仮面を脱ぎ捨てて   作:どうして

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対戦よろしくお願いします


メイクデビュー!

「こひゅー……こひゅー……」

 

「うーんこの」

 

 

 ぐだぐだやぞ。

 

 月日は巡り巡って、ついに公式レースデビュー。ペルちゃんと二人で、ついにトゥインクルシリーズにカチコミに行くことができる……はずだったのだが。

 場所は控室。レース直前しか間借りできないとはいえ、やはり出走するウマ娘一人につき一部屋貸与してもらえるのはレースに出走する彼女らをアスリートとして扱っている故なのか、どうなのか。

 

 そんな現実逃避も虚しく。我らがペルちゃんは……

 

 

「こひゅー……こひゅー……」

 

「あー……走れそう?」

 

 

 過呼吸気味になっていた。

 もう一度言う。ぐだぐだやぞ。

 

 

「……い、いくだけいってみます。トレーナーさんにも、応援してくれてコヒュッるチームの皆さんにも申し訳ないのでエホッ」

 

 

「……無理はしないようにな。もうひとりのウィルも、このあとすぐにパドックでのお披露目もあるから、どうしてもしんどそうだったらサポートよろしくな」

 

 

 あいあい、りょーかいです。と心の中で敬礼ポーズを返すが、当然今は裏側にいる俺の声がトレーナーさんに伝わるわけもなく。

 トレーナーさんの方も、今のペルちゃんに俺への伝言の返事をもらえるとは思っていなかったのか、「深呼吸な、気負わずに言ってこい」とこちらに返事も求めずに背中を押した。

 

 ……本バ場に至る近道、いわゆる地下バ道で、チーム・シェアトのみんなが勢揃い。ほぼほぼ全員がレース明けのクールダウン期間ないし調整期間らしく、全員の予定がついたんだそうな。

 

 いや、メンツ的にこの場には不釣り合いな豪華な面々なんですよ?

 夏にデビューしたばかりのカワカミはともかく、シニア級でばちばちやりあってるキングやバクシンオーが一度に来てくれるってのは相当なものだ。

 まあベクトルは違えどどちらも面倒見がいいことには変わりないから納得っちゃあ納得だけどね。他の出走ウマ娘の異物を見る目が眩しい。これもペルちゃんの人徳*1故か……

 

 

(こひゅー……こひゅー……)

 

(ページまたがってセリフそれだけって恥ずかしくないんか???)

 

(ほかにもいってりゅもん)

 

(呂律くんさあ)

 

 

 ほれほれ、キングたちがこっち見てるぞ。言ってあげないと。

 近寄るやいなやカワカミさんによっこいしょーされぶんぶん振り回されたり、「本当に大丈夫なんでしょうね?」とキングから再三確認されたり、カワイイカレンチャン*2と一緒に自撮りされたりバクシンオーに勝利の秘訣を聞かされたり。

 

 是非はおいておいて、少なくとも緊張は解けたようだ。

 皆さんいい仕事をしてくれる。特にカワイイカレンチャンの適切なメンタルケア手腕には心が洗われるようだ。

 何事も経験である。お日様さんさんの東京レース場、良馬場、芝2000m。直線の長いレース場故ペルちゃんにはうってつけのコースのはず。

 練習通りのキレが見せられれば問題なく差し切れるはずなんだから、ここはまずパドックを乗り越え、返しウマを乗り越え、ゲートまで入るのを目標に……

 

 

『勝ちは十分に狙えます。3番人気はこの娘、4番ウィルペルソナ!』

 

『少し落ち着きがないようですが……おおっと、少しよろけましたね、大丈夫でしょうか?』

 

『練習では文句なしのタイムを出しているウマ娘ですが、気性の問題で3番人気となったようですね』

 

『鋭い切れ味の末脚が魅力のウマ娘です。好走に期待したいですね』

 

 

(あっあっあっあっあっごめんわたしもうむり)

