小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
アルテミス様の話を聞いた所、エルソスの遺跡には精霊達が封印した古代のモンスターが存在する。その名は『アンタレス』という蠍型の怪物。最近の未知の蠍型モンスターはその『アンタレス』の増殖らしく、怪物が怪物を産む『
そのアンタレスがもう暫くすると精霊達が封じた結界を壊してしまうらしい。その異常事態が進むと、下界を蠍が埋め尽くすほどになるらしく、そうなれば待っているのは破滅らしい。
そして、それを屠れるのはこの槍らしいのだが……
「………」
妙にキナ臭い。
何故、この槍でなければならないのか。
「ねえヘルメス様。封印が解かれそうな原因って」
「それは俺の口からは言えない。俺はあくまでアルテミスの願いを叶えようとしただけだからね」
今はヘルメス様でさえ言ってはいけないらしい。
きっと言ってしまえば私はこの依頼を降りたくなるからか。今言えない理由はこの槍でなければならない事の意味なのだろう。
「分かった。私の眼で見て確かめるよ」
「ああ、決行は明日。俺達は『アンタレス』を討つ。今日は旅の疲れをゆっくり癒していこう」
そうさせてもらおう。
飛行の旅も流石に疲れとストレスが溜まる。コンディションを整えないと身体は思うように動けない。
槍を握りしめ、私は近くの滝まで向かった。
★★★★★
ザアザアと流れ落ちる滝に打たれながら、ルージュは瞑想を始めた。槍を握りながら、ルージュだからこそ抜けた槍の本当の意味を頭の中で整理していく。身体が濡れ、滴る水が肌を撫でる。
水浴びが好きだ。
自分を覚ましてくれるようで、熱い気持ちを洗い流してくれる。滝に打たれる事も雨も嫌いじゃない。寧ろ好きだ。
この感覚に身を委ねながら、ルージュは歌を紡いだ。
「〜〜〜〜♪」
少年希望隊より抜粋『嬰児の旅路』
何も知らない小さな赤ん坊が子と間違えた狼に乗って旅をする摩訶不思議な童話。偶にこの歌を歌いたくなる。小さな赤子のちっぽけな冒険は心を震わせ、何処までも青い空に歓喜した。
ゆっくりと『聖域』を広げる。
滝に打たれながらも歌うルージュはまるで人魚のようで、木々は笑うように木の葉が風に吹かれ、大地は祝福するように小さな光を灯し、滝から流れ落ちる水に広がる『聖域』が自然と魔力を集めていく。
精神力を大して消費せず、自然の恵みを吸収するルージュはゆっくりと閉じた眼を開く。
「処女神が覗き見ですか?意外とムッツリ?」
「違っ、なんだ気付いていたんだ」
「ヘルメス様もね」
「おや、バレてたかい」
案の定、二柱の神が草陰から姿を現した。
ルージュは滝から出て、一度木陰に隠れて服を着替え、タオルで頭を拭きながら答える。
「全く、視線が複数もあれば気付くに決まっているでしょう。それで、何か御用ですか?」
「いや、ちょっぴり話がしたくてね」
何処か好々としていた表情だったヘルメスは真剣な眼差しで頭を下げていた。
「二十四階層の事件。君がいなければアスフィとキークスが死んでた。––––ありがとう、俺の眷属を救ってくれて」
意外だった。
この神は好々として胡散臭いけれど、ちゃんと自分の眷属の事を大切にしている。聞いていた通り、芯のある神だとルージュは思った。
「お互い様です。私も護ってもらいましたから」
「ああ、それでもだ。御礼を言いたかったのさ」
神の価値観は違えど下界で自分が愛した子が死なれたら中々に堪えるものがある。エレシュキガルはまだ失った事はないが、きっとルージュが死ねばどうなるか、不思議と想像出来る。
神だって感情はある。
だから、大切な子が死んでしまうのはきっと辛いのだろう。
「アルテミス様」
「何かなオリオン?」
「いや、私はオリオンじゃないです。ルージュと呼んでください」
オリオンという英雄と重ねているのなら、それはやめてほしかった。それはきっと、重ねてしまえばそれはルージュという存在ではなくではなく、別の人間だ。
この神様はどこか諦めている。
自分を悲観していて、そんな運命を受け入れている。
「ねえアルテミス様。私は、英雄になりたいです」
「オリオン?」
「全部救えて、誰も見たことのないカッコいい英雄になりたいんです」
星空を見て、思い出す。
英雄になりたいと思ったのはいつだったか。自分だけの英雄の物語を紡ぎたい。それは見返す為、負けたくない為、そして失いたくない為にルージュは駆け上がろうとする。
