小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
現状、普通の方法でアルテミスを救う事は不可能だ。
どれだけ強力な魔法があろうと、アルテミスは『アンタレス』と融合し、『
この矢で穿っても結果は変わらない。
恐らくこの矢は射抜くと言う概念が固定されている為、使ってしまえばアルテミスの神性を穿ち、送還されてしまう。
だけど、この矢はアルテミスの半身。
今いるアルテミスは矢に付随したアルテミスの意志で構成されている。要するに『
「『紡がれし命をここに、永遠に輝く
詠唱を紡ぐ。
可能性は高くはないが、出来る事をやるだけだ。その為に、先ずはやらなければいけない事がある。
「『汝の名に基づき力を振るう事を赦してほしい。
私の全癒魔法【フロート・エクリエクス】は回復力だけならアミッドさんの魔法を凌駕する。脇腹や肩、脚の傷を修復していく。そしてもう一つ、詠唱を紡いだ。
「『集え小さな星々の願い』」
私の魔法【スター・エクステッド】は魔法を収束、停滞を可能とする魔法。それを全身に停滞させ、
停滞には発動前とは書かれてはいなかった。
つまり、発動維持の状態で停滞する事も可能と言う事。【ソニック・レイド】の効果増幅からの加速とは違い、
つまり、今の私は停滞を解くまで余程の事がない限り不死身となる。どれだけ傷を負おうが即座に治癒される。
「(脇腹も治った。後は気合いでどうにかする)」
スキルを発動し、トワと同化を始める。
私の『聖域』はトワと融合中は無条件で解放出来る。矢を握りしめ、地面に突き刺し、『聖域』に干渉させる。
「(ウラノス様が言っていた『聖域』の力。古の聖女のように『神殿の顕現』みたいな下界を歪めるレベルの出力は無理だけど、近い力が私にはある)」
神殿の一時顕現を可能とした『聖域』は『
「(矢は『
現にアルテミスは苦しがっていた。
矢の残留思念であったとしても、繋がっていなければ苦しむはずがない。
「(私が『
人が神を支配するとか前代未聞だが、モンスターが神を支配しているなら不可能ではないはずだ。
「(その為には私が『
問題は支配の段階で私が『
過ぎた力は身を滅ぼす。
どうなるか分からない。けど……
「上等だ……!」
私は『聖域』を広げ、『アンタレス』を巻き込む。
此処からは精神の勝負。神の力を奪い合う綱引き、『聖域』に流れ込むアルテミス様の力に推測は正しかったと心の中で歓喜する。
しかし……
「ぐっ、ああああ……!?」
身体が裂ける。
身の程を知れと言わんばかりの力の奔流がルージュを内側から壊していく。血管が切れ、即座に修復。右肩が爆ぜ、即座に修復。眼球が破裂し、即座に修復。アミッドでさえ不可能な時間回帰にも等しい全癒魔法がなければ、今頃四肢が爆散していただろう。
「(壊れた側から治していけ……!)」
身体が壊れては即座に修復。
四割ほど『
アンタレスが此方を向いた。
力が抜け始めている原因に気付き、触手を振るう。ルージュは今は動けない。このままじゃ避けられない。
その触手は爆発によって逸された。
「アスフィさん…!」
「無事で……めちゃくちゃ血塗れじゃないですか!?」
「私は今、此処を動けない!!五分でいいから足止め頼む!」
「ああもう……!やってやりますよ!!ルルネ、キークスは注意を拡散!ネリーは神々の護衛を!!」
アスフィさんの指示で的確に動くキークスとルルネは『アンタレス』の注意を逸らし、ルージュから遠ざける。魔剣も
ルージュは『
「……っ!」
簒奪が止まった。
私一人では吸収し切れないのか、もしくはこれ以上の容量は全癒魔法があっても不可能だというのか。『アンタレス』からこれ以上奪い切れないというのか。
奥歯を噛み締め、どうすればいいか模索する最中、私の後ろから矢を掴む女神の姿が視界に映った。
「アルテミス様……」
「すまない、私の我儘を聞いてくれて」
「そんな言い方……!」
アルテミスは俯く事をやめた。
「今更かもしれない。だけど、任せるだけじゃきっと後悔する」
アルテミスは前を向いた。
今度は手を合わせてルージュと共に矢を握る。
「こんな私と一緒に戦ってくれるかい?
