タイトル通りですがここから同面白くしていくかは出来たのですが書きたいことからずれるので供養

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ごめんな

子供が風邪をひいた時に見る夢みたいだ、目前の少女の周囲を覆う力の奔流を見て興梠颯斗(こおろぎはやと)はそんな風に思った。もしかしたら死ぬかもと。

走馬灯と言うのは思ったより昔のことを思い出させてくれはしないようで、なぜこんなことになったのかというそんな現状の解決にはならないことが颯斗の脳裏を巡った。

 

超能力について颯斗が知ったのは13歳の中学校になる前だった。

 

皆と同じように公立の一番近い二中に通うのだと思っていた颯斗の家に訪れたのは超能力学校『ミアカシ』中等部への入学許可証だった。A3サイズの大きな封筒に入っていたそれを最初は真剣に受け取っていなかったし、名前さえ書けば受かるという颯斗の地域で伝説の高校のようなどこにも行けないけど高校は出たいという人間の受け皿なのかと思った。颯斗の親はそれでも一応目を通したみたいだがその日のうちにキッチンにある大きなゴミ箱に捨てられていた。

 しばらくして、そんな封筒が来たのも忘れて二階の自室で二中の制服と鞄のサイズを注文用紙に記入していたときにピーン、と颯斗の家の呼び鈴が鳴った。

 玄関を開けたのは母だったし、用件を聞くのはいつも母か父なので来客のことを颯斗はもう済んだものだと思った。一時間もしたころだろうか、階下から「颯斗―!」と母が呼んだ。

 声に応じていたに降りるとリビングには母と来客であろうメガネをかけたスーツの男が座っていた。まだ帰っていなかったのかと颯斗は思った。とりあえず母の隣に腰かけると母が口を開く、母の表情がどんな顔をすればいいか分からないからとりあえず厳格な顔をしているというのが颯斗には伝わった。

 

「この人は超能力学校の校長先生」

「どうも西渡というものです、こんにちは彰人君」

「? こんにちは」

 

 一瞬かかったが、ああ、あの封筒の学校かと颯斗は思いすことが出来た、なぜここに言うのかは分からなかったが。

 

「難しい話は既にお母様としたから彰人君には単刀直入に言おう。彰人君、君はウチの学校に入学することになった」

 

 颯斗はとっさに母の顔を見た。母の顔は先ほどと変わらず厳格な表情から変わっていなかった。そのことが余計颯斗を困惑させる。

 

「ええと?」

「いきなりそんなことを言われても困るのは分かっているし申し訳ないと思っている」

 

 西渡と名乗った校長が言うように颯斗は困ってはいなかった、颯斗はまだそこまで理解が及んでいない。颯斗の脳内に浮かぶのは何故?という思いだけだ。

 

「颯斗、颯斗は超能力者なんだって」

 

 西渡の話を引き継ぐように母が言う。

 超能力者。それが何を意味するのかは13年間漫画やゲームの先進国日本で生きてきた颯斗には簡単に理解できる言葉だ。それが親の口から出てくるとは思わなかったが……。

 

「超能力ってあの?」

「たぶん君が想像しているモノで間違いない」

 

 凄く計算が速かったりする知能が高いと言われるギフテッドというものがある。最初颯斗はそっちのことを超能力と呼んでいるのかと思った。ギフテッドの持つ知能だって普通と比べれば超能力と呼べるものだと思ったからだ。それに大人二人が真面目な顔でアニメや漫画に出てくる超能力について話してるとは想像しづらかったのもある。

 

「ドッキリか何かですか?」

 

 だから颯斗の思いは「何言ってんの?」というのが正直なところだ。それに超能力学校?なんの冗談だ。あたりを見回してカメラを探してみる。質問しといてなんだが颯斗は9割ドッキリだろうなと思っていた。だとしたら自分の反応は悪かった、自分のシーンはお茶の間で流れることはないだろうとノリが悪い自分に辟易としながらいつの間に母はこんな段取りを取っていたのだろうと疑問に思った。

