前世いじめられっ子が吉野順平に成り代わる話(原作知識なし)。
単行本3,4巻の内容ガッツリ。

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 サイト初投稿故にマナーがとんとわからない…
 誰かお暇な人、マシュマロでマナー違反とかなんかここおかしいとかを教えてくれたら嬉しいです……あれ、そういうのもAIが弾いちゃうんだっけ…?
まぁとりあえず置いておきます。
https://marshmallow-qa.com/poc9rvyldcwbwwe

・吉野順平成り代わり
・口調迷子&キャラ崩壊
・男主は原作知識なし
・作者は単行本派(15巻履修済み)
・単行本3,4巻ガッツリネタバレ
・視点主→『』、それ以外→「」
・一部原作のセリフの縮小・改変・文章の挿入等がされてる

 pixivにも掲載してます



毒海月の脳味噌【吉野順平成り代わり】

 はい皆さんこんにちわ。

 俺の名前は吉野順平、我ながらいい名前だと思う。趣味は映画鑑賞だ。

 

 突然だが俺の人生の話を聞いてほしい。少し長くなるが辛抱して聞いてほしい。

 

 名前からして平凡そうな俺、なんと世にも珍しい前世の記憶とやらを持っているのだ。

 あーいや、俺の周りにそれを言いふらしてる奴がいないだけでもしかしたらザラにあることかも知れんけども。

 

 前世の俺はとある製薬会社で働くしがないサラリーマンで、俗に言ういじめを受けていた。

 汚らしくハゲたクソ上司にやたら仕事押し付けられたり、1週間くらいかけて作った資料の件がいつの間にか隣の席だった顔だけボンボンの手柄になってたり。

 上司からのイビリがほとんどだったけど、同僚からもちまい嫌がらせをそこそこされた。全員がそうってわけじゃないし、見ないふりの人もいたんだけどね。

 皆のストレス発散に使われてたんだろうな。

 

 

 真面目に心が死んだ。

 

 

 たまに運良く取れた休みに好きな映画を観て心を繋いでいたが、最後の方はそれすらも楽しめなくなってきてた気がする。

 

 もう会社に火でもつけてやろうかと思ってた夏の日、例のごとくハゲに押し付けられた仕事で急遽、少し遠い別の研究施設に顔を出すことになった。

 このクソ暑い中外行かせるとかコロス気かと思いつつ青になった横断歩道を渡ろうとして、何気なく反対に赤になっている歩道の方を向いた時。

 

 

 地面に落ちた人形を拾う小さな女の子と、その子に気付かずに突っ込もうとしている大型トラックが目に入った。

 

 

 瞬間俺は手に持っていた鞄を投げ捨ててあの子の元に走っていった。

 女の子の体を抱き上げ、対岸に投げ飛ばす。少し怪我をするだろうが我慢してくれ。

 ようやく聴こえたけたたましいブレーキ音の中で、女の子がその場にいた誰かに受け止められる様子を見届けた直後、体に衝撃が走った。

 

 よかった、怪我はしないですんだみたいだ。

 

 なんて聖人君子みたいなことを思いながら、俺は意識を手放した……

 

 

 

 ら。

 

 

 

 どういうわけか再びおぎゃあと生を受けた。

 

 

 地名とかを聞く限り前世とほとんど同じような世界だと思う。よかったゴリゴリのファンタジーとかじゃなくて。俺きっとすぐ死ぬ。

 

 母親は吉野凪さんという。最初にも言ったけど順平という名前をくれて、女手ひとつで俺を育ててくれた。

 快活な女性で、少し酒癖が悪いがそれを差し引いてもすごくいい人だ。

 

正直に言う。癒し!!

 

 前世の後半部分ほとんどクソッタレな大人としか接してなかったからか凪さんもとい母さんの癒し効果がハンパねぇ。

 神様的な存在が俺の前世見かねて第2の人生プレゼント的な?

 そう思っちまうくらいには感動がデカい。

 迷惑かけたくないし学校とかで問題起こさないようにしよう、うん。

 一人称も僕に変える。そっちのほうが優等生っぽいじゃん? 形から入るのは大事よ。

 

 せっかく人生2回目だし、思う存分エンジョイするしかねぇ!

 新しくできた友達と映画研究会作って、華の高校生ライフを満喫しよう、と、思ってたんだけども。

 

 またいじめに遭いました。

 

 細々と部活動楽しんでたら、いつの間にか部室が不良のたまり場になってたっていうね。

 皆のためにも頑張って追い出そうとしたんだけど、それが気に入らなかったみたいで標的になっちゃった。

 

 大体は殴ったり蹴ったり体にダメージがくる系。会社勤めの時は陰湿ないじめしか受けたことなかったから、こういう直接攻撃なやつは初めてだわ。

 あーでも最近あったGのやつ、アレはマジでキツかった。もの凄い勢いで抵抗してなんとか実食は免れたけど。最近の子は発想力豊かだな??

 

 タバコ吸ってる子もいたしな。

 確か伊藤くんだっけか、真面目そうな顔してやるなぁ……

 ダメだぞ、シンプルに体に悪い(前世で経験済)。

 それに隠れてやってるなら臭いつくからせめて制服では吸わない方がいいと思うんだが。

 そう言ったら何故か額を灰皿代わりにされた。解せぬ。

 

いやあっっっつ!?!?!?

 

ムリムリムリムリムリ!!!

正直殴る蹴るとかはまだいいけど(?)これは同じかそれ以上な目に合わせないと気が済まないくらい熱いし痛いんだが!?!?

ってちょ、やめろ何回も押し付けてくんな!!

 

 

 真面目に心が死んだ。(2回目)

 

 

 母さんに迷惑かけたくなかったから頑張って学校行ってたけどさすがにもう無理だったわ。

 相談したら快く不登校OKしてくれた。控えめに言って天使。紫煙まとってるけど。

 

 そんなわけで学校を堂々とサボる毎日。

 特に今日は続きものの推し映画のリバイバル上映があるので、近くにあるキネマシネマに来ている。

 受付のお姉さん堂々と昼食ってたけど、昼休憩とかもらえてないのかね。そこそこ寂れたとこだからありえなくもない。

 僕も会社時代なんやかや文句つけられて昼休憩取らせてもらえなかった時あるんだよなぁ……

 まぁヘッドフォンまでつけてるあたり図太そうだったから心配いらない感じかな、うん。

 

 気を取り直して、映画を楽しみたかったんだけどさ。

 

『最悪だ…』

 

 なんで今日に限ってマナー知らずヤンキーと同席するはめになるかね。

 しかもよりによってつばさ親衛隊(笑)。ちょくちょくいちゃもんをつけられてサンドバッグにされてたわ。

 僕もだけど、高校生が学校サボって映画館来るなよな。

 一応僕の学校ってそこそこの偏差値あるはずなんだけどなぁ……。どの界隈にもああいう人種はいるってことかね。

 くっそ喋り声とか諸々気になって全然内容入ってこない。

 

喋るな!! 電源を切れ!!!

 

 目を瞑って殺気(仮)を送ってると、流石に見かねたのか髪の長いお兄さんがあの子らに近づいていくのが見えた。

 

注意すんのかな、お兄さん殴られないといいな。

 

 なんてことを考えてたら、

 

 

グニィ、

 

 

 まるでどこかのつまらないグロ映画みたいに、ヤンキーたちの頭のかたちが、変わった。

 

…………は?

