仮面を脱ぎ捨てて   作:どうして

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対戦よろしくお願いします


6話.無手勝流

「どうですか? 彼女は」

 

 

 今日のトレーニングも終わり、キングたちに片づけと着替えを指示してこちらも練習内容を総括していると、たづなさんから声をかけられた。

 たづなさんが指す彼女とは、間違いなくウィルペルソナのことだ。もともとこの人から推されたから俺もウィルに目をつけたのだし。

 

 もうひとりの彼女のアシストもあってのことか、表の彼女とのコミュニケーションは滞りなくできる程度に距離は近づいた気がする。

 物理的な距離はまだまだ遠い。だいたい2バ身くらいだ。長テーブル2台分と考えるとイメージしやすいだろうが、もともとウィルは声が小さいため聞き取りづらい部分もままある。

 

 その点、あんな出会いをしたキングは置いておいて、こちらとの距離感も短いバクシンオーや、距離の詰め方がとんでもないカレン、距離という概念をおそらく知らないカワカミとはタイプというかベクトルが正反対である。やりづらいというか、ギャップに感じることはある。

 

 とはいえ、新生チーム・シェアトの運営はうまくいっている……ように思える。キングはもともと面倒見はいいし、カレンもとんでもなく気が利く。バクシンオーやカワカミは無意識にムードメーカーになってくれるし、チーム用の部屋ではいつも笑顔が絶えない。

 

 ……キングは常にカワカミに何かしら怒っているが。まあ結構お気軽に物壊しますし。俺も始末書書きますし。

 

 

 まあそれはそれとして、彼女を推してくれたたづなさんに隠すことはなにもない。そうですね、と一拍置いて、彼女の能力を端的に言葉にしてみる。

 

 

「もともとポテンシャルは同期の中でも高かったんですが……特に頭一つ抜けているのはパワーですね」

 

「パワー、ですか?」

 

「加速力がすさまじいですね。スパートをかける一歩目なんて、本当にそのまま空に飛んでいくかってくらい力強いですから。ただ……」

 

 

 併せウマでなければ表のウィルも普通にトレーニングには参加できるため、筋トレだったりプールだったりコサックダンスだったりは参加してもらえているが、どれもそれなりにこなしている。

 が、やはり本領を見せるのはターフに立ったときだ。タイム計測のため一人で周回させたり、200mを全力で走らせたり、より適性のある走り方を模索するために色々試しているのだが。

 

 やはり特筆すべきは瞬発力だろう。あんな小さい体のどこにそんなパワーが含まれているのか聞きたいくらいだが、理屈はどうあれ彼女の切れ味は強力な武器になることは疑いようがない。

 

 懸念点は、別にあるのだ。

 

 

「ただ、なんでしょう?」

 

()()から聞いた話なんですがね。レース中に隣を走られるのが嫌なんだそうです。競られるのが苦手だそうで」

 

 

 ひょっとしたら噂程度には広がっているのかもしれないが、彼女が二重人格で、ウィルの弱点を詳らかにしたのがもうひとりの彼女であることは黙っておく。たづなさんに隠し事はなしといった直後に手のひらをひっくり返すのはあれだが、これは本人の問題だからなあ。

 言い方もある程度ぼかして伝えたが、もうひとりの彼女からのウィルペルソナ評は以下の通りだ。

 

 

『薄々察してるとは思いますがね。(この娘)、競り合いになるのが極端に怖がるみたいで。理由はいずれ本人から聞いてほしいんですが……まあひとまずそれは置いておきましょう。

 

結論から言えば、(この娘)にレース中のやり合いは無理です。先行して逃げウマ娘にプレッシャーをかける、差しウマ娘として好位を追走して4角からまくる、内外を巡って他のウマ娘と駆け引きをこなす……どれも厳しいでしょう。

 

自然、採る脚質は限られる。逃げか、追込か。幸い(この娘)はゲートは苦手ではないようなので、逃げもありっちゃあありかと。私の身体ならスタートから足を使えばハナを切るのは易いでしょうし。かといって切れ味があるのが強みでもあるのだから追込の線も捨てがたい。

 

……優柔不断はよくないですが、相棒が最も勝てる道筋に至る可能性、ギリギリまで追っていただきたい。

 

え、私が模擬レースで追込した理由? んー、なんか楽しそうだったから、ですかね?』

 

 

 自分のことはよくわかる、とはよく言ったもので、理論立てて自己分析し、こちらに情報を提供してくれる彼女には頭が下がる思いだ。サブトレーナーが一人ついてるのかと錯覚することさえある。

 ウマ娘自体のことや、トゥインクルシリーズに対してさして造詣が深くないのが不思議なくらいなのだが、それはさておき。

 

 

「まあ、それならそれでやりようはありますから。あの娘がレースで勝てるよう、やってみせましょう」

 

「はい。よろしくお願いしますね」

 

「あ、せっかくなんでずっと聞きたかったことがあるんですが……」

 

 

 なんでしょう?と首をかしげるたづなさんに、彼女を紹介してもらって以来の疑問をぶつけてみる。

 新米トレーナーとしてキングと3年間を駆け抜けた際、朝帰りになるほどウマ娘について語り尽くして以来の付き合いだったが、たづなさんが特定のウマ娘を強く推す、なんてことは聞いたことがなかった。

