もし百合ヶ丘の売店に「よく困ったことに巻き込まれる店員」がいたら 作:ぽけー
店員たちと夏の一幕のお話。
渋には既に投稿していましたが、そろそろ3話も投稿できそう、ということで。
改めてこちらにも掲載させて頂きます。
対ヒュージの拠点であるガーデン、その一つである百合ヶ丘女学院にも、通常の学校同様購買部というものが存在する。
その品揃えは気楽に街中へと繰り出せないリリィたちへの配慮として、中々豊富だ。
当然食料品やお菓子の類いなども売られているが、特に夏場は冷凍ケースに収められたアイスなど氷菓子系がよく売れる。ヒュージ出現により気候が乱されて久しいが、それでもうら若き乙女たちが日本の蒸し暑い夏を乗り切るにはアイスの力が必須なのだ。
当然購買側もこのニーズを把握しており、夏場は特にアイス売り場を広げ甘味に目がないリリィたちの需要に応えている。
…ところでこの購買部、屋根付きとはいえ、空調のない室外を通らなければ入店できない構造となっている。
どれほど甘美な冷を求めようとも、その道中に灼熱の道があってはどんなに元気溢れるリリィたちもさすがに二の足を踏むものだ。しかし踏み出さねば体を内側から冷やすアイスは手に入らず、日々の講義で熱せられた頭も過酷な訓練で火照った体も冷やせないというもの。この大問題は夏場の百合ヶ丘生共通のものであった。
この大問題の解決を、リリィたちは戦いに求めた。もちろん模擬戦などという余計に汗をかく行為もとい不必要にリリィ相手に刃を向ける行為などではなく、由緒正しいじゃんけんによってである。
教室で、寮のご近所さん同士の集まりで、レギオン控室で、練習場で。
誰かの「あつーい」や「アイス食べたーい」という声が開戦の合図。
今日も今日とて、『比較的冷房の効いた室内で買い出し班がアイスを買ってくるのを待つ』という特権を手に入れるべく、じゃーんけーんぽんと声が響く。
ちなみに負けると灼熱の中を購買部まで歩き、人数分のアイスを調達したら溶けないうちに持ち帰るため全力疾走するという地獄を見るハメになる。戦わなければ生き残れない、とは同級生全員分のアイスをパシらr…買い出しの名誉を賜った誰かの言葉だったか。
ついでに言うとこのじゃんけん、広めたのは購買部の主であるメガネの店員である。大義名分は『娯楽に飢えるリリィたちに一時の楽しみを提供したい』。同じく娯楽に飢える防衛軍での自衛隊時代からの伝統を参考にしたそれは、面白いほどよく広まり購買の売り上げ上昇に貢献したらしい。多々買ってもらわなきゃ生き残れない、とは悪い笑みを浮かべた誰かさんの弁だ。
そんな些細な利権や夏の暑さやちょっとしたリリィ同士のガス抜きを兼ねた戦いの犠牲者が、今日もまた購買部を訪れた。
「いらっしゃいま―おや、アイスじゃんけんですか?」
「えぇ…また負けてしまったわ」
「一昨日と続いて二連続ですか。やーい敗北者」
「ハァ…ハァ…敗北者…?」
「なんでそのネタ知ってるんですか。梅さんならともかくお客様あんまりマンガ読まないじゃないですか」
「梨璃と二水さんに教えてもらいました。最初は結梨が興味を示して、その関係で」
「台詞が完全に親のそれなんですよね…」
百合ヶ丘生え抜きの彼女とメガネの店員はそれなりに長い付き合いだ。軽くやり取りを交わし、ついでにオススメを紹介しておく。
「今日はラムネジェラートっていうのを入荷してみましたよー。梨璃ちゃんと結梨ちゃんにいかがです?」
「えぇ、そうさせてもらいます。二水さんは大福で…梅のなんでもいいが一番悩むのよね」
どうやら今日はレギオンメンバーの分の買い出しらしい。口では色々言いつつ、冷凍ショーケースを覗く目は少し楽しげだ。
途中迷いながらも10個ほど選んだそれをレジへと持ってくる。店員が手早く会計を済ませて支払いを確認し、袋へ入れて差し出してやれば全力疾走の構え。
「…広めといてなんですけど、皆さんレジの前からそんなに走る必要あります?」
「少しでも冷えている方がいいですし、元より走って帰ってくる条件でしたので」
「訓練かな?」
「買い出しです」
それでは!との声だけを置き土産に、そのリリィは店を飛び出した。店員の脳裏に一瞬某約束を果たすために走りぬいた男の古典が浮かんだが、たぶんあまり関係はないだろう。
酷暑の昼下がり、当分新しい客は来ない。静寂の戻った購買部の中、店員は少女が飛び出していった出入り口を眺め、少しだけ苦笑いしてみせた。
全身全霊でじゃんけんするリリィたち見たい…見たくない?