小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
今回、ベル視点。
––––強くなろう。まだ始まったばかりなんだから
その言葉を聞いて、僕は決意を心に刻んだ。
僕は一目惚れをした。
金色のお姫様に僕は情けないくらいに恋をした。駆け出しとして、神様のファミリアになって冒険者になって浮かれていた。
それはもう浮かれていた。
いつかこの人に追いつきたいと心の中で思いながら、中途半端な覚悟でダンジョンに挑んだ。
そこから自信が付き始めた。
神様は才能があると言ってくれて、エイナさんに教わる講義も徐々に覚える事が出来て、何より冒険者である事がとても誇らしかった。
だけど……
『雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ』
そんな薄っぺらい自信も誇りもその一言で折れてしまった。
悔しかった。言い返せなかった。全く持ってその通りだった。いつかとはいつだ?隣に立つとはどれだけ遠いのか、全く見えていなかった。
まだ
そこからは覚えていなかった。
酷く情けなくて、自暴自棄になって防具も付けず、ダンジョンでナイフを怪物に振るっていた。
五階層を超えて六階層。
僕は新人の『
「……『ウォーシャドウ』」
逃げる?あの時みたいに情けなく?
冗談じゃない。あの時みたいに無様を晒すなんて出来ない。
そう思い、僕は命懸けの冒険を始める。
今はただ、強くなりたいと心が叫んでいた。
「ふっ!!」
前より見えるようになった。囲まれても当たらない。基礎ステイタスが伸びたおかげで身体が動く。殺せる。避けては殺し、走っては切り裂き、それを続けていた。
変幻自在に伸びる腕を見切り、漆黒の爪を躱し、血を踏み締めて魔石を穿つ。
勝った。それなのにまだ気は晴れない。
この程度で冒険と言えるのだろうか。まだ全然足りない
そして、ピキリと音が聞こえた。
それは、新人に対する歓迎。
それは、ダンジョンの
無論、与えるのは幸福にあらず、絶望を与える『
幾ら何でも無茶過ぎる。囲まれて全方位からの怪物の攻撃を捌ける自信はなかった。それでも此処には僕しか居ない、助けは来ない。怒りも情けなさも全て吐き出すように叫んで僕は怪物の群れに襲い掛かる。
そして……
僕の視界に蒼色の星が横切った。
気が付けば半分の怪物を担当し、僕の背中に身体を預け、後ろの『ウォーシャドウ』を殺し始める。
「九体受け持つ!十一体を出来る限り減らせ!」
「えっ、は、はい!!」
とても速かった。
反応速度や脚でカバーし、確実に仕留めている。僕に似たスタイルで僕の上位互換。
右腕が伸び、爪が迫る。
体勢を低くして、躱しては接近して魔石を砕く。それを繰り返していると、彼方は八体を既に倒し切っていた。
ただひたすら闘った。
次々と他のモンスターまで引き寄せられ、僕は名前も知らない女の子と傷だらけになりながらも、闘い続けた。
「っと、終わった」
「ふう……あ、ありがとう」
汗を拭い、疲れたような顔をしている僕に、小さな蒼髪の女の子は反射的に返した返答に冷たい目で睨み付けていた。
「何やってんの君は」
「!」
「食い逃げしたと思ったら、こんな真夜中にダンジョンに潜って。自殺願望者か?」
「ち、違……」
気が付けば違わない、と口に出していた。
自棄になってダンジョンに潜った事は自殺行為にも等しかった。悔しくて食い逃げした事を思い出すと顔が青くなった。
「酒場で馬鹿にされたトマト野郎って君だろ?」
「!!」
「……ハァ、馬鹿にされて悔しい気持ちは分かる」
【ロキ・ファミリア】に笑い者にされて、自分が馬鹿にされて、それでも言い返せなくて、弱い自分を許せなくてこのザマだ。そしてその無鉄砲さにダンジョンに向かった。そんな僕に釘を刺すように少女は告げた。
「けど、これを冒険とは言わない。これはただの自暴自棄だ。それで店にも迷惑かけてるんだ。ちゃんと考えなよ」
「……すみません」
「謝るなら明日酒場にちゃんと金持って行きなよ。銀髪のウェイトレスさんが心配してたからね」
うっ、シルさんに申し訳ない事をした事に対する罪悪感が頭の中で埋め尽くされる。明日、絶対に謝ろう。
でも、今はどうしてもこの気持ちを払拭したかった。我儘なのは分かっているけど、それでも弱い自分を少しでも強くしたかった。やれやれと思いながらも蒼色の少女も付き合ってくれた。
そして今日の夜は怪物と闘う事で夜が更けていった。
––––強くなろう。まだ始まったばかりなんだから
僕は強くなりたいと心から思った。
★★★★★
ルージュと暫くパーティを組む事になってその安定感に思わず息を呑む。順調過ぎるくらいに怪物を狩り、階層ごとに違うモンスターを物ともしないその戦闘力、技術も能力も足の速さですら僕は及ばない。