 ちらとみた母の表情はまだ変わっていなかった。

 

「颯斗君信じられない気持ちは分かる、けど、これはドッキリではないんだ」

「何言って」

「まあ見ててくれ」

 

 颯斗の話を遮って西渡は掌を上に持ち上げる、それだけで変化は訪れた。テーブルに置かれた来客用のカップに注がれた紅茶が浮き上がったのだ。真球に近い形で浮かび上がった紅茶の塊はスノードームのように中で茶葉が降り注いでいる。颯斗にはこれが手品とはてても思えなかった。

 

「西渡さんこれは?」

「説明しただろう?これが超能力だ。君にも同じ力が宿っている」

 

 そう言われても颯斗には心当たりなんてない。自分だけが知っている特別なことなんてないし西渡が今やっている水を浮かすなんてこと自分が出来るとも思えない。なぜ西渡がこんなに自身を持って自分のことを超能力者と呼ぶのか颯斗には全く分からなかった。

 

「……僕には分かりません、西渡さんのようなことは出来ないし出来る気もしないです、なんで僕が超能力者だって思うんですか?」

 

 何かの間違いで家に来てしまったと言われた方が納得できる。

 

「なんでかというのはね、すごく簡単なことなんだ、君に超能力が見えているからだよ」

「どういうことですか?」

「そのままの意味さ、君のお母様を見てごらん」

「お母さん?」

 

 言われた通りに母に視線を向けると、母は、母は空になった西渡のカップに紅茶を注いでいた。

それを見たときゾッと寒気とも怖気ともいえないものが颯斗の背中を走った。

 注がれた紅茶はまた宙に浮かんだ紅茶の塊に吸い込まれていった、からではない。その塊を母が一瞥もしなかったことでもない。母が、母がまた空になったカップに紅茶を注ぎ始めたからだ。

 目の前で起きている異常に何も言わずそれを起こしている西渡に目もくれずカップに紅茶を注いでいたからだ。まるで認知症のようであったし、プログラムが壊れたCPUのようでもあった。

 

「どういうことですか」

「最初に言っておくけど君のお母様はおかしくなったわけではない、これは普通の反応なんだ。ある事情で超能力を持たない人間には超能力やその現象を認知できないようになっている。たぶん君のお母様の認識では私が何回も紅茶を飲み干したことになっているんじゃないかな」

「……超能力で起きた現象は歪められて、えっと、都合のいい、いや、理解できる現象に置き換えられて認識されるということですか?」

「颯斗君は頭がいいんだね、その通りだ。だからこそ正しく超能力で起きたと認識できている颯斗君は超能力者という証明になるんだよ」

 

 その後、宙に浮いた紅茶を消した(これも超能力で西渡はこちらのが得意らしい)西渡から基本的に超能力者は超能力者学校に通わないといけないと決まっているという事と颯斗のような中学から超能力学校に通うことになるのは珍しく一人だけ居たのだがちょうど今年卒業してしまったという事、学校生活は人間関係で苦労するであろうことを告げられた。母はその辺を特段に心配してくれたのだがそうはいっても通う以外に選択肢はないと突っぱねられ、西渡の颯斗の学園生活のサポートを約束するという言葉に一先ずの溜飲を下げたようだった。

 

春になると颯斗は今までの友人や同級性たちに別れを告げ、たった一人超能力学校『ミアカシ』に通うこととなった。超能力のことは普通の人間には言ってはいけない事になっているらしく颯斗は友人たちのどこの学校に行くのかという問いを誤魔化すのに大変困った。

 

はっきり言ってしまえばそこでの生活は惨めだった。

 

超能力学校に通っている生徒たちは幼少の頃から能力に目覚めていて、少なくとも小学生の頃には自分が超能力者という自覚を持っている。また超能力は一部遺伝するらしく古い血筋の大家なんかも存在していて、そんな中で颯斗は異物でしかなかった。

