小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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 お 久 し ぶ り


第二十七歩

 

 

 握手が終わり、帰ろうとしたがよくよく考えたら依頼の事を忘れていた。調査遠征の時に約束した歌の依頼は丁度いいし叶えておこう。

 

 

「アイズ、依頼された事、今からしようか?」

「えっ、いいの?……あっ、でも私持ち合わせが」

「いいよ。今度一緒にダンジョンに行くので充分だよ」

 

 

 アイズは剣の借金もあり、手持ちは少ない。

 ルージュからすれば別に歌でお金は取らないつもりだし、問題は無いのだし、あまり友達からお金取るのはと思ってしまう。ファミリア同士のいざこざならまだしも。

 

 

「ちょー待ち。依頼ってなんや」

「歌を歌う事。此処の庭を借りてもいい?」

「いやそれは構わへんけど、歌?」

「歌」

 

 

 嘘は言ってないからこそロキは首を傾げた。

 

 

「それと」

「うわっ!?」

「ちょっ!?」

「盗み聞きしてたお二人さんも来ます?」

「ティオネ、レフィーヤまで」

 

 

 驚かない辺り、フィン達も気付いていたようだ。

 大事な密談でいずれ幹部に伝えるとはいえそれはどうなのとちょっと思ったが、どうやら話の内容は聞いてないようでレフィーヤがティオネを抑えて此処まで来たという感じらしい。

 

 

「何してんのさ貴女たちは」

「団長に近づく蝿を払いに」

「……私、英雄になって終末越えるまで誰とも結婚とかしないし」

「嘘言っとらんな」

 

 

 てか、サラッと蠅扱いしなかったか?

 知っていた。知ってはいたが執着というか愛情がカンストし過ぎて重度の嫉妬がヤンデレ化している。というより重い。そして怖い。色んな意味で。

 

 

「……本当でしょうね」

「結婚とか黒竜を討伐したら探すし、あと流石に40代は……」

「アレ?僕に何故かとばっちりが飛んできたんだけど?」

 

 

 見た目で騙されそうだが、年齢的に言えばかなり不味い。ザックリ25歳差だぞ?いくらイケメンでも歳の差が多過ぎるのはちょっと。ロキ様は腹を抱えて笑っていた。

 

 

「アイズ、行こう」

「うん」

「あっ、私も行きます!」

「いいよー」

「あっ、ウチも行くでー」

「じゃあ私も」

「僕も行こうか」

「ついていきます団長!」

「私も行くのだわ」

「結局全員じゃん!?」

 

  

 私とエレ様、【ロキ・ファミリア】のピクニックもどきが始まった。廊下を偶然通っていたリーネとアナキティがそのおかしな光景に目を見開いていた。幹部だらけで総出陣。何事かと思い団長に聞いたら、歌を聞きにいくと言われて、「絶対嘘だ!」と叫びたいくらいの面子の濃さに困惑していた。

 

 

 ★★★★★

 

 

「此処でいいか」

 

 

 ホームの庭の木陰にルージュは座る。

 此処はいい。涼しくて木漏れ日の光が暖かく、何より落ち着く。

 

 

「出来れば膝枕してほしい」

「えっ、うん…それは構わないけど」

 

 

 アイズから甘えられてちょっと困惑した。

 というより、この子ちょっと怖い一面もあるけどやっぱり可愛いな。なお、アイズから甘えてきた事を見たリヴェリアは少しだけ固まっていた。アイズは昔こそリヴェリアを頼る部分で甘えていた部分はあれど、今は自分から甘えにいかないお年頃だ。

 

 

「ア、アイズさんに膝枕なんてっ!?」

「…レフィーヤもされたいの?ちょっとアイズごめん」

 

 

 正座から胡座に変えてアイズの頭を真ん中にのせる。その光景を羨ましがっているレフィーヤを見て、太ももに手をポンポンと当てる。

 

 

「胡座だから少し高めだけど此処でいいなら」

「そうじゃなくて!優しさが染みますけど違います!」

「しないの?」

「……します」

 

 

 アイズと顔が近くなる事を考えると怒る気力も無くなり、大人しくルージュの太ももに右から頭を乗っける。小人族で小さい分、高さも丁度いい。それを見たロキは尊いものを見たかのように固まった。

 

 

「何…やと。美少女三点盛り。ウチも混ざりたい!!」

「ええぇ、じゃあレフィーヤの反対側で」

 

 

 ロキは左から太ももにダイブする。

 見学に来ていたリヴェリアは呆れた顔をし、エレシュキガルはパラソルの下の椅子に座っていた。フィンはとりあえず厨房から摘める程度の焼き菓子を取りに行き、ティオネは普通に追いかけた。

 

 

「アイズ、リクエストは?」

「えっと、ルージュの好きな歌でいい」

 

 

 こんな日だし、優しい歌がいいだろう。

 

 

「じゃあ、『春風の日』でいい?」

「…それって私達(エルフ)の歌ですよね、よく知ってますね?」

「私の家には歌の書物がいくつかあって、世界中とはいかないけど有名なのは網羅してるの」

 

 

 元々、父が色々な所を旅してかき集めた歌を私は全部聞かされて覚えていた。『春風の日』はエルフに伝わる子供向けの歌だが、それでもこの日にはピッタリの歌だ。

 

 

「〜〜〜〜♪」

 

 

 芽吹くような暖かい風、雪解けのような日の光、それを運ぶ小さな安らぎの歌が、身体に染み込むように広がっていく。音色を聞いただけで、リヴェリアは目を見開いた。

 

