメイを頼っていたから、メイが共に居てくれる安心感があったからこそ賭けに出られた、という心理的作用があったのは確か。

 だからこの言葉も、あながち嘘では無かったりする。

 そのためか、

 

「そ、それは確かに、そうですね」

 

 ふいと視線を逸らしながらも、うなずくメイ。

 人に仕えることを己の存在価値、レゾンデートルとする彼女にとって「命が懸かった場面だったが、口に出さずとも必ずフォローしてくれると信じていたんだ」というのは特級の殺し文句であると言えるのだ。

 それゆえ女慣れなどしていないカイジの拙いなだめの言葉にも、あっさりと乗せられてしまう。

 そうして機嫌を直したメイは、

 

「周囲、動体反応ゼロ、敵性体、認められず」

 

 スコープドッグ・ショーティの頭部を360度回転、周囲を走査(スキャン)し危険が無いことを確認したうえで、バイザーを上げる。

 

「ふぅ」

 

 カイジもそれに合わせ、ヘルメットを脱ぎ去ると、冷たい新鮮な外気に素顔を晒し、息をつく。

 

「やれやれだぜ」

 

 と……

 

 晴天の夜明け、壊れかかったドームの天井越しに見える空には絵の具で刷いたかのようにうっすらと青みがかかり……

 

「なかなか派手にやったじゃない」

 

 朝焼けの朱が美しく差し込み始める中、頬に血の赤を散らした銀の髪の美女が満足そうにこちらに歩み寄って来るのが見えた。

 彼女も納得のいく戦果を挙げられたらしい。

 

「ああ……」

 

 うなずく、カイジ。

 

 

 なお……

 カイジのスコープドッグ・ショーティの左腕修理に関してはこの後、部品が入荷するものの、別行動で敵本体とやり合っていた石田たちが派手に機体を損傷させていてプラマイゼロ……!

 プラマイゼロで、カイジは左腕が欠損したままの機体に乗り続けることになるのだが。

 

「いやぁ、本命を確実に仕留めるため情報操作で敵の主力を釣り出したんだけど」

 

 何故、石田や涯たちが待ち伏せ(アンブッシュ)できたのかというと、アーチャーのそういう工作が事前にあったわけで。

 しかし、

 

「少しばかりやり過ぎて、そちらに戦力が行き過ぎちゃったのよね」

「アンタのせいかーっ!!」

 

 後日、そんなやり取りがあるのだが。

 今の彼らには、そんなことを知るよしはもちろん無かったりする。




 スコープドッグの、さらにチープなカスタムとも言えるスコープドッグ・ショーティ。
 その欠損機体という、ある意味極まったものを作ってみたのですが、やっぱりこういうのがカイジには似合いますね。
 そして仲間に足を引っ張られて乗り続けることになりそう。

 次回は、せっかくアチャ子を出したので、刃物類、ナイフに関する閑話か、過去に頂いたご感想で、

>スカベンジャーだと遺跡漁ってアンドロイド掻っ払うイメージ

 というものがあったので、AT抜きでメイと共に生身で警備ロボットをゲットするお話など書いてみようかとも考えています。

 みなさまのご意見、ご感想等をお待ちしております。
 今後の展開の参考にさせていただきますので。
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