超能力に目覚めたばかりの颯斗は周りと比べてその分野では落ちこぼれであることを余儀なくされたし、実際聞いた話では超能力者感知センサーなるものが世界には張られていて普通は小学生までに超能力者は引っ掛かるらしいのだが、颯斗は力が弱すぎて今まで分からなかったらしい。揶揄い混じりに言われたことなので本当かどうかは定かではないが颯斗はこれを信じていた。それほど颯斗と周りの超能力の強度には差があった。

 

そして何よりも颯斗を苦しめたのは超能力学校が小中高大とエスカレーター式で既に仲良しグループが出来ていることだった。落ちこぼれがその中に入るというのは大変なことでどうやってもピエロのような役割を求められるので嫌気がさし颯斗はその内人付き合いを辞めた。

そのまま中学卒業まで颯斗は独りで過ごすこととなった。

卒業といっても生徒は引き継がれるしその数も多いものではない、結局高校でも同じ生活が待っていて、達観する颯斗の耳にある噂が聞こえた。

 

超能力を強化する石がある。

眉唾で先生は勿論、話をしている生徒だって信じていないような話だったが、そんなものでも颯斗にとって希望だった。超能力なんていう謎の多く、世間でも認知されていないモノすがれる藁すら希少だ。

だから高校が始まる前の夏休みに颯斗は石を探しに出ることにした。

 

 噂について詳しく尋ねると大抵驚いた顔をされた(自分から話しかけるのが珍しかったからだろうと颯斗は思っている)が次に納得したような顔をされる、これはそんな眉唾の石を本気で探す必要があるのが自分くらいだからだと颯斗は惨めな気持ちになった。

 詳しく聞いたところで何県の何市にあるなんて分かる筈もなく、ほとんどは聞いていて馬鹿らしいと思えるものだったがそんな中でも超能力に反応する石だから近づけば分かるとか超能力者がいない場所にあるから発見されていないなど、颯斗もなるほどと思えるものがあった。

 

 西渡先生にも話を聞いた、これが颯斗が初めて西渡にしたお願いであった。

 

 気を付けるんだよと母や西渡に心配されながらも送り出された夏休み。

都心を離れると静かで穏やかな生活が待っていると思っているのは都会人だけで、真夏のド田舎はセミの存在証明でバカうるさかった。途中で電車も無くなり(驚くほどスカスカだった)バスで訪れたこの町に颯斗はとある石を採取しに来た。

 その石の名前は知らないしどんな形でどんな色なのかも颯斗は知らない、親にもそんな意味不明な探し物をするのではなく卒業旅行と偽ってここに来た。真実を知るのは西渡先生くらいだろう。

 

颯斗がやって来たこの土地には古くから言い伝えがある。

この地には天狗が住んでいる、と。

 

 颯斗から見たこの町は天狗どころか人すらまともに住んでいなそうな限界集落一歩手前?といった感じだったが不思議なもので宿泊する場所はあった。誰が止まりに来るのだろうか?案の定というか鞄を背負って着いた民泊には颯斗以外の宿泊客はいないようで家の持ち主もこの部屋ですと案内して貰ってから出てくることない。別にもてなしてもらいに来たわけではないので颯斗はそれでいいのだが、思ったよりあっさりしていることに驚く。都会は冷たい田舎は暖かいというイメージに引っ張られたか、と颯斗は思った。

 

 奥にいる家主に聞こえるよう外に出ることを告げ颯斗は家を出た。

 先ほど通された部屋もエアコンが効いていたわけではないので、外に出ても気温は変わらない、むしむしする暑さの中颯斗は町を見て廻ることにした。

 とはいえ、そんな大きな町というわけでもない。山に囲まれた土地ゆえか坂道が多かったりしたが颯斗にとって興味を引くものも特にない。ご年配の方々はどうしてか見慣れぬ若者である颯斗をやたら構いたがるので町をぐるりと廻るのには思ったより時間がかかったが。

