小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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 更新大分遅れました。すみません。怪物編は終了、次は少しソード・オラトリアの要素を入れてきます。ではどうぞ。


第十二歩

 

 メインストリートから大分離れた東側の街道。

 数はそこまで多くはないが屋台などは存在する。怪しい露店から定番の屋台など、なんなら自作のアクセサリーなどを売り込む店もある。

 

 

「おじさん。クレープ一つ」

「はいよ!」

 

 

 受け取ったクレープを頬張りながら、東側の屋台を見て回る。やはりメインは【ガネーシャ・ファミリア】の調教(テイム)が大きいだろう。メインストリートが人で溢れ返ると思わなかった。

 

 闘技場は恐らく順番待ちしているんじゃないかな。

 

 

「ん……?」

 

 

 ()()()()()()

 人気の騒々しさとは違う、悲鳴や必死な叫びがあちこち飛び交っているように聞こえる。背筋に冷や汗が流れる。ゾクゾクッ、と言葉に出来ない嫌な予感。

 

『いやああああああ!?』『た、助けてくれぇ!!怪物だああああ!?』『ガネーシャ様は何してるんだ!!?う、うわあああああっ!?』『ルゥ!?どこにいるの!!誰かぁ!!』

 

 

 稀にしか聞こえない『声』があちこちから聞こえてリフレインする。その多さに気持ち悪く耳を塞ぎたいくらいだ。今までこんな事はなかった。精々一人の声で助けを求める声だけが聞こえたのに、今は大量に耳に入り、私を揺さぶる。直感とはまた違う。神の恩恵を授かったせいなのか、声があちこちから聞こえる。

 

 いっつも、この声が何なのか分からない。

 スキルにもない。恩恵に表示されていない。聖域持ちだからと言う確証もない。助けを求める声が聞こえる変な体質に悩まされるが、今はそんな事を気にしている場合じゃない。

 

 

「怪物?……っ!まさか!」

 

 

 バッグにしまっていた『煉甲』と『影淡』を取り出し急いで身につける。鎖帷子は残念ながら宿の中、護身用として『緑刃』は腰に携えている。スキルにも詳細されない『声』の溢れ返る現象。聖域が関連しているのか知らないが……

 

 

「近い……!」

 

 

 それはいつも限って、助けを求める『声』なのだ。

 だから、私は迷わない。助けを求めてるなら手を差し伸べられる範囲で助ける為に屋根の上によじ登り、走り出した。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 ハーフエルフの女の子は走っていた。

 走っても走っても、逃げられない速さで追いかけられる。見た感じ緑色で巨体であるにも関わらず、必死に逃げ回る女の子では、上層のモンスターと同等だ。

 

 

「いやああああああああっ!?!?」

 

 

 オーク。10階層から現れる霧の空間に現れる巨体モンスター。動きは遅いが、天然武器(ネイチャー・ウエポン)を持ちその剛腕は上層でも随一を誇る怪力を合わせ持つ。

 

 動きは遅いと言っても、恩恵を刻まれていない者の速度などたかが知れている。

 

 

「あうっ……!!」

 

 

 必死に走っている少女は不幸にも落ちていた包装に滑り、転んでしまう。パニックになって逃げようとしても足が震えて立てない。襲いかかるオークの恐怖に少女は涙を流し震えている。

 

 そんな時、少女の後ろから声が聞こえた。

 

 

「【ソニック・レイド】!」

 

 

 それはまるで降りそそぐ流星のようだった。

 目で追えない加速のまま、自身を弾丸に見立てた突撃槍(ペネトレイション)がオークの魔石を一撃で砕いた。驚愕し、涙が止まる少女にルージュは心配そうに手を伸ばした。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 差し出された手に震えた手で掴む少女。

 膝を擦りむいた所にルージュがバッグに入れていたポーションを軽くかける。染みた痛みはあったようだ。

 

 

「怖かったね。よく頑張った」

「……っ……うっ……」

 

 

 ポンポンと背中をさするルージュ。

 あんなものに追いかけられていたら、ましてや恩恵もない子供が必死に逃げ回っても振り切れない怪物を見たらその恐怖は想像を絶するだろう。

 

 

「ん?」

 

 

 少し地面が揺れる。

 それと同時に音が聞こえてきた。しかも結構大きい何かが転がる音が。

 

 

「こっち来てない?」

 

 

 ドドドドドドッ!!と音が近づく。

 身の危険を察知して、ハーフエルフの少女を後ろに『影淡』を構える。曲がり角、滑り込むように現れたそのモンスターに目を見開いた。

 

 

「ハード・アーマード!?」

 

 

 それはまるで車輪のように、オラリオの地面の舗装を砕きながら迫る鋼鉄のモンスター。それが私目掛けて迫ってきた。

 

 

「(しかも速っ!?)」

 

 