 

 そうやって思考停止してる間に、さっきのお兄さんはつまらなそうな顔をして映画館を出ていった。

 

 ……いやいやそんなファンタジーじゃあるまいし。

 きっとヤンキーの存在が嫌すぎて幻覚でも見えたんだろうん。近づいて見れば元気なクソ顔が拝めるハズだ、それ行ってみよう!

 

『なっ、なんだコレ……』

 

 近くで見ても変わらなかった。むしろ解像度上がって余計グロい、真ん中とか特に目玉の形変わってて……

 

さっきの人……? いや、こんなことが人にできるのか?

できたとしてそれは本当に、「人」なのか?

 

 怖い。 怖いけど……好奇心には逆らえない!

 とりあえず追いかけてみるっ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 長い銀髪の、黒い服……いた!

 

『あの、

 映画館の…アナタがやったんですか』

 

 勇気を出して声をかけると、その人はゆっくり振り返ってこっちを見て……少し、笑った。

 

「へぇ。君、俺が見えるんだ」

 

 "見える"って言葉を使うってことはやっぱりこの人は、「人」じゃないのか…?

 

「やったのが俺ならどうする? 責める? 彼らは君にとって特別だった?」

 

 彼らってあのヤンキーのことだよな? あの子らは、僕にとって……

 

 

 ふと脳内に、足を掴まれてこちらに近づけられる憐れな虫の姿がよぎった。

 逃れられないその姿が、僕と重なって。

 そんな僕たちを楽しそうに見ている、いっそ無邪気とも言えそうな、あの子らの笑顔。

 

 腹の底からふつふつと怒りが湧き上がってきて。

 

 

『僕にも同じようなことが、できますか?』

 

 

 気づけばそんな言葉を返していた。

 

……「同じ」はちょっと言いすぎたな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あのツギハギのお兄さんは真人さんと名乗った。彼は「呪霊」という、呪いの力が集まって意思をもったもの、らしい。

 

 真人さんと話すのは楽しかった。

 人より熟慮しがちな僕にとって、あそこまで中身のある話をできる人は前世ひっくるめても数少ない。

 今じゃほぼ毎日真人さんのところに通ってる、実際今日も来てるし。

 

『「好きの反対は無関心」なんて初めに言った人は、ちゃんと地獄に落ちたでしょうか。

 悪意をもって人と関わることが、関わらないより正しいなんてあり得ない。

 

「好きの反対は嫌い」です。日本人って好きですよね、単純な答えを複雑にして悦に浸るの』

 

 ……ん、これ言ったのって日本人だっけ? まぁいいか、要はフィーリングだ! 実際日本人はそういう話大好きだからな!

 

「皆言葉遊びが好きなのさ。

 なぜなら人間は、言い訳をしないと生きていけないからね」

 

 そう言って真人さんは馬鹿でかい空間の隅にいる、人の特徴をもった肉塊のようなものに歩み寄って行った。僕もそれに続いて彼の近くに寄る。

 

『これは?』

「一人の人間をどこまで大きくできるかの実験。逆にそっちはどこまで小さくできるか試してみた」

 

 彼が指さしたのは、さっき僕に渡してきた小さな人型のモノ。

これが……人間?

 

『これって、生きてるんですか?』

「"まだ"生きてるよ。

 そのうち死んじゃうけどね」

 

おおう……呪霊の力ってすげぇな……

 

「…順平は、慣れてるの? 死体とか、こういう「人だったモノ」とかにさ」

『……どうでしょう。

 それが僕の母だったら取り乱し、真人さんを憎んでいたかもしれません。

 

 でも僕は人間の醜悪さを知っています。

 だから他人に何も期待しないし、他人の死に思う所はありません』

 

 前は小さな女の子ひとり救うくらいは希望をもっていたんだろうけど。今はもう無理だと思う。

 

 前世では大人の狡猾さを。

 今世では子どもの残酷さを知ってしまった。

 

 僕を虐げる子どもたちと同じ風にあの子も育ってしまうかもしれない。その可能性が頭をよぎって、何も考えられなくなる。

 

『「無関心」こそ人間の行き着くべき美徳です』

 

 会社でもいじめは酷かったけど、皆が敵ではなかった。数少ない傍観者が気まずそうにしている姿が、ほんの少しだけど、僕にとっての救いだったんだ。

 

「そんな君が復讐ね」

『……矛盾してるって言いたいんですか?』

 

 理屈はそうでも心がついていかないことなんてよくあるし、この気持ちもまたホンモノだ。特に主犯格の伊藤くんのメシには2週間下痢っぱなしになる薬でも仕込まないと気が済まない。ついでにタバコもやめさせてやろうか。

 

禁煙のために飴ちゃん噛み砕いてデブれオラ虫歯に気をつけろ!!!!(乱心)

 

「順平は人に「心」があると思う?」

『え……ないん、ですか?』

「「魂」はある。でもそれは「心」じゃない」

『じゃあっ僕のこの……!!』

 

溢れる仕返しへのパッションは一体なんだと言うのかねっ!!

テンションがおかしくなってる……(泣)

 

「俺はこの世界で唯一魂の構造を理解してる。

 それに触れて生物の形を変えているからね。

 喜怒哀楽は全て魂の代謝によるものだ。心と呼ぶにはあまりに機械的だよ。

 見える俺にとって魂は肉体と同じだ。

 

 分かる? 命は天地にとっての水のようにただ廻るだけなんだよ。

 どれも同じように無価値、だからこそ何をしてもいい。

 

 俺は順平の全てを肯定するよ」

 

 ……やべぇめっちゃ勇気出てきた。

 今ならさっき言った伊藤くんへの復讐劇躊躇なく繰り広げられそう。もちろんひっそりとだけど。

 

 

 

 魂と心談議の後、僕の術式?がなんなのか真人さんが教えてくれた。クラゲの式神を出せて、なんと毒を作れるらしい!

っしゃオラ薬品系は得意分野だ任せろ!!

 ワンチャン下剤dear伊藤くんを自力で作れるかもしれんwktk。

 式神の名前、悩みに悩み抜いて『澱月』にしました。ふよふよして見てると癒される。

 今日は早めに帰って精製の練習しよーっと。

 大きな横断歩道を渡って少し歩けばほら、愛しの我が家が見えて、き……

 

「吉野ぉ、どこ行ってたんだ?

 駄目じゃないか学校サボって」

 

『外村先生……』

 

 外村先生は僕の担任だ。あんまり頼りにならないし、清潔感がないから好きじゃない。

 つかなんで今になってうちに来るんだよ。教師が家に来るくらい悪いこととか僕してないんだが??

 

「聞いたか? 佐山・西村・本田が亡くなったって」

 

 あーなんだそのことか。

 聞いたも何も目の前でゴートゥーヘルでしたけどね、言わんけど。

 

「オマエ、仲良かったよなぁ」

 

 

 

『……はぁ?』

 

 

 

「友達もいないオマエをよくかまってやってたろ。

 それなのに葬式にも出ないで……

 一緒に行ってやるから、線香だけでも上げに行こう」

 

 仲良し……僕と、あの子らが、ねぇ?

