小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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※軽くネタバレ注意です。ではどうぞ。


第十一歩

 

 

 怪物祭(モンスター・フィリア)

 ギルドが発案し【ガネーシャ・ファミリア】主催で行われる祭であり、オラリオでそれが行われる以上、その規模は都市街と比べ物にならない。ルージュはこの事を考慮して、怪物祭前日にダンジョンで稼いでいた。

 

 

「……っっ!」

 

 

 とは言え、まさかキラーアントの群れに出くわすとは思わなかった。並行詠唱はやった事がないから、此処でミスれば自爆する。『緑刃』で的確に処理しているが、左脚と右脇腹に爪が引っかかって血を流す。

 

 

「ぐっ……ああああああっ!!!」

 

 

 スキルが発動。

 逆境時に全能力に『損傷吸収(ダメージドレイン)』により、捌き切れなかった大群に、刃が追いついてきた。いつもの魔法を使う感覚で魔力を練ると失敗する。感覚を研ぎ澄まし、咄嗟に紡ぐ詠唱。

 

 

「『駆け上がれ…蒼き流星……』!!」

 

 

 杜撰で危なっかしい並行詠唱。

 ただ、魔力を消費する量を魔法が発動するかしないかの量で調節し、暴発しても最小限、そして詠唱を終えると一気に魔力を練り上げる。

 

 

「【ソニック・レイド】!!」

 

 

 傷付いた身体と加速により、キラーアントを根こそぎ殺していく。脚で踏み潰し、拳でぶん殴り、『緑刃』で真っ二つに斬り裂き続ける。そして、加速魔法が切れても尚奮闘する事五分、最後の一匹を殺した瞬間、全身から先程の死の危険がフラッシュバックした。

 

 

「はっ、はっ……!」

 

 

 一瞬、怖いと思った。 

 死のリスクを負うのは当たり前だが、何処かステイタスが高水準だからと慢心していた部分があった。スキルが無ければ死んでいたし、並行詠唱もマグレに過ぎない。

 

 今度から魔法の特訓しよう。動きながらと止まりながらでは話が違い過ぎる。流石に敵の前で無防備で詠唱なんて出来ない。

 

 

「ふう……刃こぼれは……無し。ちょっと慣れたか」

 

 

 ただ防具の方は少し傷付いている。

 鎖帷子のおかげで脇腹が抉り斬られる、とまでには至らないが、爪で引っ掻かれた部分は一部破られている。それが無かったらもっと出血していたかもしれない。ポーションを飲み、魔石を回収した後、大人しく今日は帰る事にした。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 怪物祭、当日。

 エレシュキガルは行かないと言っていた。なんでも『畏怖』で怖がらせてしまうからとか。神威ゼロにすれば『畏怖』は働かないんじゃないかと思ったが、本人曰く……

 

「あの姿ではイヤ」

 

 との事らしい。一度見せてもらったが、神威をゼロにすると()()()()()()()()()()()()()()()()。性格を切り替える事が神威を抑えるコツらしく、ただあの姿は嫌な女神を思い出してしまうようで嫌っている。地雷ネタだから踏んだら拗ねると思うから深くは聞かないが。

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、そういえばステイタス更新お願いしていいですか?」

「いいわ。そっち座ってて」

 

 

 装備を外し、背中を出すルージュ。

 血を垂らし、ステイタスの更新を始める。その数値にエレシュキガルは顔を青くして目を見開いていた。

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 ルージュ・フラロウワ

 

 Lv1

 

 力:G340 → E452

 耐久:E431→ D561

 器用:G298 → C620

 敏捷:E401→ C632

 魔力:G289→ F395

 

《魔法》

【ソニック・レイド】

・加速魔法

・詠唱『駆け上がれ蒼き流星』

 

 

《スキル》

反骨精神(リバリアス・スピリット)

・早熟する

・対抗意識、宿敵意識を持つほど効果向上

・逆境時に全能力に対して損傷吸収(ダメージ・ドレイン)を付与

 

 

