小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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 今年はここまで。良いお年を。


第二十一歩

 

 

 北の方に反応があった。

 聖域の反応にはかなり種類がある。人間の場合は白から黒。個人差はあるが、基本的に白の人、灰色の人が多いだろう。冒険者なら特に灰色の反応を示す。モンスターに関しては赤。神に関しては金色、エレ様の場合は私と同じ青色を示す。

 

 そして、触手型のモンスターは何故か()

 時に金色が混ざっているような反応があるのだが、それがよく分からない。と言うか、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「?」

 

 首をコテンと傾げる。かわいい。

 発展アビリティ【神聖】を取ってから、反応や色と区別がつきやすくなった。聖域展開の精神力の消費もかなり抑えられるし。

 

 

「壁?」

「いや、これ多分モンスターの肉」

「マジ?」

 

 

 触れてみるとブニブニして気持ち悪い。

 だが、触感的にはモンスターの肉で間違いないだろう。解体時のあの感触を忘れる訳がないし。

 

 

「多分食料庫(パントリー)に繋がってる全てがこうなってるんじゃない?」

「……モンスターの大移動は入り口そのものが減ったから。そう言いたいのですね?」

「うん。推測だけど、この奥は絶対何かがあるね」

 

 

 未開拓領域。

 特にこの場所は死地の最前線と言ってもいい。最前線は常に命の危険が伴う。未知に対しては畏怖を抱き、好奇心だけでは猫を殺す。ダンジョンは楽園ではない。滑り落ちれば地獄、甘く見れば相応の報復、時には想像を絶する死が待っている。肉の壁をメリルが詠唱で風穴を開けようとする中で、金髪の小人族が私に話しかけてきた。

 

 

「なあアンタ、Lv.2だろ」

「うん。まあね。どうしたの?」

「いや、俺らと同じ小人族がLv.2なのは珍しいからさ。まあ少し興味を持っただけだ」

 

 

 ポックだったか。ハンマー使い。

 同じ小人族でLv.2である。気さくに話しかけられたけど何故か仰々しいような気がする。

 

「……悩みあるの?」

「あっ?」

「言いなよ。今なら言えるし」

 

 

 詠唱で穴が開くまで時間がある。

 まあなんか言いたいなら言える時間は存在するだろうし。

 

 

「お前、『勇者(ブレイバー)』に憧れてたりする?」

「いんや全然」

「なんで冒険者やってんだ?」

「英雄になりたいから、と言って無理だって笑われて悔しかったから」

「……子供か」

「見た目子供の君に言われたくない」

「それ完全にブーメランな」

 

 

 チビで駆け出しですが何か?

 そんなもの百も承知だ。もっとエレ様とか銀髪の女神様みたいにボンキュッボン(死語)なスタイルになりたいとどれだけ望んだと思うのやら。ちくせう。

 

 

「まあさ、小人族でも俺達があんな風になれるって、本気で思ってるか?」

「知らない」

「即答かよ」

「だって、無我夢中に前に進んでんだから」

 

 

 英雄になる為に必死こいて戦っている。

 それはどれだけ大変な事なのか理解できない訳じゃないだろう。私にも憧れがある。とても強くて、とても気高くて、まるで女神様のような冒険者にきっとお前なら成れるって、言ってくれたから。多分、この人も。

 

 

「まあ、俺も何処かで憧れてんだよ。あの勇者に」

「一族の英雄だっけ?まあ、私はそこまで思わないな」

「気を付けろよ。確か勇者って一族の繁栄も目的らしいし」

「……お嫁さん候補に出されるって事?」

「かもな」

 

 

 身震いした。

 嘘だろ。これ万が一の時【ロキ・ファミリア】の団長から縁談が来るかもしれないって事?あの時、狂犬クラスでヤバめのアマゾネスが私にめっちゃ殺気を飛ばしてたのに。えっ、私死ぬんじゃ?

 

 

「おっ、穴空いた」

「……行くか」

 

 

 魔導のアビリティ持ってるから威力が高いな。

 私の場合は魔法を使う戦士だから魔導が必要かというと微妙なのだが。足を進める前に、私はポックに告げる。

 

 

「まあ、私は超えるつもりだよ」

「!」

「勇者も、そして猛者さえ超えて、更に上にさ」

 

 

 そして、あの人すら超えて。

 私は絶対に英雄になる。そして見返して、あの人と会った時に笑い合いたい。だから更に上に行くつもりだ。

 

「君は違うのか?」

「……はっ、俺だって超えてやるよ」

 

 

 なんだ、いい顔してんじゃん。

 我慢して甘んじた顔よりはギラギラした方が私は好きだぜ。

 

 