 

「こんな田舎に観光に来たって?見るもんなんか何にもねぇに」

 

 日本にコンビニが出来る前からずっとこの街の流通を担っていたという自慢を聞かされた後雑貨屋の店主が珍しそうに言った。店主が言ったことは既に町をぐるっと廻ってきた颯斗も身を持って知っているしすれ違う住民たちのほとんどが同じことを言った。

 

「自然に触れたくなったんですよ」

「そりゃ都会で年取った爺さん婆さんが老後は静かな田舎で過ごしたいってんなら分かるけどよ~。坊主みたいなのがねぇ」

 

 静かな?と颯斗は日が暮れ始めてもまだ鳴いているセミの音を聞いて疑問に思った。

 

「でも、ほら、天狗伝説みたいなのが有名じゃないですか?」

「天狗ねぇ、俺が小さい頃は悪い事したら天狗が来るとか置いといた飯が消えてたら天狗様が食ったとか言ったもんだが今はなぁ。若い奴が喜ぶもんも無いから皆出てっちまった。それに似たような話なんてどこにでもあるだろ」

 

 店主が言ったことは間違いじゃない、天狗じゃなくても河童なり鬼なり似たような話は

全国津々浦々にあった。颯斗が天狗伝説について言ったのはまさか外様の自分が「この町ほんと何にもないですよね(笑)」なんて言えないから気を使ったのだ。

それに何にもない何にもないと言う目の間の店主だってランドマークは無くたってこの地で育った思い出も思い入れもある筈なのだ。颯斗は今日町を巡ってみてそんな思いを住人達から感じた。そんな思いを颯斗は馬鹿にしたくなかった。

 

「なに?天狗探してんの?」

「まぁ似たようなものです」

 

 あるかどうかも分からないものを探し物をしているという点では天狗も石も間違いではないなと颯斗は思った。

 

「山入るのはいいけど荒らしたりはするなよ、天狗が怒っちまうぞ」

「それなら山という山を荒らせばそのうち見つけれそうですけど」

「山を荒らして怒るのはなにも天狗だけじゃないぞ」

「それもそうですね」

 

 もちろん颯斗は探してもいない天狗のために山を破壊したりはしない。

 

「あと夜に行くのはやめときな。視界がわるくて転がり落ちましたってのは面白くねぇだろ、あとは服装だな半袖何かで言ったら虫に刺されまくる」

「分かりました、夜は出歩くのはやめときます」

「そこまでは言ってねぇよ、でも夜出歩くならこれは必要だろうな」

 

 そう言って店主が棚から取り出したのは虫よけスプレーだった、この店が長く続いているのは店主の商売上手もあるだろうなと颯斗は思った。

 

 恐ろしいことに部屋ついているエアコンは壊れて使えないのだという。颯斗は家主が倉庫から引っ張ってきた二十年前くらいの扇風機の前でくつろいでいた。真夏の夜は無風でこれが無ければ颯斗はすっかり参ってしまうだろうと確信していた。

 網戸には光に誘われた虫たちが張り付いていてたまにブゥーンと甲虫が突っ込んでくる。羽虫たちがそれに慌てて飛び去って行くのを見つめながら颯斗は考えていた。

 ここに来たのは失敗だったかもしれないと颯斗は思い始めていた。今日一日過ごしてこの街はどこにでもあるような田舎であることを颯斗は確信する。ここにはこの町の普通しかないのだ。颯斗が求めているのは劇的な変化なのに颯斗が今日したことといえば町の人間と話して町をぐるぐると廻ってスプレーを買っただけ。分かったことといえば町の住民は口では何と言ってもこの町を愛しているということだけ。

