小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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第二十三歩

 

 

 

 深い闇の中にいた。

 そこに光はなく、ただ沈んでいくしかない水底に吸い込まれていくような感覚に襲われた。

 

 そして、沈む先に、一条の光を見た。

 それと同時に誰かが泣く声が聞こえた。

 

 それは言葉を話してきた。

 どうして来てくれなかったの、と。

 どうして私達を置いていったの、と。

 

 私は漸くこの子の存在を知った。

 

 これは『精霊』だ。

 神が舞い降りる前まで、地上でモンスターを食い止める為に人智を超えた力を人々を分け与えた神の代行者。

 

 なのに、彼女の姿は酷く穢されていた。

 ()()()()()()()()()()。意思が定まっていない。精霊という形をモンスターの性質で無理矢理繋ぎ止められている。

 

 多分、混ざっているのだ。 

 モンスターと精霊の混成。それがこの子だ。神聖さが堕ちていたのは、モンスターの性質を手にしているからだ。

 

 何があったの、と私は聞いた。

 置いていかれた、と彼女は答えた。

 

 置いていかれた、精霊と契約していた人に。

 精霊と人間の寿命は違う。エルフならまだしも、獣人でも寿命は人間とそう変わらない。精霊は神と同じで寿命などない。だから、いつか置いていってしまうものだ。不老不死ではない。形あるものはいつか朽ちる。神のような完璧な存在を除いて、それは定めのようなものだ。

 

 それでも、彼女達は戦った。

 今度は別の人と、同じように人の事を思い戦った。

 

 けど、モンスターは増え続ける。

 人と精霊が契約しても、神がいた頃と違い、恩恵無しで強くなれる標準はたかが知れている。

 

 そうしていつしか、人間の方が諦めたのだ。

 精霊と契約するとは即ち、戦う定めを背負わされる。命は一つだ。一人で戦っても無理がある。

 

 そうして、最後の一人になった時には、誰も居なくなっていた。

 

 寿命で置いていかれた。

 戦いから置いていかれた。

 自分はこんなに尽くしているのに。

 誰一人として自分達の前には現れない。

 

 許せない、と思った。

 戦いを放棄する人類も、それを定めただけで見て見ぬ振りをする神も、許せないと思った。

 

 だから壊したい。

 モンスターとなってでも、この世界で私達だけの空を見たい。

 

 それがたとえ、血塗られた空であっても。

 

 

「……だったら、なんで泣いてるんだよ」

 

 

 その言葉に、何も答えなかった。

 泣いているはずがない。なのに、頬が濡れている。

 

 

「だったら!なんで私に助けを求めた!!」

 

 

 求めてなんかいない、そう言えなかった。

 怪物の心を手に入れたのに、どうして泣いているのか、どうしてこんなに苦しいのか。

 

 

「その意志は怪物の意志だ。お前のじゃない、現実に向き合わないつもり!?」

 

 

 心が見え透いている。

 そんな事していても、復讐しようとしていても、涙が誤魔化せていない。何がしたいのか、何をやりたいのか分からない子供がただ暴れているようだ。

 

 

「お前の本当の願いは––––」

 

 やめてっ!!

 そう叫ぶと、蔓が私の身体の至る所に巻きついた。

 

 貴女なんかに何が分かるっ!?

 そう叫ぶ精霊は私を縛る蔓を徐々に強めた。首が絞まって、苦しくて息が絶え絶えになる。痛くて、苦しくて、泣き叫ぶ精霊の本音をやっと聞けた気がした。

 

 

「私は…!置いていかれた…お前の気持ちは分からない…!!」

 

 

 私が置いていかれたのは父親だけだ。

 あの人が死んだのは寿命ではないし、本当の意味で置いていかれた精霊の気持ちは分からない。

 

 でも、苦しい事だけは分かる。

 悲しい、置いてかれた時は悲しいよな。色んな感情が溢れて、喪失感に襲われる。怖くて、悲しくても、置いていかれた気持ちになる。

 

 一人ではなく、何度も同じ事が起きたなら辛いし、苦しさは私の想像を絶する。

 

 

「けど、お前が苦しい…って、言ってる事だけは……!!分かってる!!」

 

 

 ブチブチッ、と蔓が千切れていく。

 緑色の蔓が徐々に馬鹿力でルージュが解放されていく。

 

 

