Starlight serenade(Q/シン時間軸改変作品)   作:◆QgkJwfXtqk

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戦争は平和なり
自由は隷従なり
無知は力なり

――一九八四     
ジョージ・オーウェル

   







02

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 NERVによるSEELEパリ本部侵攻作戦は順調に推移していた。

 既にSEELEのエヴァンゲリオンは半数以上が討ち取られ、NERVのエヴァンゲリオンはパリ市まで10㎞の距離(指呼の間)となる。

 指揮機の居て集団戦が可能なNERVのエヴァンゲリオンにとって、個の群れでしかないSEELEのエヴァンゲリオンは深刻な脅威足りえなかった。

 特に管制用のエヴァンゲリオンが更新され、新規に実戦投入された前線管制用000(トリプルオー)型エヴァンゲリオンが本格的に稼働する様になってからは。

 MAGIの簡易量産型Model、第7⁻世代型有機ComputerSystemを搭載したNHG Tragödieの全面支援を受けている000型エヴァンゲリオンは、以前にNERVが実戦投入していた管制用エヴァンゲリオンである04ーC型とは比較にならない能力を持っているのだ。

 04-C型が10機程度の管制を行えたのに対し、000型は実に100機を超える前衛用エヴァンゲリオンの管制が可能となっているのだ。

 個よりも群の強さを目指してエヴァンゲリオンの整備を進めていた事が、NERVがSEELEとの戦争で勝利を収めつつある理由であった。

 

 

 

「パリ外周防衛ライン、第2段階まで突破確認」

 

 

「敵戦獣形態(mode-555)機群、7機完全に沈黙。残る8機も包囲下です」

 

 

SEELEの旗機(Ritual-エヴァンゲリオン)健在なれど、グループ9(ノーヴェ)による封殺に成功しつつあります」

 

 

「包囲行動中のグループ2(ドゥーエ)、損耗率47%を上昇」

 

 

「包囲部隊をグループ1(ウーノ)へ変更。奴らを逃がすな」

 

 

 指揮、或いは命令の怒声が交差するNHG Erlösungの艦橋。

 冬月コウゾウは順調に進むパリ制圧戦に深い満足を覚えていた。

 ()()()()()()()()()()()

 

 

「来ぬ筈も無かろうよ」

 

 

 小さく呟く。

 反NERV、反SEELEを掲げた国際連合の残党集団、人類に残された最後の牙たるWILLE。

 来ない筈が無い。

 NERVから奪った未完成艦NHG Bußeを小癪な事に可潜艦へと改造し、ユーラシア大陸の何処其処で出没し暴れまわってきたWILLE。

 正規軍としての戦いは兎も角、その手のゲリラ戦術を使わせれば滅法強い葛城ミサト大佐による邪魔があればこそ、NERVとSEELEの戦争も長引いたのだった。

 

 

「なぁ葛城君、君も来ているのだろう?」

 

 

 いっそ親し気な声色で、WILLEの戦闘部隊の司令官の名を呼ぶ冬月。

 1()4()()()()()()以来、ユーラシア大陸の戦場で幾度となく相対してきた日々は、かつてNERV戦術作戦部作戦局第一課として葛城と接していた時間よりも長く、そして濃厚であった。

 詭道を好むが良い指し手だと評価していた。

 だからこそ判るのだ。

 この(タイミング)を逃す筈が無い、と。

 

 閃光。

 そして轟音。

 

 

「だっ、大威力加粒子砲!?」

 

 

「熱反応、恐らくは戦略級(グレードA)!!」

 

 

「何処だ!?」

 

 

 まだ揺れの残る艦橋で必死に動き出す部下をしり目に、照り返しに赤くなった冬月の顔は愉悦に歪んでいた。

 着弾点と思しき融解した丘。

 冬月のつぶやきが呼んだ一撃は、地形を変え力をもっており、それが意味する事は1つ。

 ()()()()

 

 

「熱反応増大、第2射、来ます!!」

 

 

「NHG GəléːɡənhaItを前に出せ、本艦の盾にするんだ!!」

 

 

 NHGシリーズの第2次整備艦(セカンド・シリーズ)であるNHG GəléːɡənhaItは5つの胴体を持った異形の艦であり、強固な防護力(ATフィールド)を持つ空中戦闘艦であった。

 対空対地を同時にこなす副船体は、それぞれに別の動力用(04p型)エヴァンゲリオンを船内に収めており、独立してATフィールドを展開する事が出来るのだ。

 疑似的に多重にATフィールドを展開できるNHG GəléːɡənhaItの防御力は、NHGシリーズで最も強固であった。

 だからこそ、NHG艦隊後方に位置していたのだ。

 パリ攻略軍の戦力的中心、エヴァンゲリオン管制艦たるNHG Tragödieを守っていたのだ。

 