 小学生の絵日記の方がまだ読み応えのある、メリハリのある一日を送っている。

 颯斗は明日こそはと備え付けられている時計の目覚ましをかけ部屋の明かりを消し布団に潜る。颯斗が寝た後、夜中に一度網戸がひと際大きく揺れて涼しい風が入ってきた。

 

 この町に来て2日目。

 昨日歩き回ったのが尾を引いたのか思いのほか熟睡してしまい颯斗が目を覚ましたのは正午近くになってだった。颯斗はじんわりとする足を摩りつつ身体を起こす。昨日掛けたはずの目覚ましは鳴らなかったようだ。それと、何故か扇風機の向きが変わっていたがどちらも古い機種なのでそんな不具合・故障が起きていても不思議ではない。

 ささっと枕もとに用意しておいた服に着替えて顔を洗い颯斗は外に出た。

 

「やっと起きた」

 

 玄関の扉を後ろ手で占めるのと同時に声が聞こえる。家主だろうかと声の方を向くとすぐ真横に少女が立っていた。

 

「うわっ!」

「きゃっ!?」

 

 慌てて飛びのくと少女も驚いて一歩下がる。

 

「びっくりした」

 

 それはこっちの台詞だと颯斗は思った。玄関をくぐったらすぐ横に人がいると誰が思うのか。そんな出待ち恐怖でしかない。

 

「す、すいません」

 

 そう思っても口から出てくるのは謝罪の言葉でそういう自分が颯斗は嫌いだった。

 

「いきなり叫ばないでよ!びっくりする!ってあれ?」

 

 自分が悪いとは思わないのだろうかと颯斗は思ったが、こういうタイプはそう指摘すると面倒くさいから謝りたおして終わらせるのが賢いやり方だと考え直す。

 

「あなた私が見えるの!?」

 

 自分が見えるのかと驚く少女は大きく見開かれた瞳孔を颯斗に向ける、その目はどこか期待しているように颯斗は感じた。

 

「? 見えますけど」

「ほんとに?ほんとにほんとに見える?」

「本当ですって」

 

 少女は興奮したのか、ぴょんと一度跳ね、そのまま颯斗の手を掴んだ。

 

「凄い!どうして!どうして見えるの!?」

「どうしてって」

 

 むしろどうしてそんなことを聞くのだろうかと颯斗は思った。話しかけてきたのは少女の方なのにまるで自分が見えないのが当たり前とでもいうような反応に颯斗は不思議に思った。

 

「お母さんに教えなきゃ!」

 

 少女は颯斗の手を掴んだまま何処かへと歩き出すので、

 

「ちょっと!困りますよ」

 

 颯斗は手を振り払って立ち止まった。

 

「お願い!着いてきて」

 

 タッと颯斗の元に駆け寄った少女がせがんでくるのを颯斗は迷惑に思っていた。わけも分からずに着いていくほど颯斗はこの少女に気を許していないし、この少女が言っていることは意味不明でそれを説明すらしないことを颯斗は不快と感じる。第一に昨日を無駄にした分今日を大事にしなければならないのに颯斗は寝坊をしてしまった。つまり少女に構っている時間はない。

 

「すいませんがやることがあるので」

「それってどれくらいで終わる?」

「どれくらいって……」

 

 颯斗の感覚ではそれは終わるものと感じていない、計画を立てて道筋通りにいけばやがて達成されるものだとは思っていないからだ。

 

「それは分からないです。ですけど、今日中に終わるとは思えません」

「それじゃあ私も手伝うわ!」

「え?」

「そうすれば早く終わるでしょ?」

「いや、手伝いは結構です。それに無理です」

「なんで?」

 

 なんでと言われても自分にも分からないものを名前も知らない会ったばかりの少女にどう説明して何を手伝ってもらえばいいのか颯斗には分からない、それに見たこともないし色も形もどこにあるのかも分からない石を探していてその石は超能力者にしか判別が出来ない石を探すのを手伝ってくださいと素直に言えるはずもない。この迷惑な少女ですらそんなことを言われたらドン引きするだろうと思うと想像ですら颯斗は恥ずかしくなった。

