小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
五日目の朝
いよいよ空の旅にも飽き始めていた。流石に遠くて何も無いとただお尻が痛くなる。空の旅でステイタスが伸びるわけもなく、ルージュは欠伸を噛み殺した。
「そろそろです。見えてきました」
「ん…、そろそろ……えっ?」
その光景に私もエレ様も目を疑った。
森は枯れ果て、泉は黒く、地面はまるで燃え尽きた灰のように乾いて死んでいる。遺跡から徐々に森の命を奪っているようだ。
「っ……!!」
感じる。
トワが居る私だからこそ感じ取れる
これは
これはダメだ。
身体が震えて、胸の動悸が早くなる。精霊の力なんて比じゃない程の力の奔流、そしてそれが遺跡の中で暴れている。まるで檻を破るかの如く、あの遺跡から吐き気がする程の力が渦巻いている。
このままじゃ駄目だ。
私は【
「––––やめなさいルージュ」
全力の『畏怖』が私の行動を止めた。
その声が怖く、姿が恐ろしく、魂が震えるような、凍える極寒の海に身を投げたかのような錯覚に、思わず息を呑んだ。
「……エレ…様」
「貴女が何を感じ取れたかは私には分からないのだわ。けど、
その言葉に私は冷静さを取り戻す。
「それでも貴女は救おうとするんでしょ?」
「……それは」
言葉が出ない。
その通りだった。きっと私はそう動いていた。
「それは貴女の悪い所。だけど、それが貴女の良い所でもある」
無茶無謀は悪い所だ。
でも、助け出したいと思える優しさは良い所だとエレ様は告げる。でも、今のは余りにも冷静じゃなかった。
「先ずはヘルメスの部隊と合流しましょう。全て救うという絵物語を実現するなら、焦っちゃダメよ」
「––––はい」
私はトワとの同化を解除する。
翡翠色の瞳は元の
––––私を殺して。
その言葉が誰のものだったのかまでは分からない。
けど、その言葉が許せなかったのだ。いつもの自分を抑えられないほど、その言葉が嫌いだった。だからどうにかしたいと思った。無鉄砲過ぎた。何も知らないのに。
「………」
もう少し、大人にならないとな。
そう思いながら右手を見る。私の指からほんの僅かに血が流れていた。
★★★★★
死んだ森から少し離れた崖の近くに拠点を構えて監視を続けているらしい。それは何でも、未知の蠍型のモンスターの襲来はあの遺跡付近から生み出された怪物だと断定され、あの付近で拠点を構えるのは不可能となり、遠目からでも確認できる位置に野宿しているようだ。
「ただいま戻りました。ヘルメス様」
「おお、戻ってきたかアスフィ。済まないな、使いっ走りを頼んで」
「殴っていいですか」
「それは困る!?悪かったな、
済まないな、と頭を撫でる好々とした青年の神。顔を赤くして、溜め息を吐き、「私は先に休んでいます」とアスフィさんはテントに引き篭もっていく。【ヘルメス・ファミリア】の団員の人達にも手を振ると、軽く笑って手を振り返してくれた。
そして、その主神が私の前に立って自己紹介を始めた。
「やあ、初めましてルージュちゃん、そして冥界の女神エレシュキガル。俺はヘルメス、アスフィ達の主神さ」
「うおお、聞いてた通り胡散臭い」
「この男、絶対ロクデナシなのだわ」
「初対面で酷くね?というか、俺の事を知っていたのかい?」
まあ、神様の性格についてはオラリオに行く前に出会った神様から聞いた事がある。ヘルメス様は胡散臭いけど、熱い神だと聞かされていたし。
「まあ、ヘルメス様を知っている神様から聞きました。私がオラリオに向かう前の数週間の付き合い程度でしたけど」
「へぇ、因みに誰なんだい?」
「神エレンとか言ってました。多分偽名ですけど」
一瞬、ヘルメス様の目が見開かれると納得したようにケラケラと笑った。多分、神エレンの本名を知っているのだろう。
「ああ成る程、そういう事か。まあなんだ、積もる話は色々あるんだが、その前に彼女を紹介しないとね」
森の奥から出てきたのは私と同じ蒼髪で凛々しいという言葉が似合いそうな狩人の姿をした女神様だ。その美貌に少しだけ見惚れると、エレ様が後ろから両頬を引っ張ってきた。
「初めまして、私の名はアルテミス」
「えっと、初めまして。私はルージュ。此方は私の主神、エレシュキガル様です」
「済まないが、直ぐに試してほしい事がある」
付いてきてほしいと言われ、私はアルテミス様の背中についていく。少し歩いた先には、地面にクレーターの跡が残され、その中心に原因らしき槍のようなものが刺さっていた。
「水晶と、槍?」
「ああ、これを引き抜けるか試してほしい」
唐突の頼みに困惑するが、私も一応気にはなっていた。あの遺跡の中の力と少しだけ類似しているような感覚があったから。槍は何処からか発生したかも分からない水晶に刺さり、普通の人では抜けなさそう。ましてや私でさえ深く刺さっているのなら抜ける気はしないが……
「……分かりました」
私は槍に触れる。
不思議な力が槍の中に込められている事を肌で感じ取れた。
「これって……」
そして槍を掴む。
この力はまるで、神様のそれだ。考えている内にピキピキと嫌な音を立て、パリンッ!!と硝子細工のように水晶が砕け散った。
槍から感じるこの力はアルテミス様の……
「……オリオン」
「へっ?」
「……ああ、済まない。頼んでおいてアレだけど、貴女が引き抜けた事が少し不思議で」
オリオン?
というか、抜ける事が不思議?その意味が分からなくて私はエレ様に視線を寄せる。エレ様は複雑そうな顔をしていた。
「どういう事?」
「アルテミスの神話ではオリオンと呼ばれる者は射抜く者とされて、その英雄は
その言葉に呆気に取られ、アルテミス様を見ると目線を逸らされた。エレ様の言っていた事が正しいのなら、男しか抜けない筈だ。
にも関わらず水晶が砕けたという事は……
「………まさか、男と誤認された?」
「……真実は槍のみぞ知るのだわ」
槍を地面に叩きつけた。
「ふっざけんなあああぁぁぁぁ!私を男と認識してたから抜けた!?確かに胸はないしチビかもしれないけど、男と間違えられる訳無いだろ!?試練とか抜けないアレとか名ばかりの嫌がらせか!?」
「いや、清廉潔白な人間なら抜けると言われているから女でも抜ける時は抜ける……筈」
「全くフォローになってない!せめて最後自信を持って!!」
とんだ試練だ。帰ってやろうかと思った所を先読みするようにアルテミスが腰を掴んで離さない。ええい離せ!女神様に不敬な事出来ないから振り払えないんだよぉ!!
「本っ当に申し訳ないが、付き合ってほしい!その槍でしか、今回の事件は解決出来ないんだ!!」
大分必死なアルテミス様はジタバタと暴れている私に懇願するように掴んでいた腰をさらに強く抱きしめる。その時、私はある事に気付いて、冷静になった。
「……ハァ、とりあえず納得出来るだけの説明をください」
あの遺跡の事も、今回の依頼も分からないが、神を除いてルージュだけが感じ取れたその違和感。この人は本当に神様なのかと疑ってしまうほどに、
この人はまるで……幽霊のようだ。