星歌聖域(ホーリー・サンクチュアリ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・精神力消費

・歌唱時、自身を中心に『聖域』を構築

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

「っ……!」

 

 

 更新していないとはいえ、まだ三日だ。

 全能力値(アビリティ)の600オーバー。最早これは成長の域を超えて飛躍だ。異常過ぎる。

 

 

「まだ二週間とちょっとよ?これ本当に次の神会(ディナトゥス)までにランクアップしかねないわよ?」

「……マジですか」

 

 

 まだそれこそ偉業の到達はまだ遠いが、早過ぎる。

 偉業の到達まで、格上の討伐は充分な偉業だが、此処で明かすと無茶をして取り返しがつかない可能性だってある。

 

 と言うか上昇率が前より更に上がっている。

 恐らく、酒場の一件から対抗意識を向けているのが【ロキ・ファミリア】だからだ。だからって、これは下手をしたら……

 

 

「一年で追いつきかねない……」

 

 

 ゾクリとエレシュキガルは戦慄する。

 ルージュは間違いなく持っているのだ。英雄譚に記録されるくらいの強い意志と、圧倒的な才能を。恐らくこのままだと確実に大成する。それも、【ロキ・ファミリア】や【フレイヤ・ファミリア】を超えるくらいの英雄になる可能性が高い。

 

 下界に降りて初めて知った英雄の素質を持つ存在。それが冥府の女神の眷属として存在するのだ。あの時、眷属にした事は後悔はしていないが、このままでいいのか?

 

 神々にさえ忌避される冥府の女神が咲かせていい『英雄』の素質なのか?此処に置くのはエレシュキガル自身の我儘に感じ始めてしまう。

 

 

「よし!私は行きますけど、エレ様は何か買ってきて欲しいものあります?」

「適当でいいわよ。あっ、祭だからこそ売っているものがいいのだわ」

「りょーかい!行ってきます!」

「あれ?だいぶ浮かれてない?」

「そりゃお祭りですし!オラリオ来て初ですよ!楽しみでしょ!」

「ふふ、じゃあ楽しんできなさい」

 

 

 空元気でエレシュキガルは宿を出るルージュに手を振る。どうしたものか、エレシュキガルが司る象徴があるからこそ、眷属に無理をさせるのではないかと、英雄と言う華やかしい道にエレシュキガルという女神が存在していいのか。ベッドに頭を預け、深く考えながら浅い眠りについた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 怪物祭の露店に向かう前に、例の【ヘファイストス・ファミリア】の団長の鍛冶場に向かった。整備期間もあり、二日経った。現在四万三千ヴァリスある。差し引いてもお祭りで遊べる程度のお金は残るだろう。

 

「むっ、来たか!」

「こんにちは椿さん」

「ほれ、整備しといたぞ。整備費用は持ってきたか?」

「はい」

 

 

 ピッタリ二万ヴァリス入った巾着袋を差し出し、確認を取る。しかし、此処は本当に熱い。熱が篭っていて、そこで打たれた鉄は鍛えられて輝いて見える。

 

 そして、その熱に燻る目の前の団長もそうだ。この人は心から鍛冶に向き合っているんだなと分かるくらいに目に見えない熱を放っていた。

 

 

「丁度だな。籠手の整備くらいならいつでもとはいかんが手前が引き受けよう。しっかり使ってやってくれ」

「そりゃ勿論。命救われましたし。ありがとうございました」

 

 

 バッグに籠手と『影淡』を仕舞い、私は怪物祭に向かった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

「凄い規模…」

 

 人混みが多過ぎて道に出ても流されてしまう。因みに二回頑張って二回とも流された。じっくり露店の商品とか見たかったが、無理そうだったので別の場所を探す。裏路地を通り、東側に向かおうとしたその時……

 

 

「うぷっ」

「きゃっ……あら?」

 

 

 曲がり角から出てきた誰かにぶつかった。

 お腹に埋まった顔を引き離し、上を見上げるとそこにはローブを着て顔を隠している女神様を見た。綺麗な銀髪と整った美貌。女として憧れてしまうくらい綺麗な(ひと)だった。

 

 

「あっ、すみません大丈夫ですか?」

「……ええ、大丈夫」

 

 

 何だ?私の顔を見て薄ら笑いしている?