 

 思わずため息が漏れる。こりゃ節穴もびっくりだわな。

 

『教師って、学校卒業して学校に務めるから、およそ社会と呼べるものを経験してないですよね』

 

 だからアンタみたいな、大人ぶったデカい子どもが出来上がるんだろうな。

 ま、大人と子どもの違いなんて邪智深いかどうかくらいだし、本質なんて心身共に成長してもそう変わらんから期待なんて無意味だよね。

 

「何をブツブツ言ってんだ?引きこもっておかしくなったか? なんてアハハ」

 

 挙句の果て、場合によっちゃ冗談ですまないことを軽々とほざきやがる。子ども相手と気を抜いてるのかそもそもデリカシーというものが欠如してるのか……どちらにせよバカであることに変わりないが。

 もう処す? 処す? 正直澱月でどつくくらいはいいんじゃないかと思う。はよ家の前からどいて欲しいし。

 針刺さないしセーフセーフ、それ来い澱づ…

 

 

「ストォーップ!!!」

 

 

 大きな声と共にこっちに飛んでくる、子ども。その手には羽根の生えた奇妙な物体が収まっている。

 その子は空中で綺麗に一回転し、着地……のち、電柱に頭を打った。痛そう。

 と思ったら、なんかこっちに近づいてくる。

 

「なぁ、ちょっと聞きたいことあっからさ、面かして」

 

近い近い根明かこいつ!!

 

 って、このうずまきのボタン、真人さんが言ってたやつじゃん。確か「呪術師」の人がつけてるっていうやつ。

 

「待て今俺が話してるだろ! 失礼だな」

「あーいやかなり大事な用でして」

「大事な用!? 子どもが何言ってんだ!!」

 

 まぁた決めつけか。子どもにも子どもなりの事情があるのにねー。

 

「大体どこの制ふk」

 

 

 ズルンッ

 

 

「持ってかないでー!! まって──!!」

 

 実に鮮やかな手口。

……いやなんだったんだよ。

 

「そんじゃ行こうぜー」

『えっはや!!』

 

もう1周してきたの!?

さっきの身のこなしといい足の速さといい、アスリートかなんかかこの子??

 つか冷静に考えると一連の行動の意味がわからんのだが。

 

『……わざわざあんなことしなくても僕だけ引っぱっていけば良かったんじゃ……』

「んーまぁ。

 

 でもオマエ、アイツ嫌いだろ」

 

 !

 

『なんで……』

「なんとなく。

 あっ違った!?」

『違くないけど』

 

「嫌いな奴にいつまでも家の前いてほしくねーだろ」

 

『……うん』

 

 名前も何も知らないけど、なんとなくわかる。

 

 この子は、いい子だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ズズン……

 

「アレ今ちょっと揺れた?」

『そうだね…震度2くらい……?』

「なー。

 ……ダメだ伊地知さん出ねー。もう俺が聞いちゃっていいかな……」

 

 なんか悩んでる、たぶん「呪術師」。名前は虎杖悠仁君というらしい。

 真人さんは「きっと順平と気が合う」とかなんとか言ってたけど、呪術師って真人さんの敵だよな? 何がしたいんだろあの人……

 

「あーっ!! もういいや聞いちゃえ!!

 なぁこの前オマエが行った映画館で人が死んでんだ、なんか見なかった? こういうキモイのとか」

 

 見たどころじゃないわ。キモくはないけどやべー人。「人」じゃないし言わんけど。最悪命の危機。

 

『いや見てないよ。

 そういうのハッキリ見えるようになったの、最近なんだ』

「そっかぁ……じゃあもう聞くことねぇや!

 でも一応俺の上司みてぇな人が来るまで待ってくんない?」

 

 えっもうか、早すぎん? 暇だからもっと話してもよかったけどなー、待つくらいなら全然いいし。

 

「なぁなぁ映画館で何観てたの?」

『昔のリバイバル上映だから言っても分かんないよ』

「いーからいーから!」

『……「ミミズ人間3」』

「あれ超つまんねぇよな、そのせいで何回殴られたことか」

 

 観てるんだ……。つか殴られたて何??

 前世じゃ見れなかったし、期待してたんだけどなぁ……でも2は、

 

「でも2はちょっと面白かったな!」

 

 !

 おぉ!!

 

『っそう、そうなんだよ! 2だけは楽しみ方があるんだよ!』

 

君イケるクチか!!

 

 

 

 虎杖君との映画の話するのマジ楽しい。話最後まで聞いてくれるし、根明だけどいい子。太陽みたい。

 途中で母さんとばったり会って、うちで夕飯を食べていくことになった。酔った母さんのムチャぶりにも即応えてくれたし素直にすごいな。

…ウィルソンはダメだろ……

 

 

「母ちゃんいい人だな」

『……うん』

 

 いじめに屈して母さんに相談した時。なんて言われるか怖かったけど、母さんは僕を否定しないでいてくれた。

 それがどんなに僕を救ったか。

 暖かい手で頭をわしゃわしゃと撫でてくる母さんの目はとても優しくて、少し恥ずかしかったけど抵抗はしなかった。

 

『虎杖君のお母さんはどんな人?』

「あー俺会ったことねーんだわ、父ちゃんはうーっすら記憶あんだけど。

 俺には爺ちゃんがいたから。

 

 あ、悪ィ電話」

 

 

『……虎杖君は呪術師なんだよね?

 

 人を……殺したこと、ある?』

「ない……」

『でもいつか悪い呪術師と戦ったりするよね。

 その時はどうするの?』

「……それでも殺したくはないな」

『なんで? 悪い奴だよ?』

 

「なんつーか一度人を殺したら、「殺す」って選択肢が、俺の生活に入り込むと思うんだ。

 

 命の価値が曖昧になって……大切な人の価値まで分からなくなるのが、俺は怖い」

 

『……そっか』

「おう。

 じゃあ俺そろそろ行くな! 母ちゃんにメシうまかったって伝えといてー!

 またな!」

『……うん。また』

 

 

 

 

 

 

 

 ……薬は、

 

 簡単に人を、殺す。

 

 下剤もそう。分量や成分の些細な違いだけでも、人は直ぐに死んでしまう。

 頑張って作った毒を、伊藤くんに打ち込んだとして。僕がひと押し間違えただけで。

 

 彼の、命は。

 

 それでもいいと思っていた。そう思うに足る仕打ちを僕は受けた。

 思い出すたび、もう痛くないはずの額の焼き印が悲鳴を上げるんだ。

 

 でも僕が人を殺すことであの魂が穢れてしまうなら。

 あの暖かい手が空虚に呑まれてしまうなら。

 

 

 僕に人は殺せない。

 

 

 

 ……練習だ。練習をしよう。きちんと決めた成分が出せるように。確かそういう時に役立つ学術論文がネットに…………あった!

 

さー来い澱月、練習するよー。

あ、撫でてほしいの?よしよしかわいいねーがんばろーな!

