小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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第三十五歩

 

 

『うっわ…何これ』

『ドロップアイテムだけど……』

 

 

 ルージュを助けた『巨大花(ヴィスクム)』が残した棍棒を見てリースは若干引いた。二十四階層で手に入ったドロップアイテム。緑がかった棍棒なら武器に出来るのではないかと思い、持ってきた。そもそもドロップアイテムだが、見た事無かったらしくて換金できなかった。

 

 

『この棍棒の硬さ。多分()()()()()ね』

『はっ!?』

 

 

 その事実にルージュは驚愕した。

 深層クラスともなれば【ヘファイストス・ファミリア】の一級装備クラスの素材だ。

 

 

『貴女はラムトンって知ってる?』

『えっと……モンスター、だよね?』

『ええ、希少種のモンスター。階層を移動する怪物ね』

 

 

『ラムトン』

 それは深層付近に生み出される希少種。ポテンシャルはLv.4の怪物であり、その特性は()()()()()()()。ダンジョンの壁や床は硬い。そこには武具になる鉱石などが含まれているからだ。だが『ラムトン』はその壁を掘って移動する。

 

 

『稀に、階層を移動する際に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。階層の壁は鉱石で、しかも消化液によって生半可な金属じゃ溶けるからそれなりの強度の鉱石がドロップアイテムになったのね』

 

 

 確か、アイズが言っていた極彩色のモンスターの中には芋虫型のモンスターが存在し、その消化液は冒険者の装備を溶かすのだと。あの『巨大花(ヴィスクム)』の消化器官は知らないが、もしそうなら残った鉱石は半端じゃなく固いのだろう。

 

 まあよくよく考えたら、深層付近に囚われた穢れた精霊から生み出されたモンスターがあの階層にいたのだから、『ラムトン』と同じく移動手段が階層を掘り進めていたのかもしれない。

 

 

『硬さだけ言えば、不壊金属レベル。というより深層のかなり下の方じゃない?多分、貴方の言っていた金属を溶かす酸でさえ溶けなかった鉱石が固まって残ってたなら』

 

 

 この金属の硬さは既存の鉱物を遥かに上回る。

 オークションに出せば数億はくだらない。鍛治士の中でもそれだけの金額を出す者は存在する。

 

 

『このサイズなら剣は五本は打てるわ』

 

 

 この鉱石を砕くのは骨が折れそうだが、小人族のルージュに合う剣なら五本は打てるようだ。流石に直ぐに五本とはいかないが。

 

 

『研究と回路を組み込めるかも兼ねて一本、私に打たせてくれない?当然、お金は要らないから』

『分かった』

 

 

 それから五日後、剣が完成した。

 五本の内の一つ。リース特有の回路を組み込んで作られた剣は綺麗な刀身と赤い回路が浮かび、伝説の武具を思わせる素晴らしい剣に仕上がっていた。

 

 

『まだ【鍛治】のアビリティが取れたわけじゃないから、私の技量じゃ此処が限度。とはいえ回路は組み込めたわ。その剣の回路から魔力が流れ、内側から自壊させない頑丈な剣に仕上がったわ』

『銘は?』

『そうね……七星剣(グランシャリオ)なんてどうかしら』

 

 

 どうしてその名前にしたのか聞いてみると、空に浮かぶものを連想したらしい。いつか空にさえ届いてみせるという意味も込めているらしい。

 

 

『私が生み出すシリーズ【摩天】の最初の作品よ』

 

 

 ★★★★★

 

 

 

 先手を仕掛けたのはルージュ。

 階位昇華によりLv.3の膂力で疾走。迫り来るルージュに対して『アンタレス』は遺跡に繋がっていた触手を操り、ルージュに四方から襲いかかる。そしてそれは陽動、避けた範囲に次の触手が待ち構えている。

 

 だが、無駄だった。

 ルージュは膝を脱力し、四方から襲いかかる触手を体勢を低くして、潜り抜け、叩きつけようとする触手を『七星剣(グランシャリオ)』で斬り刻み、『アンタレス』に迫り、鋏の根元に剣を振るう。

 

 

「っ、力を抜きにしてもこの硬さ!」

 

 