 だが、NHG GəléːɡənhaItがNHG艦隊の前に出るよりも先に、加粒子砲の第2射が着弾した。

 狙われたのは艦隊総旗艦NHG Erlösungでは無く、またしても地上だった。

 

 

「グループ8《オット》、しょい、しょうめつ!? 指揮機(オット・ダッシュ)との通信途絶!!」

 

 

 裏返った声が報告を上げる。

 撃たれたのは地上部隊、それも支援射撃部隊(グループ8)だ。

 パリを焼き払う為の部隊が真っ先に狙われたのだ。

 

 

「射点の確認は!?」

 

 

「そんな事は良い、冬月司令官! 本艦後退の御許可を!!」

 

 

 高濃度L結界防護服のバイザー越しででも判る必死の表情で、NHG Erlösungの艦長が後退指示を請うた。

 鷹揚に頷く冬月。

 

 

「君の判断で、君が必要と思う行動を行いたまえ」

 

 

「はっ!」

 

 

 動き出すNHG Erlösung。

 艦隊の中で後退し、そして高度を下す。

 と、艦橋の複合ディスプレイに射点へと飛ばしたドローン(偵察ユニット)が捉えた映像が表示される。

 3対6脚の下半身を持った鋼の巨躯、黒鉄色の装甲には桜色が差し色(花びら柄)としてちりばめられているのが遠くからも判る。

 

 

「パターン確認! WILLEの8号機(№Model)です!!」

 

 

 悲鳴が上がった。

 

 14年以上前に開発配備された本来のエヴァンゲリオン。

 零号機からMk-Ⅵまでの7機は、それ以降のエヴァンゲリオンと厳密に分けられていた。

 戦闘用であり儀式用であり、第1の使徒(アダムカドモン)を模した7機の能力は、それ以降の戦闘用に量産された機体とは全く別次元の能力を持っているのだから。

 同じ設計で建造しても駄目であった。

 外付けの強化装備(Over-Unit)による能力増強は出来ても、素体としての出来が違い過ぎるのだ。

 とは言え、兵器として見た場合には管制ユニットの事も含めて、この劣化量産型とも言える現行量産型(AfterModel)の方が管理しやすくあったが。

 兵器としての完成度が上がった対価として、超常の力を失った ―― そう評すべきかもしれない。

 尚、SEELEが旗機として製造していたR型エヴァンゲリオン(Ritual-Model)のみは、比肩しうる能力を持っているのだった。

 

 巨大な、上半身を覆い隠すような円盤状の物体が視認出来た。

 それが光った瞬間、ドローンからの情報が途絶した。

 撃墜されたのだ。

 

 

「相変わらずの手際だね、第5の少女(イスカリオテのマリア)。いや、マリ君」

 

 

 感慨深げに真希波マリ・イラストリアスの名を呟いた冬月は、それから一転して目を鋭く細めて命令を発する。

 

 

「何を呆けているのかね、諸君。かの8号機への迎撃を始めたまえ」

 

 

「はっ! 迎撃部隊はグループ0(ゼーロ)を向かわせます」

 

 

 NERV第7軍が持つ作戦集団でも経空移動と攻撃手段を持ったグループ0(ゼーロ)は、ある意味で切り札的な部隊であった。

 航空ユニットとしてはグループ9(ノーヴェ)もあるのだが、此方は航空特化(四肢の無い)エヴァンゲリオンである44Θ(ダブルフォー・シータ)型であった。

 腕の代わりに翼状の主翼があり、背中には推進器。

 そして主武装は脚の部分に装着された2門のレールガンと言う、妖鳥(ハルピュイア)と言うあだ名に相応しい怪容をしている。

 この為、44Θは地上目標と交戦するのは不向きなのだ。

 対してグループ0(ゼーロ)が装備するエヴァンゲリオン、44ι(ダブルフォー・イオタ)型は違う。

 空戦形態と陸戦形態の2つを持った可変装甲(モーフィング)を採用したエヴァンゲリオンなのだ。

 SEELEの儀式用(Ritual-Model)エヴァンゲリオンにも似た機能を持っているのだ。

 とは言え、どこか有機的なSEELEのR型に比べて44ι型は機械的であり、ATフィールドによる疑似的な重力制御による飛翔が可能なR型とは違い、機体各部に推進器を作り出して飛ぶと言う力技の機体であったが。

 

 兎も角として、建造コスト度外視で採用された44ιはパリ攻略を図るNERV第7軍にとって切り札的な機体であり、それらを17機も纏めているグループ0(ゼーロ)は文字通りの、最後の切り札であった。

