小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
ちょっと幕間を挟みます。
ルージュのちょっとした過去のお話。
これは私の昔のお話。
私が生まれたのはゼウスとヘラが『黒竜』討伐を果たせず、世界は第二世代の育成へと変わり始めた時期だった。
私の母は生まれつき身体が弱かった。
私の一族は代々、身体が弱く短命な事から呪われた一族と呼ばれていた。小人族は強くない。恩恵を授からなければ常人より身体能力はかなり劣る。視野の広さと眼の良さ以外ではバッドステータスの種族で、持病により身体は弱く、村で生きていくには足手纏い過ぎた。
そこで、小人族の一部は村を新しく作った。
人間や獣人との共存が難しいと判断し、小人族は新しい村を建てたのだ。私の一族は呪われていると言われていたが、一部の人達には崇拝されていた。当時は理由が分からなかったのだが、聖女ルナの血があったが故に莫大な神秘を内包していたからだ。
今思えば、神性の過多に身体が耐えられなかったのが原因だと実感する。薄めたとはいえ強い『
恐らくお母さんもその力を持っていた。だが、強力過ぎた力は身を滅ぼす。聖女ルナが生き返り、短命だったように母もまたそれに見合う器ではなかったのだ。
そんな中で、私は器に収まり切る存在として生まれたらしい。万物の声を聞き取れ、ルナの血を宿しながらも健康な子供として生まれた。
なんなら、元気過ぎて崇拝してた同じ同胞が引いていたらしい。あの頃、滝の上から飛び込んだり、落とし穴で悪戯したり、鳥を撃ち落とす為に独学で狩りをしたり、微精霊と踊って遊んでいた。森の中なら微精霊は私の前によく姿を現してくれていた。一体だけだけど。
父は母の持病を何とかするために旅に出ていた。
どうやって治そうかアテもないが、歌に関する資料を多く取り寄せていた。聖女ルナの歌によって全てを癒し、浄化すると文献に残されていた為、歌によって治せる可能性を見出していた。
だが、父は亡くなった。
帰る途中でモンスターに襲われたらしい。
それを受け止めきれずに私は森の奥に走った。
微精霊の心配の忠告も聞かず、ただただ走った。
「嘘だ……嘘だああああああああっ!!!」
当時六歳の私には受け止めきれなかった現実。
帰ってこない父の現実を否定するかのように駄々をこねて、泣き叫んでいた。辛い現実だった、そんな事は子供の私にはとても受け止めきれない現実だった。
「お父さんは…死んでない!!」
心を折るには充分過ぎた。
光を失い、訳も分からずに走って、泣いて、子供だった。
どこにでもいるような普通の子供。
憧れた英雄になりたいという意志すらこの時はなかった。
ただ、お母さんとお父さんがいればよかった。
それだけで幸せだったのに……
その夢は終わり、世界が灰色に染まった。
そして、笑いたくなった。自分が惨めで馬鹿らしくなった。弱くて弱くて、そんな自分を呪った。
そんな中、雨が降り始めた。
まるで涙を洗い流すように…優しく雨が降り出した。
「……お父さん」
頭が冷えた。
おかげで、笑えるくらいに愚かな自分を見つめ直せた。大嫌いな雨は今だけは嫌いじゃなかった。
お父さんが居なくなって、お母さんを治せる方法は絶望的だ。いずれ、お母さんまで失ってしまう。
どうすればいいか、今の私に出来る事はない。
オラリオでその方法を探すには、今の時期のオラリオは危険と父の手紙に書いてあった。
もう全部、詰みだ。
「……帰らないと」
私がなんとかしないといけない。
どうすればいいかなんてまだ私にはわからない。六歳の子供に何が出来るのかと問われて、出来る事など特に無い。何より、身体が弱くて短命な母親を置いて遠出出来るだけの勇気はない。
少女は無力だった。
でも、今はとりあえず帰る事が先だ。私が生きていなければお母さんはどうにも出来ないのだから。
その時だった。
パキリ、と小枝が折れた音が聞こえた。
「……えっ?」
辺りを見渡す。
雨の中なのに何かが歩く音が掻き消されない。それを見た瞬間、眼を見開いて反射的に草陰に隠れた。
「……う、そ……モンスター?」
その日私が出会ったのは熊だった。
地上に残された熊のモンスター。中層域に生息する怪物『バクベアー』。下界ではダンジョン以外でもモンスターは存在する。ダンジョンは蓋、だが蓋をする前から溢れていた怪物は当然ながら存在する。
少女はこの場では餌に等しいくらい無力な存在。
気付かれたら最後、その爪に引き裂かれ食い尽くされる。
「に、げなきゃ……」
パキリ、と小枝から音が漏れた。
それは動揺した自分が踏んだ小枝から漏れていた。
「グオオオオオオオオオオオォォッ!!!」
「ひっ…!?」
少女は走り出した。
追いかけてくる熊から必死に逃げる。モンスターと小人族では最早力の差は歴然。神の恩恵も持たないルージュにはアレが地獄の
「ハァ…ハァ…!!」
子供の体力では追いつかれる。
一か八か木の上に飛び付き、駆け上がるように登っていく。高い所なら『バクベアー』は鈍重で登る事は出来ない。
「グオオオオオオオオオオオッ!!」
そんな少女を見た『バクベアー』は大木に向かって突進した。揺れる足場にしがみつき、振り落とされないように耐える。二回、三回と諦めずに突進を繰り返す。諦めて帰ってくれと懇願する様に神に祈り、命の危機に怯えて大木の幹にしがみつくルージュ。
しかし、祈りは無情にも大木の方が先に限界を迎えた。ミシミシと嫌な音を立てて大木が折れ始めた。
「嘘……っ、やばっ!?」
折れた大木の下敷きにならないように素早く飛び降りるルージュだが、子供の身体で高い所から飛び降りたせいか、その衝撃は脚に代償を背負わされるが如く、ダメージを負わせた。ピキリと嫌な音と激痛、折れてはいないと思うが罅は入り、脚が衝撃で麻痺して動けない。
動け動けと必死に脚に力を入れようとするが、脚が痺れて上手く立たず、雨の中の森の地面を這いつくばる。
泥だらけになろうが、今はそんな事を気にすることが出来ないくらいに怖い存在から逃げるために逃げようとする。
だが、現実は非情。
背中に生暖かい息が当たったのは、思わず振り返ると私の目の前に広がったのは『バクベアー』の顎だった。獰猛な牙が私を標的に襲いかかる。
あっ、死んだと悟った。
死にたくないと思いながら目を瞑ったその時、
「『
私の耳に鐘楼の音が聞こえた。
目を開けるとそこに『バクベアー』は存在せず、血を被った私と
雨が私に降りかかった血を洗い流す。
現実に引き戻されるようにコツコツと足音が聞こえた。呆然とする私の前に現れたのは、
「何をしている。小娘」
まるで神様と思うくらいの美貌を持つ灰色の女帝だった。
この日、私は運命に出会った。
私が英雄の階段の一段を前に、全ては此処から始まったのだ。
ルージュ 七歳
・当時引くほどのヤンチャっ子
・ルナの血を持ちながら器に収まった子
・この頃、微精霊一体と友達(ちょっと声を聞ける)
・趣味は父の持って帰る歌を歌う事
????? ??歳
・灰色の女帝
・ルージュの憧れ
・未完成【星降る夜に】を聞いた人
・膝枕された人
・一年後に死ぬ
……一体何者なんだ(すっとぼけ)