 

 キングについて相談したことはあってもそれはトレーナーとして契約を結んだあとであったし、スカウトする前は「自分で声をかけてスカウトしてくださいね」というスタンスは一貫していた。

 

 それが、何故彼女は例外となり得たのか。

 

 尋ねてみると、そうですね……と更衣室の方を見遣って頬に手を当て思案に耽る。感覚的なものだったのだろうか、言語化するのに少し時間を要するようだ。

 ややあって、こう返答があった。

 

 

「走りに惚れた、というのもそうなんですが……あの娘は、普通のウマ娘と違う。そんな気がしたからですかね?」

 

 

 ふふ、と意味深な笑みを残して、たづなさんは練習場を後にした。

 ……ひょっとしてたづなさん知ってたりするんだろうか。ウィルの秘密のこと。

 

 

 

 

 

 

 

「トレーナーさんっ」

 

 

 着替えが終わったのだろうか。総括の続きをしていると、ウィルが声をかけてきた。

 この気安さは間違いなく裏の彼女だろう。が、併走は今日はしなかったし、入れ替わるようなトラブルはなかったはずだ。

 トラブルがあった、というには彼女は落ち着いているし……。とりあえず入れ替わっている理由を聞いてみることにした。

 

 

「どうしたウィル? っていうかなんで入れ替わってるんだ?」

 

「いやー、それがですね。まま、とりあえずついてきてくださいよ。行きすがら話でもしましょう」

 

 

 背中をぐいぐいと押され、更衣室へと強引に連れて行かれることとなった。……何か嫌な予感がするのだが、まあいい。

 

 

「もうすぐカワカミさんのメイクデビューですねえ。どうです?勝てそうですか?」

 

「お前だから言うが……正直、トータルで見た実力はメンバー内で伯仲しているな。ポテンシャル自体はカワカミがトップクラスなんだが、レースにまだ慣れてない」

 

 

 みたいですねえ、といつの間にか俺の隣に陣取って両手を後ろに組んで歩くウィルを流し見、カワカミの方に思考を向ける。

 ゲート難、仕掛けどころの間違い、他のウマ娘との駆け引きの苦手。差しウマ娘のカワカミにとって、前者はかろうじて許容範囲内ではあるものの、後ろ2つはなかなか致命的だ。

 

 ”お姫様”を目指す彼女にとって目標はトリプルティアラからのエリザベス女王杯となるだろうが、出せるならジュニア級のうちに朝日杯FSも挑戦してみたい気持ちはあった。

 間に合うように仕上げるつもりではあるが、それなりにハードルは高い。

 

 

「レース直前までにウィルとも併走はしてもらうぞ。お互いのためにもな」

 

「オr……私でよければ。入部して早々やることになるかと思いましたけど、結局流れちゃいましたからねえ」

 

 

 そう言えば初練習のとき、カワカミと併走を指示した途端目を回したんだったか。

 入れ替わるまではいかなくとも、ウィルにはウィルの課題がある。秋までになんとか仕上げられればいいんだが。

 

 特にあがり症についてはカワカミ以上に懸案事項だ。「いざとなれば私が」ともうひとりの彼女は言ってはいるが、「最終的には一人で走れるようになってもらうし、してもらう。そのためにスカウトしてもらったんですからね?」とも念押しされているのだ。

 

 ただ、こればっかりは現にレースを経験してもらって、あの独特の空気に慣れてもらうしかない。

 

 そう話すと、「まあそうなりますよねえ。すいませんねうちの癖ウマが」と首をすくめてみせた。

 トゥインクルシリーズの3年間。決して長くはないが、決して短くもない。特にウィルの場合はデビューが遅れるため、ジュニア級として出走する期間は相当短くなるだろう。

 

 自分を押し付けるという戦法を採るにしても限度はある。せめて併走はできるようになってもらわないとなあ……

 

 

 

 

「あ、そう言えばわざわざトレーナーさんを呼びに来た用件なんですけどね?」

 

 

 

 

 騒ぎ声が聞こえてくる。主にキングの叱責の声とカワカミの絶叫だ。

 

 猛烈に嫌な予感がする。帰りたくなってきた。

 

 

「ちょーっとこう、カワカミさんがハッスルしちゃいまして」

 

 

 ウィルがドアを開ける。いつの間にか服の裾を掴まれており、「逃げ牽制」をかまされていた。

 君のレース勘をこんなとこで活かさなくていいから(良心)

 

 ドアを開いた先には……

 

 

「ぎょわーーーーーん! 重ね重ね申し訳ないですわっーーーー!!」

 

「あのねぇ……! わかったから声のボリュームを落としなさい。悪いことをしたのなら粛々と謝罪するのも一流への一歩なのよ!?」

 

 

「ロッカーをこう……ドアがこう……ね? ひしゃげちゃったみたいで。相棒も音にびっくりして気絶しちゃいまして。始末書一件、追加願いたいんです」

 

 

 ……俺の給料が尽きる前に、ウィルたちは勝利できるんだろうか。

 レースの内容よりも先に自分の財布が気になる一日となってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ウィルちゃんおかえりー」

 

「カワイイカレンチャン!!!!!!!!サインください!!!!!!!!!」




対戦ありがとうございました
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