小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
未開拓領域の奥底へと足を踏み入れた【ヘルメス・ファミリア】とルージュ。アイズを置いて先行する事になり、少々時間がかかったが、突破する事が出来た。
「なに、あれ」
「養分を吸い取っているのか?」
24階層の
目の前に広がる光景に【ヘルメス・ファミリア】とルージュは目を疑った。
これまでの道のり同様緑の肉に包まれた広大な空間は潜り抜けたあの通路と同じだが、天井には大きさの異なる蕾が至るところに垂れ下がり、大主柱にはまるで巨大な蛇が巻き付いて、養分を吸い取っている。
そして、その場に集まる謎の集団。
上半身を隠す白ローブに、口元まで覆う頭巾、額当て。種族も所属も不明でありながら、目が血走っている。それはまるでカルト集団のような不気味さを醸し出し、その奥には……
「……っ」
萎縮してしまいそうなくらいに私に殺気を飛ばす仮面の男がこちらを睨みつける。私、何かやったのか?めちゃくちゃ怖いんだけど、なんならあの男が本気で私を潰しに来たら瞬殺もいい所だ。明確に私に殺意を抱いている理由が分からないが、今言える事は一つ。
「(多分、調教師とかいうのはあの人だな。
神聖な力を感じるのに、不快。
絵の具の三色が混ざって汚い色に変わってしまったようなそんな感覚。あくまで聖域を展開出来る自分の感性に過ぎないが、間違いはないだろう。
「アスフィさん、仮面の男が多分調教師」
「!……分かるのですか?」
「勘だけど、間違いないと思う」
「他は何か感じますか?」
「天井にびっしり張り付いてるのは多分さっきの触手。この数だったら最悪、撤退は視野に入れないとやばいかも」
「白ローブの集団は?」
「…多分、触手とは関係ないと思う」
アスフィさんもそれなりに分かってはいるようだ。特に仮面の男に関しては、ここに居る白ローブの集団とは格が違う。【ヘルメス・ファミリア】全員で倒せるかすら怪しい所だ。
「仕事をしろ、
「っ!言われなくとも」
宝玉の胎児と、ルージュを見下ろし踵を返す男は、部下であろうローブの者達に向き直り、高らかに宣言する。
「同志よ!我等が悲願のため刃を抜き放て!愚かな侵入者共に死を!」
「死を!」「死を!」「死を!」「死を!!」
イカれている。
人間同士の殺し合い。ルージュには分からない感性だ。争わないなら争わない事に越した事はない。小人族の対人戦闘は多対多での想定はしておらず、あくまで翻弄し、隙を作る術理。
今回ばかりは極力戦闘には参加せずに透明化で支援していく方が良さそうだ。
「私透明化しとく。何かあったら回復に向かうよ」
「分かりました。総員、構えなさい!」
フェルズ特製の透明化のローブで姿を隠し、後衛に下がる。隠れられるなら矢ぐらいなら撃てるか。気づかれないように魔法に練り上げる魔力は最低限で詠唱を始める。
「『駆け上がれ蒼き流星––––集え小さな星々の願い』」
魔法を付与し、停滞させる。
過剰な魔力付与は武器が保たない。恐らくだが停滞属性は
「『
蒼い光を放ち加速した矢は指揮官の頭を貫き、もう一つは仮面の男の額へと放たれる。
「下らん」
額に当たる直前で矢を片手で掴まれた。
魔力を抑えたとはいえ、あの加速だ。全然ものともせず余裕ある態度で矢を砕き折られた。
あの速さを掴めるのか、予想外だ。
透明化があってよかった。じゃなきゃ、多分一番に殺されている。確か、目的って宝玉だよね?いや、取れなさそうか。透明化にめっちゃ警戒して触手を周囲に張り巡らせてる。
「……どうす」
ボヴッ!!!と鳴り響く爆音に次の思考が掻き消された。
「セイン!?」
視線をやると、そこにはクレーターと血だらけで吹き飛んでいるセインの姿があった。
「自…爆……?」
まさか、コイツら。
「愚かなるこの身に祝福をぉぉぉっ!!」
そう叫び走ってきた男はそのまま爆発した。キークス達がうろたえる中煙を突き破り新たに現れる。彼らもまた、発火装置に手を添えている。
何なんだよ、これ。
お前ら、泣いてるじゃないか。
「咎を許したまえソフィア!」
「レイナ、どうかこの精算をもってええ!」
「あぁ、ユリウス!!」