 えー最初は……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『んっ……ぅ? 朝…? 眩し……』

 

ここは……僕のベッドか。今何時だ…? 携帯携帯……

 ん、7時半くらいか。しばらく学校行ってないのにこの時間に起きちゃうのは微妙な気持ちになるわ。

 昨日遅くまで精製の練習をしてて、試しに自分に打ってみたらそのまま寝ちゃったみたいだな。

 母さんももう起きてる時間。でも今日はやけに家が静かだ。

 おかしいな、いつもなら楽しそうに朝ごはん作ってる音が聴こえるんだけど……昨日随分飲んでたし二日酔いでダウンしてるのかな?

 仕方ないから今日くらいは僕が朝ごはんを作ってあげようと思い立ち、携帯を持って階段をゆっくり降りる。

 鼻歌を歌いながらリビングのドアを開けた僕の目に映ったのは、

 

 

 

 

 

あ、れ? 母さん?

 

なんで床で寝てるの? 血も出てる、どこかに引っかけたの?

 

ダメじゃんか、ちゃんとベッドで寝なくちゃ。

仕方ないから運んであげよう。あとで床も掃除しないとな。

 

母さんってこんな軽かったっけ?

まぁいいや、ベッドに寝かせて、傷の手当てしよう。ついでに体の汚れも拭いてあげないと。

 

腰のあたりが特に酷いな。うちに包帯なんて大層なものはないし、血を止めるなら冷やすとかかな。保冷剤だけじゃ足りなそうだし氷嚢も作ろうか。

 

腰の位置にあるだけの保冷剤と氷嚢をあてて、布団を掛ける。

早く目ぇ覚ましてね。

 

さて、掃除に行かなくちゃ。部屋を出る前に、母さんの冷たい手を握った。

 

 

 冷たい、手。

 

 俺の作った氷嚢なんかより、ずっと、ずっと、

 

 

……あ。あ、あ。ああ、ああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!

 

 

 

 

「……順平?」

 

 

『っ…………ま、ひと…………さん……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──────────────────────

 Side:Y

 

 

 里桜高校に"帳"が降りたって報告を聞いて、居てもたってもいられなくなった。

 

 あそこに、ナナミンが戦った呪霊がいる。人の命を文字通り弄ぶ、腐った奴。

 

 止めなくちゃいけない。これ以上あの理不尽な死に誰かを襲わせないために。

 その一心で走り続けた。

 

 ようやく学校に着いて、その勢いのまま"帳"に突っ込む。真っ黒な世界の境界線は、存外すんなりと俺を通した。

 生徒がいないほうがおかしい時間帯なのに、不気味なほど音がしない。

 けど少しして、耳がかすかに音を拾った。男の叫び声。体育館のほうからだ。

 

『っそっちか!』

 

 1人でも多く、救ける。

 力任せに引き戸を開けたその先には、倒れ込んでいる大勢の生徒たちと、

 

 

 壇上で人を虐げる、順平の姿。

 

 

『っ何してんだよ!! 順平!!』

 

「……引っ込んでろよ、呪術師」

 

 

 

 

 

 

 

 順平が学校を襲っている理由は分からない。けど、人を害しているなら止める。話を聞くのは、それからだ。

 でもなかなか思うようにいかない。逕庭拳で沈めようとしても、順平の術式であろうクラゲの式神の中に入られると打撃が効かないみたいで厄介だ。

 

「もう一度言う。引っ込んでろよ呪術師!!

 関係ないだろ!!」

『それはオマエが決めることじゃねぇ!!』

「無意味な救済になんの意味があるんだ……

 

 命の価値を穿き違えるな!!」

 

 順平の叫びと同時に式神の触手が一斉にこちらに伸びて俺の体を包む。そのまま色んな箇所を刺してくるけど、不思議と毒が回る感覚はない。

 

「人間の感情……心は、全てまやかしだ。そんなもので僕を縛るな!!

 そこで寝ててよ、僕は戻ってやることがある」

 

 またさっきのアイツをボコりに行くのか。それとも倒れてる皆をやるのか?

 

 そんなことさせねー。絶対止める。

 

『誰に言い訳してんだよ』

 

 離れようとする順平の襟首を掴んで窓の外にぶん投げて、俺も続いて外に出る。

 順平は式神を使って上手く受け身を取ったあと、着地寸前の俺の足目がけてクラゲの針をよこしてきた。それを拳の衝撃で弾いて、今度こそ順平をぶん殴る。

 

『……順平の動機は知らん。何か理由があるんだろ。

 でもそれは本当に、あの生活を捨ててまでのことなのか?

 

 人の心がまやかしなんて、あの人の前で言えんのかよ!!』

 

オマエ、笑ってたじゃんか。酔って絡んでくる母ちゃんの隣でバカみてぇに、幸せそうに笑ってたじゃねぇか!

オマエがそっち側に堕ちちまったら、取り残されたあの人はどうなるんだよ!!

 

「…人に心なんてない」

『オマエっまだ』

「ないんだよ!!

 

 そうでなきゃ……そうでなきゃ!!

 

 母さんも僕も……

 人の心に呪われたって言うのか。

 

 そんなの…あんまりじゃないか……」

 

 

……は?

 

 呪われた? 順平と、あの人が? 順平が人を襲ってるのは、それが理由なのか?

 

 そんな、泣きそうな顔で……

 

 考えがぐるぐる回ってまとまらない。そうしている間に順平がまた式神を呼び出して、俺に針を飛ばしてくる。

 さっきより全然遅い、楽に避けれる。

 でも、俺は。

 

 

 ドドッ

 

 

「なっ……

 なんで避けないんだよ……」

 

 けっこう際どいとこに刺さった。イテェ。

 流れ落ちる血もそのままに順平に歩み寄る。

 

『ごめん。

 何も知らないのに偉そうなこと言った。

 何があったか、話してくれ。

 

 俺はもう、絶対に順平を呪ったりしない。

 だから……!!』

 

 俺の言葉に俯いた順平は、少ししてぽつぽつと話し出した。

 

「……母さん、が……呪いに…殺されたんだ……

 

 ……腰から下が…なくなってた……

 

 体も、血も……何もかも冷たくて………

 

 …僕が、気づいてあげられなかったから……」

 

 

 

『そんな……母ちゃんが……』

 

 俺があの時、そばにいてやれば……

 いや。今はそんなこと考えてる場合じゃねぇ。

 

『……順平。

 高専に来いよ。

 

 バカみてぇに強い先生とか、頼りになる仲間がいっぱいいるんだ。

 皆で協力すれば順平の母ちゃんを呪った奴もきっと見つかる。

 必ず報いを受けさせてやる。

 

 一緒に戦おう』

 

「…虎杖君……」

 

 そう言った直後、順平の奥にある階段から何かが降りてきた。なんだコイツ……人…?

 ……いや、違う!

 

『誰だ』

「はじめましてだね、宿儺の器」

 

 つぎはぎ顔のソイツは薄ら笑いを貼り付けて、自らの腕を変形させていく。そしてそれを俺めがけて飛ばしてきた。

 

 っやべぇ、避けきれ……

おわっ!?

 

 

バガッ!!

