Starlight serenade(Q/シン時間軸改変作品)   作:◆QgkJwfXtqk

4 / 5
+
生きるとは、呼吸することではない
行動することだ

――ルソー     









02

+

 広いとは言えない主機管理室にて対峙する事となる葛城ミサトとキール・ローレンツ。

 多くのWILLEスタッフも緊張感をもって見守っていた。

 

 仁王立ちをし、睨む様に主機管理室の監視カメラを見る葛城。

 対するローレンツは、監視カメラのすぐ近く、人の高さ位にモノリスを動かしている。

 技術部が手早く、会話しやすいようにと準備をしたのだ。

 当然、マイクとスピーカーも、用意されている。

 

「挨拶は省くわよキール・ローレンツ、何の()()()なのかしら」

 

 挨拶も無しに切り込んだのは葛城だ。

 現状は、AAAブンダーの主機を人質に取られた様なものなのだから不機嫌なのも当然であった。

 だが、対するローレンツは気にする様子も無い。

 ただ、少しだけ笑った。

 

『忙しい所を申し訳ない。だがコレは、この願いは先に行うべき事だと信じているのだよ、葛城ミサト大佐』

 

 泰然自若とした風を崩さぬのは、流石、世界の半分を支配した組織の長らしいと言うべきだろうか。

 その体とも言うべき儀式用(Ritual)エヴァンゲリオンの処分準備が行われている事を知らぬ筈も無いが、それをおくびにも出すそぶりは無かった。

 

「願い、ね。何を要求しようっていうのかしら?」

 

『要求ではないよ。間違えてくれるな。我々は敗者であり私は囚虜の身だ。故に、ただ勝者に懇願するのみなのだ』

 

「なら、それらしい言葉遣いをして欲しいわね」

 

 上から目線とまでは言わないが、中々に余裕を持って話しかけられれば葛城とて好ましいと思う筈も無かった。

 特に相手は14年を、それ以上の永きに渡って世界を掌握していたSEELEの首魁なのだから。

 

『ふむ、不快にさせたのならば謝ろう。こればかりは習い性であるから変え難くてな』

 

「そっ。で、改めて聞く。何を貴方は懇願したいと言うの?」

 

『SEELEに加わっていた10,932名の保護だ』

 

 正確には少し減っているだろうとローレンツは続けた。

 NERVによる攻撃で死んだ人間、傷ついた人間は多いだろうから、とも。

 

『別に贅沢をさせて欲しいなどと言う積りは無い。もとより我々と君たちの間に人道等と言うモノは無縁であったからな』

 

「それで?」

 

『………この衰亡しつつある惑星で、10万からの人間の価値は決して小さくは無い筈だ』

 

 WILLEとて、SEELEの人間を奴隷や粗末に扱う積りは無い。

 人材と言う意味でも、人口と言う意味でも、遺伝子の多様性維持と言う意味でも。

 だが葛城は、その事を口にはしない。

 懇願であるとローレンツは言うが、これが交渉であると認識して居たからだ。

 AAAブンダー、ブンダー任務部隊(TF.Wonder)と言う大きな戦力を預かる上級指揮官には腹芸(政治)の一つも仕事の内だからである。

 

「そうね」

 

『無論、対価は用意する』

 

「SEELE無き今、俘虜である貴方が何を対価に差し出せると言うの? 我々は既にパリ施設を接収している。交渉をするならば少し遅い」

 

『Paris-MAGI』

 

 ローレンツは、カメラで葛城の眉が跳ねたのを確認した。

 予想通りの状況で、狙い通りの効果はあったと頷いた。

 時間を掛ければ封印状態(Protect-1055)を強引に解除する事は出来るだろう。

 だがソレを行えば中にある情報が破壊される恐れがある ―― そう、葛城やWILLEは判断しているだろうとの憶測がローレンツにはあった。

 パリの他にもある、SEELEの施設を無傷で接収出来ると言うのは決して小さな話では無い。

 

