【書籍⑧巻&コミック②巻、7月31日発売】クソゲー悪役令嬢~滅亡ルートしかないクソゲーに転生したけど、絶対生き残ってやる! 作:タカば
シルヴァン・クレイモアとクリスティーヌ・ハーティアの結婚と即位式は盛大に執り行われた。若いふたりの結婚は、魔王の命と引き換えに女王を失った国民の、新たな希望として歓迎された。
魔物災害で荒れていた各領地も、徐々に復興してきている。
ハーティアは明るい未来に向けて歩みを進めていた。
そんななか、諸侯の祝福を受けて新たな夫婦が二組、誕生していた。
「はあ~……疲れた……」
私はだらしなくソファに身を預けた。花嫁のドレスは豪華で素敵だけれど、とにかく装飾が多くて重くて暑くてしんどいのだ。機能性とは真逆の衣装と言っていい。
さすがにこれを着るのは一生に一度でいい。
二度も三度も着るものじゃないからいいけど。
「少し水を飲んだほうがいい」
フランが私の前にカップを差し出した。
「ありがとう」
私は素直に受け取ると、冷えた水を喉に流し込んだ。
花婿のフランも最高位の正装だ。私のドレスデザインに合わせた豪華な装飾がいくつもついた衣装を着ている。もともとのスタイルのよさもあって、めちゃくちゃにかっこいい。
きっちり着込むのに疲れたのか、少し襟元が緩んでいるけれど、そこから覗く肌も含めてセクシーで百点満点である。眼福。
今日は、待ちに待ったハルバード家とミセリコルデ家の両家長男婿入り交換結婚式である。
私とフラン、アルヴィン兄様とマリィお姉さまが結婚するにあたり、大きな問題になったのがその日程と招待客だ。
もう誰にも横やりを入れられたくないフラン、早々に跡取りを産まなくてはならないマリィお姉さま、どちらのカップルもできるだけ早く正式に結婚したい事情を抱えている。
しかし、招待客がほぼほぼ被っている兄弟同士の結婚式ラッシュは、周囲に大きな負担となる。最低でも半年、できれば一年あけてほしいと言われて実施したのが、この「兄弟二組同時結婚式」である。
招待客がほぼ一緒でやること一緒なら、もういっそのこと同じ日に結婚してしまえ、というなかなか大胆な犯行だ。
ミセリコルデ家の屋敷で大々的に行われた前代未聞の式典は、それでも大きなトラブルなく進み、私達はやっと客間に通されておちついていた。招待客はすべて見送ったし、この後はもう何も予定はない。
「結婚式がこんなに疲れるものだと思わなかったわ」
「予定より出席者が増えたしな」
「まさか国王夫妻までくると思わなかったわ。安定期に入ったからって、無茶しすぎじゃないの、クリスは」
なんと、クリスティーヌ女王は即位と同時にご懐妊まで発表されていた。ヴァンの『お腹に子供』発言は嘘ではなかったらしい。めでたいことだけど、私達は驚かされっぱなしだ。
「まあ……それでも夕方には解散なのは助かるわ」
国によっては三日三晩お祝いの宴を続けるようなところもあるらしいから、昼に始まって夕方には解散のハーティアの結婚式は良心的なほうだろう。
そう言うと、フランはきゅ、と眉間に皺を寄せた。
ん? それはどういう感情なのかな?
「結婚した夫婦は夜には解放される。……その後することがあるからな」
「その後にすることって……あ」
ぎし、とソファが音をたてた。
フランが私に覆いかぶさるようにして、ソファに乗ってきた。
壁ドンならぬ、ソファドンである。
あれ? なにこの乙女ゲーム的展開。
「いいか?」
何の許しを求められているかは、具体的に言われなくてもわかる。
私はかあっと頬が熱くなるのを感じていた。
アギト国との戦争中に婚約した私達だけど、なんやかんやあって、結局今日まで関係は進んでなかったんだよね。忙しかったし、家族や周りの目もあって二人きりになれる機会も少なかったし。
ランス城の一件以来、初めての機会だ。
しかし、フランの青い瞳に熱っぽく見つめられて、出て来た言葉は
「やだ」
だった。
「なぜだ!」
「だって今汗だくだもん!」
私だって乙女だ。
花嫁衣装で一日動き回ってドロドロの体で抱かれるのは絶対嫌だ。
断固拒否する。
「……なるほど」
フランはうなずくと、ソファから身を起こした。立ち上がると、ひょいと私を抱き上げる。
「ちょっと、嫌だって」
「体が汚れているのが問題なんだろう。だったら風呂に入ればいい」
「それはそうだけど、どうしてフランに運ばれる必要があるの。お風呂くらいひとりで入れるわよ」
「体を流す必要があるのは、何もお前ひとりではないからな」
まあ、汗をかいたのはフランも一緒だから、お風呂に入ったほうがいいとは思うけど。
あれ? それってまさかそういう。
「何いきなり高度なプレイを要求してるのよ!」
「前は先に筋を通そうと仕事を片付けていて横やりが入ったからな。もう待つような真似はしない」
「ごもっともな意見だと思うけどね?」
だからっていきなり一緒にお風呂はハードルが高いと思うの。
あわあわしている間に、フランの長い脚は浴室へとずんずん進んでいく。
ちょっと待って。このまま? このまま始まっちゃうの?
あと一歩、というところでドンドン! と、乱暴なノック音が響いてきた。
「えっ?」
私は驚いてドアを見るけど、フランは止まらない。浴室に入ってしまった。
そのまま私の服に手をかける。
「フラン? なんかノックされてるんだけど」
どんどん、という切羽つまったノック音は続いている。
「何も聞こえないなあ?」
明らかに聞こえているくせに、フランはにいと歪んだ笑みを浮かべている。
聞こえないふりしたくなる気持ちはわかるけどさ、新婚初夜の夫婦の部屋をノックするって、かなりの異常事態だと思うのよ。
絶対応対したほうがいいやつだと思うの。
案の定、ノック音は激しくなっていく。
「フランドール様、リリアーナ様! 緊急事態です!! ハルバード領で大規模な山火事が発生しました! ハルバード候も対応されていますが、手が足りません! 至急対応を!!」
「……やまかじ?」
フランが虚ろな目でやっとドアを振り向いた。
山火事は大規模災害だ。
そして、私達ふたりは、ハルバード領を受け継ぐ前提で結婚している。
領地の緊急事態には必ず対応しなくてはならない。
「……っ」
フランは大きくため息をついてから、やっと顔をあげた。
「……いってくる」
「えええ、っと、あのね、フラン……がんばって」
「……」
とぼとぼとドアに向かっていくフランの後姿を、私は見送ることしかできなかった。
なんで初夜にまでこんなトラブルが起きるの。
セシリアが運命の女神の力を、根こそぎもっていったはずなのになあ。
まだどこかにメイ姉ちゃんのポンコツ奇跡が残っているのかもしれない。
「でも負けるもんか」
世界が滅亡するクソゲー世界に転生したけど、絶対に幸せになってやる!!
またもやひどいところで横やりがはいってしまいました。
フランかわいそう。
多分正式な初夜編は書籍版最終巻のオマケSSになると思います。
がんばれフラン。ちゃんと構想はあるから、きっといつか報われるよ。
メインのお話自体はここで終わりますが、コミカライズ連載も続いていますし、ぽつぽつと不定期に番外編を投下していくことになります。
ブクマは外さずにいてくれると嬉しいです。
ではでは、ご愛読ありがとうございました!
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