 ……あれ?なんだこの違和感は?

 

 

「ねぇ、貴女の名前は?」

「……?まさか女神様からナンパ?」

「ふふ、まあそう捉えても構わないわ。教えてくれないかしら?」

「ルージュ。ルージュ・フラロウワ。女神様は?」

「秘密」

 

 

 おい、フェアじゃねえ。

 と言いたいが、別にあっちが答えると言っていたわけじゃないし、やられたと心の中で思いながら東に向かおうとした時、僅かながら違和感から私は女神様の手を軽く掴んだ。

 

 

「……ねぇ女神様。()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 僅かながら違和感に思ったことを口にした。 

 僅かながら、瞳が少し揺らいだ気がするような……

 

 

「………」

「いや、あれ?ウェイトレスさん…かな?なんかそっくりって言うか……あれ?でも雰囲気が違う……ような?」

 

 

 あまりにも曖昧だが、一度見た人は大体忘れない。その上で、この女神様から何処か銀髪のウェイトレスさんと雰囲気が一瞬だけ同じだった気がするのだが……今は雰囲気も違うし、髪は銀髪は銀髪でも薄鈍色に近かったし、気のせい?

 

 

「ふふ、今度は貴女からナンパかしら?」

「うーん。勘違いだったのかなぁ。ごめん女神様、手掴んじゃって」

「構わないわ。じゃあねルージュ、お祭りを楽しんでね?」

「ありがとう、女神様も気をつけて」

 

 

 女神様に手を振り、私は東側の露店へと足を運び始めた。

 

 

 ★★★★

 

 

 

「オッタル」

「此処に」

 

 

 女神フレイヤは裏路地の側で監視していた猪人の名前を口にする。眼はあの時つけていたとは言え、じっくり観察するには時間が足りなかった。だが、見えてしまった。女神フレイヤは顔をうっとりさせて感想を述べた。

 

 

「とても綺麗だった。心は蒼く澄んでいた」

「あの少年とは別と言う事ですか?」

「夜空に浮かぶ星、若しくはまだ磨かれていない宝石。これも、私が見た事のない魂の色だった」

 

 

 これから更に輝く蒼い星、或いは宝石というべきか。心が綺麗であり、それでいて熱く情熱的な魅力を放ち、何より負けたくないと言う燻る熱が更に輝かせている。こんなの初めてで、心から欲しいと思ったのは()()()だ。伴侶(オーズ)とは違う。自分の手元に置いて行末を見届けたいと思える綺麗な星。

 

 

「しかも、あの子は()()()()()()?」

 

 

 既に()()()()()()()()()に、もう一つの顔に僅かながら勘付いていた。そして何より、()()()()()()()()()()()()()()

 

 フレイヤの魅了は処女神を除いて全てに通用する。声は甘く、顔で蕩けさせ、触れられただけでフレイヤしか見なくなってしまう。

 

 しかし、あの少女は顔も声も聞いて、顔色を変える事はなく、魂の揺らぎすら感じない。魅了しても効かない人間は稀に存在するが、それでも抗って耐える表情をするはずだ。

 

 魅了が効かないのは強固な意志なのか、はたまた()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。魅了とは一種の障害だ。それにさえ対抗しているのか。理由はハッキリは分からないが。

 

 

「とても綺麗で、美しかった。美の神にそこまで言わせるくらいに」

「……彼女も貴女のお眼鏡に適いますか?」

「ええ、とても。『白い輝き(ベル)』と『蒼い星(ルージュ)』、どちらも欲しくなっちゃったわ……だからこそ、試練を与えるわ」

「かしこまりました」

 

 

 女神の動向に付き添うオッタル。

 怪物祭を楽しもうとしている蒼の少女に女神の試練が降り掛かろうとしていた。

 

 

 

 




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