だが不思議な事に劣等感ではなく、負けたくないという感情の方が強かった。ルージュは強くて、なんなら男の僕よりカッコいい。絶対に女の子にもモテそうだ。そして何より
僕があの人の隣に立ちたいと願っているより遥か先を見ていた。どうしてそんなに強くなりたいのか聞いてみたら、『約束があるから』と返答を返された。
「私はね、黒き終末を終わらせる為に強くなりたいの」
「黒き、終末……って何?」
「ぶっちゃけ私にも分からん」
ええ…、とその答えにどんな顔をすればいいか分からなかった。
「まあ、ザックリ言うと。––––英雄になりたいからかな?」
「英、雄」
「それこそ、小人族で女で、笑っていた奴らを見返せるくらいに強くなって、最っ高にカッコよく生きたって胸張って死ねる時が来て、そんな生き様を語り継がれていくようなカッコいい英雄にさ」
その答えに僕は一歩だけ引いた。
ルージュには迷いが無かった。真っ直ぐで芯が通っていて、押されてしまうような覚悟があった。
そうだ。僕もそうだからだ。
お爺ちゃんに出逢いも冒険も全てオラリオにあると言われて、僕は此処にいる。御伽噺の英雄に憧れているなんて、恥ずかしくて言えない。
けど、それを思って行動出来る人間がどれだけ居るだろう。富、名声、権力、力、此処はそんなものを求めている人が冒険者になっている。けど、英雄になりたいと臆する事なく覚悟を決めて強くなろうとしている人が、どれだけいるだろうか。
「僕も、英雄になりたい」
気が付けば、自然と口に出していた。
はっ、となって口を塞ぐのを見たルージュは笑って口にする。
「やってみなよ。まあ私の二番煎じになるかもだけどねー」
まるで挑発だった。
でも、ルージュの言葉に怒りを覚える程では無かった。ルージュは
それは闘争心。
負けたくないという感情。
ああ、認めよう。
勝手な気持ちかもしれない。
こんな事、ルージュにとっては烏滸がましい話かもしれない。
けれど思う。
僕とルージュは友達であると同時に
「負けないよ」
僕は小さな声で精一杯の宣告を返した。
★★★★★
ルージュが居ない時、サポーターとして付いてくるリリと一緒にダンジョンに向かい、順調に階層を攻略していく。リリのサポートは的確で、ルージュとはまた違った頼り強さがあった。
神様のナイフもあり、攻略の速度はかなり異常だとエイナさんにも言われたけど、ルージュは僕より更に上だ。聞けばルージュの登録日は僕より後で、僕より強い。スタートラインは僕の方が先だったのに追い越されていたのだ。
悔しかった。
最近組まないのはルージュにも用事が出来たらしく、この隙に差を埋めておきたいと思った。
リリと【ソーマ・ファミリア】の一悶着こそあったが、僕は前より強くなった。神様がそれこそ「成長期でかなり異常な速度だぜ君ぃ」となんか呆れられたが、その実感はあった。
そして、ある発表を聞いた。
ギルドの掲示板に張り出された情報に目を見開いた。
『アイズ・ヴァレンシュタイン Lv.5→ Lv.6
偉業 階層主ウダイオスの単独撃破
所要期間 三年と三ヶ月
モンスター討伐数 8,000体以上
ルージュ・フラロウワ Lv.1→ Lv.2
偉業 推定レベル3のモンスターの討伐
所要期間 一ヶ月
モンスター討伐数 2986体』
その張り出しに僕はまたダンジョンに向かった。
遠い。情景にも、宿敵にも余りにも遠かった。一月でランクアップという偉業の記録とその討伐によるランクアップ。最早駆け出しと呼ばれない程に強いルージュに今度は劣等感が強くなった。
強くなっている自信はあった。
負けないくらいに前に進んでいる自覚はあった。
それでも
覚悟も力も足りていない。信念が強いルージュにあっという間に追い越され、離れていく。それを認められなくて僕はダンジョンに向かった。一人で十階層に向かった。
僕の冒険はまだ遠い。
僕の覚悟はまだ弱い。
けど、それでも追い付きたいという想いが溢れた。
強くなろう、まだ始まったばかりだから。
僕はまだ始まったばかりだ。だから負けない負けたくないと神様のナイフを握り締めた。
絶対に二人に追い付く。
その想いが更に強くなって、僕はナイフを振るう。
僕の冒険はまだ始まったばかりだ。
【
・好敵手と定めた存在との共闘時、戦闘時全能力高補正
・対象スロットの開放
・好敵手を超えるとスロット消失
・全スロット消失にてスキル消失
『対象』
・ルージュ・フラロウワ
・
・
ヘスティア「……ナニコレ」
新しいレアスキルとベルの本音を聞いたヘスティアは思わず「アオハルかよ」と答えた。恋敵ではないと思うが、だけど女の子の名前が出た事に複雑な顔をしていた。アイズの時よりマシだが、少なからず影響されてる事にヘスティアは百面相である。
対象スロットは三つ。
ベルが心から宿敵と思った存在にのみ登録され、追い越せばスロット消失し、全て追い越した時にこのスキルは消える。現在一つ目のスロットはルージュが埋めている。二人目の候補はやはり……