 

 

「………ふむ」

 

 

「閣下?」

 

 

 考え込む冬月。

 WILLEがエヴァンゲリオン8号機だけで介入するだろうか? その点が気がかりであったのだ。

 切り札を切ってしまえば、その後の対応力が極端に低下してしまう。

 現時点で無傷な部隊は、哨戒任務に宛てていたグループ4(クアットロ)しか残らないのだ。

 古来より、現場の指揮官は予備戦力の切り所を悩むものであった。

 そして相手の戦力規模が読めない事(Nebel des Krieges)も悩みの種であった。

 

 顎に手をあてて冬月は考える。

 予備戦力が無いと言うのはあり得ない。

 だが同時に、WILLEが太平洋方面を無視してエヴァンゲリオン初号機を投入して来る筈はない ―― そう断言するのも難しい。

 この場を決戦の地と思えば、WILLEの本土たる北米大陸安全の大柱を抜いてくる大博打を()()()()が打たないとは限らぬのだ。 

 とは言え、あの化け物染みた追加装備を纏った8号機(№Model)を自由にしていては此方の被害が大きくなりすぎる。

 もう少し前進し、パリ市のATフィールドさえ中和出来れば封印塔を破壊する事が出来る。

 それさえ出来れば今回の攻撃目的の最低ラインは達成した事となる。

 であれば、と決断した。

 

 

「いや、構わんよ。問題は最初から片付けていくとしよう。構わん、やりたまえ」

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 WILLEの中で、大西洋方面の守護者とも呼ばれるエヴァンゲリオン8号機は、真希波のプラグスーツの色(イメージカラー)と暴れっぷりから暴君(ピンク・タイフーン)なるあだ名を付けられていた。

 そして今、パリ郊外の地にてはあだ名に相応しい暴れっぷりを披露していた。

 

 

「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーーん!!」

 

 

 愉快な口調で叫びつつ、だがその目は余りにもシリアスだった。

 絶え間なく四方八方を睨みつけ、両腕は手早くグリップのスイッチ類を操作する。

 レーダーの切り替え、FCSの管理、射撃、回避、機動、目まぐるしく情報を確認し、機体を動かしていく。 

 

 左の強化外臓腕(オーバーアーム)に設けられた120㎜多銃身(ガトリング)砲が近づいてくる44ιを叩き落していく。

 常識外の長砲身から放たれる120㎜装弾筒付翼安定徹甲弾(APFDS)砲弾が馬鹿馬鹿しい勢いでばら撒かれていく。

 サードインパクト以前に作られ死蔵されていた劣化ウランの弾芯は、その要求された性能を見事に発揮し続けていた。

 とは言え、エヴァンゲリオンの装甲を貫いて痛打を与えるには少しばかり足りない。

 だが姿勢を崩し、大地へと堕とす事は出来るのだ。

 大地に落としてしまえば後は簡単、右の強化外臓腕に設けられた簡易再現型ロンギヌスの槍(ロンゴミニアト)を突き刺せばエヴァンゲリオンは死ぬのだから。

 

 

「そぉおぃっ!」

 

 

 叩き落され、おっとり刀で陸戦形態へと変形した44ιの胸を躊躇なく貫くロンゴミニアト。

 狙ったのは一番の重装甲に守られていたコアだ。

 だが圧倒的な機力によってロンゴミニアトの穂先は、44ιの装甲をまるで紙の様に容易く穿つ。

 貫かれた44ιは力を失ったかのように地に伏した。

 

 

「8つ!!」

 

 

 蹂躙戦装備(ベンケイ・モジュール)の名に相応しい、圧倒的なまでの力であった。

 その様は正に暴君。

 瞬く間に半分近い僚機が叩き落された様、その圧倒的な威を感じてか薄い自我しか持たない44ιの管制ユニット、成体クローン型綾波(アヤナミType-4)も攻撃を仕掛けるのを躊躇していた。

 距離を取ろうとする44ιの群れ。

 だが暴君はそれを許さない。

 

 

「来ないのなら、コッチからいっくぞーっ! とーつげーきだーっ!!」

 

 

 身に纏った黒鉄色の増加装甲機動体にあって、唯一、素体であるエヴァンゲリオン8号機が露出している頭部。

 その目がギラリと光った。

 機体が操縦者の意志を忠実に実現させる。

 

