小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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第三十七歩

 

 

「【蒼い歌鳥(ナイチンゲール)】?それが私の二つ名なの?」

「ええ、不満?」

「……無難って感じ」

「無難が一番なのだわ」

「お、おお」

 

 

 エレ様の圧が強かったのでこれ以上何も言わなかった。

 エレ様が言うには、青い鳥は幸福を呼ぶ存在であり、ナイチンゲールというのは歌鳥という意味を込めているらしい。確かに暇があれば私、街の中で歌ってるな。鳥っぽいかは知らないけど。

 

 

「明日はどうするの?」

「とりあえずは整備かな。『七星剣(グランシャリオ)』も無理させたせいか少しボロボロだし、早く終わったら中層にリースと行ければ行こうと思ってます。エレ様は?」

「私はロキの所。今後の方針とか色々話すつもりだし。【万能者(ペルセウス)】の兜があるから問題無いわ」

 

 

 まだ【ロキ・ファミリア】は遠征から帰ってきてるわけじゃないから、顔は隠さなきゃいけないし、本来なら帰ってくるまで大人しくした方がいいのだが、最低でもLv.4くらいまで強くならないとまともに自衛も出来ない。正直な話、【ロキ・ファミリア】の同盟だってあまりしたくなかった。虎の威を借る狐のようで、なんか悔しいから。

 

 とはいえ、注目を集めた以上は私に人気が向く訳だ。そんな中で誘拐闇討ちしようものならどこのファミリアが動いているか特定くらいは出来る。要は誘き出す餌の役割もある。今は【ロキ・ファミリア】がいないから餌の役割になったら不味いので顔を隠さなきゃいけない。

 

 早く強くなる為にもダンジョンに行きたい。

 先ずは十八階層までの攻略をしたいとルージュは思った。

 

 

 ★★★★★

 

 

 リースの工房にて。

 私はボロボロになった『七星剣(グランシャリオ)』をリースに見せる。刃こぼれはないが、至る所に傷がある。不壊金属に近いとはいえ、やはり鍛ち方が特殊でなければ不壊武具には遠いらしい。

 

 

「うわっ、回路が何本か断線してるわね」

「ごめん…」

「いいわよ、試作も兼ねていたし。でもそうね、貴女の全開の力に回路が耐えきれないのも事実ね」

「いや、アレはそう何回も使えないよ」

 

 

 限界突破はそう何回も使えない。

 というより、アレは仲間が居ないと魔法の増幅も出来ないので一人で使う事が出来ない。トワもそうだが、力を借りてばかりで強くなっているのも私としては嬉しくない。トワが要らないという訳ではなく、私自身も強くならなければいけない。

 

 とはいえ、限界突破した一撃は増幅効果が高すぎて魔力を外に効率よく逃がせずに回路は幾つか断線してしまったらしい。

 

 

「とりあえずコレは直しておくから、それまでコレを使ってなさい」

「新しい剣?」

「それはただの中層向けの剣よ。あの金属は【鍛治】アビリティが手に入ったら鍛つ事にするわ」

 

 

 前より磨きがかかっている。

 コレも回路が組み込まれているが、金属疲労を考えると収束は止めた方がいいかもしれない。

 

 

「今日中層に向かうんだけど、リースはどうする?」

「なら、行こうかしら。そろそろLv.3になりたいし」

 

 

 私達は中層まで向かう事にした。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 十階層までの道のりは比較的に楽だった。

 というのも、上層のモンスターでは相手にならない。二人ともLv.2の後半、更にパーティを組んでいる二人に上層では相手にならないのは当然だった。

 

 

「そういえば、どうして顔隠すの?」

「まあ諸事情で狙われやすいからね。とりあえず様式美」

「そんな様式美あってたまるかっての」

 

 

 白い外套を身に纏っている。顔は最低限隠しておけとエレ様から渡されたものだ。フードを被りながら、腰に据えた剣を振るう。可動の邪魔はしないから問題はないか。

 

 

「そろそろ中層の入り口だけど、此処からは補給出来る時間が短くなる。前回みたいにならないようにしよう」

「前衛ルージュで後衛私ね」

「よし、行こうか」

 

