仮面を脱ぎ捨てて   作:どうして

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対戦よろしくおねがいします


プロローグ~入学編(ふたりでひとり編)
ウィルペルソナというウマ娘


「ね、お告げが来たのよ」

 

 

 穏やかな笑みを浮かべながら、誇らしげに自身の旦那にそう言ったのは、お産が終わってから1日明けてからだった。

 へえ、例の三女神様の?と返すと、ゆっくりと頷き、視線を自身が抱えている赤ん坊に向ける。

 必死に気張っていた母親も、必死に祈っていた父親も、そしてお産を助けた病院関係者も、まずは無事に胎児が産声を上げたことに満足していたし、その関心が生まれた赤ん坊に向けられるのは至極当然のことだった。

 

 その関心の中の一つ……名前をどうするのか、ということに対しての回答が上記のセリフというわけだが、このようなやりとりは数自体は少ないが決して珍しいことではないありふれたものである。

 

 

ウマ娘。

 

 

 獣耳に尻尾が直に生えているヒト……と言えば説明はできようが、ヒトと違うところも多くある。

 

 

ヒトより何倍も強く。

 

 

ヒトより何倍も速く。

 

 

そして、ヒトより何倍もヒトを慈しむ。

 

 

 闘争本能ならぬ闘走本能を秘めていることもさることながら、ヒトとの繋がりによってよりその力を増すことも特筆すべきことだろう。

 そのヒトとの繋がりについて最も多く具体例として用いられるのは、隆盛を誇っているウマ娘が走る国民的スポーツ……俗に言うトゥインクルシリーズ等と呼ばれるレース群である。

 件の夫婦も、出会いはトゥインクルシリーズと関係のあるとある学園の生徒と、そのトレーナーという関係だった(女房側が強かに外堀を埋め、降参したように旦那からプロポーズしたらしい)が、ある程度の成績を残して引退し、今は遠く日本は北海道の地でのんびりと余生?を過ごしていた。

 

 最も、「ある程度の成績」と言ってもウマ娘全体の中では抜きん出た成績を出しているが。

 

 

――今でもたまに、思い出す。ターフの上に立ったときの高揚感を。客席から湧き上がらんばかりに聞こえる歓声を。最初にゴール板の前を駆け抜けたときの達成感を。ウイニングライブでセンターを飾ったときの誇らしさを。

 

 未練はない。ある程度自身の実力に見切りをつけて、地に足ついた幸せを求めた結果が今だ。けれど、一生忘れることはないだろう。

 

 

 願わくば、ウマ娘として生を受けたこの娘にも、あの気持ちは味わってもらいたいが……それはおいおい本人が決めることだ。

 そう思い、母は続きを催促してくる旦那に意識を戻した。

 

 

 ウマ娘の名前は、いわゆる「三女神様のお告げ」によって決められる。

 大体母側にインスピレーションが湧くという形でお告げは来るのだが、件の母親のように生まれてすぐに「降ってくる」こともあれば、妊娠中に降ってくることもあるし、生まれてから数週間経ったあとに名付けることも珍しくない。

 極端な例であれば、「妊娠を認知した瞬間に」降ってくる事例もある。その時点で、生まれてくる子の名前が決まるのだ。

 ヒトとしてはなかなか納得できかねる感性であることには間違いないのだが、ウマ娘にとっては名付ける側にとっても名付けられる側にとってもそれが当たり前のことで、出生後お告げが来るまで出生届が猶予される制度もウマ娘限定で制度化されているほどである。

 

 なにはともあれ、この子の名前は降ってきた。夫に伝えれば諸々の手続きを済ませてくれることだろう。あれ、出生届って本人連れて行かなきゃいけないんだっけ……思考の海に潜りそうになったのを押し留め、抱えた娘にもはっきり聞こえるように、ゆっくり、通る声で名前を呼んだ。

 

 

 

「――ウィルペルソナ。この子の名前は、ウィルペルソナよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

【悲報】異世界転生して生まれかわったのはいいけど体は動かせない【助けて】

 

 

 

 えぇ……なんじゃこりゃ。

 いくら二束三文で売り飛ばされることに定評のある異世界転生者でもやっていいことと悪いことがあるでしょ。

 

 超絶ざっくり言うのなら、今の俺は「転生先の意識の片隅に陣取っている意識の一部」だ。

 宿主(こういう呼び方をすると自分が寄生虫みたいで嫌になるが)のウィルペルソナちゃんとやらが眠くなれば意識は飛ぶし、ウィルペルソナちゃんのお腹が空けば俺もお腹がすくし、ウィルペルソナちゃんが考えていることは俺にも共有される。

 

 が、ウィルペルソナちゃん……もうめんどくさいからお父様お母様から呼ばれている愛称のペルちゃんと呼ぼう。ペルちゃんに俺の考えは届かないし、俺が声を大にしてもペルちゃんの行動には何ら寄与しない。体はこちらの意思では動かせないし、転生前の知識を活かせば全問正解できる小学生のテストでも口出しして答えを伝えることができない。

 

 お父様とお母様がめちゃんこいい人なので見ていれば癒やされるのだが……やはり不自由さと言うか、やりたいことができないもどかしさがずっと自分の中で燻っている。

 巨大ロボの、操縦桿がないコックピットに乗っているようなものだ。しかも出られない。いやなんで?????出して?????