 機体下部の6つの脚が折りたたまれ、下半身後部に増設されていた反重力機動ユニットが機体をフワリと浮かせた。

 推進器が一気にバカみたいな推力を生み出し、機体を前へとぶっ飛ばす。

 突撃(チャージ)だ。

 中世の騎士の様に(ロンゴミニアト)を前に突き出し、科学の力で一気に前へと跳ぶ。

 大地を離れ、空を駆ける。

 44ιも狩られるだけではない。

 各々が持った大型グレイブ(疑似化ロンギヌス・スピアー)で迎撃に出てくる。

 或いは距離のある個体は、機体の肩部へと固定装備化されたポジトロン・キャノン(陽電子砲)を発砲してくる。

 それまで装備されていたレールガン(電磁投射砲)に比べてコンパクトかつ大出力なソレは、最近になって実用化された必殺兵器であった。

 直撃しさえすれば、エヴァンゲリオンであっても昏倒させる事すら可能な大威力兵器。

 だが、エヴァンゲリオン8号機のATフィールドと絶妙な真希波の操縦によって、陽電子の奔流は悉くが逸らされ、大地を焼くのみに終わった。

 

 

「あっまーい!!」

 

 

 甘いのだ。

 ベテランの乗った機動兵器に棒立ちから射撃して当てようと言うのが先ず甘かった。

 その上で44ιの管制ユニットは、その機体運用経験の乏しさ ―― ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、状況判断と判断による行動への時間差(タイムラグ)が大きかった事も致命傷となった。

 まき散らされた陽電子によって、機体外部の情報を得る手段を失って危険回避(事故予防)に動かなくなった、その瞬間を狙われた。

 外部情報収集手段が失われたのは真希波も一緒だ。

 だが、戦意に不足の無い真希波は機体を止める所か、更に加速させた。

 陽電子によって世界が白く閉ざされた時間(ホワイトアウト)を活用せんとしたのだ。

 

 その差は余りにも大きい結果を齎した。

 事前の推定位置へと打ちぬかれたロンゴミニアトが、44ι2機を纏めて刺し貫いたのだから。

 自己判断で見切りで行動が出来る操縦者と管制ユニットとの絶対的な差であった。

 

 

「うりゃうりゃー のんびりしてたらみーんな喰っちゃうぞーっ!」

 

 

 獣性な笑みを浮かべて真希波は笑った。

 

 

 

 圧倒的なまでのエヴァンゲリオン8号機の猛威は、沈着冷静な冬月をして顔色をなからしめさせた。

 切り札であったグループ0(ゼーロ)が瞬く間に()()()()()のだ。

 NERV第7軍の指揮官にして、NERV副司令でもある冬月は44ι部隊の編制に掛かる手間を知っていたが為の鈍痛でもあった。

 痛むこめかみに指をあてる。

 とは言え、目の前の脅威には立ち向かわねばならない。

 

 

「仕方があるまい、グループ4(クアットロ)を回したまえ」

 

 

 最後のカードを切る指示を出す冬月。

 自身でも悪手であると言う自覚はあったが、他に手が無かったのだ。

 SEELEとの闘いは既に終盤を迎えつつある ―― 要撃に出てきていたエヴァンゲリオンの4割を討ち取っていたが、それ故にそれらの部隊を動かす事は躊躇われたのだ。

 最後の最後で、後先を考えずに噛まれる事を恐れたのだ。

 

 

「はっ、直ちに!!」

 

 

 既にSEELEの旗機たる儀式用エヴァンゲリオン(Ritual-Model)2機は、両機とも撃破していた。

 白かった機体は44Θの武装である黒い投擲槍(簡易量産型ロンギヌスの槍)によって剣山の様になり、支援艦であるNHG Lobgesangに死体の如く吊り下げられながら回収していく様が、NHG Erlösungの艦橋からも見えた。

 SEELEを象徴した機体が惨めに扱われるその様は、人類史の裏側から世界を操ってきたSEELEの終焉を示す様であった。

 とは言え、冬月の関心はかび臭いSEELEと言う組織の終焉では無い。

 儀式用エヴァンゲリオン(Ritual-Model)を2つ、堕とせたと言う事であった。

 

 

「シン化2号機を動かす7()()()()、これで一つを残して揃う事となったな」

 

 

 感慨深げに呟く。

 とは言え終わりではないのだ。

 大天蓋の彼方へ封印されたエヴァンゲリオン2号機、予定外の形で人類補完計画の柱となった機体を回収し、そして何よりもエヴァンゲリオン初号機を確保せねばならないのだ。

 次はWILLEの本拠地がある北米大陸へと侵攻せねばならぬのだからだ。

 

 ()()()()()、冬月は警戒しているのだ。

 狩りは獲物をしとめる時こそ最も警戒せねばならぬのだから。

 

 冬月は油断しなかった。

 冬月に率いられたNERV第7軍の将兵も気を緩めた訳でも無かった。

 にも拘わらず()()が発生したのは、結局のところ、寡は衆に敵せずと言うモノも程度問題であり、個が余りにも優越していると集団であっても容易に蹂躙されると言う事であった。