 

「と、とにかく手伝いは結構ですしやることがあるのであなたの用事には付き合えませんので」

 

 それだけ言って颯斗は返事を待たず駆け足で去った。

 

 颯斗は困っていた。少女にやることがあると言った手前、颯斗だって何か用事があるように見えることをしていたい。だが実際に颯斗がやることといえばあてもなく昨日も廻った街をぶらついたり、昨日登らなかった山を登ってみたりなんて田舎の親戚にお泊りしている小学生みたいなことしか出来ない。それでも、颯斗はしょうがなく山を登ることにした。昨日とは違うことをしたいというのもあったが、もし街でぶらぶらしているところをさっきの少女に出会ったら気まずいからという理由もあることを颯斗は自覚していた。

 

ぶぅーん、ぶぅーんと耳元で飛ぶ虫を手で払いのけながら颯斗は山を登り始めた、昨日買った虫よけスプレーの効能に疑問を覚えつつある最中だ。木に囲まれると父親とカブトムシを取りに森に入ったのを思い出す。『どんぐりの木』にはカブトムシがいると教えられて山中の木を確認して回った。その影響か今でも颯斗は木を見るとそれが『どんぐりの木』なのかつい確認してしまう癖がある。今、颯斗の目の前にある『どんぐりの木』にはカブトムシとカナブンが頭を並べて密を吸っている。本来夜行性のカブトムシだが起きるのが遅かったりなんかの様々な理由で昼に見かけることもある。

 

「小学生ぶりか、カブトムシなんて見るの」

 

 さらに言えば小学校低学年ぶりだから7~8年ぶり。それだけの間、颯斗はこの虫たちと関係を断っていた。今見てもやはりこの虫にどこか颯斗は惹かれている。なんてことはない、やはりカブトムシはかっこいいのだ。だから自分はこんなにも惹かれている。颯斗はそのことに気づいていしまえば眺めるだけでは物足りなく感じてきた。目前のガーネットのように美しい甲虫を手に取ってしまいたくなった。

 しかし、『どんぐりの木』は背の高い木でカブトムシがいるところは颯斗が背伸びをすれば届くような高さではなかった。颯斗は木登りが出来るというわけでもない。普通は諦めるか木をゆすったり枝を投げたりなんかして虫を落とすが、運が悪ければ落ちた虫が見つからないどころか慌てた虫が飛んで逃げてしまう。だが颯斗はこの宝石を出来るだけ傷つけたくなかった。

 

それに颯斗は落ちこぼれでも普通とは違う超能力者の一人だ、学校で3年間何も学んでこなかったわけではない。

 

颯斗は一度目を閉じて集中し頭上で密を啜るカブトムシを見つめた。するとカブトムシは一瞬身を強張らせたかと思うと何かに引っ張られるように体が空中に浮かび上がる。カブトムシは鋭い爪が付いた足で木へとしがみついた、というよりは引っかかっている状態だがその足も一本また一本と丁寧に剥がされていき、完全に宙に浮くとそのまま見えない何かに導かれるように颯斗の手へと収まった。

 

今颯斗が使ったのは俗にいうサイコキネシスと呼ばれる超能力だがこれは超能力者ならだれもが使えるような基礎中の基礎で颯斗であっても少しの集中がいるがそれは例外ではない。

 颯斗は手に収まって暴れるカブトムシを気づ付けないように持とうとしたとき、

 

「凄い!今のどうやったの!」

「うわぁ!」

 

 突然現れた少女に驚き放り投げてしまった。

 

「着いてきたのか?」

「あっ、ご、ごめんなさい」

 

 どうやら少女は颯斗の後を着いてきて颯斗が超能力を使っているのを見てしまったらしい。少女にどう言い訳しようか考えて颯斗は違和感を覚える。

 

「え?見えるんですか?」

 