「本当は寂しかったんだろ?一人で頑張って、何の為に走ってんのか分からなくなって、辛いって思ったんだろ!?」

 

 

 本当は辛かった筈だ。それだけは分かる。

 一人は寂しい。私は強くなりたいって言った時、付いてくる人は誰一人いなかった。無理だ、諦めろ、お前なんかに何が出来ると言われたことが悔しくて、一人で頑張っていても寂しいと思った事だけは腐るほどある。

 

 何の為に強くなりたいって、何度だって自問自答した。辛いと思った事だって指で数えきれないくらいある。

 

 

「お前の本当の願いは–––––!」

 

 

 きっと、誰かと一緒に居たかった。

 英雄達と一緒に生きて、一緒に死にたかった。

 

 きっと、そんな事は許されなくても、そうやって人の人生に寄り添ってずっと一緒に生きたかった。

 

 それが願いだった。

 そんな事、出来る筈がないのに……

 

 

「私と一緒に来い!」

 

 

 そんな事を分かっていながら、ルージュは精霊に手を伸ばした。出来るはずがないのだ。そんな事、妖精族(エルフ)でさえ出来ないのに、そんな事を知っていながら手を伸ばした。

 

 

「お前が選べ!此処で嘘ついてこのまま私と殺し合うのか!私と一緒に生きるのか!!」

 

 

 このままじゃ、どちらかが死ぬだけだ。

 でも、()()()()()()()()()()()()()。私はそっちの手を取るに決まってる。

 

 

「怖かったなら手を繋いでやる。泣きたいなら歌を歌って胸くらい貸してやる。辛かったなら、辛い事は半分こしよう」

 

 

 一人じゃない。

 もう辛い事は分かち合えるはずだ。一緒に生きれば辛い事も悲しい事も分かち合える。

 

 

「私は、お前に救われてほしいよ」

 

 

 頑張って、投げ出したくなるくらいに絶望したお前に救われてほしい。もう頑張った。報われていいはずだ。

 

 だが、それは死ぬという形で報われてほしくはない。

 

 

「いつか本当の意味で戦いが終わって、最っ高に胸張って死ねるその時まで、ずっと生きててほしい」

 

 

 あの人は言っていた。

 いつか『黒き終末』が世界を襲うと。その時が最後なのだ。その時までに強くなって、世界を救えば英雄になれると言っていた。

 

 でも、具体的な事は一切分からなかった。

 子供に対する戯言だと思っていたけど、あの人は本気でその事を言っていた。

 

 戦いに終わりがやってくる時も近い。

 もし、それが終わればきっと、今度こそ胸を張って、使命を達成したと言える。だからその時まで、一緒に生きてほしい。

 

 そして一緒に戦ってほしい。

 置いていくのがこれで最後とちゃんと言えるように。

 

 

「一緒に行こう。一人じゃないんだからさ」

 

 

 その言葉を聞いた精霊は涙が溢れていた。

 泣きじゃくって、辛くて死にたくて、全部投げ出そうとしたのに、どうしてもその思いが捨て切れなかった。

 

 精霊の手が私の手に触れると、温かな光が暗い水底の世界を埋め尽くした。

 

 ありがとう、と。

 そう、聞こえた気がした。

 

 

 ★★★★★

 

 

 凄い力を感じた。

 繭から出た私は世界が変わったような錯覚を受けた。血を失って、身体が重く感じるのに、不思議と最高に気分がいい。

 

 

「背中に羽生えてる。肩もなんか治ってる。……なんで?」

「「知るかっ!?」」

 

 

 肩も治って、何か翡翠色の光った羽が六枚。

 人智を超えた存在、それに干渉して在るべき形に戻した。あの歌は、私の想いを乗せた歌だ。

 

 私はあの時、確かに手を掴んだ感覚がある。

 

 だとしたら、この力はきっと……

 

 

「そっか……もう敵じゃなくて、味方として戦ってくれるんだね」

 

 

 思わず頰が緩む。

 いつか一人にしてしまうかもしれない。それでも、私に付いてきてくれた。だから嬉しい。誰かと生きる希望を持ってくれた事に嬉しく思うのだ。

 

 

食人花(ヴィオラス)!殺れ!!」

 

 

 四体の『食人花(ヴィオラス)』が襲いかかる。

 中衛ももう限界だ。これ以上数を増やされたら守り切れない。前衛が白ローブの死兵を堰き止めている為、守れない。

 