非常停止状態(スクラム)の解除コードだ。それで君たちはSEELEの全てを知る事が出来るだろう。そしてもう1つ、この儀式用(Ritual)エヴァンゲリオン-No-Ⅰ(Pride)の全コードの解放も行う』

 

「艦長! アクセスが!!」

 

 主機状態を確認していた伊吹マヤが手元の情報端末(PDA)を見ながら声を上げた。

 それまで不可能だった儀式用(Ritual)エヴァンゲリオンの各アクセスが可能になっていくのだ。

 主機室からも、機体各部のアクセスハッチが勝手に開いていくと言う報告が上がっている。

 差し出されたPDAを確認した葛城は、ローレンツを睨んだ。

 

『非常手段の1つは残しておくものだ。そしてコレが懇願を行う上での誠意であると理解して欲しい』

 

「自身はどうなっても良い、と?」

 

 機体が自由に触れると言う事は、即ち、封入されているローレンツの身柄も自由に扱われると言う事なのだから。

 敵の首魁であり、人道など投げ捨てた戦争を14年も繰り広げてきたのだ。

 どう扱われるかなど疑問を抱くまでもなく、悍ましい未来以外は無いと断言すら出来るだろう。

 だがそれでも、ローレンツの声に逡巡など無かった。

 

『今更に己の保身になど興味は無い。私が願うのは人類の種の存続だけである。我らSEELEと言う組織の目的は人類の存続、そこに一片の曇りは無いのだ。それだけは疑ってくれるな』

 

「貴方の意思、受け取るわ」

 

『感謝する』

 

 

 

 

 

 Paris-MAGIを掌握出来た事でSEELE本部施設を自由に使える事となった結果、AAAブンダーの改装工事はより大規模なものへと変更が成された。

 AAAブンダーの整備班や、急遽動員される事となったダイダロス任務部隊(TF.Daidalos)の人員は、変更の決断をした葛城への怨嗟の声を上げながら、必死に働く事となる。

 特に、エヴァンゲリオン初号機に関しては、推進器を取り付けるだけではなく突貫でのO装備 ―― 軌道作業用ユニット(Orbit work Unit)がでっち上げられた。

 エヴァンゲリオン初号機、パイロットである碇シンジ頼りの姿勢制御では無く、ある程度は自動化したシステムを組み上げたのだ。

 その一報を聞いたシンジは、少しだけ安堵していた。 

 AAAブンダーの、WILLEの誇る切り札(エース・オブ・エース)たるシンジであるが、如何せん宇宙でのエヴァンゲリオンを用いた作業など今まで経験した事が無かったのだから当然だろう。

 空挺降下作戦などで、事実上の無重力状態は体験してはいても、それだけの話だ。

 衛星軌道上に封印されているエヴァンゲリオン2号機を、そこに眠っているアスカを安全に確保できると思える程にシンジも無謀では無かった。

 

 AAAブンダーの整備区画で組み上げられていくO装備(OwU)

 推進器(ブースター)推進剤槽(プロペラントタンク)、回収用のウィンチや副腕(サブアーム)の集合体であるソレは、急造らしい雑多さがあった。

 最低限、重心バランスなどは配慮されている筈だが、その様に見えるものでは無かった。

 

「お姫様を迎えに行く彦星の衣装にしては少しばかり無骨かニャ」

 

 各部から零れ落ちる溶接の光。

 その様を外側から見上げる真希波マリ・イラストリアスは独り呟く。

 

「わんこ君14年来の夢、これで上手く行けば良いのだけど」

 

 ナニか、不安がある。

 ()()がする。

 そんな言語化できない何かを感じて、真希波は手元のドリンクパックの飲み口を齧る。

 水、ではない。

 お茶、紅茶だ。

 物資不足から水の様に薄いが、それでもミルクと砂糖の加えられた、紅茶だった。

 シンジとは異なり真希波は使徒化の影響を受けていない。

 只、零号機からMk-Ⅵまでの7つの初期素体型(ナンバーモデル)エヴァンゲリオンにのみ現れた操縦者への呪い ―― エヴァンゲリオンからの干渉による不老化を受けているだけだったのだから。