 最初に少女が颯斗へ放った言葉を今度は颯斗が少女に送っていた。

 

「うん!見える!見えるよ!」

 

 念の為、颯斗は手のひらから10㎝ほどの氷を作り出した。

 

「これも見えますか?」

「すごい!いきなり氷が出てきた!どうやったの?」

「……そうですか」

 

 手の中の氷塊を握りつぶしながら颯斗は確信した。

 

(この子は超能力者だ)

 

  一話完

 

 少女は超能力者だ。それが分かったからといって颯斗はどうすればいいのだろう。もしかしたら少女も颯斗が超能力者と見抜いたから後をついてくるほど執着しているのかもしれない、それで?颯斗は少女のことをなんも知らないのだ。

 

「あなたは私が超能力者だからさっきから話しかけていたんですか?」

「え!?あなた超能力者だったの?」

「え、ええと?」

 

 話が噛み合わない、超能力が見えるという事は超能力者である筈なのに。

 

「超能力者ってホントに居るんだね」

「あなただって超能力者なのでは?」

 

 そうだ、そうであるはずなのに。

 

「何言ってるの、そんなわけないじゃん」

 

 少女は否定する。

 少しの混乱の後颯斗は目を閉じて集中した後少女の方を見た。

 

「な、なに?」

「やっぱりあなたのお母様にお会いしてもよろしいですか?」

「え、ホント!?来てよ!」

「では案内してください」

「うん!着いてきて」

 

 少女は自分が超能力者なのだと知らないのだと颯斗は知った。もしかしたらそれは幸せなことなのかもしれないと思う。

 颯斗は超能力者感知センサーというものがあって力が弱い超能力者はそのセンサーに引っ掛からないと陰口のように言われたことを思い出した。でも確かに颯斗は落ちこぼれだった。もし少女も颯斗のように超能力者学校に通うことになって、嫌な思いをして寂しく過ごすよりも普通の人間として過ごした方が少女の幸せではないかと颯斗は思うのだ。だから颯斗は少女の親と話をしなければならないと思った。颯斗はそう思っても少女の人生は少女が家族とよく話した上で決めなくてはならないと颯斗は思っているからだ。

 

「この家だよ」

 

 少女に案内されて着いた家は町からとても離れているわけではないが、周りが山しかないぽつんと佇んでいる普通の家だった。『長瀬』と書かれた表札の下にインターホンがある。

 

「長瀬さんと言うんですね」

「そうだよ。長瀬真衣(ながせまい)、あなたは?」

「興梠颯斗(こおろぎはやと)です」

「そっか。でもなんで颯斗は着いてきてくれる気になったの?」

「……長瀬さんが超能力者だから」

 

 両親以外に下の名を呼ばれたことが久しぶりすぎて颯斗は一瞬思考が止まったがなんとか長瀬の問いに答えることが出来た。

 

「さっきもそんなこと言ってたね、ほんとに私がそうなの?」

 

 長瀬は信じられないような胡散臭いものを見る目を颯斗に向ける。

 

「証拠はあるの?」

「形に残る物はないです、ですが証明は出来ます」

「?どうやって?」

「あなたが超能力で起きた現象を正しく認識できていることです、さっき長瀬さんは僕が氷を作り出したのを正しく認識できていましたよね?」

「そうだけど」

「超能力を持たない人にはさっきの氷は見えません」

「へ?」

 

 颯斗は説明をしていてほんとに正しく伝わっているのか不安になりながらも続ける。

 

「あまりにも現実離れした、超能力なしでは実現不可能な現象は普通の人間には感知できないんです。しかし、カップのお茶がいきなり消えたり瞬間は見えなくてもお茶が無くなったことについては意識せず飲んでいたというような普通の人間が納得できる理解・解釈をします」