 そんな中、ルージュは悠然と歩き始めた。

 

 

「どいて」

 

 

 その一言で喰いかかる『食人花(ヴィオラス)』は一斉に動きを止めた。

 

 

「私が話してるの。退いて」

 

 

 まるで女王のように命じるだけで、動きを止め、首を垂れるかのように大人しくなった。優しく撫でると、口を閉じて犬のように従順となっている。

 

 

「何をしている食人花(ヴィオラス)!?さっさと––––」

「ありがとう。お願い、二人をここに」

 

 

 怒号を飛ばす仮面の男の命令に背き、『食人花(ヴィオラス)』の蔓が二人に巻き付くと、ルージュの前にそっと置かれていた。それはまるで調教師の所業だ。【ヘルメス・ファミリア】のメンバーはこの状況に混乱し始めた。

 

 魔法を使い、アスフィとキークスを回復させる。

 普通、全癒魔法でも吹き飛んだ臓器などは回復しない。そこまで来ると時間回帰だ。キークスの重傷はたとえアミッドであっても治せない。

 

 だが、今のルージュは……

 

 

「【フロート・エクリエクス】」

 

  

 常識を遥かに超えている超常の存在と融合している。

 そんな常識を覆す馬鹿げた回復力が二人を修復していく。魔力だけで、階層主を思わせるほどの圧倒的な存在感にメリルは目を見開き、震えている。

 

 キークスの風穴が塞がると、アスフィは呆れたような顔をしていた。

 

 

「全く、非常識な助っ人、寄越してくれましたね」

「軽口叩けるなら十分だよ」

 

 

 こればっかりはルナに言ってくれ。

 とはいえ、ここまでの回復力はあり得なかった。精霊と融合している事で、ルナの血に宿る僅かな神の力(アルカナム)が上がっている。こればかりは効果まで上がっているで済ませられる話でもない。流石に予想外だ。

 

 

「(とはいえ、長くは保たないな。この状態もかなり魔力をめっちゃ喰われてる)」

 

 

 自身の状態を考察する。

 恐らく、ステイタスの一時的な昇華。下手したら二ぐらいは上がっている。そしてこの馬鹿みたいな魔力。今の私は多分、精霊と融合している。この魔力はその恩恵だろう。

 

 とはいえ、無理に器を広げてるようなものだ。

 当然ながら、負担もデカいし、魔力も消費し続けている。魔力が切れたら多分レベルの昇華も終わる。

 

 

「アスフィさん。作戦がある」

「何ですか?」

 

 

 目的の『宝玉』は私が融合してしまった為、持って帰るのは私が帰れば十分なのと、調査といっても仮面の男の正体も在り方だけは分かったから調査の必要はない。

 

 私が食人花に命じれるのはこの昇華状態の時だけだ。あの上の蕾が生まれたら戦力的にも厳しい。多分仮面の男も今の私でも倒せない。だから、やる事はただ一つ。

 

 

「お前を殺す」

「やれるものならやってみろ、餓鬼がっ!!」

 

 

 稼げる時間は約十分。

 それまでにどれだけアスフィさん達が実現してくれるか。

 

 今の私はLv.4相当のステイタス。

 あの仮面の男は少なからずもそれ以上の力を持っている。それでは勝てない。今の私でも勝つ事は無理だ。

 

 先ずは器を慣らす。

 よく見て、私自身の動きに合わせてどれだけ身体を動かせるか。

 

 

「フンッ!」

「っっ!」

 

 

 予想より大分速い。

 自分が考えた時に既に肉体が動く。この反応速度が早過ぎて、身体をうまくコントロール出来ず、自分の肉体と合致しない。ランクアップのズレは少しあったが、今の状態はそれ以上だ。普通に拳が防いだ腕に直撃する。

 

 

「っっ、感覚のズレが半端じゃないな!」

 

 

 一発で左腕が折れた。

 耐久も上がっているおかげか、()()()()()()()()()。とんでもない膂力だ。掴まれたら即殺される。この状態でなければ腕ごと貫通されていた。

 

 魔力を消費して徐々に折れた腕を回復していく。

 これも精霊の力か。身体が無意識にこの力の使い方を教えてくれる。

 

 

「『食人花(ヴィオラス)』!あの仮面の男を倒して!!」

 

 