 

 私達は中層階域に足を進め始めた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 身体がいつもより動く。

 火炎放射しようとする『ヘルハウンド』の射線から外れながら迫り、首を斬り殺し、流れるような剣筋で『アルミラージ』を真っ二つ。近づいてきた二体目を蹴り飛ばし、魔石を貫く。

 

 

「凄いわね……」

「身体が大分動く」

 

 

 ルージュ自身も驚いている。

 自身の急激な成長。何より目に見えて速くなっている。緊張感が視野を狭めていたのか、今までより戦局が見えている。どう倒せば効率がいいか、頭が勝手に思考を回す。

 

 ズレていた感覚があるにも関わらず、器はズレから本来の動きを取り戻すように加速する。

 

 

「シッ、セイッ!!」

 

 

 詠唱を紡ぐ。

 戦闘中であるにも関わらず、詠唱を紡げば地面に魔法陣が浮かぶ。超短文詠唱、効果は底知れているが、【魔導】の力が後押しする。あまり気にしていなかったが、『アンタレス』の時もいつもより加速していたのはこのアビリティがあったからだ。

 

 

「『駆け上がれ蒼き流星』!」

 

 

 まだギアを上げられる。

 トワの魔力制御に頼らずにフィルさんとレフィーヤとの並行詠唱を特訓した時にコツは掴んでいた。魔力は終盤に一気に練り上げ、解放する。

 

 

「【ソニック・レイド】!」

 

 

 ドパパパパパッ!!と流星が通り過ぎ、モンスターの身体は真っ二つの死体へと変貌する。魔法を使った速さだけならLv.3を凌駕する。群で襲いかかってきたモンスターは魔石だけ残し、灰になっていく。

 

 

「(持続時間も伸びて、消費がいつもより少しだけ抑えられる。【魔導】のアビリティって凄いな)」

 

 

 小人族は特性上、眼が良い。 

 昔、灰色の女帝さんにどうしたら強くなれるのか聞いた事がある。助言は『ひたすら見切れ。そして技を奪え』という天才肌のちょっと何言ってるかわからないと叫びたいくらいに簡潔だった。 

 

 まあその助言もあって、相手の攻撃を見切れる誘い方、弱点を即座に導き出し、実行する事が増えた。というか、あの人は一回見ただけで動きを模倣出来るとか完全にイカれた才能だった。正直反復しなければ絶対に無理だ。

 

 

「って、ルージュ!私の獲物!」

「あっ…ごめん」

 

 

 少し夢中になり過ぎた。

 ただ、まだズレが酷い。躍動する肉体に感覚がズレて動きの繊細さに欠ける。とはいえ基礎ステイタス的にはこの階層なら問題無さそうだ。

 

 

「んー、とりあえず魔石回収したらもう一層下りてみよっか」

「ハァ……そうするわ」

 

 

 ごめんて、ちょっと夢中になってただけだから。

 

 

 ★★★★★

 

 

「『苛烈なる焔、悪きを祓う聖火、焦がれ蝕む憎炎、燻る残火、灼熱の業火』」

 

 十五階層。迫り来るモンスターを狩りながらリースを護る。リースは後衛で魔法の準備を始める。魔法は使わずに脚を巧みに使い、防衛戦を張る。斬り殺すモンスターの数が多くて、自衛ならまだしも防衛の対応が追いつかない。

 

 

「二体逃した!リース!!」

 

 

 詠唱しているリースに牙を剥く。

 魔法で加速しようと思ったが、リースは手に持つ杖型の槌を振るい、『ヘルハウンド』を圧殺しながら詠唱を唱える。

 

 

「嘘ぉ……」

「『我が炎帝の剣よ、万象須らく焼滅し、果てへ還れ』」

 

 

 並行詠唱。

 リースは前衛職ではないが、槌で圧殺しては詠唱を途切れさせない。扱う魔力量だけなら私より上だ。

 

 膨大な魔力が渦を巻き、地面には()()()()()が浮かび上がる。短文詠唱により顕現したのは炎の剣。無数の剣がリースの後ろに顕現され、リースが詠唱を終える。

 