 

 

 あ、はい。

 

 入れ替わり一名、入りまーす。

 

 

 

 

―――

 

―――――

 

―――――――

 

 

 

「パドックで入れ替わったみたいね」

 

「だなあ。まあ、今日はレース出走側の立場になれたってことで、一歩前進ってことで」

 

 

 ウィルを見送ってから小走りで関係者席へ戻って最初に出たのは、叱るでもなく、呆れるでもなく、正しく苦笑というかたちで、俺とキングの口から漏れた言葉だった。

 パドックに出た瞬間によろけた後は、穏やかそうな表情で落ち着いた様子を見せている。……改めて思うが、いきなり切り替わっても顔に出ないあたり(そのあたりが逆にこわいんだが)裏側の彼女は非常に肝が据わっている。

 どちらかと言うと自分にできること、自分がしたいことを常に一線を引いて割り切っている、というか。

 以前口にした通り、走ること自体が目的であって、勝ちにそこまでこだわりがない分リラックスできるのだろうと思う。

 ……表側の彼女が極度の緊張状態に陥るのは、勝ちにこだわっているだけ、というわけではないのだが。

 

 夏休みがあけてからはちょこちょこ中央レースの競バ場に連れて行って、可能な限り大舞台の……それこそ重賞レースの競バ場の雰囲気を、ウィルに見せてきた。

 参加者として見えるものと観戦者として見えるものはまた違うが、少しでも場の雰囲気に慣れて、緊張がほぐれればと思って。

 

 その甲斐あってかろうじて控室までは持った……いや、パドックまで持ったんだから大きな一歩と考えるべきだろう。彼女には最低でも3年間あるのだ。ゆっくり克服できればいい。

 悠長ね、とキングは言わなかった。甘いという考えもあるのだろうが、三年間で結果を残せなくても遅咲きで活躍するウマ娘はいくらでもいる。

 

 あの娘のペースで歩ませてあげられればいいな、とカレンに頼んでカメラを回させる。なるべくレース展開が一望できるよう、やや引き目に。こういうのは後日ネットを漁っても出てくるが、いろんな角度から見ることで初めてそのレースで何が起きたか分かることもあるのだ。

 

 

『さあ、始まります! 残暑も過ぎ去り涼やかな風が吹く東京競馬場。天気は快晴絶好のウマ娘日和、文句なしの良バ場発表となりました。今日も未来のG1ウマ娘がターフを駆けます、メイクデビュー!

 

一番人気はこの娘です。デレコクナリヤ。この評価はやや不満か、二番人気はクラシックワルツ。

 

パドックではやや落ち着きのなかったウィルペルソナ。3番人気ですが、無事先頭でゴール板を駆け抜けられるのか!』

 

『私イチオシのウマ娘ですね!』

 

『各バ淀みなくゲートへ収まります。態勢完了……スタートしました!』

 

 

 18人立てフルゲートの一人競走除外で17人によるレース。相変わらずゲートは上手いようで、抜群のタイミングでゲートを飛び出した。

 そのまま先行バ、逃げウマと張り合うことはせず、するするとバ群をすり抜けて最後方へ。やや外目、後ろから2番目。少なくともレース序盤で紛れない位置には入り込めた。

 このあたり、レース運びというか落ち着いてレースを俯瞰する技術は、やはり裏側の彼女が一歩抜けている。

 

 一人で走らせた場合、「より速く」を追求していいタイムを出す表側のウィルに対し、裏側のウィルはレース内のやり取りも「楽しんだ上で」適切な判断が下せる。

 いや何、相棒が気絶しないと外に出られないんでね、いろいろ考えてるんですよ、とは本人の言だが、初の実戦でも追込を採用したことが吉と出るか凶と出るか。

 

 

