仮面を脱ぎ捨てて 作:どうして
『残り200を切って先頭は5番カワカミプリンセス!
気持ちよく逃げているが後ろから2番メイショウアンダー迫る!
これは叩き合いだ!カワカミプリンセス!メイショウアンダー!カワカミプリンセス!
カワカミプリンセスだ!カワカミプリンセス逃げ切ってゴールイン!
序盤はかかってしまったかに見えたカワカミプリンセス、きっちり逃げ切り勝利を掴みました!』
「よ、よかったあ……」
「ねー。スタート早々ハナ切ったのはびっくりしたかも」
「まずはおめでとう、だけれど。危なっかしいったらないわ。トレーナーにも指導するようきっちり言っておかないと……」
外でバクシーンと叫びながら練習の準備を進めるバクシンオーをBGMに(前もって言っておくが、準備は当番制である。断じて先輩をこき使っているわけではない)、同期のカワカミプリンセスのメイクデビューをテレビ中継で見ているところだ。
最後の直線よーいどん!が得意なカワカミにしては珍しく、序盤からどんどん前に出て、結果的に逃げ切り勝ちをしてしまった珍しい運びのレースになった。
勝ちは勝ちだが、キングの目には苦々しさが浮かんでいる。「カワカミさんの実力はそんなものではないでしょう」と言わんばかりだ。ほんまキング勝手に株上がるのそういうとこやぞ(半ギレ)
なお、キングは安田記念を外から撫で切って快勝。この世界のキングはシニア級天皇賞・秋は入着止まりだったようで、G1を制覇した距離はこれで短距離・マイルとなった。下期は天皇賞・秋のリベンジをするそう。
季節は初夏。場所によっては海開きもしているのだろうが、俺たちがいるのは毎年トレセン学園が夏合宿で利用する施設である。
ロッジ等もあるが、ウマ娘たちが極力練習(と夏休みの宿題)以外にリソースを割かないようご飯とかもろもろも全部やってくれる旅館みたいなところが宿泊施設だ。
カワカミのメイクデビュー……いわゆる新バ戦がギリギリ夏にもつれ込んだことから、チーム・シェアトの夏合宿組はキング先導のもとトレーナーに先んじて合宿を開始。
予め預かった最低限のメニューをこなしながらトレーナーを待ち、トレーナーが来次第本格的な合宿を開始するとのこと。
カワカミは合宿に参加しないことから、彼女の面倒も見るために度々トレセン学園と往復しなければならない日々か続くトレーナーはつくづく社畜だなあと思い知らされる。
カワイイカレンチャンに「カワカミちゃんの面倒見なきゃだからいっぱい往復しなきゃだね、お兄ちゃん?」と言われてたときは顔がひきつってたもんなあ。部室の壁破壊事件、嫌な出来事だったね……。メンタル的にも財布的にも。
「いいこと、ウィルさん。レース中であっても自分の得意なことを見失わないこと、どんなときでも自分の強さを発揮できるメンタルを持つこと。これも一流になるために必要な条件よ」
チームリーダーのキングからは、持ち前の面倒見の良さからよく教示をいただいている。
おっかなびっくり聞いてはいるけどあんまり身にはなってない気がするんだよなあ。ペルちゃん、どっちかっていうと「自分の走りで届けば勝ち、届かなければ負け」なレースするところあるし。
なお、俺が入れ替わってカワカミとした並走では今のところ全戦全勝である。
めちゃくちゃレース中に周り気にしちゃうんだものあの娘。レース前、レース中、スパートかける前、適当なところでちょっかいかけるとすぐにかかるか出遅れちゃうから、向こうが全力を出し切る前にレースが終わってしまう。
いやまあ、このままじゃいけないんだけどさあ。ペルちゃんにも走ってもらわなきゃだけどさあ。走るの楽しいしさあ。
などと考えていると、遠くでバクシンオーの声が聞こえてきた。どうやらトレーニング器具の準備が終わったらしい。ここからでも見えるバカでかいタイヤが見える。あれ誰が牽くんだろう。確実に見上げる大きさじゃん。正気か????
「……さあ。カワカミさんにメッセージも送ったことだし。私たちも始めましょう」
「はーい」
「は、はいっ」
さて、レース度胸の身につけ方はトレーナーさんと相談するよりない。身体の使い方はペルちゃんのほうが上手いけど、この娘の強みを発揮する方法はレースの数をこなしてる分こちらのほうが知っている。夏の間にそこを重点的に特訓や!
(が、頑張ろうね! もうひとりの私!)
(おう! カワカミと並走できるようになろうな!)