 待機中の『食人花(ヴィオラス)』に命じて、仮面の男に攻撃させる。私の方が『声』がよく通る為、仮面の男の命令は無視される。

 

 

「小賢しい!!」

 

 

 大口開けた『食人花(ヴィオラス)』を踏み砕き、魔石を抉る。仮面の男にとって非常に腹立たしい。先程から何も上手くいかない。ただ、苛立ちを隠せない。あの小人族を一瞬でも美しいと思ってしまった。

 

 穢れなき彼女など、最早彼女ではない。

 今すぐに捻り殺してやりたいと怒りが募る中、『食人花(ヴィオラス)』まで使役し始めた。

 

 

「チッ、隠れたか」

 

 

 ローブは透明化の力がある。

 噛んだ部分以外は破れていないのが幸いしたのか、隠れられている。そう思った矢先、ギロリと仮面の男は此方を向いた。

 

 

「馬鹿が、魔力まで隠せると思ったか!」

「『駆け上がれ蒼き流星』!」

 

 

 やばっ!危なっ!?

 加速魔法で掴みかかった手を躱し、後方に跳ぶ。ギリギリだ。畳み掛けられて、ギリギリ躱しているが、このままじゃ直ぐに捕まってしまう。

 

 そういえばこの男、確か……

 

 

「–––––––––––♪」

「ぐっ!?」

 

 

 聖域を展開すると、動きが鈍った。

 

 やっぱりだ。この歌はかなり通用する。

 聖域こそ、この仮面の男の弱点だ。恐らく、捻じ曲がった奇跡が正しい奇跡へと変換されようとしている。そうなれば、この男も命が無いのだろう。捻じ曲がった奇跡によって生かされた男には。

 

 

「貴様……!」

「ルージュ!準備が出来ました!!」

 

 

 アスフィの叫びにルージュは更に距離を取り、矢を構える。

 聖域が消えた事で苦しみが消えた仮面の男は、後方に振り返る。アスフィが叫んだ地点には、『食糧庫(パントリー)』の柱には無数の火炎石が敷き詰められていた。

 此処の『食糧庫(パントリー)』の柱が壊されるとどうなるか、仮面の男はそれを見て叫びを上げて標的を変更する。

 

 

「貴様ら!?やらせるものかァァァァ!!!」

 

 

 此処は中継地点。

 深層のモンスターを生み出す苗床。此処を潰されるのは不味い。深層からの中継地点は容易に作れるものではない。モンスターがモンスターを産む蕾を崩されてしまえば、長年掛けた時間も全部が水の泡だ。

 

 

「総員、離れろ!!」

「【リオ・フレア】!」

 

 

 メリルの魔法が着火すると、火炎石は連鎖的に爆発していく。白ローブの奴等から火炎石を奪い、この場所を崩す事を最優先に、ルージュが作戦を伝えていた。

 

 最早、調査の必要性はない。

 ルージュと融合した存在からかなり深い情報を手に入れた。この上の苗床は放置するべきではない。仮面の男が誰であっても、どういう在り方なのかさえ分かれば用はない。

 

 なので、撤退を最優先にルージュがアスフィに作戦を伝えた。あっちの最優先抹殺対象はルージュである為、他の奴等は白ローブの連中が勝手に自爆してくれると思っていたのだろう。腹立たしい事にルージュは『食人花(ヴィオラス)』に命令出来る以上、変に数を増やせば自分の首を絞める事になる。

 

 それを利用して、【ヘルメス・ファミリア】に裏方を任せた。

 此処さえ崩して脱出すれば文句無し。仮面の男の生死はどうでもいい。【ヘルメス・ファミリア】では勝てないし、ルージュでも勝てない。脅威ではあるが、今は放っておくに限る。

 

 

「なっ……!?」

 

 

 アレほどの爆発で崩れない。

 巻きついた巨大な蛇の触手が、柱の崩壊を抑え込んでいる。火炎石は爆発したアレで最後、アスフィには『爆炸薬(バーストオイル)』はもう無い。怪力がファミリアで一番のファルガーの攻撃でも壊れない。

 

 

「死ねっ!【万能者(ペルセウス)】!!」

 

 

 陣形を前に襲いかかる仮面の男の拳がアスフィを捉えて放たれていた。その時だった。

 

 

「『––––閃光よ、駆け抜けよ、闇を切り裂け』」

 

 