 ★★★★★

 

 

 通路から離れた場所。

 緑肉に囲まれ、周囲を水晶で見渡せる管制塔のような部屋にて、触手型のモンスターを操る赤髪の調教師、レヴィスは座り込んでダンジョンに生える果実を咀嚼する。

 

 

「レヴィス、侵入者だ」

「モンスターか?」

「いや、冒険者だ。中規模とは言え全員手練れのようだ」

 

 

 水晶の先をレヴィスは覗くと、一人の存在に目を釘付けた。

 

 

「アリアだ」

「何っ!?剣姫がアリアだと…?信じられん」

「確かだ。私が行く。他の奴らを引き離せ」

 

 

 そう指示し、アリアの元に向かおうとしたレヴィスと仮面の男に、歌が響いた。陽気な歌ではない、聞いたこともない歌が狭い通路から反響して響き渡っている。

 

 

「何だこの歌?」

「知らん。気が狂った冒険者でも––––」

 

 

 言葉を続けようとした次の瞬間。

 ドクン、と心臓の音が身体に響き渡り、二人は目を見開いた。身体が重くなったかのような錯覚が最初の発作だった。

 

 

「っっ!?」

「ぐっ、がっ……!?」

 

 

 次に襲いかかったのは痛み。

 歌が聞こえた二人は自身の内側から食い破られるような痛みに抑えられ、胸を抑えて跪く。自分達の存在を否定されるような、可憐でありながらも慈悲とも呼べる暖かさがあるにも関わらず、それを受け入れたら最後、自分の命が消えてしまうような破滅の歌が二人を苦しめていた。

 

 

「っ、食人花(ヴィオラス)!あの餓鬼を殺せ!最優先にだ!!」

 

 

 命令を出したレヴィスの声に食人花は蒼色のポニーテールに向けて一斉に食いにかかった。そのおかげで、歌は止まり自身を脅かすような破滅の歌から解放された。

 

 だが、二人の様子はよろしくなかった。

 冷や汗が止まらず、蒼いポニーテールの小人族は相対すれば死ぬような死神に見えてきた。特に穢れている自分達にはあらゆる意味で天敵だと本能が理解する。

 

 

「収まったか…何だアレは……!」

「知らん…!だが、明らかに()()()()()()()()()()!」

 

 

 明らかに食人花の動きが鈍い。

 最初は能力降下(ステイタスダウン)だと思ったが、明らかに呪歌ではない。それだけは分かる。にも関わらず食人花も動きが悪くなっている。

 

 どうなっている。

 彼女から与えられたこの身体といい、触手といい、あの歌を聞いたものが強制的に弱っている。

 

 

「最優先に奴を殺せ。私は行く」

 

 

 あの餓鬼も始末するべきか。

 最優先に殺そうと仮面の男は心に決め、レヴィスはアリアを捕らえる為に歌が二度と聞こえないように食人花を操り、歌が反響しないように通路を作り替え始めた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 周りはさっきの緑肉の壁に覆われ、極彩色の華が光代わりになっている。とは言え、足もそうだが、食感が気持ち悪い上に足場もいつもと違うと動き辛さにストレスも溜まる。

 

 

「うーん。凄い気持ち悪い」

「ハッキリ言ったな。ここもしかしたらモンスターの腹––––」

「「おい馬鹿やめろ」」

「てことは出る時は尻––––」

「「止めんか!?」」

 

 

 嫌な想像しか浮かばない。

 まあ、消化液が来ないだけマシか。此処が腹なら胃液の毒素とか結構あると思うし。私は解毒は出来ても対異常は持ってないからなぁ。

 

 

「そういや、触手型のモンスターって魔法に反応するんだよね?」

「うん。私達が戦っていた時も魔力に反応してた」

「魔石も?」

「多分、魔力に由来するものは全部反応する」

 

 

 やっぱ変だな。

 モンスターとしては強化種とか魔石の味を覚えて強くなる存在は居るが、先天的に魔石などを求めるモンスターは聞いたことない。

 

 それが居るとなると、少し感知した方がいいか。

 アスフィさんに許可を取り辺りを歌を歌い、聖域を広げ感知範囲を更に広げる。

 

 

「………?めちゃくちゃ反応が多いんだけど」

「どれくらい居ますか?」

「えっと緑のモンスターが多分三十。あと、それとは別に()()()()()()()

「この場所にか?」

「うん。しかも黒いから気をつけた方がいい……」

 

 

 聖域がバチリ、と音を立てた。

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?」

 

 

 視界が真っ暗に染まる。

 仲間が、道が、光が暗く塗りつぶされた世界にいつの間にか自分が立っていた。地面に展開した聖域がまだ存在していて、それが微かに世界を照らす光となっていた。

 