(…………)
無視すんなや!なんや自分最近ふてこくなってないか!?(関西弁並感)
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(よう、相棒。今日はレッスン2だ。”3歩を意識しろ”。
相棒の一番の強みは切れ味のある足、それを支える瞬発力だ。誇張抜きで3歩あればトップスピードに乗れる。夏休みの間にその走り方をマスターするぞ)
ストレッチ、アップのランニング、常識の範囲内で筋トレ。そのあとは各自のトレーニングへ。
キングさんはタイヤ牽きへ、バクシンオーさんは他のチーム合同のクイズ大会へ、カレンさんはキングさんのタイヤ牽きの監督。
私はひたすらランニング。「スパートはかけるなら誰かに声をかけること」とキングさんに言われているけど、もうひとりの私が見ているからいいだろう、と一人で結論づける。
走るのは好きだ。誰にも邪魔をされないから。
ウマ娘が裸足で走っても足を切らないように、比喩でもなく貝殻の欠片がない砂浜に、青い波が押し寄せている。
海が夜空ということは砂浜はなんだろう? 天の川とかかな。そうなると、私は天の川を走っていることになる。
悪くない。
むしろ、いい。
(いい顔つきになってきたじゃんか。ステップを説明するぞ。
1歩目は”地を均せ”。スパートをかける直前なんだ。まずは足元を固めろ。
2歩目は”抉れ”。俺たちがレースで走るのはおそらく芝のコースだ。海外と違って網目状に根っこが張り巡らされるタイプの芝だが、関係ない。つま先使って限界まで身体を前に傾けろ。
3歩目で”翔べ”。2歩目の勢いで前に駆け出せば、相棒の脚力ならスピードに乗れるはずだ。)
心の中で頷く。”俺たちがレースで走るのは”のところで少しびくっとなったけど、そんなことは今気にしなくていいだろう。
ここにいるのは私だけ。
誰も私を見ていない。
好きなように走って、好きなように終わる。それが、私のやり方だから。
(……やれやれだ。走るときはほんと相棒やる気だよな。そのパッションを他所にも向けてほしいもんだが……
じゃ、実際にやってみようぜ。
向こう側に設置した仮設のゴールポールを見る。概測で約1000mの距離。
最初はランニング程度に、徐々にスピードを上げ、残り200mでスパートをかける。
200mから3歩でトップスピードに乗れるか。それが今日
走り出す。スタートの合図も不要だ。ここにあるのは、私と彼女だけ。
(合言葉は、そうだな……)
走っている途中も、もうひとりの私は喋るのをやめない。
他の人なら不快になるだろうそれも、彼女が話している分には不思議と嫌ではなかった。むしろ、話を聞いていればいるほど、余計なものに集中しなくて良くなるような、走ることに集中できるような、そんな気がして。
(残り300m……あー、決まった決まった。1歩ごとにフレーズを作ったんだ。聞いてくれ。”踏み出せ1歩”)
大きく踏みしめ地を均す。
ランニングしてたときもそうだけど、芝で走るときと砂で走るのとでは随分違う。
(”飛び出せ2歩”)
爪先で、砂を抉る。
レースの映像で見た人たち、どれくらい前傾姿勢になってたかな。
これくらい?
もうちょっと?
いや、まだ行ける。
まだ。
まだだ。
まだ……っ!
(”ぶち抜け3歩”!)
ここまでならいける、というジャストタイミングで、彼女からの合図。
3歩目で目一杯身体を前に押し出し、さながら翼がついた天マのように。
すっごく理想的な加速の仕方でスパートをかけられた――のだけど。
「てぇっ……うわととっととっとおおととととぉぉぉおぉおおお!!?」
(あらららららららららあああらららあららああああ!?)
砂浜に足を取られ、渾身のヘッドスライディングをかましてしまった。
ぺっぺっ、と口の中に入った砂を吐き出して、なんとか起き上がり空を見上げる。完全に芝を走るときの勢いで走ってしまった。砂には砂の走り方があるってことなのかな。反省しなきゃだなあ。
(……ふふふ。いやあ、やっちまったなあ。今の俺たち、すげえ顔してるわ)
(そうかも、だね。……あははっ)
なんだかおかしくなって、ついもうひとりの私につられて笑ってしまった。
鏡がなくてよかったと思う。自分の顔を見てしまったら、お腹を抱えて笑ってしまう気がしたから。
ああ、やっぱり走るのって楽しいなあ。
二人なら、ずっと楽しめるのに。
「うわあ、すっごい砂煙。……あれ、キングちゃーん? 足止まってるよー? しんどくなっちゃった?」
「……カレンさん。練習は一旦中断よ」
「えー? なんでです?」
「わかってて言ってるでしょう。顔がにやけてるわよ……。まったく。スパートはかけるなら誰かに声をかけること、って言っておいたのに。おばか」
「それだけ勝ちたいってことじゃないかなー」
「だとしてもよ。まったく、今年入部の娘はみんな聞かん嬢なんだから……ウィルさんもお説教よ。お説教」
「はあい」
「……妙に聞き分けがいいのね」
「お母さんの言うことはちゃんと聞かないと、ですよねー?」
「だーれがお母さんよこのおたんこにんじん!」
対戦ありがとうございました