小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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 課題がヤヴァイな。では行こう。


第十六歩

 

 

 

「キシャアアアアアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 黄緑色の花のモンスターが此方を向くと一気に襲いかかってきた。数にして二体。何故地下水道にこんなモンスターが居るのかは分からないが、『影淡』を鞘から抜いて構えるが……

 

 

「速っ!?」

 

 

 予想より遥かに速い。今まで戦ってきたモンスターの中で別格に速い。その直進にすぐさま地面を駆け出した。ステイタスが上がったことにより、敏捷(あし)が更に速くなったのと、小人族の小柄さを活かして俊敏に躱す。

 

 とは言え、スピードは互角、いやそれ以上だ。それが二体もいるのだ。せめて一対一にしなければ負けるだろう。『加速魔法(ソニック・レイド)』で一体に攻撃を仕掛ける為に詠唱を唱えた。

 

 

「『駆け上がれ蒼き–––––』っっ!?」

 

 

 咄嗟に詠唱を中断し、全力で右に飛んだ。

 詠唱の瞬間、二体の黄緑色のモンスターが更に加速した。詠唱を使う魔導士を潰すのは基本とも言えるが、まさかそれをモンスターがやってくるとは思わなかった。

 

 いや、もしかして……魔力に反応しているのか?

 

 

「成る程……なら!」

 

 

 再び詠唱を始め、全力で円柱まで走る。

 魔力に反応するなら、要するに誘引が出来る。

 

 

「『駆け上がれ蒼き流星』!!」

 

 

 並行詠唱で【ソニック・レイド】を唱え、円柱を()()。それについてくるように二体の黄緑色のモンスターは続いて回り始め、柱に巻きつく。巻き付いた黄緑色のモンスターに『影淡』で斬りつける。

 

 

「っっ!?硬っ!?」

 

 

 硬すぎる。胴体の硬さが異常と言えるくらいに硬い。

 速さから察するべきだったかもしれないが、アレだけの速度を出せるモンスターだ。胴体そのものが筋肉と同じ様なものなのだろう。コレじゃあ草刈り鎌で大木倒せって言ってる様なものだぞ!?

 

 

「っっ……!」

 

 

 ピシリと嫌な音が聞こえた。

 恐る恐る見てみると、『影淡』に罅が入っていた。これ以上使えば『影淡』が壊れる。上層のモンスターなら間違いなく殺せるだけの業物だ。つまりだ。あのモンスターは『()()』クラスのモンスターなのだ。

 

 

「魔石を探るしかない……いや、逃げた方がいいか?」

 

 

 ぶっちゃけ逃げた方がいいのかもしれない。だが、このモンスターが此方を捉えているなら、間違いなく追ってくる。そうなれば街にこのモンスターが放たれるのと同じだ。

 

 魔石の場所は何処だ?

 推測なら頭部付近の可能性が高いだろう。だが、頭の何処だ?

 

 

「げっ……」

 

 

 柱がビキビキと音を立てていく。

 建設過程で確実に鉄以上の硬さはある柱が巻き付く黄緑色のモンスターに壊されようとしている。直に崩れて耐え切れずに再び襲いかかる。こうなったら倒すしかないが、魔石は頭部付近の中心の可能性が高い。となると、口の中の奥の可能性が高い。

 

 

「魔石は……そこか!」

 

 

 口の中の奥で魔石が怪しく光った。

 すかさず『影淡』を投擲し、魔石を砕く。村で狩りをしていたおかげで投擲や弓、罠や対人戦の経験が此処で発揮される。

 

 

「ギギャアアアアア––––––!?」

 

 

 魔石に当たり一体が消滅し、まだ残っていた魔法の加速で、もう一体を『緑刃』で魔石を斬り裂いた。幸い、食われる前に斬り裂けたからよかったけど、明らかに適性クラスでは無かった。魔石を見つけられなければ恐らく粘っても殺されていただろう。

 

 