 そう、例えばエヴァンゲリオン初号機の様な。

 

 

 

 

 

 内側に向けたATフィールドによって作られた疑似的な亜空間 ―― 異相空間へと沈む事で、ほぼ完全に外部から察知される事なく空を征くエヴァンゲリオン初号機。

 その姿はエヴァンゲリオン8号機とは違い、NERV所属時代のモノからそう大きく変わってはいない。

 背中に飛翔用の大型推進器を背負っているが大きな翼などは無い。

 操縦者たる碇シンジが、エヴァンゲリオンのATフィールドを器用に操って疑似的な慣性制御をやってのけているからだ。

 増加された装甲なども無い。

 武装は、手に持った折り畳み式銃剣(プログレッシブダガー)付きの縦連装型短身近接銃(ソードオフ・ガン)と、支援腕(サブアーム)に取り付けられたエヴァンゲリオンの背丈ほどもあるATフィールド干渉破斬型近接刀(ムラマサブレード StageⅣ)

 シンプルであり、エヴァンゲリオン8号機に比べて余りにも貧相にも見える。

 だが違うのだ。

 それだけでエヴァンゲリオン初号機には、シンジには十分なのだ。

 S²機関を搭載している事も、限定的ながらも自己修復能力を持つ事も些末な話であった。

 エヴァンゲリオン初号機が原初の7機(№Model)である事も関係が無い。

 只、シンジが乗りさえすれば、エヴァンゲリオン初号機はそれだけで戦場の支配者となるのだ。

 支配者(ザ・パープル)

 それがエヴァンゲリオン初号機に捧げられた異名であった。

 

 エントリープラグで()を待つシンジ。

 その表情は静謐であった。

 待つのには慣れていた。

 守った筈のものがするりと手から離れ落ち、命を掛けて守った積りが命を掛けて守られて、目が覚めた時には全てが終わっていた。

 世界が変わっていた。

 それからはや10と余年、ただ取り返したい ―― 一目で良いから、そう願って戦ってきたのだ。

 今更に焦る積りは無かった。

 パリを掌握する。

 攻め寄せるNERVを最低でも東欧以遠にまで後退させ、SEELEを滅ぼす。

 そして大天蓋を破壊し、空を、宇宙を取り戻す。

 

 そこまで考えた所で、コンソールが警報音を上げた。

 確認。

 光学センサーが8号機の発した信号弾を確認したのだ。

 NERVとSEELEによる強烈な電子戦(EW)によって、至近距離以外での通信は不可能となっている。

 だからこそ信号弾、光学と言う妨害(ジャミング)の難しい手段を採るのだ。

 対価は、近くにいる誰でもがソレを知れると言う事。

 尤も、知った上で何かを成す時間を与えねば良いのだ。

 少なくともシンジは真希波は、WILLEの戦闘部隊統括の葛城は、そう考えていた。

 

 

「出撃」

 

 

 己を鼓舞する様に呟いたシンジは、迷いを見せる事無く操縦桿のボタンを押し込む。

 背中のジェット推進器と一緒に、腰と太ももに増設された加速補助ロケット(集成リテルゴルロケット)に点火する。

 轟々と音を響かせ、潜伏していた異相空間から飛び出すエヴァンゲリオン初号機。

 シンジの意志に従って発生されたATフィールドが、それら推力の全てを前進へと捻じ曲げる。

 短時間ながらも発揮された、総推力2000kNを超える馬鹿げた力が700tを超える巨体を前へと蹴り飛ばす。

 前へ。

 前へ、前へ。

 

 狙うのはNERV空中艦隊、NHG Tragödieだ。

 NERVのエヴァンゲリオン部隊を運用する上で必要不可欠な中枢艦を叩き潰し、これを壊乱させるのだ。

 その上で、雷撃(サンダーチャイルド)作戦第2段階(フェーズ2)へとつなげる積りだった。

 個における自身の圧倒的な優位性を認識するシンジであるが、決して油断する積りは無かった。

 戦場に絶対はない。

 それを心に叩き込んでいた。

 

 エントリープラグを満たすLCL、その緩衝材としての機能を以ってしても緩和しきれない振動がシンジを弄ぶ。

 だがグリップを握る手が緩む事は無く、目は逸らされる事無く前を睨み続ける。

 突貫。

 エヴァンゲリオン初号機は、ATフィールドで作られた防殻に身を包み空を進軍する。

 

 

 

 

未確認飛翔体(unknown)確認!? 本艦隊へと急速接近中!!」

 

 