 だが、傷は付く。

 つまりは、殺せる。ルージュは更に攻撃を仕掛ける。

 

 

「キシャアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 

 傷付いた事に『アンタレス』は吠えた。

 そしてドドドドッ!と地面が揺れる。『アンタレス』の周りを囲むように現れた蠍の大群。小さな身体で戦場を駆け抜けるルージュが『アンタレス』に近づくには周りの蠍を倒さなくてはならない。

 

 

「っっ!!」

 

 

 ルージュ目掛けて何かが飛来する。

 紫の液体、見るからに不味い。咄嗟に後方に下がり、それを避ける。

 

 

「……毒」

 

 

 蠍の毒液。

 元々毒を持つ事は知っていたが、まさか射出まで可能だとは思わなかった。ルージュは【対異常】を持っていない。毒を解毒するには長文詠唱必須だが、この状態で先程のように不死身状態になれば魔力は一気に底をつく。

 

 弱点を見つけたのか、蠍の大群は一斉に毒を撒き散らす。

 

 

「って、数多い!!」

 

 

 幾らなんでも多すぎる。

 魔法で蹴散らすにしてもアンタレスまで届かない。残り一発の魔法を今切るべきなのか。

 

 余計な思考が隙を生む。

『アンタレス』は地面に尾を叩きつける。それだけで体重の軽いルージュは後方に吹き飛ばされ、横から迫り来る触手に叩き落とされる。

 

 

「がっ!?」

「ルージュ!?」

 

 

 遺跡の壁まで叩きつけられ、血を吐く。

 雄叫びを上げる『アンタレス』は再び蠍の子を呼ぶ。アンタレスを囲む大群となった蠍に、巨大な装甲に覆われて傷付ける事すら困難な怪物。

 

 それはまるで……

 

 

「……『階層主』」

 

 

 アスフィが呟いた。

 仲間を呼び、王の一言で兵士を呼び、敵を殲滅する『ウダイオス』を思わせるその力は『階層主』に匹敵する。一級冒険者でさえ梃子摺る程に、厄介な陣形。近づけば蠍が邪魔し、遠ざかれば毒と触手の二段構え。隙がない。

 

 

「っ、ははっ」

 

 

 なのに、ルージュは何処か笑えてきた。

 強くて強くて、負けたくない思いが更に膨れ上がる。

 

 力が足りない。速さが足りない。

 知略も戦術も、今持てるだけの全てをぶつけて勝てないと思うのにルージュは笑みを浮かべた。

 

 

「上…等……!!」

 

 

 超えるべき壁は遥か高い程に震え上がり、助けたいという思いが限界を更に超えさせる。

 

 

「燃えてきた…!」

 

 

 ルージュの中でカチリと何かが当てはまる音が聞こえた。バッドコンディションであるにも関わらず、身体は徐々に躍動を強め、地を駆ける少女を加速させる。

 

 想いが、意志が、意地が、誇りが、負けたくないという闘争心がルージュの強さを更に引き出す。

 

 その全能感に身を委ね、ルージュは『聖域』を解放する。いつもは地面に魔法陣が巨大に広がり、僅かに癒す効果をもたらす程度の『聖域』が神でさえ予測出来ないその力を発揮する。

 

 

「『––––閃光よ、駆け抜けよ、闇を切り裂け、代行者たる(わたし)が命ず、光の化身、光の女王よ』」

 

 

 閃光魔法を装填、さらに詠唱を紡ぐ。 

 

 

「『集え小さな星々の願い』」

 

 

 ルージュの『聖域』に()()()()()()()()()

 

 その光景にエレシュキガルもヘルメスも目を疑った。自分は夢を見ているのではないかと思える目の前に広がるあり得ない光景。

 

 

限界突破(リミットオフ)!」

「マジか、これは……()()()()()()()……!」

  

 

 変わったのは空の景色だけ。

 下界を歪めるほどの力ではない。夜空と無数に広がる星、それが『聖域』の空間を塗り潰していく。

 

 それでも異常と言わざるを得ない。

 ルージュの『聖域』は世界を塗り替える程の出力を持たなかった。だが限界を超えたルージュは一時的とはいえ古の聖女ルナに届く大出力で世界を夜へと塗り替えた。

 

