Starlight serenade(Q/シン時間軸改変作品) 作:◆QgkJwfXtqk
まるで太陽と地球 永遠の距離
時計の針がカチカチ鳴る 私たちの時間を
作っているの それとも 消しているの
宇宙が くるっと まわるたび
未来のいのちは あっという間に 過去になる
紗茶みるき
01
+
可潜揚陸艦ダイダロスを旗艦とするTF.Daidalosは、
戦車や装甲車、ヘリなどを保有している。
保有していない陸戦兵器は、エヴァンゲリオン位である。
目的はパリ市街、SEELE本部の完全な接収が目的であった。
故に、作戦名もシンプルなモノが付けられていた。
文字通りSEELE本部に残っている人材、資料、資材を根こそぎに奪い取り、北米へと持ち帰る予定であった。
優先順位もまた、文字通りである。
これは高等教育を受けた人材は貴重であり、同時に、人類と言う種の存続を図る上で
それに比べれば、SEELEパリ本部に貯蓄されている資材などの価値は無いも同然であった。
セカンドインパクトによって衰退した北米、WILLEの母体となったアメリカであったが、サードインパクト以降の混乱によって人モノ金が集まってきた結果、嘗ての勢いを取り戻しつつあったのだから。
AAAブンダーに乗り組んでいるTF.Wunderの参謀団が、ブンダーの陸戦部隊が制圧した個所の詳細をTF.Daidalosの参謀団に送るなどして、様々な調整を行っている。
それをしり目に葛城は、AAAブンダーのブリッジ中央にある艦長席でTF.Daidalosの指揮官であるブルーノ・J・グローバル准将と一寸した世間話を行う。
パリ市の外見、酒、そして空。
人類の一大反攻作戦の最中とは思えぬ様な会話を行う2人。
『君はどうやら勝利の女神でもあったようだね、葛城大佐』
パイプを片手に穏やかな、落ち着いた声で葛城を称賛するグローバル。
対する葛城も、少しだけ相好を緩めて返事をする。
尤も、言葉は堅苦しいが。
「部下たちが有能だからだと思っております」
『有能な部下を揃えられるのも、有能な部下に才能を発揮させるのも、上に立つ者の才能だよ』
楽しそうと評して良い会話。
無論、演技だ。
ブリッジ要員その他に聞かせ、指揮官は泰然自若としていると思わせる為の演出だ。
大作戦の山場を越えたが、この後が簡単な仕事ばかりになる訳はない。
TF.Daidalosはこれからが本番であるし、TF.Wunderは護衛を行いつつ次なる作戦 ―― 衛星軌道に封印されているエヴァンゲリオン2号機の回収作戦が控えている。
尤も、
この作戦の肝となるのはエヴァンゲリオンではない。
兵装や推進器、宇宙用の増強化生命維持装置などを装備する事で500tを超える
かつてのサターンⅤロケットの低軌道投入能力の1桁上の能力を持ったヨートゥンを開発する事に成功した事が、この2号機回収作戦と、その前提となるパリ市強襲作戦に繋がったのだった。
そもそも、
エヴァンゲリオン2機による強襲でパリ市中央にあった大型封印柱を破壊し、離脱する事だけが目的という。
だからこそ、TF.Wunderの
シンプルで手荒く、そして容赦の無い作戦は、その根幹を立案した葛城の作戦立案能力の真骨頂とも言えた。
伊達に
WILLEの上級指揮官たちで最も有能、乃至は最も厄介な人間はは誰かと尋ねられれば、別の人間の名があがるだろう。
だが
そんな元々の
パリを守るZEELEの戦力を削るのにNERVが来るなら大歓迎、渡りに船とばかりに利用する事として作戦が変更されたのだ。
より大々的に、より攻撃的に。
ZEELEが潰せるならば潰してしまえ、と。
葛城が政治力を発揮し、どこそことWILLE中の戦力をかき集めたのだ。
本来であれば、ようやく量産化に成功し部隊錬成に取り掛かれたWILLEのエヴァンゲリオン部隊 ―― フォッカー戦隊まで投入したいと考えて居たが、流石に此方はWILLEの上層部から待ったが掛けられた。