 レーダーが捉えた新規情報を、担当官が声を張り上げて伝える。

 戦術ComputerSystemが、本戦闘領域の情報図面に自動的に追加する。

 矢印が一直線にNHG艦隊に向けて伸びてくる。

 

 

「パターン確認!」

 

 

不可能(ネガティブ)! ATフィールドによって検知不能です!!」

 

 

 混乱した艦橋の空気を、冬月の一喝が治める。

 強くは無い。

 だが人に命令慣れした声は、勝利しつつあるとの慢心 ―― 油断を突かれて慌てた人間の心を鎮静化させる力があった。

 

 

「正体など構うな、我々(NERV)で無ければ敵だ! 迎撃を行いたまえ。手段は択ばなくとも宜しい」

 

 

「はっ!!」

 

 

 冬月の許可によって、SEELEの旗機を仕留めた後に補給と再編成中であったグループ9(ノーヴェ)へ迎撃指示が出る。

 旗機との戦いで定数54機から討ち減らされて37機となった44Θは、粛々とその指示に従って母艦NHG Lobgesangから出撃する。

 又、各NHG艦も、迎撃命令に従って対空砲を放つ。

 対空砲を有していない艦は主砲である大口径の陽電子を放つ。

 

 空に光爆幕が生まれた。

 

 誰であれ生き残れないであろう暴力の奔流。

 例えそれがATフィールドを持った相手であろうとも ―― 見る者にそう思わせるだけの力があった。

 だが、それは現実ではない。

 

 

「敵機止まりません!!」

 

 

 レーダー手が上げた報告と言う名の悲鳴、そして衝撃。

 轟音。

 超音速が生み出したソレらが艦橋を襲う。

 

 

 

 

 ATフィールドを錐の様に展開し、NHG Lobgesangの側舷へと突入したエヴァンゲリオン初号機。

 その着弾の衝撃だけで、全長40,000m近い大型艦であるNHG Lobgesangも大破状態へと陥る。

 構造をATフィールドで強化しているからこそ、船体がくの字にへし折れる事は無かったが、それでも着弾した右舷側の外装は衝撃によって悲惨な状態になっていた。

 初号機が衝突寸前に分離させた補助ロケットが艦内に飛び込み、その炎が可燃物に引火したのか、機体各部から炎と黒煙を上げて高度を下げていくNHG Lobgesang。

 その船体上部に、いっそゆっくりと評しえる仕草でエヴァンゲリオン初号機は立つ。

 吠える。

 操縦者たるシンジの内側から膨れ上がる戦意を知らしめる為の様に、空へと吠える。

 

 

 

「えっ、エヴァンゲリオン初号機!」

 

 

 顎部ジョイントを弾き飛ばして咆哮する紫色の機体を、魅入られた様に見つめる人々。

 が、只一人、冷静な冬月は口元を愉悦にゆがめた。

 

 

「来たかね、碇の息子」

 

 

 太平洋インド洋方面でのゲリラ戦術を展開し、NERVでも追跡しきれなかったエヴァンゲリオン初号機が目の前に出たのだ。

 探し出さねばならぬ、今後の人類補完計画に於いて必要不可欠な神具(エヴァンゲリオン初号機)が自ら現れたのだ。

 好機、以外に冬月が思う事は無かった。

 

 だが、部下たちの動きは遅い。

 故に叱責を述べる。

 

 

「何をしているのかね。初号機を討つ絶好の機会を君たちは逃す積りかね?」

 

 

「しっ、しかし! 44Θ以外の手段では11番艦(NHG Lobgesang)に被害が出てしまいます」

 

 

「構わん。あの程度のフネ、必要ならば死海ドックにて追加建造すればよい。44Θもだ。それよりも初号機だ。主砲を使いたまえ。コアさえ無事であれば良い」

 

 

「はぁ!? はっ、直ちに!!!」

 

 

 会話の最中、既に発艦して攻撃を仕掛けた44Θがエヴァンゲリオン初号機の一撃、一刀をもって真っ二つになり、地へと墜ちていく。

 44Θが持つ投擲槍 ―― 簡易量産型ロンギヌスの槍(対A/E特攻兵装)はATフィールドを喰らう特性を持つにも拘わらず、ATフィールドを纏ったムラマサブレード StageⅣに簡単に負け、へし折られている。

 強度が違い過ぎていた。

 それを横目で見ながら冬月は念をおした。

 

 

「急ぎたまえ」

 

 

 