そんな苦しそうな顔をしながら、死を恐怖しながら、それでも道連れに私達と殺し合う。そんな事をしても、帰ってこない。
どうして、そんな悲しい顔をして戦っているのだろう。悲しい想いが、心が、『声』となって溢れかえってきた。
どうして、こんなに辛い。
どうして、こんなに悲しい。
どうして、こんなに痛いんだ。
記憶が、喪失感が、魂が嘆いている。
こんなのおかしい。辛くても、悲しくても、失ってしまったとしても、これだけはやってはいけない。
「っっ……!『紡がれし命をここに、永遠に輝く
私の魔法の『魔防』の付与は恐らく『火炎石』にまで効果を発揮する訳ではない。魔法ならまだしも、鉱石は『魔』に関しているか微妙な所だ。発揮しても効果なんて微々たるものなのかもしれない。
それでも、私に今出来る事は相手を救う事ではない。
味方を死なせない事が、私が今ここに居る意味だ。『声』に耳を傾け過ぎるな、涙を流す暇なんてないはずだ。
「『汝の名に基づき力を振るう事を赦してほしい。
この魔法は『魔導』無しで
「【フロート・エクリエクス】!!」
セインの傷が治癒されていく。
それだけじゃない。前線にいるメンバーが死兵の猛攻に対して、傷ついても治っていく。傷付こうが、爆破しようが関係ない。回復速度が早過ぎて傷付けた所で傷が修復されていくのだ。
まるで城塞。
落とせる気がしない。前衛で防ぐ防御隊は一種の城壁と化していた。
「凄い……!これなら、死兵が来ても」
「まるで『
とはいえ、この状態を続けられる訳がない。
アミッドなら恐らく長時間の維持は可能だろうが、残念ながらルージュにはそれが出来ない。魔力が限界突破してもまだLv.2だ。あと一分も維持すればガス欠だ。
「(指揮官が死んでいる。ルージュが撃ち抜いたようですね。前線を維持し続けている今なら––––!)」
仮面の男が調教師なら、これ以上好き勝手させない。指揮官が居なくなれば部隊は混乱する。そうすれば最悪全員が撤退出来るだけの時間も稼げる。
「『
「ルージュを守りながら前線を維持しなさい!キークス、援護しなさい」
「アスフィさんが俺を!好きです!!」
「後にしなさい!」
魔力に反応してやはり近づいてくる。
アスフィさんが仮面の男を倒しにいった。実力差は有れど、連携を立て直す時間を稼げれば勝機はある。中衛のメンバーが、私を守りながら前線をキープしている。これなら……!
そう思った矢先だった。ドスッ、と音が響き渡る。
「えっ……?」
痛い。何が起きたのか理解出来ない。
触手と戦っていたせいか、小さな飛来物に気づかなかった。中衛を守っていたメンバーにも訳がわからずに目を見開いている。視線を向けると、何かが、私の肩に噛み付いていた。
「いっ、がっ……!!何、だコレ……!!」
「なっ!?宝玉が!?」
球体だったものの中身が私の肩を喰い始めてる。
ギョロリと、肉を食い始め、嗤っている。ヤバッ、それと同時に
「あの時と同じ…!」
「何、見覚え、あんの!?」
「あの時、モンスターに寄生してたんだ!核を壊せ!どっかにあるはずだ!!」
「んな事、言ったって……!!」
膨張していく緑の肉がルージュを飲み込んでいく。
マズイ、本格的に取り込まれたらどうなるかわからない。バキバキッ!と骨を噛み砕かれる音と果てしない激痛が全身を駆け巡る。
此方も事態は最悪だが、彼方もマズイ。
アスフィさんが仕掛けた奇襲も通用せず、武器を奪われ腰に深々と突き刺している仮面の男。
「アスフィ!!」
「テメッ、アスフィさんに何を!!」
「『
キークスが触手に貫かれ、壁に薙ぎ払われた。
最悪だ。状況が悪過ぎる。団長とキークスの重傷に心を乱され、此方が混乱、辛うじてファルガーが繋ぎ止めているが時間の問題。
「何ッ!?彼女の御霊が!?」
ルージュに噛み付いた宝玉の中身。
それが肥大化し、緑の肉が膨張していく。
「が、ああああああああああああああっ!!?」
痛くて、魔法陣が崩れた。
マズイ、本気で意識持ってかれる。身体の中に根を下ろしているような、寄生されていくみたいだ。身体中の細胞が痛む、視界が赤く染まり始めた。
「……っ、この気配……まさか、正体って……」
この神聖さがありながら穢されたような存在。
魔法を唱えていたから?