初号機と8号機を含めて47機ものエヴァンゲリオンを運用する事となるフォッカー戦隊を投入しようとすると、準備に時間が掛かり過ぎるというのが理由であった。
フォッカー戦隊がWILLEの切り札だから投入しない、そういう本音があるとは誰も思っていなかった。
既に、最大最強の
であれば、そんなけち臭い背景がある筈も無かった。
NERVによるZEELE侵攻作戦を乗っ取って戦果の最大化を図ろうと言う話なのに、戦力を集めるのに時間が掛かって、乗っ取れませんでしたとなれば全くもって馬鹿らしい話であるからだ。
正しく正論だった。
至極真っ当なその理由に、葛城も静かに同意するのみであった。
こうして、
「葛城艦長!」
「なに?」
と、TF.Wunderの幕僚の1人が葛城の所へと駆け込んできて耳打ちをする。
「……確保できた、と?」
「はい。システム周りの無力化によって、ほぼ無傷です」
「結構。私も行くわ」
『仕事かね?』
「はい、どうやら次の作戦、少し手直しする事になりそうです」
『勤勉で良いことだ、よろしく頼むよ』
「はっ!」
作戦終了後の碇シンジは何時も、空の見える所に居た。
残った右目で睨む様に空を見上げている。
水で雑に流したL.C.Lの残り香を漂わせ、髪も乾かさぬままに。
圧迫感のあるプラグスーツの上半身をはだけさせ、袖を腰に巻いている。
薄手の、黒いタンクトップを着ているのは、
プラグスーツを完全に脱がないのは
シンジがプラグスーツを脱ぐのは完全な後方、アメリカ本土に居る時くらいであった。
巨大なAAAブンダーの露天区画 ―― 艦外のレーダー整備用に設けられた通路に、私物のバケット型折りたたみ椅子を持ち込んで、体を預けていた。
大地が、かつてはパリと呼ばれていた街が消し炭になってはいたが、欠片も気にする事なく、茫洋とした顔で、只、
ひと頃は煙草も吸っていたが、最近は止めていた。
別に体に悪い等と言う理由ではない。
ニコチンを摂取する事で体に起きる反応なんてない。
肺一杯に紫煙を吸い込んでも、口の中に匂いを感じるだけだった。
意味がない。
だから煙草は止めた。
ただの手慰みで消費するには煙草は高級品であり、誰もが満足に吸える訳では無い。
であるからには、吸う真似事しか出来ない自分よりも、吸いたい
それなりに貴重品なZIPライターごと渡そうとしたら、複雑な顔をした整備班機付き長からやんわりと、そちらは思い出の品でしょうからと断られた。
かつて加地リョウジが使い、お守り代わりにと葛城へと送られ、そしてシンジが煙草をたしなむ様になった事を知った葛城が、程々にたしなむ様にとの言葉と共にシンジへと渡したZIPライター。
純銀で、十字架のカービングが施されたZIPライターは、それ以来、ライターの役目を終えたのだった。
油を入れられる事の無くなった今では、シンジの手慰みの楽器となっている。
開閉させる時の金属音。
カチンカチンと響く音が、シンジの何かを踏みとどまらせていた。
金属音と共に、風が啼いている。
日差しを遮る様に被る古ぼけたOD色の作業帽、そのつばには黒地に白抜きとなる髑髏のゴルフマーカーが取り付けられていた。
帽子にはマーカーだけは無く、小さなピンバッジが付けられていた。
赤色の、有翼の、天使を象ったピンバッジだ。
アメリカ本土で訓練の合間、息抜きにと街に出た時にフリーマーケットで見つけ、買ったものだった。
何となく欲しくなったのだ。
欲求の薄くなりつつあるシンジが、久方ぶりに自分で自分の為に行った行動だった。
尚、初めてソレを見た真希波は浪漫だねと笑っていた。
訓練所での上官、フォッカー戦隊の戦隊長は
ギリギリで縋れるお守りってのは、男にとって大事なのだと言った。
それだけじゃ帽子も寂しいだろうと言って、戦隊長は部隊のパイロット全員に自費で