 

ゴロロッ、タッ……

 

 

「……順平、何するんだい?」

 

「……あぁ。さっきぶりだな、真人さん……いや真人」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 Side:J

 

 

 

 

 窓に叩きつけた左腕を元の形に戻しながら、真人は不服そうな目で僕を見る。僕が虎杖君の服を引っ張って救けたことがよほど気に食わなかったらしい。

 

「いきなり呼び捨てとは酷いね。

 そいつは君の計画を邪魔する敵のはずだろ? 庇う理由がないじゃないか。

 それとも、あれくらいの説得で揺らぐ程度の復讐心だったのかな」

『はは、まさか。至って健在だよ。むしろさらに燃え上がってる』

「じゃあなぜ__」

 

「っ順平逃げろ!!相手なら俺がする!!

 コイツとどんな関係かは知らん!!

 けど今は逃げてくれ、頼む!!」

 

 真人の声を遮って虎杖君が僕に叫ぶ。混乱しながらも健気に人の命を守ろうとしているのがわかって、胸が熱くなる。

 

『大丈夫だよ虎杖君。少し待って。

 詳しい説明は後でする。だから……落ち着いて、聞いてね。

 

 アイツが、母さんを襲わせた、張本人なんだ』

 

「!!」

「あれ、気付いてたんだ?

 上手く騙せたと思ってたんだけどなー。ちょっとショック」

『あんな杜撰な運びでか。正直動機づけがあからさますぎて笑えたんだが』

 

 拙いながらも戦う術を身につけた途端にこんなことが起きるなんて都合が良すぎるだろう。

 案の定固まった虎杖君を横目に、真人と会話を続ける。

 

「百歩譲って気付いたのはいいとして、なんでその時俺に襲いかかってこなかったの? 普通憎い相手が目の前にいたら殺すでしょ」

『殺せる状況下だったら僕だって殺してた。腹立たしいが、僕ひとりじゃオマエに敵わない』

「だから騙されたフリしてずっと機会をうかがってたって? イカれてるね」

 

 そうだ。学校を襲ったのも虎杖君と戦ったのも、生き延びる道を見つけるための時間稼ぎ。この会話だって例に漏れない。

 例え今この瞬間には逃げられなくても、いつかの一瞬のために。

 

『……単に僕に絶望を与えたいだけならその場でバラせばいい話だった。

 それをしないでわざわざ行動を促すってことは、目的は僕じゃない。

 それが今わかった。

 虎杖君だろ? 僕を使って、彼をどうこうしようって考えてる』

「……え」

 

 自分の名前が出てあからさまに動揺する虎杖君を片手で制す。気持ちはわかるが今は耐えてくれ。

 

「へぇ、そんなことまで分かってるんだ」

『生憎と腹のドス黒いクズの考える事なんか、前に嫌というほど思い知ってるんでな』

 

 例の手柄横取り事件とかな。

 

「ふぅん。意外だな、君って結構馬鹿だと思ってた。それこそ君が馬鹿にしている人間のその次位にはさ」

 

『……馬鹿かって?

 あぁ馬鹿だ、馬鹿だとも。

 僕が……俺が考えなしに、オマエなんかについて行ったから……

 軽率に自分の心の内を……大切なものを他人に晒したから……

 俺のせいで母さんが……っ!!』

 

 あぁ、ダメだ。時間稼ぎをしなきゃいけないのに。冷静にいなくちゃ、ダメなのに。

 

 グツグツと沸き立つ憎しみが、抑えられない。

 

『……だから。

 せめてオマエだけは殺す。

 手にかけるのは俺じゃなくてもいい。手段に固執して取り逃がすなんて冗談じゃねぇ。

 

 その代わり、絶対に……

 

 オマエだけは……ブッ殺してやる……!!!』

 

 澱月を呼んで、視界の邪魔にならない程度に前に出す。いざとなったら後退できるように、ジリジリと窓の外へのルートを確保する。

 

「敵わないって分かってるのに俺と戦うんだ?

 あは、ウケるね。それじゃあお望みどおり__」

 

 来る。そう思った直後、真人目がけて何かの影が飛んでいくのが見えた。

 

 

ゴガァッ!!

 

 

 真人の体が吹っ飛んで、階段の上の踊り場に着地する。さっきまでアイツが立っていた場所には虎杖君が立っていた。彼がアイツを殴ったんだ。

 

「……変わった打撃だね、面白い。

 けど全然効かないよ。

 魂の形を___っ!?」

 

 余裕そうなアイツの顔が、自身の怪我に気付いた途端に驚愕の色に染まる。が、すぐにニヤつきを取り戻した。

 

「……なるほど。知覚しているのか」

 

 知覚? 何をだ……?

 ただの鼻血にあそこまで驚くってことは、普通の攻撃はアイツには効かないのか?

 でも虎杖君の攻撃は効く……普通はわからない「何か」を知覚しているから……?

 

「……順平」

『っ何?』

「正直さ、オマエとアイツの話聞いてても……何がどうなってんのか全くわかんねー。

 だから、これだけもっかい確認させてくれ。

 

 アイツが、あの人を殺したんだな?」

『……あぁ』

「それだけわかりゃじゅーぶん。

 

 2人でアイツ、ブッ殺すぞ」

 

 怒って、くれている。俺たち家族のために。

 

「"祓う"の間違いだろ、呪術師」

「うるせぇ黙れ」

 

 言葉と同時に虎杖君が再び殴りかかり、それを真人が飛び上がって避ける。

 2人の後を追って階段を上がると、ちょうどアイツの手が彼に触れようとしていた。咄嗟に針を飛ばしてその手を弾き、虎杖君が後退する時間を稼ぐ。

 

『アイツに近づきすぎるな!!

 アイツは触れた相手の魂をいじって改造する……

 そのために使うのはおそらく「手」だ!!』

 

 アイツに術式を教えられた時、アイツは俺の頭を手のひらで触ってた。おそらくあの時に俺は魂を少しいじられてる。

 

「応!!

 任せろ、グチャグチャに叩き潰す……!!」

『俺もサポートする!!』

 

 やり取りが終わるが早いか、真人が鞭状の刃をこちらに振るってくる。澱月を前に出して、それが斬れることで見えた斬撃を避ける。勢い余って外に放り出された体を再び出した澱月で覆い、着地の衝撃を和らげた。

 間髪入れずに飛んでくるドリルを避けきれず、脇腹の肉を抉られる。

 痛みで思わずその場に伏せるも追撃は来ない。虎杖君がアイツの相手をしてくれているようだ。

 

 正直体力がある方じゃない俺にとってはここまででもうかなりキツいし、虎杖君だって俺との戦闘で怪我を負っていて優勢であるとは言えない。

 だけどあの空にある黒い膜ができてから結構時間が経ってる。いくら虎杖君が来たとはいえ、急な事態に応援が来ないなんて有り得ない。

 せめてそれまでは、俺も全力で……!!

 

 そう思って顔を上げた先に見えたのは針で体を貫かれる虎杖君の姿。それも俺が澱月で刺した場所を的確にやられている。

 次いで、掌が彼の胴体に触れる。

 

改造される。

 

 脳裏に浮かぶ結末に絶望したが、予想に反して何も起こらない。

 目を見開いたまま動かない真人の顔を虎杖君が掴み、頭突きを食らわす。続けて何度も攻撃をするのが見える。

 

違う!! 違うんだそれは……!!

 

 彼の後ろに立つ本体に澱月を飛ばすが、間に合わない。そのままアイツの腕が振り抜かれ_____

 

 

ギィン!!!