 NERVの迎撃をいなしながら、シンジは慎重に艦隊各艦を見た。

 最初に艦隊一番の大型艦を狙った。

 潰した。

 沈みゆくNHG Lobgesangの艦上から睥睨する。

 地上のNERVのエヴァンゲリオンの動きに変化は無い。

 8号機に立ち向かっている機体はいまだ組織的に動けている。

 ならば次、エヴァンゲリオンの管理に必要な通信システムが充実して居そうな艦を探す。

 44Θが退いて、NHG各艦からの艦砲射撃が始まる。

 圧倒的な力の奔流。

 初号機の外部監視カメラが、自己防衛の為に一瞬、シャットダウンする。

 初号機のエントリープラグ内の映像が乱れる。

 だが、それだけ。

 初号機のATフィールド(シンジの世界を拒絶する意志)を貫けない。

 

 暴力の奔流を気にもかけずに雄々しく立つ初号機。

 その目が捉えた。

 艦砲を射撃する事無く下がるNHGを。

 その船体下部には様々ななアンテナが乱立している。

 そのフネはNHG Tragödie。

 正しくNERVのエヴァンゲリオン指揮/管制用のNHGであった。

 

 跳ぶ。

 背面の推進器を吹かして飛び、そのまま一気にNHG Tragödieへと()()()

 エヴァンゲリオンでも慣性制御を可能とする初号機だけが使える跳躍術であった。

 

 着地。

 正確に言うならば、3胴の中央船体に()()()()を入れたのだ。

 轟音と共に盛大に裂けた装甲材の中へと、手持ちの(ソードオフ・ガン)を叩き込む。

 2発連射して手動での再装填(コッキング)、そして更に2連射。

 銃剣を付け、近接戦闘用装備として調整されているこの近接武装は、それ故に故障し辛い単純な作動機構が求められたのだった。

 加粒子砲や電磁投射砲の様な高威力で複雑な兵器は少しでも雑に扱えば直ぐに故障する。

 だが単純な機械式で、頑丈な高張力鋼で作られている(ソードオフ・ガン)は銃剣で突こうが、銃床で殴ろうが、多少の事では歪まず壊れぬ優れものであった。

 シンジにとって、それこそが重要であった。

 威力は運用で補える。

 だが、機械的な故障はどうにもできぬのだから。

 

 そんな、乱暴な(ソードオフ・ガン)から純然たる化学反応式で撃ち出された榴弾(HE-MP)は、裂けた装甲材の隙間から艦内に入り込んで破壊をふりまく。

 主機を破壊し、副機を稼働不能にし、何よりもエヴァンゲリオンの管制システムを叩き壊す。

 

 ついでに、他のNHGからの射撃があれば真下へと偏向させて叩き込んでやろうと考えていたシンジであったが、艦砲射撃は無かった。

 ()()()()()()

 判りやすい反応は当たりを意味し、その事にシンジは口をゆがめる。

 であれば絶対に沈めねばならない。

 母艦たるAAAブンダーの構造から推測できる、NHGの艦制御システムがあるべき場所 ―― 中央船体艦首部へ向けて艦上部を裂きながら歩く。

 44Θが迫ってくる。

 再び抜いて左腕に握ったムラマサブレード StageⅣで迎撃。

 雑な振り方であっても、刀身に乗ったATフィールドが余波で44Θを切り裂く。

 敵の側からすれば反則としか言いようの無い威力が、情け容赦なく振り撒かれる。

 艦首部の上面を切開する。

 手荒く出来上がった開口部を通して、艦橋の人間が初号機を見る。

 手を止めて見上げている。

 呆然としているのが、高濃度L結界防護服越しにでも判る。

 シンジはおもむろに(ソードオフ・ガン)の直径2000㎜もの大口径の筒先を向けた。

 バイザー越しでは判らぬが、14年前にNERV本部で顔を見た人たちかもしれない。

 第3新東京市で、道ですれ違った相手かもしれない。

 第3中学校の同級生だったかもしれない。

 だが、シンジは躊躇なく引き金を引いた。

 轟音。

 近接モードで放たれた弾丸(HE-MP)によって艦橋は過去形(艦橋であった)となり、有機物と無機物とが混然一体となった何かへと変容したもので満ちる。

 更にもう一発。

 生み出されたメタルジェットは艦底部をぶち抜いた。

 グラリと傾き、降下を始めるNHG Tragödie。

 

 

「真希波?」

 

 

 無線封止を解いて、発信するシンジ。

 地上の戦闘状態の確認だ。

 

 対する真希波は、明らかに精彩を欠いて組織的な動きが出来なくなったNERVのエヴァンゲリオンの群れに、シンジが目的を達成した事を把握し返答する。

 

 

『第1段階達成確認! NERVの、お人形さん状態になってるにゃーっ!!』

 

 

 シンジが確認の為に見た地上は、一言で言えば悲惨であった。

 8号機はもはやイワシの群れを喰らうクジラの如く、圧倒的であった。

 蹂躙をしていた。

 逃げる背中を串刺しにしていく8号機。

 それはもう戦闘では無い。

 

