仮面を脱ぎ捨てて 作:どうして
「うーむ……」
ときはウィルペルソナの本音を聞いたときからしばらく後。
場所は主にウマ娘たちが利用するカフェテリアの一角。
食事時やティータイム時でなければしれっとトレーナーが使っていても何も言われないので、コーヒーを啜って考え事をしたいときにちょこちょこ利用しているのだった。
トレーナーが一同に介する職員室的なものはあるし、チームが発足されればそのチーム用の部室も与えられるのだが、案外チーム外のウマ娘と交流することで生まれるインスピレーションもある。
こう、「その時、ふと閃いた!」みたいな。わかるだろう?わかれ。(威圧)
まあ閑話はさておき。ここで考えているのは当然彼女のこと。
きっかけは、ウィルペルソナ本人が向こうから話しかけてきたことだった。
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「あ、いた。トレーナーさんやーい」
正直に言うと、どう手をつけたものか悩む。
彼女の本音を引き出すことは出来た。
彼女の求めているものもわかった。
けれどそれだけだ。状況は話をする前となんら変わっていない。むしろ悪くなったと言える。
なぜ詰めるような口調で彼女の導火線に火をつけてしまったのだろう。
ネガティブな方面でクセのあるウマ娘である、という前情報がある以上、激発させるようなことを言うべきではなかった。
あの時確かに、彼女は怒っていた。好感度は下限いっぱいに下がっただろうことは想像に難くない。ウマ娘とヒトとで膂力に差はあれど、こと精神面における繊細さについては同世代の人間とさほど変わらない。
思春期を迎えた彼女たちが一筋縄ではいかないことは、わかっていたはずなのに。
「もしもーし? トレーナーさーん???」
けれど、一度スカウトに失敗したからと言って諦めるわけにはいかない。そもそも、この前はスカウトのスの字も出していないのである。
一度も挑戦せずに諦めることは、したくない。
敗れても、敗れても、俺達は絶対に首を下げずに歩いてきたのだから。
「とは言ってもなあ……」
「なんで????? 返事して?????」
……言うまでもないことだが、トレセン学園にはトレーナーも多く所属している。
いちいち聞き慣れない声のウマ娘がトレーナーと呼ぶ声に反応していてはきりがないときだってある。だいたいそういう時はチーム名+トレーナーとか、普通に名前で呼んだりとかするのだが。
それとなく周辺を見回すと、辺りには誰もいない。少なくともトレーナーは。これはやっぱ俺が呼ばれてるのか。
「はい、どなた……って!?」
「私ウィルペルソナ。今あなたの目の前にいるの」
「いや知ってるが……どうした急に」
このノリは間違いない。
というか、どうしてここに?
「いやね、ゴルシ……ゴールドシップさんに驚かされちゃって。気絶しちゃったんですよね―」
ズダ袋もって追い回されたらそりゃ怖くて気絶くらいしますわ。まあ逃げてきたんですけどね、辛うじて、とからから笑いながら、「で、私もたまたまトレーナーに用事があったもんで、これ幸いと探してたわけですよ」と続ける。
ウィルペルソナが、俺に?一体何の用だろう。
そう聞くと、さっきまでおちゃらけていたウィルペルソナがふと柔らかい笑みを浮かべたかと思うと。
「2つほど、お伝えしたいことが」
「……なんだ?」
「1つめは、”ありがとう”ですね」
え? と思わず声が漏れた。
レースの後、裏のウィルペルソナと話して以降彼女と話した内容といえば、先日表のウィルペルソナを激発させたことくらいだ。
責められるようなことこそすれ、お礼を言われるようなことは何も……
「あの子の本音、聞いてくれたじゃないですか。それですよ。そ・れ」
「……あの負けるくらいなら走りたくない、っていうのか? でも、それは……」
「初めてなんですよ。あの子が他人にそれ言うの」
そして、友達にも先生にも、親にだって言ったことはなかったんです、とも。
掘り下げて聞いてみれば、走りたくない、とは度々、というかしょっちゅう口にしてはいたが、それでも決してその理由を口にすることはなかったという。
「自分が走れば負けるから、と言うことで周りにどう思われるかがわからなかったんでしょうねー」とうまぴょい伝説の”でも痩せたーい”顔でおちゃらけるのを尻目に、前々から裏の彼女に聞きたかったことを聞いてみる。
彼女の走りに対する姿勢についてだ。
「勝ち負けはどうでもいい」という姿勢はわかる。走るのが楽しいから、周りのみんなも足が速いここに入学する、という娘は、実は少なくない。有名どころだとチーム・リギルのマルゼンスキーあたりはその筆頭だ。
ウィルペルソナもそうだというのなら、それでも良いと思う。ただ、それはあくまで裏の彼女の意見だ。
表の彼女は、そもそも……。
「そもそも論さ、なんで君らここに入学したんだ? 君はともかく、もうひとりの君みたいなレースに出たくない娘が入るには、この学校ちょっと熱血すぎると思うんだけど……」
「あー。それですねー。親に無理やり放り込まれたんですよー」
「!?」
「聞いてくれます? まあ経緯はいろいろあるんですが、ひょんなことからトレセン学園に来ない形の入学試験を受験することになりましてね。受かっちゃったんですよ」
「受かっちゃった」
「そう。本人のあずかり知らぬところで」
「あずかり知らぬところで」
絶句した。
間違いない。この娘のお母さん、だいぶ破天荒だ……!
