小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
一週間はあっという間に過ぎた。
リースと中層に挑んでは逃げて、再アタックしては息を切らしたり、フィルさんとレフィーヤと会って並行詠唱の特訓をしたり、ベルとサポーターのリリと一緒にダンジョンに向かったりと、まあ結構充実してた。
「よっ、アイズ」
「ルージュ!見送りに来てくれたの?」
「まあね。遠征、頑張って」
「……帰ったら、また歌を歌ってくれる?」
「いいよ。リクエストは決めておいてね」
アイズが遠征に行く前に私を抱き締めてきたので頭を撫で、生きて帰ってこいと鼓舞して背中を押した。
「ベートさん」
「あ"っ?」
「死ぬなよ。遠征頑張ってね」
「殺す」
「なんでっ!?」
ベートは格下に心配される事に憤慨し中指を立て、闘志をギラつかせていた。
「フィンさん」
「ん?ルージュか、見送りかい?」
「対精霊の魔法は頭に入ってる?」
「問題ないよ。この後かい?外に出るのは」
「うん。頑張ってね。あと、ちゃんと『冒険』してきなよ」
「ああ、君も気を付けて」
「お互いに」
同族として超えるべき目標の人に手を振り、そこそこ親しい人達の見送りが終わり、私とエレ様は透明化のローブと兜を被り、一か月半ぶりにオラリオの外へと出た。
★★★★★
私達はオラリオの外の森の中にいた。
アスフィさんが生み出した飛行を可能とする靴『
エレ様も長距離移動に若干疲れたので少し休憩する事になった。
「ありがとう【
「いえ、元はと言えばヘルメス様から貴女方を連れてきて欲しいという指示もあったので」
「顔合わせって事?」
「恐らく、私達が現在行っているクエストを手伝ってほしいとの事でしょう」
まあ確かにオラリオの外の依頼なら暗殺者などの心配は無さそうだし、【ヘルメス・ファミリア】は中位派閥だ。バレた所で多少は返り討ちに出来るだろう。あの
「
「それは本人が語ってくれるでしょう」
信号弾を上に向けて放つ。
「ん?信号弾って、居場所バレない為に透明化したのに」
「此処まで来れば問題ないでしょう。来ますよ」
影が視界を覆う。
空を見上げると巨大な蹄のついた足、剛翼で羽ばたき、地に降りるそれに反射的にエレ様を背に警戒し、目を見開いた。
「竜!?ワイバーンじゃん!?」
リースによって打たれた新しい剣を鞘から抜く。
結構手に馴染む。回路を組み込んだ剣は自分の身体の一部と思わされるくらいにしっくり来る。早くもコイツの実戦となるのかと思ったその時、アスフィさんが右手で制する。
「剣はしまいなさい。既に調教済みです」
「……先に言ってよ」
「ビックリしたのだわ。というか、
「ええ、【ガネーシャ・ファミリア】から借りたものです。雛の頃から育てたらしいのでどんな命令も聞きます」
「えっ、もしかして乗っていくの?どれだけ遠いの?」
「三体も居ますし、二人乗りでもないので此処からなら一週間もかからないでしょう」
まあそれならいいか。
ワイバーンで遠い所まで行けば尚更追いかけて来ないだろう。というか、そのヘルメス様が居ないという事は、オラリオから私達を案内する為にアスフィさんは使いっ走りされたのか。口に出さないけど。
「使いっ走りだったのね」
「ええ、一度あの神は死ななきゃ治らないんじゃないですかね…!ほんっっとにあのヘラヘラした顔に一発ぶち込みたい…!!」
「あっ、えっと……頑張って」
エレ様、正直に言っちゃダメ。
この人結構苦労人だろうから、その言葉だいぶ地雷だった。日々の恨みが口から溢れるアスフィさんに乾いた笑みを浮かべるしかなかった。
★★★★★
エレシュキガルは考えていた。
エレシュキガルはヘルメスという神は断片的とはいえ知っていた。ヘルメスは商業,旅人,そして約定を知る神。
舞台を静観し、中立に動くとされるのがヘルメス。そのヘルメスが何故わざわざアスフィに使いっ走りを頼んだ?