「う、うーん?よくわからないかも」

「すいません、人と話すことがあまりないので分かりやすい説明とかが苦手なんです」

「……私もお母さん以外の人と話さないからその気持ちわかるよ」

「……長瀬さんのお母様は超能力者ではないですよね?」

「え、うん」

「ならお母様で証明できると思います、百聞は一見に如かずです」

「どういう意味?」

「言って聞かせるより見た方が早いという意味です」

「ふーん。あ、ごめん入ろっか」

「お邪魔します」

 

 招き入れられて入った玄関で待っていると奥から人がやって来た。

 

「真衣、どなたか来てるの?」

「おかーさん!見て!颯斗は私の事見えるんだよ」

 

 長瀬の口ぶりからしてやって来たのは長瀬の母親らしい。失礼だけどまったく似てないな、と颯斗は思った。可愛らしい見た目の長瀬はきっと父親に似たのだろう。母親の方は良く言えばクール系、悪く言えば無愛想な印象を与える顔だった。

 

「……」

「お母さん?」

「はっ、失礼しました、どんなご用件ですか」

「真衣さんのことでお話があるんですが」

「娘がどうかしたでしょうか?」

 

 長瀬は目を瞑って集中し長瀬の母親を見た。

 

「真衣さんは超能力者です」

「はい?」

「いきなりこんなことを言われても意味不明だと思いますが、最後まで聞いてください」

 

 長瀬の母親は動揺しているようだった。それを颯斗は当然だと思った。自分だって最初は宗教の勧誘だと思ったのだから。でも長瀬真衣という少女に自分のような思いをさせないためには話を聞いてもらう必要があるのだと気合を入れる。

 

「真衣さんさっきの証明になります、見ていてください」

 

 颯斗は右手を持ち上げると前もやったように氷塊を作り上げる。当然、長瀬にはその行為が正しく見えているだろうと颯斗は知っている。

 

「どうです?お母様にはこれが見えるでしょ……う…か?」

 

 視線の先では長瀬の母親が顔を真っ白にして颯斗の右手を見つめていた。まさか見えているのだろうか?それにしては反応が大げさすぎる気もする。

 

「お母さん具合悪いの?」

「う、ううん、何でもないわ。それで見えるかと言われても何もないように見えますが」

「……そうですか」

 

 引っ掛かる物を感じながらも颯斗はそれを放置する、何も見えないという答えは普通の人間の返答として正しいからだ。

 

「実は手の上には氷があるんです」

「な、なにを言ってるんでしょうか、そんなものどこにも」

「お母さん、ほんとに見えないの?」

「え、ええ、真衣には見えるの?」

「見えるよ」

 

 それから颯斗は長瀬の母親に長瀬にもしたように、超能力は超能力者にしか感知できないという事を説明した。その間長瀬の母親は何か考えごとをしていたようだったが、颯斗は触れないでいた。ここはそんなに重要な話ではなく確認のためにしているだけだからだ。

 本題はここからだ。

 

「それでですが真衣さんは超能力者が通う学校に通うことになると思います。」

「それは駄目!!」

「っ!?」

 

突然の母親の大声に長瀬は身を縮こまらせた。

 

「この子は何処にも連れて行かせない!」

 

 長瀬の母親は長瀬を抱きしめて颯斗へ叫ぶ。

 

「お母さん……」

 

 長瀬はやはり家族に思われていた、そんな彼女を家族から引き離して誰も知り合いがいない『ミアカシ』へと送っても誰も幸せにならないことだと颯斗は思う。

 

「入学は基本的に断ることが出来ません」

「そ、そんなの違法よ!」

 

 長瀬の母親の言う通りだ。しかし、そう叫んだところで誰も問題として取り扱わなければ問題にならない。超能力者は人目に触れづらいのをうまく利用してきたのを3年間で颯斗はたくさん学んできた。たった一人の人間が叫んだところで何も起きないだろう。

 

「何とか断ることは出来ないの?」

「僕には難しいとしか言えません、申し訳ないですが」

「そう……」

 


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