小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
斬っても斬っても湧き出てくる蠍に苛立ち始める。
幾らなんでも多すぎる。これでは前に進むどころか、津波のように押し返される。
「っ、数が多い!」
百は斬り殺しているのに一向に減らない蠍の大群。
卵ごと潰したところで遺跡が入り組んでいてそれこそ卵の数は数千は超える。一々相手していたらキリがない。
特に『アンタレス』を倒すには魔力は節約しておきたい。開幕ブッパは必要経費だとしても、まだ中盤だ。ここであのスキルを使うには早すぎる。
「っ……!?」
突如、蠍の尾が私の剣を弾く。
剣が通らずに押し返され、毒針を携えた尾を突き出す。慌ててそれを体を捻って躱す。
「うおっ!?っぶなっ!?」
もう一度、今度は死角から剣を振るうが、装甲が硬く刃があまり通らない。
「おかしい……この蠍、徐々に強くなってない?」
「『自己増殖』『自己進化』。番兵の中でもとびきり強い存在が現れたという事は」
「『アンタレス』が近いのだわ」
このまま時間取られても生み出されて板挟みだ。無限とはいかないが、ほぼ無尽蔵に増殖し、進化していく蠍が更に増えるならジリ貧になる。
「ファルガー、任せられるか?」
「分かった。つっても長くは保たない。良くて三十分が限界だ」
「よし、アスフィ、キークス、ルルネ、ネリーはルージュちゃんについて行け。他は足止め、部隊を分ける」
サポーターのネリー以外で最短で行けるメンバーを即座にヘルメスは導き出し、三柱をそれぞれ抱える。抱える人間は全員Lv.3以上なら神の危険も問題ないだろう。
「死ぬなよ!」
「そっちこそ!」
私達はファルガーの部隊を足止めに残し、少数精鋭のパーティで最深部に向かった。
★★★★★
最深部目前、神を背負うアスフィ、キークス、ルルネと先陣を走り襲い掛かる蠍を駆逐するルージュ。サポーターのネリーは荷物を抱えて最深部まで走っていく。
しかし、小さな呻き声が聞こえて振り返る。
アルテミスが苦しそうだ。痛みを必死に耐えているようだ。
「アルテミス様、大丈夫?」
「ああ…、大丈夫さ」
アルテミスは胸を抑えて苦しんでいる。
早く『アンタレス』を倒さなければ、ずっとこのままだ。最後の蠍を殺し、私達は遺跡の最深部まで辿り着いた。
そしてその光景に目を疑った。
「……やっぱり、そういう事か」
そこに居たのは大型の蠍だった。
触手が遺跡に絡みつき、遺跡の中を歪め、そこから溢れ出すのは……
「あの声は–––––貴女だったんだね、アルテミス様」
アルテミスの『
蠍の中心部、核と呼べる部分にアルテミスが封じられていた。水晶の中のアルテミスは目を瞑り、まるで死体のようで、それを陵辱する古代の怪物『アンタレス』が『
「……そんな、事」
「アルテミスを喰った古代の怪物、それが『アンタレス』だ」
だから、殺してほしいと言っていたのだ。
アンタレスはまだ精霊の結界を破れていないという事は『
「ふざけんなっ……!」
私は『アンタレス』に突貫する。
全筋力最大、出し惜しみなくトワの力を借りる。翡翠色の瞳と青みがかった精霊の羽の顕現、今のルージュの引き出せる力を全て魔法に紡ぐ。
「『––––閃光よ、駆け抜けよ、闇を切り裂け、代行者たる
右手に収束された魔力が『アンタレス』に向けられる。アルテミスを狙わないように本体のみを狙い、そして魔法を放った。
「【ライト・バースト】!!」
その魔力は今まで相手にしてきた蠍なら塵にできる程の破壊力。それがアンタレスに直撃する。
しかし……
「嘘…だろ……!?」
目の前の怪物の装甲さえ傷付いていない。
あの魔法は今ルージュが撃てる最高の攻撃魔法だ。それが、まるで通じない。
アンタレスの口が開く。
そこから展開されたのは無数の魔方陣。そこから放たれたのは白き月の光を携えた神の矢。圧倒的な数の矢が一斉に斉射された。
「がっ……!?」
上手く躱しても右肩、左脚、脇腹に矢が突き刺さる。
あり得ない魔力、あり得ない力、捌けたのはまだこれで『
「マズッ、床が崩れる!俺とエレシュキガル、アルテミスを……ってアルテミス!?」
地面が崩れて落ちていく。
『アンタレス』も私も崩落により遺跡の地下へと落ちていく。
「オリオン!!」
地面に落ちていく中、アルテミスは手を伸ばし、最深部の地面全てが崩壊した。
★★★★★
「かはっ、げほっ、くぁ…!」
右肩、左脚は深くはないが、脇腹はかなり深く突き刺さった。直ぐに治癒魔法を発動しようとすると、自分の落ちた場所を見て詠唱が止まった。
