もし百合ヶ丘の売店に「よく困ったことに巻き込まれる店員」がいたら 作:ぽけー
後半地の文多め。
01 もし百合ヶ丘の売店に「よく困ったことに巻き込まれる店員」がいたら。
「…百合ヶ丘の売店にはなんでもあると聞いていたのですが…どうにかなりませんこと?」
「あー困りますっ!お客様困ります!『運命の相手と同室になれなかったからせめて何を話しているのか聞きたいですわ!』と言われても盗聴器は売れないですしそもそも取り扱ってないですから首を揺さぶるのやめてあーっ!」
「そうですか…取り扱いはないんですね…」
「あー困りますっ!お客様困ります!いくらシルトの大好物なラムネがないからって店内でルナトラ発動は困りますお客様あーっ!」
「…むぅ」
「あー困りますっ!お客様困りますっ!姉妹関係を進めたいからって言われても当店に媚薬の取り扱いはありません壱盤隊の皆様総出で頼まれてもどうにもなりませんファンタズム使われても入荷予定ないですから離しあーっ!」
「うふふ…」
「いえあのお客様…困ります…同室の方とのシュッツエンゲル契約ができないかを私に相談されても困ります…笑顔で圧かけてもダメですよ生徒会に言うか役所で婚姻届もらってくださいよ…」
「なら夜に役立つグッズはありませんか?」
「ですから当店では扱っていませんので鎌倉市街で探してください…めんどくさい人ですね困りますんでやめてください…」
「ないんですか?」
「あーっお客様困ります!そんなガン飛ばされても困りますっ!ですから猫缶はあくまで猫用なんですあるわけないじゃないですか人間用の猫缶って普通にお弁当売ってるんですからそれ食べてくださいよ!」
「開発費は…私の給料から引いてもらっていいですから…!」
「ちゃんと人用のごはん食べてくださいよリリィが不調だと私も困るんですよ!」
「店員さん!開店時間早めてもらえませんか!?」
「それかなんとか取りおいてもらったりとか…!?」
「お願い!ずっと楽しみにしてたの!」
「あー困りますっ!お客様方困りますっ!いくら今日発売のワールドリリィグラフィックの特集が天葉さんと聖さんだからって大挙して押し寄せるのはやめてくださいちゃんと並んでくださいあーっ!」
「「…買占めってできますか?」」
「お二方も静かに殺意出さないでください愛しのお姉さまを独り占めしたいのは分かりますけどだからって実力行使の用意するのはやめてくださいあーっ!」
「どうせ…どうせ日羽梨はぁ…!」
「あのーお客様困りますーシルトにしたい子がいるのに自分の過去と性格のせいでうまく接することができなくて辛いからって閉店後の店内に居座って愚痴を聞かされるのは困りますー」
「二水は…っ、二水はあんなにいい子なのに、日羽梨はぁ…!」
(録音しておきましょうか…たまに取材に来ますし…)
「育児書って取り扱いあります?」
「…え?いやあのお客様―梨璃ちゃん?え?子どもできたの?え?はいあまり専門的じゃありませんが取り扱いありますけどえ?子どもできたの?私より10も年下なのに?」
「へ?いえ、違うと思うんですけど…」
「りり、お母さん?」
「結梨ちゃん!?」
「お客様ぁ…ぐす、困ります…行き遅れが見えそうな年の女にかわいい娘を見せびらかしにくるなんて困りますひっく…」
「店員さん!?」
「あー困りますっ!お客様困ります!コスプレ部門優勝者のブロマイドコーナーを破壊されては困ります!」
「離してください。猫耳雨嘉さんは私だけが独占しますので」
「ですからCHARMまで持ち出されるのは困りますいえ生身で破壊されるのも困りますけどお客様あーっ!前も思いましたけどほんとめんどくさいですね同室なんだからお願いすればいつでも見せてもらえるじゃないですかちょっとあーっお客様っ!?」
「…つまり、私みたいに外で動ける百合ヶ丘の職員も捕縛任務に参加、と?」
「頼まれてくれるかね?」
「いやぁ、私売店の仕事ありますし困りますねぇ。捕縛対象、うちのいい常連候補だったんであんまり気乗りもしませんし」
「だが、やらねば人とリリィの対立は深刻化し、百合ヶ丘の存立ひいてはここで保護しているリリィたちの今後にも関わるだろう」
「…ほんと、こんな世界にはお互い心底困ってしまいますねぇ、代行先生」
「全くだ」
(わたしは、百合ヶ丘のリリィだから…)
「―やったよ!梨璃!夢結!」
「結梨ちゃ―」
「ダメだ、ヒュージの誘爆に巻き込まれるゾ!?」
「間に合わ、ない…!?」
「―あー困ります困ってしまいますねぇ!」
「店員?」
「売店の店員さん!?」
「常連客さんの娘さん(既成事実)なんていう将来の優良顧客をこんなところで失うわけにはいかないじゃないですかー困ってしまいますねぇ」
「…店員、リリィ?」