 声が聞こえた。

 先程まで感じていた魔力が更に膨大に膨れ上がる。そして、その詠唱に身体が震え始めた。仮面の男は知っている。その桁外れの人智を超えた力を一度だけ見た事がある。

 

 額に汗がたらりと流れ、振り返るとそこにいたのは矢を構えたルージュの姿だが、その膨大な魔力が魔法陣へと変換されていく光景だった。

 

 

「『代行者たる(わたし)が命ず、光の化身、光の女王よ』」

 

 

 短文詠唱。

 だが、()()()()()()()()()()()()()()()()。この詠唱は精霊が使う短文詠唱の光魔法。その光の前にあらゆる敵は粉砕される閃光の波動。

 

 

「『集え小さな星々の願い』」

 

 

 そして()()()()()()()

 精霊が行使できる魔法に自分の魔法を組み合わせる連結詠唱。構えた矢に膨大な魔力が注ぎ込まれる。それだけで自壊寸前、停滞属性も限界だ。この矢では暴発寸前の火薬に等しい。

 

 魔法の収束、一点突破の魔法。

 貫通力も増幅された破壊力も計り知れない。

 

 

「いっけええええっ!!!」

 

 

 構えた矢を放たれる。

 それはまるで本物の流星のように、綺麗な弧を描いて柱に向かっていく。

 

 

「させるかァァァァァァ!!!」

 

 

 腕を伸ばし、矢を掴もうとする。

 先程のような速さはない。あの距離だ。掴むだけの時間は余裕だ。矢を掴もうと手を伸ばした次の瞬間だった。

 

 

「『突き進め(エイルス)』」

 

 

 矢に凝縮された閃光が周囲に向けて解放される。

 その破壊力は【九魔姫(ナインヘル)】を思わせる圧倒的な超火力。掴もうとした仮面の男は吹き飛び、柱に巻き付いていた蛇の身体は空間が削られたかのようにゴッソリと消滅している。

 

 

「やばっ、逃げるぞ!?」

「撤退だ!!」

 

 

 出口まで足を駆けようとしたとき、急に力が抜けて、脚が動かなくなる。視界がぐにゃり、と捻じ曲がってそのまま倒れ込んでしまう。四肢に力が全く入らず、背中の羽も消え、翡翠色だった片目も元に戻っている。

 

 

「(……っ、魔力疲弊(マインドダウン)…視界が……!)」

 

 

 魔力をゴッソリ持ってかれて、身体中の細胞が痛むような鋭い痛みが覆い尽くす。叫びすら上げられない激痛。まるで代償を支払ったかのような超反動。

 

 激痛でも動けと命じる身体は言う事を聞かない。

 

 

「(っっ、動け動け動け!!じゃないと死ぬ!!)」

 

 

 アスフィさんがそれに気付くと、此方に駆け出していた。

 

 

「ルージュ、起きなさい!」

 

 

 起きたくても起きられない。

 腕に力を入れ、辛うじて動いた腕で手伸ばそうとする。その時だった。

 

 

「アスフィ!避けろ!!」

「っっ!?」

 

 

 巨大な落石がアスフィとルージュの間に落ちた。

 ドガッ、と音を立て、ルージュとアスフィが落岩で距離を離された。更に降り注ぐ瓦礫にアスフィとルージュは完全に切り離された。

 

 

「アスフィ、もう無理だ!崩れるぞ!?」

「ですが……!」

「アスフィ!!」

 

 

 十五人と一人。

 比べるまでもなく、十五人の命だ。【剣姫】の時とは違う。実力で切り抜けるという彼女とは違い、ルージュには助けが絶対に必要だ。だが、この瓦礫を退けている時間などない。崩壊が更に進んでいく。見捨てるという選択を取らなければならない。

 

 

「っ––––––!!」

 

 

 唇を噛み締め、踵を翻し、出口まで向かう。

 見捨てたルージュに対する自分の後悔と無力さを噛み締め、出口まで走り出す。

 

 ルージュの退路は、動けない自分を抱えるしかなかった。

 それも、無くなり崩れ去る『食糧庫(パントリー)』でルージュは完全に孤立してしまった。

 

 

 




 連日投稿。ちゅかれた。
 結構、原作改変しました。ごめんねレフィーヤ、フィルヴィス。ついでにベート。

 次回調査編エピローグ。良かったら感想評価お願いします。
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