それとも、『声』の通りに助けを求めたから?
「ルージュ!!」
私の身体全てが緑の肉に呑み込まれる。
多分、
分からないけど分かる。魔法のそれが、かつての聖女に似ていたから、きっとルナだったら救えていたから。
私の身体全てが緑の肉に呑み込まれる。肩を砕かれ、意識も朦朧としている。
それでも、構うものか。今、私にしかできない事が、ここにある。
「––––––––!」
聖域を展開する。
ウラノス様は言っていた。聖域とは一種の神殿を顕現出来る程の力を有していると。
でも、何を歌えばいい?コイツを救える歌はなんだ?
生半可じゃダメだ。私の想いが届かなきゃダメだ。そんな中で何を歌えばコイツに届く?
歌は想いだ。
伝えられるとするのなら……
『そうか–––––この歌はまだ未完成か』
『うん、ごめんねお姉さん。この歌はまだ続きがあるの』
『続きはまだ先か–––––だが、確かに伝わったよ。お前の想いは』
『ホント!?』
私は昔、ある人に憧れた。
強くて、綺麗で、誰も寄せ付けないような女王みたいで、私にとっての英雄のような人だった。
昔、私はこの歌を歌った事がある。
あの時はまだ幼くて、小さくて、負けず嫌いなのは相変わらずだけど、小人族だから舐められる事に甘んじて受け入れていたクソガキだった。
『ああ、叶うものなら–––––』
あの人になりたかった。
あんな風になって、私は見返してやりたかった。小人族の里が出来るまでの間で、嫌な村の連中を見返す為に強くなりたかった。
あの人は強く、孤高で、それなのに何処か寂しそうな顔をしていた。だから、笑って欲しかった。
『いつかお前が紡いだ歌を、聞いてみたいものだな』
ねえ、お姉さん。
私、冒険者になったんだよ。だから、いつか貴女に届けるよ。
今は、今だけはこの歌を救う為に歌うよ。
それがきっと、私に出来る精一杯だから。
「––––––––♪」
コレは既存の歌ではない。
私が昔、ある人に歌った私だけの歌。
名を【星降る夜に】。
その人はこの歌を褒めてくれた。けど、この歌はまだ未完成だった。続きを聞かせたくて、頑張って、私が憧れた人に笑って欲しかった。
私が冒険者となった今、あの人はどうなったか分からない。
あの人は私に、英雄になれると言ってくれた。私だけが紡ぐ、私だけしか歌えない、私の歌。
「この緑の肉の中から…歌っている」
「何だ、この歌……」
緑の肉から聞こえた歌はとても悲しく、儚く、孤独を感じさせる歌だ。だけど、一人ぼっちの誰かに手を伸ばす。明るく、生命を感じさせる強い歌。胸が、心が、魂が震えるような強くて気高くて、そして優しい歌が響き渡る。
「ぐっ……!?」
その歌を聞いた仮面の男は突如苦しみ出した。
内面から食い破られるような痛み。先程とは比べ物にならない。
騒ついている。
自分を生かした『彼女』の存在が、あの歌によって不安定になる程に内の中でせめぎ合っているようだ。仮面の男はソレによって生かされている。それを取り上げられたら最後、仮面の男の死は免れない。
あの歌は、まるで呪いだ。
崇拝する『彼女』を脅かす、とんでもない呪歌だ。
「緑の肉が……」
膨張していく緑の肉が収まった。
まるで繭のように鼓動し、やがて崩れていく。
「ルージュ、なのか?」
繭から出てきたのはルージュだ。
だが、一瞬誰だか分からなくなるほどの凄まじい魔力を撒き散らし、繭から外へ足を踏み出した。
食い破られた傷が消え、
「……?何だコレ!?」
「お前も分からないのかよ!?」
だが、本人の自覚は大分薄いようだ。
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