 

 

「ナナミン……!!」

 

 突然現れた明るいスーツ姿の男が、アイツの腕を折って攻撃を逸らした。誰かは分からないが、虎杖君を庇ったみたいだし彼の仲間だと見ていいだろう。

 

「説教は後で。現情報告を」

「……ひとり救けられなかった」

「あそこにいる吉野順平は」

「アイツは被害者だ、敵じゃない!」

「……分かりました」

 

「なんだ、ピンピンしてるじゃん七三術師。

 お互い無事で何よりだね。

 ハグでもするかい?」

 

 彼はアイツの鼻血を見て目を見開いた。真人の言葉から、戦ったことのある相手だとわかる。

 

『虎杖君の攻撃はアイツに通ります!!

 改造もたぶん虎杖君には効かない……!!

 俺は攻撃はムリだけど、サポート位なら……っ』

「!!

 ……いえ、それよりも自分の身を優先して下さい。

 私たちが、ここで確実に祓います」

『……はい』

「虎杖君。私の攻撃は奴には効きませんが、動きは止められます。理由は説教の時に。

 

 行きますよ」

「応!!」

 

 虎杖君の返事を合図に、再び戦闘が始まる。速い。俺なんかが入る隙なんてないほどのスピード。

 澱月で麻酔成分を精製し、希釈して傷口に打ち込む。効くのを待って、なんとか立ち上がることができた。

 

 なるべくアイツから距離を取らなければ。近くに俺がいたら、万が一アイツが手を伸ばして来た時ににどうすることもできない。

 手駒にされるのだけはダメだ。虎杖君は優しいから、きっと俺を盾にされたら攻撃できない。唯一攻撃の通じる彼を封じられたら終わりだ。

 反対方向に動き出してすぐ、後ろから何かが近づく気配がした。走りながら振り向くと、2体の改造人間が俺の後を追いかけていた。

 追いついた1体に傷のないほうの脇腹を蹴られて校舎の裏に倒れこむも、すぐに体勢を整える。

 

『っ痛……クソッ、ここじゃ……!』

 

 すぐに戻らないと危ない。ここにいちゃ、校舎が邪魔でアイツが近づいてきても気づけない。アイツを視界に入れられる位置にいないと……!

 蹴ってきた小さめの1体を澱月の触手で弾き飛ばし、もう1体に向かって針を飛ばす。……が、刺す直前に一瞬針が止まり、その隙に避けられてしまった。前後から来る打撃を澱月で無効化する。

 

 分かってる。真人にとって人間は使い捨ての駒、大事になんてしない。だから、一度放たれた改造人間はきっと死ぬまで止まらない。彼らから逃れるには、殺すしか。

 ……けれど。頭ではそうだと分かっていても。体が、「心」が拒絶する。

 

 ようやく実感した。これが、「人を殺す」ってことなんだと。つい最近まで重く受け止めていなかった自分が馬鹿みたいだ。

 

彼らは、まだ生きてる。手にかけるなんてそんなこと、俺には____

 

 そこまで考えて。ふと、思った。

 

 

 彼らは、まだ「生きている」のではない。

 まだ「死ねていない」のではないか、と。

 

 

 脳裏をよぎったのは、下半身しかなくなって(・・・・・・・)いなかった(・・・・・)母さんの死体と、床一面に広がった血。

 母さんはきっと、すぐには死ねなかった。今ある俺の傷なんか目じゃないくらい痛くて、辛くて。苦しんで苦しみ抜いた末に亡くなったんだと思う。

 

 目の前の彼らも、同じだ。アイツにいいように使われて、いつまでも苦しみから逃れられない。

 ならば。

 

『……遅くなって、すみません。

 今、終わらせます』

 

 母さんは救えなかった。だからせめて、この人たちだけは、もう苦しまないように。

 たとえその命の重みが俺を押し潰そうとも。

 もう、迷わない。

 

 小さめの1人の攻撃を澱月で受け止め、触手で包み込んで毒を流す。そしてその隙を狙って反対側から向かってくるもう1人の拳をギリギリで避ける。

 直後、頭の陰に隠して飛ばしていた針がもう1人の顔に突き刺さった。そのまま地面に落とし、貫通させる。

 小さめのほうも充分な頃合だろう。ゆっくりと触手を解き、念の為最後に針を胴体に刺す。小さな体がビクンと大きく震えたあと、動かなくなった。

 

 それを確認した瞬間、どっと体が重くなる。心臓の音が頭に響き、全身から汗が吹き出してくる。力が抜けて、その場に膝をついた。

 

『っはぁ、ハァ……ッ!!』

 

 手に残る、頭を潰す感覚。式神越しに伝わってきた生々しいグチャリとした感触に、指先が戦慄く。

 

『……俯いてちゃ、だめだ……

 早く、行かねぇと……!』

 

 ガクガクと震える脚に喝を入れ、校舎裏から出て虎杖君たちのいるであろう場所に向かう。しかしそこにいたのは大きな黒い球体と虎杖君のみで、その彼は必死に球体の表面を殴っていた。

 

『虎杖君!?

 何がどうなって……残りの2人は!?』

「っ順平!!

 ナナミンが、アイツに閉じ込められた!!

 このままじゃナナミンが……!!」

 

 泣きそうな顔で球体を殴る虎杖君を見て、現状が如何に悪いかを悟る。

 この球体の中に2人が……っそうだ!

 

『やるなら一点集中だ虎杖君!!

 そのまま殴るより澱月の針を使ったほうが効率がいい、針を当てて裏側から殴るんだ!!』

「、わかった!!」

 

 虎杖君の力じゃ針のほうが長くもたない。出して壊す、出して壊すの繰り返し。澱月が壊れるたび俺にも僅かにダメージが入るがそんなことは今どうでもいい。

 幾度目かのそれで、遂に表面にヒビが入った。彼と目を見合わせて頷くと、彼が大きく振りかぶって渾身の一撃を放つ。

 

 

バリンッ!!!

 

 

 彼の拳が球体を突き破り、同時に彼が中に入った刹那黒い球体が消える。

 現れたのは、驚愕の表情を浮かべる呪術師2人と、肩に大きな傷を負った仇敵の姿。

 

 最初に動いたのは虎杖君だった。跪く真人に向かって走り出し、拳を振り上げる。

 直前に風船のように大きく膨らんだアイツは拳が当たった瞬間弾け飛び、それと同時に素早く排水口に逃げ込んだ。それをスーツの彼が追うが間に合わない。

 僕も動きたかったが、球体を壊す段階で澱月に食らったダメージが予想以上に蓄積していて、再び地面に膝をついてしまっていた。

 空を覆っていた膜が消える様子と、スーツの人が携帯で連絡を取っている姿が目に映る。

 

「猪野君、本丸が排水口から逃走しました。

 虱潰しにお願いします、今なら君でも祓える。

 

 私達も追いましょう」

 

ドサ

 

「『虎杖君!!』」

 

 動かない体を引きずってなんとか倒れた彼の傍へ行く。

 俺の毒が今になって効きだしたのかもしれない。それなら、毒を呪力に戻すことができれば……

 やり方を探ると同時に彼の手当ても並行して行なっていると、七三の彼が俺に向き直った。

 

「……仕方ない。

 吉野君、私は七海といいます。

 これからあの呪霊を追ってここを離れますが、その代わりここに関係者を呼びます。

 彼と一緒に高専に行ってください。それまでの間虎杖君のことをお願いします。

 良いですか?」

『……俺を、疑わないんですか?