 尚、真希波が乗っている8号機が、この初期型に含まれている理由は、その製造に関する特殊性が理由だった。

 8号機は1からの新造機では無いのだ。

 3号機と仮設5号機、その大破した素体の残骸をかき集めてNERVが特殊任務機(リチュアル・ユニット)として再生させた機体であったのだ。

 NERVからWILLEが離反する際に強奪し、真希波が運用して現在に至っていた。

 8号機と言うのは、8番目の機体を意味すると共に、3号機と5号機を受け継ぐ機体として命名されていた。

 

 その8号機は、今現在、初号機のバックアップと言う名の予備機とされている。

 本来は8号機も宇宙対応装備への換装が行われるべきであったが、如何せんAAAブンダーの整備班が初号機用のO型装備製造に掛かりっきりとなった為、棚ざらし状態となっていた。

 蹂躙戦装備(ベンケイ・モジュール)の故障確認や解除すら行われず、必要最低限度の故障確認だけを自己診断プログラムで行い、本当に危なそうな場所だけ、真希波が処置していた。

 一応、蹂躙戦装備(ベンケイ・モジュール)は全領域対応を謳った装備であり、宇宙空間への投入も短時間、そして簡単なものであれば可能であるので、この扱いも、仕方の無い話ではあった。

 

「アッシの出番が無いのが一番ニャンだがなー ゲンドウ君たちが何もしてこないと思う程に、このマリ姐さんも呑気では居られないから………」

 

 ゲンドウ君は性格が本当に歪んでるし、冬月先生はネチッこい所がある。

 性悪の2人が組んでいるのがNERVなのだから、何もしないと思う方が失礼だ ―― そんな事を呟きながら真希波はドリンクパックを握り潰し、そして放り捨てた。

 握りつぶされたグシャグシャのドリンクパックは、整備区画の脇にあったゴミ箱に見事に吸い込まれていく。

 

「ストライク! ま、その時はその時か。罠があれば全力で食いちぎってやれば良いだけニャ」

 

 目を爛々と光らせ、口元に獣性の影を加えながら真希波は笑った。

 

 

 

 

 

 パリSEELE本部攻略から17時間後。

 AAAブンダーは、その本来の姿を取り戻し空へと浮かんだ。

 2000mを優に超える船体、その船体よりも巨大な円環を戴いている。

 自律攻撃型箱舟(Autonomous Assault Ark)、因果律を調律し()()()()()を与えられたNHG級初期バッチ艦のとしての権能だ。

 

 

北アメリカ航空宇宙防衛司令部(NORAD)より、衛星軌道上のPod-02(エヴァンゲリオン2号機封印体)の位置を把握したとの事です」

 

 情報管制官である青葉シゲル少佐が報告の声を上げ、AAAブンダーのブリッジの大型情報表示パネルに軌道を表示する。

 その様を見て、戦前(ニアサード以前)を憶えている機関長である高雄コウジは嘆息を漏らした。

 人類が力を取り戻した、そう感じたのだ。

 国連軍 ―― 海上自衛隊上がりの高雄は、かつてのネットワーク化された戦場を経験した人間であり、それがどれ程の戦力倍増要素であるかを叩き込まれていたのだ。

 だからこその感嘆であった。

 知らぬ間に、腕の蒼いバンダナを触り、人類の復調に更なる戦意を滾らせていた。

 人類は戻ってきたぞ、と。

 

 そんな人間の感傷など感じる事無く、14年と言う月日を越えて生き残っていた通信衛星群は、久しぶりに受けた人類からの命令(コマンド)を忠実に実行していくる。

 WILLEは全軍が情報と言う意味で連結し、後方(アメリカ大陸)も前線も一体となって戦う事が出来るようになったのだ。

 群体としての人類、その頂を取り戻そうとしているのだ。

 