アルテミスは運命に抗う覚悟を決めた。
必死で戦って、傷付いているルージュに今も死にたいと思う事を恥じた。たとえ、大した力になれないとしても、それでも自分の為に戦ってくれる彼女の力になろうと共に手を取った。
「––––うん!」
ぶわり、とアルテミスの神威が渦を巻いた。
下界で『
当然、前例などない。
そもそも、神の持つ力に耐えられる人間など殆ど存在しない。だが、『アンタレス』のような簒奪とは違い、ルージュは支配しアルテミスを取り戻そうとしている。ルージュならば、アルテミスは自分の力として使う事が出来る。暴れ狂い、身体を壊していくアルテミスの力がルージュの中で安定していく。
「これなら……!」
ルージュは『聖域』の力を一気に引き上げる。
これ以上にない程に上がり続けた『聖域』は遺跡すら掌握するほどの高出力。『アンタレス』の中の神威が暴れ出し、苦しみ出した。
「キシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
だが……それでも届かない。
七割は支配し、吸収出来たが肝心のアンタレスの中に残留している『
「っ……これでも、足りないのか!?」
そろそろ精神力も限界だ。
このままでは『聖域』が閉じてしまう。握り締めた矢に血が滲むほど掴んでいるのに届かない。力の集中で今にも張り裂けそうな精神に『アンタレス』は容赦なく簒奪を止めていた。
もうダメだ、破られると思ったその時だった。
矢から感じた不思議な感触に思わず顔を上げる。
「……えっ?」
手だ。無数の手が矢を掴んでいる。
透明で顔は見えないのに、それでも誰かがルージュ達が握っている矢を掴んでいる。不気味だと普通は思う筈なのに、どこか暖かくて、優しくて、助けようとする意志が見えた。
「お前達……」
掴んで離さない。
アルテミスを救おうと立ち上がった英傑の意志、それが『聖域』に形となって手を貸してくれている。
そしてルージュは笑った。
そして残った全精神力を注ぎ込む勢いで力の吸収を引き上げた。
ピキリ、と『アンタレス』が閉じ込めていたアルテミスの結晶に罅が入った。
「いっけえええええええええええええええええええっ!!!!」
ルージュは喉が張り裂けるほど叫んだ。
アルテミスの『
そして『アンタレス』に残った『
地面に落ちていくアルテミスに矢を抜き、一目散に駆け出すルージュ。誰よりも早く、痛みも風も時間さえ置き去りにするように地を踏み締め、歌を紡ぐ。
「『駆け上がれ蒼き流星』!」
紡ぐ詠唱は加速魔法。
足元には蒼く輝く魔法陣が浮かび、魔法の効果を増幅させる。再び『アンタレス』がアルテミスを捕食しようと口を開く。この距離では間に合わない。ルージュの脚では届かない。
「【ソニック・レイド】!!」
だが、そんな悲劇を覆さんともう一つのスキルが発動する。それは私の原点が昇華したスキル【
トワが居なければ、きっと助ける事は出来なかっただろう。聖女の原点を知らなければ、全癒魔法は発現しなかっただろう。誰よりも早く駆け上がると誓ったルージュでなければきっと届かなかっただろう。
そんな積み重ねて出来た一つの奇跡。
蒼き流星が月女神を怪物から掻っ攫っていく。一筋の軌跡を残して、『アンタレス』を超えた。
そして––––漸く届いた。
掌握した『
「ハァ……ハァ……」
ルージュは成し遂げた。
血だらけの身体で、ボロボロになりながらも誰もが不可能だと匙を投げた『アルテミスの救出』を成し遂げた。
目を瞑って眠るアルテミスを持ち上げ、ネリーの居る場所まで駆け出す。ネリーはバッグから『
「ネリー、悪いけどアルテミス様を預かって」
「そ、その怪我で闘うんですか!?」
「『
増幅された治癒魔法の停滞を終わらせ、渡された『
「ぐっ……!」
「アスフィ!?」
「テメッ、団長に何しやがる!!」
空を飛ぶアスフィさんが叩き落とされた。
悔しいが、アルテミスを解放した所でルージュでは勝てない。ポテンシャルだけならLv.4の怪物。仲間を頼らなければ倒せない。最後の力を全て注ぎ、スキルを発動する。
青みがかった六枚の羽と翡翠色の瞳が顕現され、膨大な魔力がアンタレスを威圧する。
「これが最後の力だ」
このままでは勝てないなら、
体力的にも精神的にもあと三分。ルージュの最後の意地に、怪物は恐怖した。だが、それと同時に歓喜した。この英雄を殺し、絶望の物語を再び始めるか、この英雄が自分を殺し理想の物語を紡ぐか。
喰うか喰われるかの弱肉強食。
この最期の闘いに『アンタレス』もまた尾を奮い立たせた。
「勝負だ……!」
「キシャアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」
最も最新の英雄譚の最後のページが綴られ始めた。
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