 それはルージュの原典。

 ルージュ自身が紡いだ歌【星降る夜に】はルージュの想いが込められている。昏い夜の世界、不安になりそうな闇を照らす満天の星々。限界を超えたルージュの『聖域』は()()()()()()()()()()()()

 

 

「『駆け上がれ蒼き流星––––集え小さな星々の願い』」

 

 

 並列収束。

 閃光魔法【ライト・バースト】の収束と共に、次の魔法を詠唱。

 

 星が輝く夜空の光がルージュの『七星剣(グランシャリオ)』と右手に収束していく。魔法【スター・エクステッド】の効果増幅は願いの丈により向上する。強化は一人では精々倍程度だ。

 

 だが、今は違う。

 その願いが自分一人では無く、『アンタレス』を倒したいという想いの収束。それは、()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「っ、まさか……」

 

 

 ルージュの限界突破は広げた『()()()()()()()()()()()()()()()()。『アンタレス』を倒したいという想いが増幅効果を更に引き上げさせ、『七星剣(グランシャリオ)』は七色に輝き出す。

 

 荒れ狂う魔力の奔流に対し、ルージュは覚悟を背負った歴戦の勇者のように疾走、想いを受け止めながら更にギアを上げ、迫り来る蠍を殺し続ける。いくら停滞があっても制御出来るそれを遥かに超過している。此処でブレたら増幅した魔法は暴発する。

 

 それでも暴発しないのはトワの制御力、そして果てしない度胸。死線に常に隣り合わせ、一歩踏み出せば崖から落ちるような不安定な場所をスピードを落とさずに走る事は可能か。

 

 恐怖もなければ焦りもない、あったのは笑い顔。

 

 この死線に臆さず踏み込める覚悟と、どうすれば勝てるかと常に模索し続け、勝ちたいと願う闘争心がルージュの背中を押している。

 

 でも、もう終わりにしよう。

超過収束(オーバー・チャージ)』に世界中にあるどの魔法よりも強力な破壊力を兼ね備えた魔法が『アンタレス』に向けられた。

 

 束ねるのは全ての希望(ほし)

 その光を集め続け、装填する。自分が見定めた英雄の道を進む少女に怪物を屠る『英雄の一撃』が装填される。

 

 

「キシャアアアアアアアアアアッ!!!」

 

 

 だが、『アンタレス』もまた古代から生きた最強の怪物。アルテミスを取り込み、力の使い方を覚えている。自身の魔石の魔力を使い、魔力を凝縮する。それはまるで一つの砲撃、古代の怪物の意地が神々さえ予測出来ない力を生み出す。

 

 

「『突き進め(エイルス)』っ!!!」

 

 

 閃光魔法により塵にされていく蠍の大群。

 超過収束したルージュの魔法は【九魔姫】を超える。その閃光は止められない。対して『アンタレス』の砲撃が閃光を受け止める。

 

 衝突する魔力の塊が遺跡を崩し、アスフィ達は神を護りながらもその行く末を見届ける。

 

 

「あああああああああああああっ!!」

「キシャアアアアアアアアアア!!!」

 

 

 そして決着は突如訪れた。

 遺跡の瓦礫が『アンタレス』を護る壁となり、閃光魔法の威力を削っている。本来負けないその魔力は不幸にも『アンタレス』の砲撃に相殺された。

 

 勝った、そう思った怪物はルージュを見る。

 そこでようやく怪物は気が付いた。先程いた場所にルージュの姿は居なかった。

 

 

「これが最後だ……!」

 

 

 大跳躍。ルージュの右手に握られた矢の破片。

 この破片には『神の力(アルカナム)』が僅かながら付随している。砕けても尚、射抜く概念は残っている。閃光魔法は群体を削るため、本命はこの一撃に存在する。『聖域』に投影された夜の月を背に、ルージュは最後の力を振り絞り、投擲する。

 

 

「『突き進め(エイルス)』」

 

 

 停滞魔法解除。

 その投擲の加速は音すら置き去りに『アンタレス』に向かっていく。それは矢ではない。だが速過ぎる投擲にまるで矢が通ったと錯覚する。

 