「……ふぅ。何なんだこのモンスター」

 

 

 真っ二つにした魔石を見るが、普通は紫だったりする魔石が極彩色だ。なんか気持ち悪いが、この色はあの時見た女の子を縛る鎖の色にそっくりだ。まあ何はともあれ……

 

 

「とりあえず、ギルドに報告を」

 

 

 言葉はそこで続かなかった。

 地面からピシリ、と嫌な音がした。勘と言えばいいのか、嫌な予感が鮮明に頭を過り、咄嗟に地面を蹴って後方へ飛ぶ。

 

 

「ガッ……ハッ!?」

 

 

 地面から蔓の様な触手が飛び出し、脇腹を抉る様に突き出された。咄嗟に後ろに飛んでいなければ鎖帷子の上から貫かれていただろうが、それでも内臓が揺さぶられる感覚と鋭い痛みを感じながら、地下水道の壁に叩きつけられた。

 

 

「ガッ……ゴホッ…!う、ああ……!」

 

 

 痛い。血を吐き出し、傷を抑える。

 突き出された部分は貫かれちゃいないが、血が出て恐らく肋骨は折れている。すぐに立ち上がるが、その光景に思わず目を見開いた。

 

 先程倒した筈の黄緑色が気がつけば三体現れている。

 

 

「ま、じか……!」

 

 

 明らかに手に負えない。

 逃げようとするが、痛みで満足に動けない。今詠唱しても絶対失敗する。回復薬も叩きつけられて今ので全部割れた。

 

 

「っっ……!」

 

 

 襲いかかってくる三体の人食い花。

 フラつく状態でも『緑刃』を構えてせめて一矢報いようとした次の瞬間、向かってきた三体が()()()()()()()。  

 

 

 

 

「––––ったく、手間取らせんじゃねえよクソチビ」

 

 

 そこには酒場で馬鹿にした狼人(ウェアウルフ)が立っていた。

 

 

「……っ、何でいんの?」

「野暮用だ。つかテメェこそなんで居やがる」

「それは……って前!?」

 

 

 襲いかかる三体の人食い花に対してアッサリと蹴り飛ばして、跳躍しながら俊敏に対応している。速すぎて見えないほどの速度。Lv.5とは聞いていたが、此処まで差があるのか。

 

 

「っっ……!」

 

 

 少し安心したら痛みが一気に襲いかかる。

 ズキズキと痛む脇腹。内臓が吹っ飛んでないだけ幸いであるが、血も出ているし、骨も折れてる。

 

 

「うわ、めっちゃ痛そうやん。これ飲み」

「……あ、ありがとうございます。って、神ロキまで……何故此処に?」

 

 

 渡されたポーションを飲み、血が出た部分にもかける。痛みが和らいだが、折れた骨はアミッドさんに後で見てもらうとして、まだ鈍痛が響く。あんなに重い一撃は流石にポーションだけじゃ回復し切れないようだ。だがまあ、身体は動く。

 

 

「まあそれはさておきや。ベートがアレ倒したらキリキリ吐いてもらうで?」

「よく分かりませんけど、とりあえず言わせてもらうとするならアレ多分打撃とかキツいですよ?魔法とか、斬った方がいい」

「ベート、聞いとったかー!」

「先言えッ!!」

 

 

 魔石の色を見ても普通じゃない。

 中層クラスのモンスターだ。懐から魔剣取り出して脚に魔法を付与させた。何だあれ?魔法吸収の特殊装備?