 

 あ、重ねて伝えておくが、お父様とお母様は非常にいい方である。この試される大地でのびのびと育ててくれて、またペルちゃんを愛してくれてありがとうございます。ペルちゃんが幸せを感じるとこっちも幸せな感情が共有されるからね。しかたないね。

 

 

 しかし、異世界転生である。しかも、ウマ娘がいる世界に。

 前提として、俺は競馬の知識はない。前世の馬の名前も、アプリやアニメで見た程度の知識しかない。けれどせっかくウマ娘の世界に、しかもウマ娘として生まれたのであれば、トレセン学園とやらに入学して、アニメに登場するキャラと交流してみたいなあなんて思ってみたりもするのだ。

 

 自分自身、前世では陸上を嗜んでいたし。

 ウマ娘は時速60kmで走れたり、「ヒトが走るウマ娘の前に飛び出すのは、車道に飛び出すのと同じ」と言われてたこともあったりするしで、人間とどれくらい速さに違いがあるのか試してみたい気持ちもあるのだ。

 

 

 ま、体動かせないんですけどね。

 

 いやなんで?????自由に動きたいんだが?????ここから出して?????転生した意味なくない?????

 

 

 そして、このペルちゃんなんだが……心の内で彼女が思っていることをすべて理解できる俺だからこそ言えるが、超絶めんどくさい子である。

 

めんどくさい子である。

 

 

 小学生の女の子をすべて理解できるとか変態か???という非難はさておき。もともと自己主張は少なめな性格で、特に同じクラスの男の子から声をかけられると「ひゅいっ!?」と跳ねて5mは距離を取る程度にはシャイガールなペルちゃん。

 同世代の中では体躯が小さいこともあり、その小動物的な言動挙動も相まって、クラスの愛されキャラとしての地位を本人の希望によらず確立している。やさしいせかい。

 

 それだけならいい。まだ引っ込み思案な性格ということで説明がつく。引っ込み思案とはまた違うが、自罰的な性格だったライスシャワーという例もあったことだし(あの子は前向きではあったが)。問題は、走りに対する姿勢だ。

 

 ウマ娘は、本能的に人間よりもより強く勝利を求めるのが人間との大きな違いとして挙げられるらしいのだが、この子もその本能の例に漏れず、「レースを走るなら一番を取りたい」と考えている。

 しかし、ここからが詭弁者も驚きの三段論法。

 

 

走るからには勝ちたい

 

でも自分がどれだけ努力しても勝てないのはわかってる

 

だからみんなとは走らない(でも一人で走るのは好き)

 

 

 と不退転の決意を固めているのである。グラスもびっくり。

 そう。このウマ娘、「自分が走って結果が出ることを信じていない」のではなく、「自分が走っても結果が出ないことを信じている」のであって、ウマ娘が生来持っている「勝ちたい、負けたくない」という欲求を、「自分が走っても勝てるわけがない、一番になれないのならレースで走りたくない」という理性(?)によって抑え込んでいるのだ。

 

 いやそうじゃなくない????アニメで見せてたウマ娘たちのスポ根どこいったん????

 

 まあそんなわけで、どこがどう巡ってそうなったのか、ネガティブ方向に吹っ切れた気性難に育ったペルちゃんは、クラスメイトの前ではほとんど走る姿を見せないまますくすくと育ったわけであります。

 

 上でも言ったが、走ること自体はめっちゃ好きらしい。一人でめっちゃランニングとかしてる(他人事)。あくまで嫌いなのは「一番になれないレースとしての走り」なのだ。めんどくせえ。女心か?女心だったわ……。

 走る姿を見せてくれないことにお母様は非常にヤキモキしていらっしゃるが、お父様に宥められて好きに走らせてもらっているようである。

 

 

 しかし、そんなペルちゃんにも年貢の納め時が目前まで迫っていた。

 学年全体が紅組白組に分かれて競技を行い、勝ち負けを競う小学校の一大行事……運動会。

 

 6年生のペルちゃんは、なんとその運動会の花形である「ウマ娘走」の走者として選ばれてしまったのである。

 いわゆる本格化と呼ばれる、ウマ娘として走ることへの才能の開花がまだとはいえ、ウマ娘と人間では走る速さに大きな違いがあるため、学校内のウマ娘は別枠で徒競走に参加する、という学校の配慮の結果生まれたそれ。学校中でも数人程度しかウマ娘はいないため、自然ペルちゃんにも白羽の矢が立った。

 顔面蒼白になってやだやだと心の中ではごねていたが、Noと言えない性格なのが運の尽き。あれよあれよと出走登録させられ、もうまもなく選手入場のときなのだ。

 

 この話をお聞きになった母上が大層お喜びになって、今日の勇姿を記録するためにお父様のお小遣いを削って高いビデオカメラを購入したのは余談と言うには悲しすぎるかもしれない。お父様の財布にとって。

 入場前なのにめちゃくちゃ応援してくるお母様の声をBGMに、ため息をつくとかそういうレベルじゃなく絶不調なペルちゃんの心境を真正面から受け止める。

 

 

 勝てるわけがない。

 

 

 走りたくない。

 

 

 逃げたい。

 

 

 ネガティブな感情が俺の心を支配するがそれはそれ。

 嫌なら体調不良でも訴えて棄権すればいいのにと思わなくもないが、どれだけ俺があがいても、ペルちゃんの行動になんら影響を及ぼすことはない。

 

 まあ、うだうだ言っても仕方ないことだし。どうなるか高みの見物と洒落込むとしよう。

 

 

 ……いや、この場合内身の見物というべきだろうか?

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