 魔力が集まっている。

 魔力の流れが一点目指して集まっているように見えているのに彼女は別に魔素を溜めている訳ではない。リヴェリアには魔素を集めるスキルが存在するが、これは明らかに違う。

 

 ()()()()()()()()()()()

 魔力が魔力を呼ぶ。そんな事はあり得ないが、可視化できないソレは徐々にルージュの周りに姿を現し、集まっていく。

 

 

「微…精霊」

 

 

 それだけではない。

 微精霊は形のない意思の弱い精霊。故に姿はない。

 

 ()()()()姿()()()()()()()

 あり得ない。常時に彼女の所に集まる微精霊が姿を成して、踊っている。四体、いや六体の微精霊が精霊へと一時的に昇華している。

 

 あり得ない。

 あり得ないからこそ震える。

 ハイエルフであるリヴェリアは精霊への信仰はそれなりにある。精霊は微精霊であっても滅多に姿を現さない。神が舞い降りたその時から役目を果たし、引き篭もる事が多くなり人々の前から姿を消していた。

 

 精霊を見た事はある。

 だがそれは形を成さない微精霊の話だ。リヴェリアの故郷で何度か見た事のある程度の回数でしかない。

 

 それがどうだ。

 微精霊が精霊となって踊っている。その様子を見てあり得ない事だと脳で否定しても目の前の現実はそれを否定する。

 

 ロキも、レフィーヤも、戻ってきたフィンやティオネも、そしてエレシュキガルでさえその光景に絶句している。

 

 ただ一人を除いて。

 

 

「アイズ、なんか気持ちよさそうね」

 

 

 ただアイズだけが安らかな表情で眠っている。

 額を撫でるとくすぐったくて笑っている。歌に呼応するかのように風が吹いた。暖かい風が髪を撫でる。

 

 

「アイズの魔法か?」

「いや、詠唱はしてない。恐らく、干渉に近いのだろう」

 

 

 そして、風がまた吹いた。

 今度はアイズからだ。アイズから風が優しく身体を撫でている。まるで包まれているかのような風に歌が乗り、広がっていくようだ。

 

 その風はまるで揺籠のようにアイズを抱きしめている。姿は無いのに、そこに誰かが居るみたいな懐かしい記憶。

 

 

「おかあさん……」

 

 

 涙が溢れた。

 懐かしいこの風にアイズは目を瞑りながら涙が落ちていく。自分から発しているのに思い通りにならない風。なのにどうしてもこの風が嫌いじゃなく、寧ろこの風こそアイズが求めていたものなのかもしれない。

 

 ルージュはお母さんに似ていない。

 なのに、額を撫でる気遣い、優しく髪に触れる仕草、そして心に響くような優しい歌が面影を重ねてしまう。

 

 

『ーーーーーーーー』

 

 

 懐かしいような声が聞こえた。

 アイズは安らぎの表情を見せながら夢の世界へと誘われていった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 もう終わりなの?と視線で訴える精霊達に「ごめんね」と返したら精霊達は徐々に薄れて微精霊に戻っていく。そして、空へと昇り散っていく。レフィーヤは起き上がり、アイズを起こさない程度に耳打ちで会話する。

 

「どういう事ですか!精霊が昇華して踊るなんて、貴女何をしたんですか!?」

 

「私の祖先に古の聖女から血を貰ってて、その血のせいか神聖な力があるらしいの。まあ私もこんな事になるのは初めてだけど」

 

「と言う事は貴女は精霊の恩恵をいつでも受けられるって事ですか!?」

 

「うーん。力を貸してもらう程度なら多分出来るけど、契約とかはバンバンやったりしないよ?というより、簡単には出来ないし。最悪神秘が多過ぎて下界を歪ませかねないし」

 

 

 これはトワの忠告だ。

 契約し過ぎると人間のまま精霊となる可能性があるらしく、神秘が過多過ぎて『神の力(アルカナム)』を常時発動しかねない。特にルナの血にはアスクレピオスの『神の力(アルカナム)』が宿っている為、神秘を上げるという事はソレも膨れ上がるという事。

 

 世界を変える存在になると、世界から排斥されかねない。契約し過ぎると、人である事を辞める事になる。前例はないが、トワがそう言ってる以上、信じた方がいいだろう。

 

 

「……規格外過ぎます」

「まあ、私が強いんじゃなくて、私の周りが強いのかな」

 

 

 あながち間違ってはいない。

 もしもベル・クラネルが一騎当千の英雄となるのなら、ルージュは全く別の英雄となるだろう。ただ、ルージュに力を貸す存在が強過ぎる為、ルージュ自身が強いかと言われたら本人はまだ首を振るだろう。

 

 とはいえ、才能はそれこそ彼を除いて比べ物にならない。英雄になりたいと思うルージュはオラリオで、台風の目となる存在の一人である。

 

 

「(そういえば)」

 

 

 ルージュは眠るアイズの額を撫でながら思い出す。

 

 

「(あの人も、こうやって寝た事あったな)」

 

 

 いつも眼を閉じて、煩そうな私に一月構ってくれたあの人も、こんな安らかな表情で私の膝で眠りについた事があった。私を救ってくれた英雄で憧れの人。

 

 

「(今頃、何処で何をしてるんだろうな。あの人は)」

 

 

 あの灰色の英雄に、私は憧れていたから。

 もう一度、あの人の笑った顔が見たいとルージュはふと思った。

 

 




 
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