「レーダー網も十分でないのに、この短時間で良くも見つけたものね」

 

 艦長である葛城の後ろに立つ副長赤木リツコ中佐が感嘆の声を漏らした。

 科学者としての癖を持つ赤木は、NORADの人間たちがどれ程の努力を行ったのか、理解出来たのだ。

 その思いを葛城も理解する。

 思いを背負い、そして前へと進むのだ。

 

「彼らは彼らの仕事をした。であれば我々も自分たちの仕事をしよう。副長! 全艦の最終確認を実施せよ」

 

「了解。各部、報告を命じます」

 

 赤木が全艦の各部に状況報告を命じる。

 副長席の情報端末は勿論、それは艦長席でも行える事であったが、各部の当事者たちからの報告も又、重要であるからだ。

 各部の管理者たちは各々、声を上げていく。

 それは、ある種の儀式でもあった。

 戦場へ向かう為の、乗員たちが心を束ねる為の儀式。

 

 最後に、副長である赤木が声を上げる。

 

「各部より報告、異常なし。艦長、AAAブンダーは全力発揮が可能よ」

 

「宜しい。ではAAAブンダー、発進せよ!!」

 

 

 

 悠然と宙に浮かんでいたAAAブンダーが船体を垂直に起こして真っすぐに宇宙へと駆けあがっていく。

 その様を、グローバルは敬礼をもって見送っていた。

 否、グローバルだけではない。

 ダイダロスの艦橋要員、或いはパリで作業中であった各人員。

 見上げれた者は誰もが敬礼をもって見送った。

 

 

 

 馬鹿げた推力が、信じがたい程に巨大なAAAブンダーと言う存在を宇宙へと真っすぐに突き進ませた。

 空へ空へ。

 先へ先へ。

 空力限界高度まで48秒で到達し、更に先へと駆けあがる。

 

「Pod-02との接触軌道に乗ります」

 

 巨大なAAAブンダーの舵を預かる長良スミレ大尉が、事前に計算されていた接近(ランデブー)軌道に船体を乗せた。

 後は推力を調整し、接近させていく作業になる。

 

「Pod-02の位置把握は?」

 

「予想位置との誤差、-0.3。カウント320。目視確認距離まで約30分で到達予定です」

 

 電測統括員(レーダー手)である北上ミドリ中尉が、常日頃の軽さの無い口調で報告する。

 流石に初めての宇宙航行と言う事に緊張の色が隠せなかったのだ。

 例えAAAブンダーが内部に慣性制御を行い、無重力を感じさせなくしているとしても。

 

 葛城は目を一瞬だけ赤木に向けた。

 以心伝心、艦内状況を確認して頷き返す。

 異常なし。

 初の宇宙航行に、AAAブンダーの各部に異常は出て居なかった。

 

「宜しい。では回収作業、準備を進め」

 

『整備、伊吹です。エヴァ01に問題はありません。回収作業支援艇の方が準備にもう少し時間が掛かりそうです』

 

 回収作業支援艇とは、本来の意味での宇宙船であった。

 SEELEが開発し、その本部施設に保管していた作業用宇宙機である。

 問題は14年ほど余り整備を受けることもなく放置されていた為、整備に時間が掛かっていた。

 特に、最優先が初号機向けのO装備が優先されていた為、作業に取り掛かるのが遅かったと言うのも大きいだろう。

 

「なら仕方がないわ。作業艇は予備に回して。エバー08をバックアップに」

 

『了解しました。作業を切り替えます』

 

「悪いけど最優先でお願い ―― 真希波大尉、覚悟は良いわね」

 

『エヴァンゲリオン8号機、準備に問題はナッシングなんで、何時でも大丈夫ニャ!』

 