 

「また、この感じ……!」

 

 

 あの時と同じ。

 格が違う存在の気配を感知するだけで、まるで世界がひっくり返ったかのように時間も立ち位置も場所も全てが見えなくなって、あの時は鎖に繋がれた誰かが居た。

 

 ––––––泣き声が……聞こえた。

 

 

「………!」

 

 

 視線が向いた。

 繭のようにナニカを囲っている蔓の中から泣き声がする。手を伸ばそうとすると、次の瞬間、身体全てが強張った。

 

 視線が向いた。

 前から、後ろから、左から、右から、上から、下から、ギョロリと舐め回すような視線が向けられた。

 

 視線が向いた。

 視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が、視線が……

 

 頬に触れる。

 まるで蛇がご馳走を待つように舌で撫で回しているかのようだ。腕が、脚が、頭が、身体が、動かない。

 

 ––––––あっ、やば、コレ……呑まれ……!

 

 

 

 

 

 

 

「ルージュ!!」

「うおおっ!?びっくりした!?」

 

 

 アスフィさんの怒鳴り声で目を覚ました。

 うわっ!背中びっしょり!聖域に反応して人智を超えた力を感知したのはいいけど、干渉し過ぎたのか?もしくは広げすぎて力が中途半端だった分呑まれかけた。あのまま呑まれたら私がどうなっていたか。

 

 

「ご、ごめんごめん。相当ヤバめの存在がいるっぽいから気をつけ……全員戦闘態勢!上!!」

「なっ、触手型モンスターが八!三人で一匹ずつ当たりなさい!」

 

 

 危ねえええっ!?

 アスフィさんが怒鳴ってくれなきゃ声すら出せなかったぞ!?とりあえず、この場所は本当にヤバいかもしれない。さっきの泣いていた存在は間違いなく高位の存在だ。それが何かに囚われているように見えた。

 

 ……って、私を狙ってる!?

 しかも、他の冒険者に見向きもせずに!?

 

 

「ふっ!」

「あっ、ありがとうアイズ!」

 

 

 迫り来るモンスターを斬り裂くアイズ。

 とにかく数が多い、湧き出てくるようだ。ポックも一匹倒してはまたモンスターに距離を詰められる。これじゃ狭い通路も考えてすぐに潰される。

 

 

「剣姫、半分任せていいですか?」

「うん。大丈夫」

 

 

 アスフィさんが陣形を立て直す間にアイズが半分ほど仕留める。それと同時に上から食人花が降り注ぐようにアイズに迫り、数が増え、壁のようになって分断されていく。

 

 

「分断された!?」

「嘘だろオイ!?」

「いや、アスフィさん!先に行くべきだ!魔法を不用意に使えないなら火力突破は期待出来ない!破れないなら進むしかない!!」

「……っ!ですが!」

 

 

 確かに此処で一番頼りになっていたアイズが消えたのはデカい。正直、頼れる部分が多かったし、正攻法にしても、剣や刃物以外の武器では相性が悪い分、パーティーの攻撃力は半減だ。此処で籠城戦の選択肢が消えていない。

 

 

「アイズなら大丈夫!多分だけどLv.6なんでしょ!?相当な事がない限り負けないし、このまま増えていく触手と籠城戦なんて分が悪すぎる!!」

「っ、先に進みますよ!先頭はファルガー!殿は私が!!各自魔石をばら撒きなさい!!」

 

 

 魔石をばら撒き、食人花の注意を逸らす。

 各自ばら撒いた魔石に食人花が動き出す……筈が、魔石に食いつかない。

 

 

「魔石に反応しない!?」

 

 

 狙いは……私か!?

 もう聖域を展開していない以上、魔力は無いはずだ。調教師が私を殺す為に命令しているのか?でも、魔石を狙うことで強化するのが目的なら、魔石の習性を捨てさせてまで、何の為に……!

 

 

「ネリー、魔剣を!」

 

 

 アスフィさんが爆炸薬を投げ、ネリーの魔剣で炎を放つ。次の瞬間大爆発を引き起こし、蔓ごと爆破で抉り取られていた。とは言えまだまだ数が多い。歌が届いていなかった所に複数潜まれてしまえば私でも感知ができない。だから食人花が想定より多すぎる。

 

 

「どういう事だ!剣姫の情報がアテにならねぇじゃん!」

「いや、調教師が居るなら命令しててもおかしくない!私を狙っている理由は分からないけどね!!」

「とにかく進みますよ!!」

 

 

 アスフィさん先導の下、私達は駆け足で迫り来る食人花を払い退け、ダンジョン中枢部へと足を進めていった。

 

 

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