 

 

「おん?魔石持っとるやんけ。……ちょお待てアンタ、もしかしてアレ倒したんかい?」

「二体なら……油断して死にかけましたけど」

 

 

 その言葉に神ロキは目を見開いた。

 それもそうだ【ロキ・ファミリア】にて確か『蒼の宣告』があったあの日から、ある程度フィンが調べていたのを見ていたが、まだ駆け出しの少女。一ヶ月も経っていない筈だ。そんな冒険者がLv.5ですら手を焼く食人花を二体倒す?あり得ないと思うが、神だからこそ分かる。今の答えに嘘はない事に。

 

 

「嘘は言っとらん……が、納得出来へん。ジブン冒険者登録したの最近やなかったか?」

「まあそうですけど……とりあえずアレ倒した後、可能な限りは話しますよ。つっても、もう終わりそうですけどね」

 

 

 脚に付与された炎に食人花が消し飛ばされた。

 これが、Lv.5か。まだまだ遠くて敵わない。早く強くなりたいなと思っていると、二人の眼光が鋭く此方を向いてきた。

 

 とりあえずは、腹を割って話す事から始めようか。私は砂糖たっぷりのカフェオレで。

 

 

 ★★★★★

 

 

 アミッドの所に行くまでの間、地下水路から出た私と神ロキ、そしてベートは歩きながらある程度の情報交換をしていた。正直な話腰を下ろして話したいが、私の怪我がアレなので歩きながらの交換になる。

 

 

「食人花、あとは魔力に反応する事は知っとったけど、神威に近い存在って何や?」

「それは分かりませんけど、少なからずそう感じたんです。スキルの影響なのかすらあんまり分かってないですけど……」

 

 

 正直な話、私も『聖域』に関して全てを把握しているわけじゃない。今のところ分かっているのは、歌によって効果を変化させる事。自然治癒力の向上、呪詛の解呪、回復効果の増幅……それくらいだ。それ以上は分からないし、試した事ない。

 

 

「あんま聞く事はマナー違反なんやが、どんなスキルや?」

「……内密にしてくださいよ?『聖域』を構築出来るスキルですよ」

「何やと……!?」

 

 

 ロキが目を見開き、驚愕を露わにする。

 ベートが目を細めているようだが、知らねぇし聞いたことねぇと言われた。何を知っているのか聞いてみた。

 

 

「……聞いたことはある。けど、それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「バ、バグ?そんなヤバいスキルなんですか?」

「いや詳しい詳細知ったんのはウラノスかヘルメスくらいやろな。ただ、そのスキル持ってた人間(ヒューマン)は【()()()()()()()()()()()()?」

 

 

 聖女?聖域を使える人間が他にもいた?

 いやでも、人間(ヒューマン)なら小人族に産まれた私は血縁でもなんでもない。

 モヤモヤと頭の中に銀髪で鬼の形相で怒る聖女様が浮かんだ。ああこの後も怒られるんだろうなぁと思うと身を震わせた。

 

 

「……アミッドさんじゃなくて?」

「ウチが何年下界にいると思ってんねん。なんなら五十年前くらいの噂やし、アミッドまだ産まれてとらんやろ」

「その人はどうなったんですか?」

「知らんわ。ウラノスかヘルメスくらいやないか知っとんの。フレイヤも知らんと思うで?」

 

 

 うーん。だったらウラノス様に聞いてみるか。

 いやでも聞けるのか?ギルドの中枢部に居るとか聞いたことはあるけど、まだ駆け出しの私が直接会えるのか?

 

 

「おー、ディオニュソスか?」

「……ロキ?」

 

 

 うわっ、金髪の美青年。

 いや、神様か。神ディオニュソス、あまり聞いた事は無いが、葡萄酒を売ってたりするファミリアだったか?それに隣のエルフさんもめちゃくちゃ美人。

 

 

「よぉ……」

「待て。ソイツらだ」

「……?どゆこと?」

「地下水路に残っていた臭いは、ソイツらのものだ」

 

 

 ………?話についていけない。

 神ロキは一変したように額に手を乗せ、睨み付ける。とりあえず言える事はあの地下水路で見た存在はオラリオにとっても危険な存在で、その発端がもしかしたらこの二人にある……かもしれないと言う事なのか?

 

 だが、話についていけない私にも分かる。

 オラリオに迫る危機が今一歩、足を踏み入れた。そんな気がしてならない事を……

  




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