この夢はきっと幻想だ。
理想論、夢物語、絵空事でまだ強くもないルージュの英雄幻想。
それでも、そう在りたいと心から思うから、ルージュは笑って告げた。
「だから、
ルージュは真っ直ぐに宣戦布告した。
いつかの酒場の時と同じ。必ず、その願いを叶える為に諦めないとアルテミスの前で堂々と告げた。
「それは……」
「よし!私は明日最高のコンディションにする為にもう寝ます!サラダバー!!」
ルージュは満足し、テントへ駆け足で戻る。
滝の近くに取り残されたアルテミスは手を伸ばそうとするが、その手を下ろした。
余りにも眩し過ぎた。
余りにも綺麗事を信じ続ける愚者だった。
そんな子に運命を託そうとしている自分が恨めしくて、それでも悟った上で彼女は笑って運命に抗おうとする。きっと、この物語の終焉に、彼女が傷付いてしまう事を知っていながら何も言えない自分が嫌になった。
「聡い子だなアルテミス。君はどうするんだい?」
「私は……いや、私は希望なんか持っちゃいけないよ」
「あの子がそれを望んでいなくてもかい?」
「それでも、他に方法なんてないだろう!!」
アルテミスは声を荒げた。
「ああ、方法なんてない。俺は君を救える方法を知らない」
「だったら……」
「でも、
ヘルメスは星を見上げ、ルージュの選択に僅かながら期待をしていた。神々でさえ、解決出来ないこの物語をどう紡ぐか。
「俺はこの目で見てみたいのさ。エレンと偽名を使った神が見定めた、あの子の道を」
かの女神が見定めた、英雄の卵の行く末を––––
★★★★★
過去最高のベストコンディション。
身体の調子も問題なく、新しい武器もまだ使っていないから問題無し。【ヘルメス・ファミリア】の準備は良さそうだ。
遺跡の前まではすんなり来ることが出来た。
蠍型のモンスターは居たが、大した強さではなかった。群れで行動している辺り、一体一体は然程強くない。数となれば脅威だが、行く手を阻む番兵には足り得なかった。
「さてもう一度確認だ。精霊の封印が解ける前に突入し、『アンタレス』を討つ」
「エレ様もついてくるんでしょ?」
「ええ、ちゃんと私を護るのよ?」
「はーい」
物凄く馴染む剣を見る。
『
短剣でも刀でもなく、リーチがあり振りやすい。
今までの武器は繊細だったからこそ、何より硬くて壊れない頑丈な剣が一番しっくりくる。下手をすれば第二級武器に迫る。
頼もしい限りだ。
「では、門を開ける」
アルテミス様が遺跡の門に触れる。
月と狩人の矢の紋章が光り出し、門が開かれる。
「……っ!」
「なんだよ…コレ……」
その光景は遺跡というには余りにも悍ましい。
地面、天井、遺跡の至る所に卵のようなものが植え付けられ、産まれてくるのは蠍の怪物。入り口付近の番兵などと比べ物にならないくらい大きい。
「古代のモンスターと呼ばれるだけはあるわね。モンスターがモンスターを産む存在は知ってはいたけど。ルージュ、トワ、魔法で蹴散らしなさい」
「了解。トワ行くよ!」
スキル【
「『––––閃光よ、駆け抜けよ、闇を切り裂け』」
右手に魔力が集まっていく。
使用するのはトワの精霊光魔法。その威力と魔力だけなら【
並行詠唱の特訓時に気付いた。
私はトワの魔法では並行詠唱が出来る。トワと同化している時は、私がどれだけ激しく動いても
剣を振るい、蠍を殺しながら、並行詠唱するその姿に本当に一月前に冒険者となったのかと驚愕してしまう。
「『代行者たる
装填された魔力に後方にいるメリルは震え上がる。
この魔力は普通の魔道士を凌駕する。同じ同胞の桁外れの力に絶句する。そして詠唱は完成する。
「【ライト・バースト】!!」
無数に拡散する光の波動が遺跡に寄生した卵ごと蠍を蹴散らしていく。そして開かれた道に、一同走りだす。
「相変わらず規格外ですね、精霊の力の行使は」
「何回も使えるわけじゃないけどね。さあ行こう!」
恐らく今の限界は三発程度。
スキルに超消費と書いてあるのは伊達ではない。短文詠唱でさえ三発が限界だ。『
神エレンについて
・ルージュがオラリオに向かうきっかけとなった神
・ヘルメスを知っている。
・他の神とも知っている人は面識がある。
・多分偽名である。
・エンカウントは十四歳の頃。
・女神
神エレン、一体何者なんだ……。
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