 誰もいない隙に彼を殺したっておかしくないのに……』

「はっきり言って今の君は脅威たりえませんので。

 それに今は疑う暇も惜しい」

『……わかりました。

 よろしくお願いします』

「それはこちらの台詞です、では。

 

 ……もしもし伊地知君ですか、すみませんが……」

 

 携帯を片手に足早に去る背中を横目に、手当てを再開する。

 彼の体には無数の穴が空いていて、毒のことを抜きにしても酷い状態だ。せめて表面だけでも傷を塞がないと、失血死も充分に有り得る。

 学校の保健室に向かい、消毒用セットと大きな絆創膏、包帯を持って戻る。苦しそうに息を吐く彼の服を上だけ脱がせ、応急処置を施す。

 うつ伏せに倒れていた姿が、母と重なる。

 

 死なせてはいけない。他人をどこまでも思いやれる彼を。俺たち家族のために怒ってくれた、優しい彼を。

 

『……死なないでくれよ』

 

 しばらくして、黒髪で眼鏡をかけた男性がこちらに近寄ってきて、伊地知と名乗った。さっきスーツの人……七海さんが言っていた名前と同じ、この人だ。

 虎杖君を後部座席に横たえて俺は助手席にお邪魔する。高専……虎杖君の学校へ移動するらしい。

 

『っい゛……ぅ、あ゛……』

「吉野君、どうしました? 吉野君!?」

 

 車が発進してすぐ、鋭い痛みが脇腹に走った。虎杖君の処置に夢中で自分の怪我を忘れていた。

 安心したのか麻酔が切れたのか。

 痛みに耐え切れず、伊地知さんの困惑した声が遠ざかるのを感じながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと意識が浮上する。ぼんやりとした視界の中、消毒液の独特の匂いを感じ取る。次いで、誰かの話し声を耳が拾う。

 徐々に視界がクリアになって、辺りを見回すと僕の横たわるベッドの傍で話す男女が目に映った。片方は七海さんだ。

 少しして女性が僕の視線に気づき、こちらに向き直る。

 

「おはよう。自分の名前はわかるか?」

『……吉野順平、です』

「よし、ちゃんと起きてるな。私は家入硝子だ、高専の校医をしてる。ここは高専の医務室だよ」

『高専……っそうだ、虎杖君は、っいだ…っ』

 

 慌てて飛び起きた瞬間、頭に鈍い痛みが走った。それを見て家入さんが僕の肩を押して再び寝かせる。

 

「急に起き上がるな。丸一日寝てたんだ、無理は禁物だぞ。

 虎杖ならピンピンしてる。私の使う「反転術式」で傷を治して、自分の修行に戻ってるよ」

『そっか、よかった……』

 

 そういえば脇腹が痛くない。違和感もないし、反転術式ってすげぇな。というか僕丸一日も寝てたのか……それだけ体力使ったってことかな。

 脇腹をさすって感嘆していると、七海さんが口を開いた。

 

「失礼、吉野君。

 君は一連の事件の重要参考人であり、容疑者でもあります。そのため、君の疑いを晴らすためにも今回の件について聴取を行いたいと思っています。

 なるべく早く……君さえ良ければ今から始めたいのですが、どうですか?」

『……大丈夫です。

 始めましょう』

 

 真人との出会いや会話内容、学校を襲うまでの経緯など、覚えている限りのことを七海さんに話した。途中虎杖君の事情を彼から少し聞いて驚く。

1回死んで生き返るって……

少年漫画の主人公だってそう経験しないだろうに、もうなんかやべぇな…

 

「これくらいで充分でしょう。

 ありがとうございました」

『こちらこそありがとうございました。

 僕も色々わかって助かりました』

 

 でも、七海さんはまだ何か聞きたそうな顔をしてる。少しの逡巡ののち、言葉が紡がれる。

 

「……これは、私個人の疑問なのですが。

 君は真人に心酔していたはずです。

 どうして母親の仇を、正しく理解することができたんですか?

 恨みのある者の中に犯人の候補になる人物がいたのなら、尚更何故……」

 

 それを聞いて、少しだけ考える。

 七海さんの疑念はもっともだ。どうして僕は真人の犯行を見抜くことができたのか。伊藤くんたちが犯人だと思っても、充分筋は通るはずだ。

 

『……うまく、言えないんですが。

 

 たとえば、小さな子どもは、蟻で遊びますよね。踏み潰したり、捕まえて足をちぎったり……。でも蟻の巣の近くに毒を置いて、次の日に全滅した蟻たちを見ても、きっと楽しくない。

 僕をいじめていた子達も、それと同じでした。彼らは確かに僕を、人を害することを楽しんでいましたが……その手段はほとんどが単純で気まぐれ……ある意味で子どもらしいとも言えるものでした。

 そんな彼らが、今回のような……人を呪い殺すなんていう、間接的にしか知ることのできない人の不幸を楽しむ様子を、僕は想像できなかった。

 

 彼らのもつ醜悪さが、そこまで発達しているようには思えなかったんです』

 

 呪霊を呼んだのが彼らだったなら、きっと僕も襲われていた。お気に入りのおもちゃを自分の手で壊すほど彼らは馬鹿ではないだろう。

 Gの一件を考えつくあたり、呪い殺す方法の一つや二つ知ってても驚かないけどね。

 

「……君は、彼らをまるで年の離れた子どものように扱うんですね。

 遥か上から彼らを冷静に見ているような……

 そのせいか学生と話している気がしませんね。

 一回り近く離れているのを忘れそうです」

『ありがとうございます……?』

 

 まぁ中身はおっさんだしな。前世は七海さんと同じくらいの歳の時に終わった気がする。

 会話が途切れたタイミングを狙ってか、家入さんが話し始める。

 

「あ、そうだ。吉野、君は今回の件で呪術が使えるようになっただろう?