 不思議と、この一射の名前が浮かび、ルージュは叫んだ。その姿はまるで、月女神を射止めた英雄を幻視するその一撃は––––

 

 

「『––––月女神の一射(トライスター・セーマ)』!!!」

 

 

 蒼く輝きを放つ月女神の矢は装甲も魔石も、何もかも貫き、『アンタレス』の魔石へと届いた。パキリ、と音を立てて穿たれた魔石に罅が入り、砕けていく。

 

 月女神を喰らい、神々が封印さえ命じた古代の怪物は断末魔を上げる事もなく灰へと還っていく。

 

 

「『アンタレス』が……」

 

 

 月女神を喰らった最悪の怪物は装甲と魔石を残し、空へと消えていった。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「ハァ…ハァ……!!」

 

 

 身体が重い。地面は何処だ。

 最後の投擲から意識が定かではない。身体が動かない。心臓が躍動を早めて血が身体の中で高速に巡っている。

 

 跳躍から受け身も取れずに地面に落ちていく。

 

 

「さ、すがに無茶…し過ぎた……」

 

 

 立つこともままならず崩れ落ちた私を受け止めた二人。目を開けるとそこには神様達が私の下で受け止めていた。

 

 

「お疲れ様、ルージュ」

「エレ…様、それに…アルテミス様も……」

 

 

 もう立たず動けずの私にアルテミス様は膝枕をしてくれた。わあ、柔らかくて気持ちいいや。エレ様を見ると、今回は特別という事で目を瞑ってくれたらしい。アルテミス様は私の額を撫でながら、ポツリポツリと呟いていく。

 

 

「君は、馬鹿だな」

「……知ってる」

「私を救うなんて馬鹿げた真似で、ボロボロになって」

「めっちゃ無茶したからね」

 

 

 本当にボロボロだ。

 装備全部は血だらけで、叩き落とされた時に肋骨をやって、魔力は枯渇寸前。精神的にも限界だった。

 

 それでも、救えたのだ。

 誰も救えなかったアルテミス様を救えたのだから、後悔はない。

 

 

「でも、説教よりも、感謝の言葉が聞きたいなー」

「む……」

 

 

 今回、救われないなんて運命を捻じ曲げて頑張ったのだ。ご褒美とまではいかないが、それなりの感謝の言葉が聞きたかった。そういうと、アルテミス様は自分の額を私の額と合わせて、笑った。

 

 

 

 

「ありがとう、ルージュ」

 

 

 

 

 誰もが見惚れてしまうような笑顔を浮かべて、涙を流していた。本当に割に合わないと言いたいのに、何も言えないくらいに綺麗に笑うからホント、恨みの一つも出てこないや。極度の疲労と限界突破の反動に、私の意識は此処で途絶えた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「ははははははははっ!!」

 

 

 ヘルメスは笑った。

 

 

「ああその通りだ!貴女の慧眼は正しかった!!彼女は本物だ!!!」

 

 

 ヘルメスは確かに見届けた。

 救えるはずの無いアルテミスを救い、倒せなかった古代の怪物を自分の手で倒した。神々が成し遂げられない答えを、運命を捻じ曲げた。

 

 

「このヘルメスが見届けた!時代を担う最後の英雄の片割れを!!貴女の理想を継ぐ、()()()()()()()()()()小さな英雄を!!此処から時代が動くぞ!!彼女は直ぐに駆け上がるぞ!!」

 

 

 うかうかしていたらあっという間に抜かされる。

 それだけ強烈な意志を持った蒼き小人は英雄の階段を駆け上がる。

 

 

大神(ゼウス)神妃(ヘラ)よ!貴方達が成し遂げられなかった悲願を!!黒き終末を終わらせる最後の切り札に!!」

 

 

 時代を担う二人の英雄の片割れにヘルメスは興奮を抑えきれず、帽子を深く被り天を見上げた。気が付けばもう夜だ。空には満天の星空と、綺麗な三日月が浮かんでいた。

 

 

「『理想』を追い続ける小さな流星か。君が居たならさぞ喜んだだろうな、エレボス」

 

 

 今は下界に亡きかつての友に空を見上げて呟いていた。

 

 

 





 アルテミス編、完結です。
 後日談は書きます。

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