 元気の良い声でサムズアップまでしてくる真希波に、葛城は小さく笑う。

 ブリッジにも少しだけ笑いが漂った。

 宇宙と言う事にやはり多くのクルーも緊張していたのだ。

 それを、意図せずにか崩した真希波に、内心で感謝をしつつ、葛城はシンジへの通信を繋いだ。

 

「覚悟は良いか?」

 

『01、何時でもどうぞ』

 

「そう、ならカウント600で回収作業開始を命じます」

 

 葛城の宣言を受けて、手早く北上が艦橋前面のモニターにカウンターを表示させる。

 600、10分のカウントダウンだ。

 

「総員、作業準備完了を急げ!」

 

 赤木が激を飛ばす。

 その横で葛城はマイクを掴んで小さな声で、シンジにだけ言葉を送る。

 

「いいわねシンジ君、必ず、取り返してきなさい」

 

『はい、ミサトさん』

 

 視線を合わせる事も無く行われたソレは、だが正しく()()()()()であった。

 

 

 

 

 

 ゆっくりと、慎重に宇宙を進むエヴァンゲリオン初号機O装備(OwU)

 そのエントリープラグに沈むシンジの目からも2号機が収められている封印体、特殊な立方体が見えてきた。

 十字架にも似て見えるが、少し違う。

 真っ赤な棺。

 シンジは逸る心を抑えつつ、相対速度を合わせていく。

 減速と加速とを繰り返し近づいていく。

 全長で50mを越えそうな、エヴァンゲリオンを封じる封印体。

 ゆっくりと初号機の手が触れた。

 

「アスカ………」

 

 その中に居るアスカがどうなっているのかなど、全く分からない。

 SEELEの資料を漁っても、機密度が高い為にか回収作業に出る迄には発見する事は出来なかった。

 だが死んではいない。

 居ない筈なのだ。

 シン化を遂げた2号機は、アスカのみを主と受け入れると言う。

 であれば、SEELEとしても儀式(人類補完計画)に使う為にアスカを殺す事は出来ない筈なのだ。

 全ては2号機を確保し、開けて見れば判る。

 そう自分に言い聞かせながらシンジは丁寧な作業で封印体に着地する。

 

「01、02への同調接触、完了」

 

 報告と共に息を一つ。

 確保の安堵を逃す。

 触る事が目的では無い。

 回収までが仕事なのだ。

 

 だが、それでも尚、一瞬とはいえ集中力は途切れてしまった。

 

-シンジ-

 

 声が、した。

 

「アスカ!?」

 

 慌てて周りを見るシンジ。

 と、エントリープラグ正面にアスカが居た。

 一糸まとわぬ姿で、笑っている。

 

「-シンジ-」

 

 耳朶を打つ懐かしい声。

 目が逸らせない。

 

「シンジ」

 

 手を伸ばしてくる。

 シンジもまた手を伸ばす。

 

「あ、アスカ……」

 

 その指先が触れ合おうとした瞬間、前髪から覗いた口元が愉悦の形に歪んだ。

 目が歪み、それは正しく狂相。

 それがシンジに正気を取り戻させた。

 

「違う! お前は違う!?」

 

「気づいたのは立派よ、だけど残念。もう遅いわおバカさん」

 

 エントリープラグのL.C.L濃度が一気に上がり、シンジは失神した。

 電源の落ちたエントリープラグから、アスカの姿を模したモノは光となって解けていった。

 

 

 

 

 

 順調に推移していた筈の2号機回収作業。

 だが、それは唐突に訪れる。

 

「しょ、初号機からの信号途絶!?」

 

 青葉が声を上げた。

 だが葛城がそれに対応する事を命じるよりも先に、AAAブンダーを衝撃が襲った。

 

「接触!? 艦下方からの強襲です!!!」

 

「なんですって!?」

 