 

「なら08は最終行動を実施せよ、可能か?」

 

 

『余裕っち!』

 

 

「では実行しろ」

 

 

『まーかーせーてーーーぇっの、どっかーーんにゃーっ!!』

 

 

 8号機が最大出力で加粒子砲を発射する。

 狙ったのはパリ。

 パリ中心。

 空を封鎖する大天蓋、その起点となったパリ広場の封印塔であった。

 

 陽電子のビームがパリのATフィールドを貫き、市街地を溶かし、そして封印塔を消し飛ばす。

 きのこ雲がパリを覆った。

 

 

『狙った獲物は外さないぜーっ! わんこ君、目標消滅確認!!』

 

 

「了解。では01よりHQ___ 」

 

 

 初号機を襲い来る44Θを潰しながら、シンジはAAAブンダーへと作戦が第2段階実行の時であると報告した。

 

 

 

 

 

 エヴァンゲリオン初号機と8号機の発進以降、ドーバー海峡から北海へと移動していた可潜戦艦AAAブンダーと7隻の潜水艦は、浅く潜りながらシンジからの通信を待っていた。

 

 

『フッケバイン、繰り返すフッケバイン』

 

 

 NERVとSEELEによる強烈な電子戦(EW)環境をぶち抜く大出力で行われた報告。

 短文はトリガーであった。

 雷撃(サンダーチャイルド)作戦、その第2段階開始を告げる終末のラッパであった。

 

 それまで腕を組み直立不動であった葛城は、その報告に1つ頷くと、声を張り上げて海面 ―― 大天蓋の様子を確認させる。

 水面に浮かんでいた偵察ユニット(UUV)が、空を見る。

 光学、レーダー、IR。

 積み込まれた各観測機材が手早く情報を収集し、報告する。

 答えは(ポジティブ)

 

 

「艦長! 上空に青空を視認、大天蓋は消滅しています!!」

 

 

 AAAブンダーの情報管理システムを統括する青葉シゲル少佐が、歓喜の色を隠せない声でUUVからの報告を張り上げる。

 艦橋内で歓声が上がった。

 だが葛城はその歓喜に加わる事無く淡々と、AAAブンダー直衛潜水艦部隊指揮官へと作戦第2段階の開始を要請する。

 人類反撃の一大作戦となる雷撃(サンダーチャイルド)は、まだ道半ばだからだ。

 

 葛城からの要請を受けた潜水艦部隊指揮官にして旗艦艦長のテレサ・テスタロッサ()()はティーンエイジャーと言った外見の女性であった。

 シンジや真希波と同様の、エヴァンゲリオンの呪いを受けた女性 ―― そう言う訳では無い。

 事実、まだ子供であった。

 只、その戦争の才故に、WILLEの潜水艦(戦略級打撃)部隊の指揮権を預かる事となった才女だ。

 同一部隊で階級が指揮官である葛城と同じ理由は、この()()()()()()()()()()()()を、エヴァンゲリオンと一緒に預ける事を危惧したWILLE上層部の政治的判断であった。

 一種のお目付け役が期待されての事だ。

 とは言え、葛城とテスタロッサの関係は良好であり、意思疎通にも問題は無かったが。

 

 

「戦隊各艦へと命令、雷を解き放て(コール・ライトニング)。目標、パリ。副長?」

 

 

「アイマム!」

 

 

 年若いテスタロッサを支えるベテランの副長、リチャード・ヘンリー・マデューカス中佐が声を張り上げて動く。

 少し離れた2つの指示卓(コンソール)に、2人は首から下げていたそれぞれのパスを認識させる。

 網膜確認。

 厳重な安全装置が施されている理由は、これが、この多目的戦略級潜水艦トゥアハー・デ・ダナンの最終兵装の使用に関するものであるが故にだった。

 戦略級のN²弾頭を積んだ潜水艦発射型弾道弾(SLBM)だ。

 トゥアハー・デ・ダナンだけで8発。

 コーバックややまとと言った戦隊各艦のソレを合わせて32発もの弾道弾は、パリ所かフランス全土を焼き尽くせるだけの威力を持っていた。

 それが躊躇なく放たれたのだ。

 

 WILLEの、人類反撃の嚆矢 ―― そう呼ぶには余りにも過大な威力を持ったソレは、パリ上空にて設計時に要求された性能を見事に発揮した。

 最終的に、NERV第7軍は敗退にも似た形で、大規模拠点のある中東ヨルダン(死海)基地へと下がった。

 そしてSEELEは、WILLEに城下の盟を行う事となる。

 

 

 

 

 

 




2021.08.01 文章修正
2021.10.04 微調整実施
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