『さあレースを引っ張るのはランディングディオ。その次に続くのはウットオシー、クラシックワルツが続きます。そのあとエリザベスイヴィル、スリーピンフロストと続いて一番人気デレコクナリヤはここ!その後中団が団子状態で続いて後続最後方にエミシヨシツネ、その前に三番人気ウィルペルソナという布陣で1000mを過ぎました!』

 

 

 タイムを見る。ハロンタイム的にはそこまで速くはない展開だ。逃げウマらしき先頭のウマ娘は少し苦しそうだが、後方の娘は比較的足を溜められる展開になっている。

 ……ここで怖いのは紛れだ。下がってきた逃げウマ娘に巻き込まれ真後ろのウマ娘も避けきれずに下がる、の繰り返しでウィルがその団子に引っかかれば捲れる見込みはなくなる。

 

 府中の直線は長い。先頭集団はバ場の荒れ具合を度外視して経済レースを走っているみたいだし、巻き込まれないよう外目を走って大外からスパートすれば、大丈夫な展開だと思うが……

 

 

―――――――

 

―――――

 

―――

 

 

 

 ぼくは今、レースを走っています。

 知ってる? そっかあ……

 

 流石にデビュー戦だけあってか、ペースメイカーたりえる逃げウマもただがむしゃらに走っているだけのようで、お見通ししてもやや苦しそうに走っている。

 4コーナーから直線に入る辺りで垂れるんじゃないかなあ。

 

 となると、懸念されるのは垂れウマの紛れ。今のうちに手を打っておけば垂れウマ回避はお手の物だが……

 

 

(スリップストリームでちょっと背中借りてたしな。スタミナは持つだろうし、ちょっと余計に膨らんでおくか)

 

 

 前を走る17番の娘の、さらに外側に膨らんで第4コーナーカーブ。

 差しウマの子たちも本領発揮といったところだが、今回のレースはペースがやや遅め。残りがあると怖いので、早めにスパートして然るべきか。

 コーナー辺りからロングスパートをかける前方を他所に、周囲と伸びそうな娘に気を配りつつ計算を始める。

 

 考えろ。

 

 残り体力から差っ引いて、500mあまり(府中の直線)をほぼ全力で走りきって体力がすっからかんになるペースを。

 相手の伸び足を予測して、確実にこちらが差しきれるタイミングを。

 

 イメージしろ。

 

 ゴール板を最初に駆け抜けたときの歓声……はどうでもいいや。

 

 ウマ娘にしか感じられない、全力で走りきったあとのあのランナーズハイにも似た多幸感を。 

 ()()()()()()姿()()

 

 

 身体が熱い。喉がひりつく。全身が水分を欲しているのがわかる。

 

 でも、これだ。

 

 俺はウマ娘になって、()()を感じたくて!全力で風を切って走りたくて北海道からここまであの娘と一緒に来たんだ!

 

 最後の直線に入る。

 

 

 先頭まで5バ身差!(均せ!)

 

 

 差しきれる!(抉れ!)

 

 

 行けぇっ!!(翔べ!)

 

 

 

 

 

『さあ最後の直線だ!スリーピンフロストが抜け出した!ランディングディオは粘るがウットオシーは苦しいか!外からミライジャーマンさらに外から!ウィルペルソナだ!ウィルペルソナが飛んできた!あっという間に3番手から4番手!並んだ並ばない抜け出した!内からホワイトショコラ、トゥルースムーヴも伸びてくる!ミライジャーマン捲ってくる!ウィルペルソナ抜け出した!スリーピンフロスト粘るが!2着争い!ウィルペルソナ!ウィルペルソナだ!ウィルペルソナ一歩先んじてターフを駆ける!ウィルペルソナ圧勝ゴールイン!

 

ここ府中で驚異的な末脚! ウィルペルソナ、見事メイクデビューを制しました!』

*1
んなこたない。絶対違う

*2
カワイイ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!




以前ネット小説を書いてたところがモバゲー時代のエブリスタだったので、ハーメルンの仕組みがさっぱりわからないですよね

対戦ありがとうございました
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