ゴルフの道具屋に可愛い子が居て、格好をつける為だったと言うのは、その割と後で知って、戦隊のパイロット一同で大いに笑ったモノだった。
シンジも笑っていた。
それ以来、作業帽はZIPライターと並んでシンジの貴重な私物となっていた。
誰も居ない場所で空を見上げているシンジ。
誰も居ないのは、AAAブンダーに乗り込んでいる誰もが、シンジに気を遣った結果だった。
もはや水以外のなにも摂取できず、睡眠すら必要とせず、
空。
見える筈のないエヴァンゲリオン2号機を探すように、見上げているのだ。
戦闘後の、初号機の整備に必要な時間だけ、初号機に乗れない時間だけの、ある種の休息であった。
AAAブンダーには、それを邪魔したいと思う様な無粋な人間は居なかった。
存分に空っぽになって空を見上げて居るシンジ。
と、そんなシンジの元へと1人。
「ここに居た、わんこ君!」
真希波だ。
此方はプラグスーツを脱ぐ事なく、だがその上に白い長裾のパーカーを羽織っていた。
右肩の所に
左には青いバンダナが巻かれている。
「どうした?」
「顔を見に来たわけでも邪魔をしに来たわけでもないんだネ、これが!」
乾ききってない髪をバンダナで無理やりに1束にまとめている。
どうやら急いで来た様だとシンジが視線で理由を尋ねたら、凄いイイ笑顔で真希波は笑った。
「艦長から、作戦一気に前倒しだってさ! 燃えるニャー これは!!」
「はっ?」
動じないシンジも流石に声を漏らしていた。
パリは焼き払われた。
だがその地下にあるSEELE本部施設は、ほぼ無傷の形でWILLEの掌握する所になった。
10万を超える人員。
エヴァンゲリオン製造と運用に関わる設備。
様々な資料。
そして何よりTF.WunderはSEELE象徴たる
これは
SEELE本部地表設備がN²弾頭のIRBMで焼き払われた際、過電流などが発生して
通常ならば、SEELEの本部スタッフが早急に復帰処置を行う手順であったが、畳みかけるようにTF.Wunderの陸戦部隊が強襲した為、何の対応も出来なかったのだ。
そもそも、戦意と言うものが折れていた ―― NERV第7軍との戦いが敗色著しく、多くの本部スタッフは間近に迫った死に怯えていたと言うのが大きかった。
そこに、
SEELE本部スタッフが、ハンカチーフやシーツを棒に結び付ける事に躊躇しなかったのも道理であった。
かくしてSEELEの首魁、キール・ローレンツは封入された
既に
エントリープラグを引き抜いてしまえば良い話でもあったが、如何せん
エントリープラグを守る背面装甲が強固に固定されてるのだ。
乗り換えその他は全く考慮されていない、特殊なエヴァンゲリオンであると言えた。
「内部構造、データの確認は?」
「無理ね。MAGI-Parisの方も自己封印プログラムが走っていて、ここでは解除出来ないわ」
「そう」
しげしげと、SEELEのエヴァンゲリオンを見上げる葛城。
その横に、
NERVに所属していた時代、エヴァンゲリオンに最も精通していた人間である為、ここに呼ばれて来ていた。
「本部に持ち帰って時間を掛ければ、だけど、ミサト、貴方の判断は
「ええ」
赤木の問いかけに、静かに首肯する葛城。
詳細は不明でも使えればよい、そう断言した。
「荒っぽい話ね」
「良く分からないモノでも使えるモノは使う。
「違わないわね」
「出力は
「危険な話ね」
「副長として反対?」
AAAブンダーに於いて艦長である葛城は絶対と呼べる権限を持っている。
だからこそ、本当に重要な決断だけは20年来の相棒と呼べる赤木に確認する様にしていた。
誤らない為に。
己を感情的、或いは激情的な人間であると自認しているが故の行動であった。
ある種の甘えと言えるだろう。
それを判って、赤木は受け入れていた。
この壊れかけた世界で、人類の命運を背負うと言うのは簡単な事ではないのだから。