「まあ物見遊山がてら入ってみたら? ってそそのかしたのはそうですが、なんだかんだこっちに来るのを相棒は渋々選びましてね ?断りきれずに押し切られちゃう形で試される大地からはるばる来ちゃったんですよー。
……まあそれは置いといて。ともあれ、相棒の本音を聞いてくれて、安易に否定しないでくれてありがとうってのが一つ。もう一つの方、言っていいです?」
若干引き気味になりながらうなずく。よくグレなかったものだ。グレなかったのか、グレることが出来なかったのか。現時点で確実に言えるのは、彼女のメンタルケアにはこの「なるようになる」と考えているもうひとりの彼女の存在が必要不可欠だ、ということだけで。
こちらが動揺しているのを見越してか、少し苦笑いした後、「結論から言うと」を枕詞にウィルペルソナが話し出す。
「もう一つの伝えたいことってのは、私はチーム・シェアトに所属することを、心のなかではすでに決めている……ってことです」
「…………!」
右手を手に当て、穏やかな宣誓をこちらに告げてくる。
じゃあ、さっそく入部の手続きを……!と一歩前に出ると、慌てて三歩下がって捲し立ててきた。
「ああっと待った! 違う違う!ちーがーいーまーすー! あくまでこれは”
「え、じゃあ」
慌てて左手を突き出してぶんぶん振りながら否定されて立ち止まり、その意味について察する。
表の君には、この話はしていない?
「そ、チーム・シェアトに入るなんて話はしてないです。そもそもチームに入る気があるのかも、レースに出たいのかもわからない。二人きりの時そんな話しないですし」
「……理由は?聞いていいやつか?」
「私がチーム・シェアトに入りたい理由でいいです? ……ん、そうね。そうするのが一番相棒の為になると思ったからですかねー」
明後日の方向を見てそう呟く。”彼女のため”という裏の彼女の行動方針は理解できるが、それが表の彼女に伝わっていないというのはどうも解せない。
そう伝えてみると……
「あー、そうなりますよねー。まあほらこういう選択って、誰かに言われたから、とか誰かにおすすめされたから、とか、第三者からとやかく干渉されて流されつつ選ぶと、あとにしこりが残ると思うんですよ」
だから、とこちらの目を見つめてくる。
レースに出るウマ娘の目だ。こちらが見透かされているような感覚に陥り、思わず身じろぐ。
「言わせてほしいんですよね、相棒に。「チーム・シェアトに入らせてください」って。そりゃあ俺も援護射撃はしますけど、あなたの口で、あなたの言葉で勧誘してほしいんですよね。他ならぬ彼女のために」
「……それはそのつもりなんだけど、難しいと思うんだが」
「え、なんで?」
この前怒らせちゃったし……と言うと、あーなるほどそゆこと、心配ないですよ、と呵々大笑。
「人に怒鳴っちゃった!どうしよう!先生に報告されて、生徒指導室に呼ばれて、生徒会長にお説教されて、反省文書かされて、寮のお掃除までさせられちゃうんだ!その前に謝らなきゃ……!って思ってるから、話しかけたら話は聞いてくれると思いますよー」とすまし顔で彼女の心の中をあけっぴろげに晒してしまっている彼女の言葉に苦笑いを返しながら。
しかし被害妄想がいやに具体的だな。根っからのネガティブシンキングらしい。
……ではなくて、裏の彼女の提案についてだ。実際問題、彼女からスカウトのサポートが有るのはとても魅力的だ。しかし、非常に難易度が高い。
レースに出たら負けるから出たくない、と断言する、チームに入りたいのかも、そもそもレースに出たいのかもわからない彼女を如何にして説得するか。
分が悪いかけなのは承知の上だ。その上で――
「その提案、乗った!」
「グッド!その返事が聞きたかったッ!」
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とまあ、「んじゃあまあ、多分もうほかのトレーナーからは声かけられないと思うんでゆるゆるやってくださいな」と去っていったウィルペルソナを見送って、諸々考え行き詰まって今ここに至る。
さて、どうしたものだろう?
前ページまでの過分の評価大変恐縮です。
変に有名になるのもあれなんで、とりあえずランキングに乗らないようにしてみました。
モンハンと地球防衛軍とFE風花雪月と聖剣伝説3リメイクとポケモンユナイトとウマと信長の野望烈風伝と信長の野望天下創世を並行してやってたので時間取れませんでした。ごめんち
プクリン許さねえからなあお前よお(アロキュウ使い並み感)