 AAAブンダーを下方から襲ったのはNERVの宇宙強襲型エヴァンゲリオン、44δ(デルタ)型であった。

 下半身が巨大な推進器となっている、宇宙を泳ぐ人魚の様なエヴァンゲリオンだ。

 それが7機、亜空間 ―― 位相空間に潜んでいた所から一気にAAAブンダーへと襲い掛かっている。

 被弾による激震が船体を揺らす。

 ATフィールドが直撃を赦さぬが、衝撃は通るのだ。

 

 激しく揺れるブリッジにあって葛城は、艦長席の手すりに掴まりながら命令を発する。

 状況を把握するよりも先に迎撃の判断をするのが、この葛城と言う人間の真骨頂であった。

 迷う前に撃て、と言う性根であった。

 高級指揮官としては些か以上に問題があったが、事、この様な現場での指揮官としては滅法に向いているのだ。

 

「迎撃戦開始! 舵任せる。適時回避行動を実施せよ! 迎撃は各砲各個に実施! エバー08、出れるわね?」

 

 裂帛の気合が入った声が、激震からの混乱したブリッジクルーを沈めた。

 命令を受けた各人が慌ただしく、自分の仕事に取り掛かっていく。

 そしてAAAブンダー最後の切り札(カード)が葛城に応える。

 

『合点招致!!』

 

「良い、此方は良いわ。ブンダーはそう簡単に沈まない。それよりも2号機よ! アレをNERVに奪われる訳にはいかないわっ!!」

 

『およ、コレってNERV? お姫ちんの奴に付いてた奴の迎撃とかじゃなくて??』

 

「そこまでウチのクルーが間抜けな筈が無いわ。それに、奴らも2号機は欲しがってる筈。いい、エバー08は全力で2号機を確保して。他は気にしないで!!」

 

『イエッサー♪ ほらほら、8号機、出ちゃうぜー!!』

 

 

 

 

 

 葛城の推測は正鵠を射ていた。

 44δが襲撃を開始するのと前後して、一隻のNHGが位相空間から姿を現す。

 NHG GəléːɡənhaItだ。

 NHG第2シリーズでも戦闘用の本艦であるが、今回の主目的は戦闘では無かった。

 艦首部に大型の鹵獲ユニットを取り付けている。

 初号機と2号機が目的であった。

 

「初号機、完全に沈黙! パイロットの意識途絶も確認!!」

 

「宜しい、では鹵獲だ。急ぎたまえよ。あちらにはまだ8号機が居る。宇宙用のδ機とは言え長期戦ともなれば難しかろう」

 

 常に前線に立つことを好むNERVのナンバー2たる冬月コウゾウは、この世界初の宇宙戦闘を楽しんでいた。

 艦首部の鹵獲ユニット ―― 4本のアームが1つとなっている初号機と封印体(2号機)とを掴まえた。

 艦首部で咥え込む様に固定する。

 

「鹵獲完了です!」

 

 だがAAAブンダーの動きも決して遅くは無かった。

 

「NHG Bußeよりエヴァンゲリオン8号機の出撃を確認、44δと交戦せず、此方へ一直線です」

 

 AAAブンダーから飛び出した8号機は一直線にNHG GəléːɡənhaItへと向かってくる。

 推進器が盛大に光を引くさまは流星の如き美しさがあった。

 

「砲戦距離まで42秒! 来ます!!」

 

「はははははは、葛城君は本当に思いっきりが良い。そして()もだ」

 

 状況を見抜く戦略眼があると褒める冬月。

 だが、と嗤う。

 

「だが、今回は我々の勝ちだな。艦長、後退したまえ。44δにも撤退命令を出したまえ」

 

「はっ! 全艦、位相空間への降下始めっ!!」

 

 ゆっくりと位相空間へと沈みだすNHG GəléːɡənhaIt。

 それを阻止せんとばかりに8号機が発砲するが、命中する事は無い。

 

「葛城君、マリ君。また、会おう」

 

 

 

 

 

 




2021.10.04 微調整実施

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。