「エヴァンゲリオンに関わった科学者としては反対ね。だけど、AAAブンダーの副長としては2機しかない
簡単な話であった。
今現在、AAAブンダーの主機として利用されている量産型のエヴァンゲリオンを降ろし、代わりにSEELEの
AAAブンダーを含めNHGシリーズは本来、NERVの
その出力を前提に、全領域での戦闘を可能とする様に設計されていた。
だが現在のAAAブンダーは出力の劣る量産型エヴァンゲリオンを搭載している為、一時的には低空も飛べる可潜艦としての能力しか発揮できなかった。
だからこそ、
簡単な話であった。
その主機となるエヴァンゲリオンに、SEELEのローレンツが乗っていないのであれば。
だが葛城も赤木も、その点に関して目を瞑る事とした。
SEELEを下したNERVは、ファイナルインパクトを引き起こすための行動に出るだろう。
それを阻止する戦力は幾らあっても足りない、それが指揮官としての2人の見解であった。
「しかし、本土の上層部の了解は得たの?」
「不要よ。AAAブンダーの整備運用に関する全権は私1人にあるのだから」
「報告は?」
「パリで高出力の機体を拾ったと処理すれば良い。艦内に収めてしまえば調べる人間が出る筈も無い」
WILLEの人的余裕は少ないのだ。
であるが故に、結果を出しさえすれば文句は言われないのだ。
多国籍 ―― サードインパクト以降の混乱で逃れてきた敗残兵の集団と言う側面もあるWILLEは、法を破らない範囲であれば独断専行であっても結果がすべてであると許される面があった。
人類の存続に資する事であれば、ある程度は認めておかねばどうにもならぬ。
そういう現実もあった。
頷き合う2人。
そこで会話は終わった。
「なら、やりましょう」
突貫工事で行われるAAAブンダーの改装。
同時進行で、初号機と8号機を宇宙対応装備へと換装させる。
常にタイトな
だが手は一切休めない。
休めるとどやしつけてくる、鬼より怖い整備班長伊吹マヤが仁王立ちして指示を出しているのだから。
結果、都合11時間でAAAブンダーとエヴァンゲリオンの換装、及び物資の補充に成功した。
正しく突貫工事。
只、予想外であったのが1つ。
『中々の手際だと褒めておこう』
尊大な口調で言い切ったのはローレンツ。
「SEELEのっ!?」
驚きの余り、腰の拳銃に手を伸ばした伊吹であったが抜く事は無かった。
確認の為にと主機管理室へと着ていたAAAブンダー情報管理官である青葉シゲルが、その身で庇い、同時に手を上げて止めたからだ。
「幽霊が湧いて出た、といった所か」
鋭い目でホロ画像と、主機区画の画像とを交互に見る青葉。
主機管理室の誰もが固唾をのんで見ている。
『確かに、もはやSEELE無き今、ワタシは
「冥府に帰ってくれても良いんだぜ?」
『こうなってもまだ生者でな。門をくぐる事は叶わぬよ』
ローレンツとの会話を続ける青葉。
その背に隠れながらマヤはAAAブンダーの情報を確認した。
自己診断プログラムによる、艦制御システムの確認を行う。
反応は
AAAブンダーの機能の何処にも異常は無かった。
とは言え安心はしない。
マヤは指先で部下たちに対して
万が一にローレンツがAAAブンダーを乗っ取ろうとしたら、主機区画を爆破し強制排除を行わせようと言うのだ。
SEELEの首魁たるローレンツを、旗機となるエヴァンゲリオンごと艦から
主機区画の強制爆破を実行した場合、この主機管理室も巻き添えを食う事になるのだが、伊吹に躊躇は無かった。
自分の命が喪われる、
心残りと呼べる事は1つ。
出来れば、自分を守ろうとしてくれた青葉は逃してやりたいと言う事であった。
だが状況は、伊吹の乙女心じみたものを忖度する事無く動いていく。
『さて、ワタシの要求、いや願いだな。1つだけ頼みがある。君たちの首魁、この艦の責任者、葛城ミサト大佐との対談だ』
時計の針が少しだけ前に動いた。
2021.10.04 微調整実施