ヘルメス自身が何かを企んでいるのか、それとも
アスフィの言葉を思い出す。
『三体も居ますし、二人乗りでもないので此処からなら一週間もかからないでしょう』
二人乗りでもないから一週間もかからない。
この言葉に引っ掛かった。つまり
興味があった筈だ。
「……【
「えっ、今ですか?本人から伝えると言伝が」
「話せと言ったのだわ」
『畏怖』が発動される。
その恐怖にアスフィは目を見開き、冷や汗を流す。ワイバーンも怯えて、まともな飛行が出来なくなる程に。
その様子にルージュは「どうしたの?エレ様」と首を傾げた。ルージュは怯えていないが、いきなりの『畏怖』は想定外だったのだろう。
「ルージュを連れてこなければならない事態であるなら、私達にその情報を開示する義務はある筈」
「で、ですが……」
「出なければ私達はヘルメスの所まで向かわないわ。大方、依頼主が居るのでしょう?」
エレシュキガルはヘルメスを信用していない。
二十四階層はウラノスの私兵がルージュに直接依頼していた。【ヘルメス・ファミリア】も恐らくはウラノスによって動かされている。
ウラノスを信じていないわけではないが、何か裏がある事は明白。中立のギルドが大手ファミリアに依頼すればいい話を【ヘルメス・ファミリア】を使って調べてる時点で何かおかしい。
糸が絡まっている。
ウラノス、ヘルメス、ロキ、ディオニュソスの神々。
穢れた精霊、怪人、未知のモンスター、そしてその盤面をひっくり返せる力を持つルージュ。
ウラノスは祈祷を捧げている為、犯人候補からは外れる。祈祷を止めれば、ダンジョンに影響を及ぼせるからだ。多分穢れた精霊の調査こそ関わっているが、別件で何か裏がある。
ロキも犯人候補から外れる。
【フレイヤ・ファミリア】がいても壊滅まで持っていけるし、眷属達は信念がある。それを捻じ曲げてまで下界を滅ぼそうとは思っていない筈だ。
ヘルメスはグレー。
ウラノスの秘密を知っていて、手を貸している可能性はある。だが、多分中立。確信は持てないのでグレー。
ディオニュソスもグレー。
エレシュキガルはあった事が無い。冥界を一時期騒がせた奴程度としかわからないので、判断しかねるが、貴公子みたいな神とルージュに言われ、知っている性格と少しズレているのでグレー。何なら割と黒だが、眷属は最大でLv.3くらいで微妙。
穢れた精霊事件から神々の間でも結構ピリピリしている為、後々押し付けられるくらいなら先に聞いておかなければならない。
ヘルメスの受けた依頼とは何なのか。
ルージュの信頼もあり、アスフィに対しては信用こそしていたが、エレシュキガルはヘルメスの神意を知らなければルージュを向かわせる事はしたくない。
観念したかのように、アスフィは口を開いた。
「……分かりました。私達【ヘルメス・ファミリア】に依頼してきた神は月女神のアルテミス」
「アルテミス?三大処女神の恋愛アンチが何を?」
「依頼は二つ。一つがエルソスの遺跡の監視。そしてもう一つは貴女を連れてくる事」
「私?なんで?」
「それは分かりません。ただ、ヘルメス様ご自身が彼女なら行けると会ってもいないのに言っていましたから」
今回の依頼は恐らく例外。
アルテミスは恐らくオラリオの事件に関係はない。善神で厳格な処女神がそんな事を企んでいるとは思えない。
結論を言えばアルテミスが穢れた精霊との事件に関わっている可能性は低そうだ。
エレシュキガルは思考を加速する。
何故ルージュなのか、他の冒険者と違う所があるとすれば『聖域』を持つ事、精霊と契約している事。
実質、ヘルメスはルージュが精霊と契約している事を眷属から知っている。この依頼にはもしかしたら精霊の力が必要になるかもしれない。
「私が知っている事は、エルソスの遺跡の付近での自然の急激な汚染、そして蠍型の未知のモンスターの増殖により近隣付近の村が壊滅している事、そしてその事態を止めるべく動いているのですが、それを止めるだけの鍵が足りないとヘルメス様は仰っていました」
「それで私……いや、でもなんで私なんだろう?」
「そこまでは……すみません。恐らく貴女が鍵だとするならこの事件を終わらせるために戦闘を行わなければならないかもしれません」
気の抜けた声で「なんで私なんだろうなー」と呟くルージュ。
というか、ヘルメスがなんでルージュなら大丈夫と確信を持っているんだ? ルージュは会った事もないのに。
「っ……」
不安が募る。
また、ルージュが危険な目に遭うのでは無いかという不安。いっそルージュと一緒に別の所へ逃げようかと考えようとしたその時、ルージュはエレシュキガルの顔を見て微笑んだ。
「大丈夫だよエレ様」
「ルージュ……?」
「ヘルメス様の事は少しだけ知ってるし、それに『約束』したでしょ?」
誰も見た事のない、強くてカッコよくてどんな『理想』も叶えられる英雄になるルージュのその道を歩む事。だから置いていったりしない。その言葉は違えないと誓ったから。
「……ハァ、分かったわ。貴女に任せるのだわ」
「ありがとう。エレ様」
ルージュの瞳に折れ、今回の事件は任せる事にした。
こうして三人は
アルテミス編 突入
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