小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
とりま、出してくぜ。話は進み始めるのさ。
………課題ヤヴァイ。
「『影淡』が少し摩耗してきたな」
緑刃は問題ない。手入れは怠っていないし。
問題は『影淡』だ。八階層となってくると摩耗するし、椿さんに教えてもらい、ちゃんと研いではいるが、摩耗で少しだけ折れやすくなったような気がする。
少なからず、十階層から上で打ち止めだろう。『緑刃』も使い方を誤れば、直ぐに折れてしまうし。やはり足を中心に使うなら双剣とか二刀流に向いた装備だろうな。長い片手剣でリーチを取るのも悪くはないが、小柄な分だけその長所を活かして死角に入る戦いの方が向いている。それに脚を活かした戦闘ならば間違いなく、ナイフや小太刀の『緑刃』のような装備がいい。
「はい、終わったわよステイタス更新」
「ありがとエレ様」
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ルージュ・フラロウワ
Lv1
力:E489 → D571
耐久:D569 → D599
器用:C651 → B701
敏捷:C659 → B725
魔力:E413 → D512
《魔法》
【ソニック・レイド】
・加速魔法
・詠唱『駆け上がれ蒼き流星』
《スキル》
【
・早熟する
・対抗意識、宿敵意識を持つほど効果向上
・逆境時に全能力に対して
【
・
・精神力消費
・歌唱時、自身を中心に『聖域』を構築
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「おお、大分上がった」
「相変わらずふざけた上昇値ね。……もう驚かないのだわ」
「呆れられても困るんですが」
聖域の展開も鍛錬として加算されている。
恐らくズレがまだあるだろうが、これなら十階層でも立ち回れるだろう。装備を整えて、支度を済ませてベッドから立ち上がる。
「じゃあ行ってきますねエレ様」
「気をつけてね」
「はい」
今日もまた、ベルとダンジョンだ。
★★★★★
少し遅めだが、正午の三時から三時半の間まで、ベルと待ち合わせしている。ポーションや装備のメンテの時間もあったので少し遅めにダンジョンに潜る事になったが。とりあえず暫くはパーティーを組む事になったので、その時間まで待ち、会わなかったらソロで潜ると約束していた。
最近は結構調子がいいし、パーティーを組んだ事で探索階層が更に増えた。鼻歌交じりで噴水に座っていながらベルを待つ。
「そろそろ三時か。早く来ないか––––」
子供のようにソワソワしていると、ベルの姿が見えた。手を振り、名前を呼ぼうとした次の瞬間、世界が暗転した。
「……はっ?」
私の耳に『声』が聞こえた。
その声は明らかに
身体が震えた。『声』とは全く違う。『声』もそうだが、摩訶不思議な経験は確かに存在する。
だが、『声』と同じ現象とは全く違う。
スキルにも書かれていない詳細が理解できないこの現象。酒に酔っている訳でもなければ、脳が異常という訳でもない。
「なんだ……アレ」
辺りを見渡すと、啜り泣く女の子の声がした。
その方向に目を向けると、
なんなんだアレは。おかしい、世界が暗くて、自分がどこに立っているか、時間も感覚も、平常心すら失ってしまいそうだ。
頭が混乱し、思考がまとまらない。
ただ、かすかに聞こえた『声』に耳を傾けた。
『助け……て』
ただ、涙を流しながらソレは私の頬に触れる。
呼吸が止まる。背筋が強張り、思わず手を払いたくなってしまうような感覚。神聖な存在だ。あり得ざる存在だ。にも関わらず、
バチッ、という音と共に私の視界は元に戻る。
暗闇が晴れたと思ったら、噴水の近くに立っていた。世界が元に戻ったのに、冷や汗が止まらない。
「……っ!?なんだ…今の……」
唯一、分かる事があるとするならそれは恐らく一つしかない。アレが神聖な存在であり、にも関わらず助けを求めていた。その原因は多分……
「『聖域』の力……?」
正直、まだよく分からない未知のスキルと言えば『聖域』だ。『声』だったり、今の現象も『聖域』の副次的効果ならあり得なくはないかもしれない。しかし、今の現象は兎も角、『声』に関しては
何かあるのか?
恩恵とは別に、例えるなら血筋とか……私の系譜に
「っと、とりあえず!」
「あっ、ルージュ!お待たせ!」
「ごめんベル!用事が出来た!明日組もう!」
「えっ?あ、ちょっと……!?」
とりあえず、見えた方向に女の子がいる可能性がある。
パーティーを組もうと考えていたベルに申し訳なく謝りながらも、その声が聞こえた方向へと走り出した。
★★★★★
「多分、体感的にはこの位置だと思うけど」
試しに歌う事で聖域を広げてみたが、索敵に反応は無し。
おかしい、あの気配は間違いなく人間とは全く違う存在。なればこそ、聖域にさえ入れば私の探知が効く筈なのに。
「いや、もしかして下?」
横の範囲で引っかからないなら、縦しかない。
此処の場所だと下水道、辺りを見渡すと、下水道に繋がる扉を見つけた。普通なら鍵が掛かっている筈なのに不自然に開いている。
「
携帯用のランプ買っといて良かった。
とりあえずランプに火をつけ、下水道を探索し始める。装備は万全だし、聖域を一応広げては索敵を繰り返す。
「ーーーーー♪」
範囲は精神力を温存する為に絞っているとは言え、何回も使用している。六回目を広げたその時、聖域に何かが引っかかった。それはあの時見た正体不明の存在の気配に近い……のだが。
「なんか……気配が薄い?」
あの時の存在感がない。
いや、何というのだろう。正体不明の存在の気配の一部は持ってはいるが、本体ではないような……そんな感覚だ。
この先から感じるが、どうやら装備が濡れてしまう事は確定のようだ。しかも小人族だから膝上までどっぷりと水が浸水していく。うわ気持ち悪い。
「……なんだアレ」
水に浸かりながらもその奥に進み、目の前の光景に目を細めた。アレはモンスターなのか?蹲っているソレを見た感じ色は黄緑色で気味が悪い。蛇のような体躯をしているように見えるが、頭部はモンスターのそれではない。
聖域を閉じる。
やはり、あの気配の残滓を感じるのはこのモンスターのようだ。そしてソレは聖域が閉じると、頭部が花のように開き、牙を剥いた。
「っ!?いや、蛇じゃなくて……花!?」
モンスターの脱走は【ガネーシャ・ファミリア】がしっかり確認し、討伐されたモンスターの確認を取っていた筈だ。と言う事は怪物祭の生き残りではない。じゃあアレは何なんだ?
考える間もなく、何処から来たのかは分からない未知のモンスターがルージュに襲いかかった。
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