 そのために、呪術師の学校である高専に転校してもらうことになった」

『ここに、ですか?』

「あぁ。といっても、素人故に虎杖たちと同じ1年生からのスタートになるが。

 申しわけないが、決定事項だ」

 

 マジか。いや虎杖君と同じとこに通えるのはいいんだけど、なんか留年したみたいで複雑な気持ちになる。

 

「安心しろ、手続きとか諸々はこっちで済ませるし、入学は君が充分に回復してからにする。

 

 その前に、お別れができたほうがいいだろ」

 

『……え』

 

 それは。

 

「地下の安置室に移動させてある。

 本当はあまり動かないほうがいいんだが、気になるだろ。行くぞ」

『っ、はい!』

 

 廊下を突き当たりまで歩き、安置室に繋がるであろう階段を下る。七海さんはこれから人と会うようで、医務室を出た後反対方向に行ってしまった。

 階段を降りた先にある無機質な扉をくぐり中に入る。無数の台と袋の中、1番奥に、母さんはいた。

 

 綺麗に整えられて台に横たわる母の身体。

 下半身のあった場所にはシーツがかけられていて、その上で緩く指を組んでいる。顔の白布の下には、青白く、でも酷く穏やかな表情があった。

 ただ、眠っているだけなのではないか。そう勘違いしそうになる僕を、不自然に台に広がるシーツが現実に引き戻す。

 

『……母さん』

 

 ゆっくりと指を解いて、冷たい手を、握る。

 

 あの時僕は仇敵の存在を前に、無理やり事実を飲み込むしかなかった。

 身を守るために、仇を討つために。押し寄せる悲しみや喪失感を憎しみに変えて、なんとか体を動かしていた。

 

 けれど。刻一刻と状況の変化する戦いの場で心を動かす隙もなく、どこか母の身に起こった出来事を理解しきれずにいる自分にも気付いていた。

 

 今、もう一度母さんに触れて。

 ようやく胸に落ちる。

 

 もう、この手に温もりが宿ることはない。

 無遠慮に僕の頭をかき撫でた、僕より随分小さいのに頼もしく思えた母の手。

 

 あの暖かさは、もう。

 

 ひとつ、ふたつと雫が台の端に落ちていく。

 家入さんが背中を撫でてくれるのを感じながら、ただひたすら涙を流した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……もう、大丈夫です。

 ありがとうございます、家入さん』

「そうか? もう少しいてもいいぞ」

『……いえ、もうだいぶ落ち着きました。

 って、床びちゃびちゃにしちゃいましたね……』

「これくらい大丈夫だ、ほっとけば乾くしな」

『えぇ……』

 

 それでいいのかお医者様よ……

 身体中の水分総動員したのかってくらい泣き尽くした僕がツッコむのもおかしな話だけどさ。目が腫れに腫れてるのを感じるわ。

 

「じゃあちゃっちゃと今後の予定発表するぞ。

 死亡手続きと火葬は明日やるとして、今日はこの後高専での君の担任になる「五条悟」って名の教師に会いに行く。

 腫れた目が気になるなら洗う場所寄ってからにするが、どうだ?」

『あ、お願いしたいです』

 

五条先生、か。どんな人だろ。

 

 安置室を出る前、少し立ち止まって振り返る。

 母の姿を捉え、心の中でお別れをする。

 

 

 バイバイ母さん。僕、ここで頑張るから。きちんと生きていくから。だから、安心して天国に行ってね。

 

 

 そう告げて再び歩き出す。

 もう涙は出なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ん、そういえば」

 

 手洗い場で洗った顔を拭いていると、家入さんが思い出したように声を上げた。

 

「君、虎杖が来る前に学校関係者を式神の毒で沈めてたろ。

 私がその子らを診たんだが」

『えっはい。あの、なにかまずいことでも起こったんですか……? 後遺症とか……』

「いや。むしろ逆だ、呪術を使った痕跡は残っていたがそれだけだった。ひとり外傷の酷い生徒がいたが、そいつは呪われた様子はなかったしな。

 ただ呪力を毒に変えただけのものではこうはならない。君はあの時一体何をしたんだ?」

 

 何をと言われても困るんだが。外傷うんぬんの子は伊藤くんのことだな、結構ボコボコにしたし。

 

『えっと、彼らに打ち込んだのは、一般的な点滴タイプの睡眠導入剤に含まれる有効成分と似たものです。練習して、試しに自分に打ってみて大丈夫だったので使いました。

 それ以外は特別なことは何も……』

 

 前世では研究・開発部門ではなかったけど、仕事場が仕事場だったからそういう類の書類は見飽きてたし、何なら研究してるとこ見さしてもらったりしてたから大丈夫だろと思ったらイケた。

 まぁ前の生なんて突拍子のない話、信じてもらえないだろうからなんか聞かれても誤魔化すけど。

 

「……そうか。

 

 なぁ吉野、君、私の助手にならないか?」

『……へ?』

 

ジョシュ?

 

「呪術界でも治療を生業にする者は数少ないんだ。

 その中でも私は特に珍しい術を使って他人を治しているから、出張で高専を空けることも多くてね。その間ここがフリーになるのが気がかりだったんだ。

 故に、私の不在を任せられる優秀な治療師を拾ってくるか、育てることも視野に入れていた。

 

 そんな時に起こったのが今回の事件だ。君には悪いが、運命だと思ったよ」

 

 そう言って僕を見る家入さんの目は、心なしか希望を宿しているように見えた。

 

「一般的な治療において恐れるべきことは治療道具の不足だ。しかし君の術式と精製技術をもってすれば、少なくとも薬関係の資源の問題はほぼクリアできると言っても過言じゃない。

 君の精製に関する才能がどこからくるものなのかは私にはわからないが、これだけは間違いない。

 

 その力をきちんと磨けば、君は間違いなく、多くの命を救う優秀な治療師になれる。

 

 ……と、いっても無理強いするつもりはないし、決断は今でなくとも___」

 

『なります』

 

「___今でなくともいいんだぞ。

 もちろん本来の授業や任務との調整は行なうが、それでも他の生徒よりやるべきことは多くなる。

 かかる負担は軽くないよ」

『……それでも、やりたいです。

 虎杖君が倒れた時、正しい処置がわからなくてとても悔しい思いをしました。

 もうあんな思いはしたくない』

 

 僕がそれを学ぶことで、彼や彼の仲間を助けることができるなら。

 ……母のような悲しい死の被害者を、ひとりでも救うことができるなら。

 

「……そうか。ありがとう。

 

 あ、そういやアイツを待たせてるんだった」

『アイツ?』

「君の担任」

『アッ』

 

一大事だ、早く行かないと……!!

 

「まぁアイツのことだからきっと大丈夫だ、急がず行こう」

『えぇ……(2回目)』

 

 本当に急がなかったからハラハラした。

 

 

「さ、ついたぞ。

 この扉の向こうに五条がいる」

 

 立ち止まって道を開ける家入さん。自分で入れってことかな。

 

 さすがに緊張する。だけど七海さんも家入さんも、高専の人たちは皆いい人だったからきっと五条先生もそうだと思う。

 

 意を決してドアノブに手をかけ、扉を開ける。その先に待っていたのは_____

 

「七海ィなんか面白い話してぇ〜〜。

 よし分かった! じゃあ廃棄のおにぎりでキャッチボールしながら政教分離について語ろうぜ」

「おひとりで。

 それより五条さん、吉野君が来てます」

「マジかほんとだ!

 ハジメマシテ吉野順平クン!!

 僕が君の担任になる五条悟、ご覧の通りミステリアスなGLGだよ!

 よろしくね!」

「五条落ち着け、吉野が引いてる」

「えーなんで、事実でしょ??」

「そういうとこですよ五条さん」

 

 

ごめん、母さん。

 

やっぱ無理かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 END

 




一人称の揺れが上手く表現できなかったことにがっくり。
ちなみに抑えきれない心の声的なのは段落字下げがなかったりする。

原作の順平くんは残酷さを知っていても狡猾さは知らなかったんじゃないかな。ニセモノの狡猾さを掴まされて、さいごのさいごにホンモノに食い殺されて。
熟慮は手の込んだ料理みたいなものだと思う。いくら料理上手でも、持ってない材料が必須な料理は作れないからなぁ。

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