「まっさかぁ、ちょっと普通の人間より足が速かったり力が強かったりするだけのただの『百合ヶ丘の職員』ですよ?」
「あー困りますっお客様困りますっ!一柳隊総出&生徒会執行部でそんなお礼されても困りますっ!普通に感謝の言葉だけで十二分なんで感謝の売店買占めなんて考えなくていいですお給料ちゃんともらってますから!ほら顔上げてくださいあーっ!梨璃ちゃんもほら土下座とかしてないで顔上げて!いいですから!あと祀ちゃんシュッツエンゲル契約届*1買い占めようとしないで!結梨ちゃんをシルトにしたいの知ってますから!誰にも先に申し込まれたくないのわかりましたから!というか普通の契約届生徒会から貰えるんだから意味ないですよ!『しまったそこ止めなきゃ』なんて顔しないでくださいあーっ!」
このあとヤケクソになって将来夢結梨璃の結婚式に呼んでもらうことで決着がついた。
一柳結梨の生存は、G.E.H.E.N.Aとそのバックにいる者たちにとって非常に不愉快なものであった。
もちろんグランギニョル社をはじめ、純粋に自分たちの娘が、妹が命を落とす危険を排除するべく実験に参加し、当のリリィらからブチギレられ正気を取り戻している面々も多い。その代表格がグランギニョル社社長であり、珍しく全ギレした愛娘に秒で降伏した父親であることは語るべくもない。
―しかし、単純な知的好奇心の暴走や利権を貪るため実験を推し進めた者たちもいたわけで。
そういった者たちに限り、『非常に人道的な兵器』たる人造リリィを邪魔ばかりする百合ヶ丘に奪われ、挙句の果てに人として認めさせられ皮肉をぶつけられ続けたことをこれでもかと根に持つのだ。己の普段の所業が、人道的どころか非人道的という言葉すら生ぬるい地獄を数多のリリィに与えていることなど知ったことかと言わんばかりに身勝手で都合の良い正義を振り回すのだ。
新月の夜、鎌倉府近郊の山中を完全武装で進むこの一団は、そういった人間たちの私兵であった。
リリィたちに兵士としての存在価値を奪われたと逆恨みし、施設で悲鳴や助けを求めるリリィたちをあざ笑い、『多くのリリィを犠牲にすることで』人類自らがヒュージに対抗する技術を開発するために協力を惜しまず、なぜか人認定された兵器を連れ戻し、実験することで、いずれ自分たちが対ヒュージ戦争の主役となることを願う。そんな『正義』を掲げた集団であった。
そう、『あった』。
「なん、なんなんだお前、なんなんだよぉ!?」
行軍は順調であった。百合ヶ丘と『リリィに味方する裏切り者』である防衛軍の警戒ラインを日頃の訓練の成果を発揮することで易々と突破し、百合ヶ丘の校舎や寮が視界に入るほどには接近できた。
直後、音も残さず数名の兵士の首が胴体から永遠に泣き別れるまでは。
「いやー困ります『お客様』―。ガーデンへの無許可侵入どころか完全武装での不法侵入とか本当に困っちゃいますよ『お客様』―」
「リリィ…リリィなのか!?」
「そんなバカな、リリィは人間に対し武器を向けないように幼少期から刷り込まれているハズだ!それが、ためらいもなく首を一撃で…!?」
「いや私、あの子たちみたいにいい子でもリリィでもないですからね?むかーしあなたたちにいじられてちょっと人より速く動けて力が出せるようになっただけのしがない売店店員ですからね?そこらへん間違えられると困っちゃいますねぇ」
消音機で抑制された発砲音が全周から響くも、その女性を捉えるには至らない。
それでいて、時間を重ねるごとに片手に担いだ太刀で一人また一人と首をはねていく。CHARMの廃材から無理を言って作りだしてもらったその太刀は、時に銃弾をはじく盾としての強靭性まで見せた。
「ふむふむ?」
接触からわずか数分、一帯には首のない兵士たちが転がるのみとなっていた。
「あーぁ、回収ポイントまでご丁寧に地図に書き込んじゃって…こういう類いは頭まで潰さないと性懲りもなくまた来ますからねぇ残業確定ですねぇ生ゴミ処分も楽じゃないってのに」
ダウナーなぼやきと共に隊長格らしき男の遺体から使えそうなものを漁り終え、とりあえず雑草処理と同様根のほうまで『処分』することを決めつつ、星空を見上げる。
「―本当に、困っちゃいますねぇ」
・百合ヶ丘女学院購買部
校舎の一角に存在し、豊富な品揃えが特徴。
リリィ引退後の参考になるよう、また療養期間中の経済的支援も兼ね学生バイトを少数ではあるが雇用している。
メガネにショートボブの店員が彼女ら学生バイトを取りまとめると共に購買部の職員として各種事務作業やリリィからの相談受付、案内を行っている。
最近の学生バイトリリィたちの悩みは軽率にルナティックトランサーを発動させる二年生及びその対応に毎度悲鳴を上げつつ生身の人間でありながらそれを抑え込み、けろっとした顔で業務に戻るメガネの店員の存在。