 10階層のモンスターの等級は最低でも基礎アビリティDは必要、そしてパーティーを組むのが定石だ。しかし、この『ハード・アーマード』は明らかに()()()()。実物は見た事はないが、そのくらいの基礎アビリティで対処が出来るはずなのに。

 

 

「っっ!」

 

 

 後ろには子供が居る。躱すという選択肢は厳しい。

 多分、『影淡』でもあの質量で受けたら折れてしまう。すかさず籠手『煉甲』を滑り込ませ、受け流す。だが明らかに重い。

 

 

「っっ……!?」

「グロオオオオオオオオオオッ!!!」

 

 

 受け流し弾いたが、再び回転して突っ込まれるくらいの距離を取られた。丈夫な『煉甲』に傷が付いた。生半可じゃ傷付かず、ミノタウロスの一撃を喰らっても壊れなかった『煉甲』にだ。

 

 想定よりかなり違い過ぎる。普通なら対応できるはずのレベルで対応が困難な敵になっている。しかも、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「まさか……強化種?」

 

 

 魔石を喰って成長するモンスター。

 モンスターは魔石を食う事で能力を上げる。もし、この『ハード・アーマード』がそうならば、皮膚の色がやや変化したのも納得はいくが……コイツが魔石を更に取り込んだら、Lv.1の私では手に負えなくなる。ここで見過ごせば、死人が出かねない。何より戦える冒険者が私しか居ないなら……戦うしかない。

 

 

「君は動かないで……私が絶対守るから」

 

 

 魔石を取り込んで硬い鱗を持つ『ハード・アーマード』に『影淡』は残念ながら、相打ちに終わる。選択したのは『緑刃』。斬れ味だけなら鱗ごと斬り伏せれる。だが、タイミングが合わなければ刀は折れ、攻撃を食らってしまう。基礎アビリティ的に死にはしないが、後ろの子を危険に晒してしまう。

 

 

「ふぅぅ……」

「グロロロロッ……!」

 

 

 向き合うモンスターに私も構える。

 恐れたら負ける。後ろの子を死なせたら冒険者として死ぬ。勝負は一瞬、一気にケリをつける。

 

 

「『駆け上がれ蒼き–––––』」

「グロオオオオオオオオッ!!」

 

 

 詠唱を唱えたが、転がる『ハード・アーマード』の方が一瞬速い。ぶつかれば魔力暴発(イグニスファウスト)。大丈夫だ。一度上手く行った筈だ。感覚は一度掴んだ。

 

 

「『––––流星』!」

 

 

 頭を狙う『ハード・アーマード』を()()()()()()()()。並行詠唱。まだ走りながらや高速戦闘中などは不可能だが、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。幸い超短文詠唱、練り上げる魔力も多くはない。詠唱はここに完成する。

 

 

「【ソニック・レイド】!」

 

 

 超高速の三連斬。

 流れるように振り抜く三つの斬撃が『ハード・アーマード』を斬り刻み、横から全力で進行方向から無理矢理蹴り飛ばした。

 

 

「グッ……ゴ………」

 

 

 壁に叩き付けられた『ハード・アーマード』は灰となって消えて一枚の赤い鱗を残して魔石となった。

 

 自分の武器を見る。『緑刃』は問題なし。

 ただ、想像以上に精神的にどっと疲れた。失敗した時のリスクを考えて、危ない橋を渡った気がする。

 

 

「ふぅ!あっぶな……!」

 

 

 まだ完璧とはいかないが、並行詠唱の真似事程度なら出来た。これからどんどん魔力の制御力を鍛えていつか動きながら魔法を放つ魔法戦士の戦闘姿(バトルスタイル)を身に付けたい。

 

 

「大丈夫?立てる?」

「は、はい。あ、アレ?」

「腰抜けてるのか。仕方ない。よっと」

「きゃあ!?えっ、ちょっ!?」

「このまま親元探すから、見つけたら声かけて」

 

 

 とりあえずは後ろのハーフエルフの子だ。

 まだ腰が抜けているようで、立てなかったのでお姫様抱っこでこの子の親元までメインストリートまで走り出した。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「あら、アレじゃあ試練にならなかったかしら」

 

 

 魂の輝きは少しだけ磨かれた。

 だが、ベルに比べるとまだ弱い。追い詰められたと言うには少し弱い。逆境にこそ強くなり、魂の輝きは増す。そう言った意味じゃ()()()()()()()()()()()()では相手にならない。

 

 

「まあいいわ。これからじっくり、貴女を磨いていくわ」

 

 

 未だ原石。

 だが、その奥底には紛れもなく綺麗で見た事の無い宝石のような美しい色が秘められている。伴侶となる男は見つけた。そして手元に置いておきたい星のような宝石も見つけた。

 

 これは趣味でもあり、彼女を磨く。

 そして、磨かれた原石が輝きを強くしたら、最後は自分の物にする女神の思惑だ。

 

 

「楽しみね?––––ルージュ」

 

 

 銀髪の髪をくるくると指で回しながら、美の女神は静かに笑みを浮かべていた。

 




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