無数の死体だ。
ほぼ刺殺。あの矢に殺されたのだろう。死んでから多分一月前も経っていない。しかも女の人ばかりだ。
「オリオン!大丈夫か!?」
「アルテミス、様」
脇腹から血が滲み出る。
矢は抜かない方がいいか。変に抜くと血が更に出そうだ。抜くとしても回復魔法を使う前だ。
「たとえ精霊の魔法でも無理だ!『アンタレス』を討つには、その矢しか……!!」
「この人達は…貴女の……」
ドワーフ、エルフ、ヒューマン、様々な人達の死体だが、恐らくLv.2くらいはありそうな身体つき。しかも刻まれていたエンブレムには月女神の矢と三日月が血に滲みながら地面に落ちていた。
「っ、ああ私の眷属達だ。ずっと、この遺跡にいて墓も作れなくて」
アルテミスの眷属はきっと助けに来たのだろう。怪物に攫われてしまった彼女を救う為に必死になって、助けようとして殺されたのだ。
「もう、他に方法はないんだ」
アルテミスは震えた手でルージュに懇願するように手を握る。
「お願いだオリオン。私を穿ってくれ、その矢しかないんだ」
アルテミスはルージュに非業の運命を押し付ける事を承知の上で、それでも彼女に懇願した。とても醜くて、神殺しなんて最低な事を押し付けようとしている自覚はあった。
それでも、アレが止まらなければ下界は終わりだ。
頼む、と言ったアルテミスに対してルージュは俯き呟いた。
「……ウザいな」
「えっ?」
「ああウザいな!本当にウザったい!そうやって悲観して、運命を諦めて被害者ヅラしてるアンタが何よりもウザったい!!」
私は叫んだ。
傷も痛みも気にせずに激情のまま叫んだ。
「そんなもの
私は知っている。
助けてと言ってくれても救えなかった人を知っている。それしかないと分かっていても抗っていた偉大な母を今でも覚えている。
「でも、私にはそれしかないんだ!!」
「そんな事聞いてない!!違うだろ!この人達を見たら分かる筈だろ!」
運命に抗って尚死んだ母を知っている。
これしかないって、どうしようもないからという運命を受け入れて抗おうともしないアルテミスを見ていて苛立ちを隠せなかった。
自分が生きたいと望むことが悪と決めつけて、本心を押し殺して救いを求めないようにと意地を張っている馬鹿な女神の胸倉を掴んで手繰り寄せた。
「アンタのその願望はアンタを助けたいと必死で戦ってきたこの人達に言える事なのかよ!!必死で戦ってきたアンタの眷属に、助けに来る事は無駄だったんだと唾を吐く事なのか!?違うだろ!!」
この人達はきっと助けたかった筈だ。
方法なんて分からなくても、アルテミスに生きてほしいと思って助けようとしていた筈だ。
「私が聞いているのは、
ブシュッ、と脇腹から血が溢れる。
痛みで意識を失いそうだ。それでも、私は知らなければならない。
「私は……」
「ぐっ……、我儘になっていい、我欲まみれでもいい、それでもアルテミスがしたい事は何だ…!?」
血が滲んで、痛みが広がって視界がチカチカし始める。それでも、聞きたかった。使命だとか運命だとか、そんなものを抜きにしてアルテミスの想いは何なのか。
「……生きたいよ」
アルテミスはポツリと口にし始めた。
「生きて、眷属達に謝って、また下界の子達と一緒に笑いあって……!」
徐々に涙が溢れてきた。
抑えてきた気持ちを全部吐き出した。
「死にたくない…死にたくないよっ!!」
月女神はみっともなく泣いた。
押し殺していた感情が決壊して、伝える筈ではなかった本心を曝け出していた。
「なんだ……ちゃんと言えるじゃん」
安心した。
ちゃんと、生きたいって言えた事に。罪を背負わなくてはいけなくとも、この事件が終わったところで許されない罪禍だとしても、ちゃんと生きたいって言ってくれた事に少し安心した。
本心から死にたいと言われたらきっと私は救えなかったから。
「ちっぽけで頼りないかもしれないけど、それでも言うよ」
脇腹の矢を抜き、握り潰して立ち上がる。
血は流れて、満身創痍でカッコ悪いかもしれないが、お互いにカッコ悪い所を見せた同士、後はカッコいい英雄になる道を駆け上がるだけだ。
きっと私だけじゃ、『アンタレス』は倒せない。
私はまだ弱くて、ちっぽけな英雄幻想だ。それでも今だけは英雄みたいにカッコよく
「––––任せて」
––––さあ、立ち上がれ。この悲劇を覆す為に。
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