 

「【エンディブ・アストルフェ】!」

 

 

 灼熱を纏う炎剣がモンスター達を一掃する。

 数にして四十本。それがモンスターを悉く貫く。炎剣には灼熱が込められ、防御不能の炎の雨。そして……

 

 

「【爆滅せよ(フレイラ)】」

 

 

 突き刺さった炎剣が()()()

 その余波だけで身を焦がすような熱波に地面が黒く焦げて熱を燻っている。凄い魔法の威力だ。魔石まで焼却しなければ完璧だった。

 

 

「魔石ごと上手に焼かれました」

「威力抑えといたんだけど」

「それ絶対嘘!どうやったら此処ら一帯が焼け野原になるんだよ!?階層の三割くらいの範囲内のモンスターは吹っ飛んだし!?」

 

 

 範囲魔法ではなく照準を定めた攻撃にも関わらず、範囲魔法のように敵を一掃すら出来る。魔法の中ではかなり規格外だ。魔石の殆どが燃え尽きた。今日の収入はそこそこ止まりになりそうだ。

 

 残った魔石を回収し地上まで戻る。

 時間的にもう夕方。リースも『七星剣(グランシャリオ)』の整備も考えれば、この時間が丁度いいと思い私達は上層まで戻る道のりを歩いていく。

 

 

「つーか、リースが取ったのって【神秘】なんでしょ?魔法陣が浮かんでるし、私と同じ発展アビリティの顕現スキル持ってるのね」

「まあそんな所よ」

 

 

 あの魔法は正直規格外だ。

 というより短文詠唱でLv.2の後半とはいえ出せる出力を遥かに超えている。まあ規格外のエルフと言えば山吹色のあの子が浮かぶけど。

 

 

「しっかし、灼熱魔法か。気持ちいい程に強いね。エルフとはいえあんな威力出せる人はレフィーヤ以外だと初めて見た」

「いや貴女だって小人族のくせに精霊と契約してるじゃん」

「私はちょっと生まれが特殊だったしね」

 

 

 リースが首を傾げる。

 そういえば私の成り立ちは言ってなかったっけ。

 

 

「古代の大聖女ルナの血によって一族の中でその力を持って生まれたらしいの」

「なっ……古の聖女の血筋!?」

「アレだよ。精霊の奇跡みたく、聖女の奇跡でルナの力を持って生まれたヤツ」

 

 

 この話、故郷で聞いた事がある気がする。

 詳しく内容は分からないが、精霊の奇跡によって死にかけだった人間が救われた事があったらしく、聖女ルナもそれを体現していた。その時の血によって一族の中で器になれなかった人は強大な力に耐えられず、不治の病と化していた。まあ恨みはないけど。

 

 

「……………」

「リース?」

 

 

 リースは足を止める。

 そして、唐突に思い出がフラッシュバックする。それはリースが幼かった時の記憶。身の震えるような仕打ち。そしてリースの一族がしてしまった拭い切れない罪が、体を震わせる。

 

 リースの一族の犯してしまった()()()()()()()()()()()()()()。その事に呆然としていた。

 

 

「大丈夫?」

 

 

 ルージュの声に意識を取り戻す。

 嫌な汗をかいて、呆然としていた私の手を握る。肌の接触を嫌う性はあるのに不思議と嫌悪感はない。

 

 

「ルージュ、私がもし咎人だったら……」

 

 

 私の友達で居てくれた?

 とその言葉が何故か出なかった。ルージュに嫌われたくないと思ってしまっているからか、秘密にしていた方がいいのではないかと思いが溢れて口を噤む。ルージュはため息をついて、リースの手を強く握る。

 

 

「リースが何か抱えてる事があるのは見て分かるよ」

「えっ?」

「それを抜きにしても友達である事、専属鍛治士である事に変わりはないよ」

 

 

 ルージュは剣を差し出し笑った。

 

 

「私は貴女の剣に救われたから」

 

 

 リースが居なければ『アンタレス』と渡り合える剣は手に入らなかっただろう。そして何より、リースの剣に私は惚れたのだ。情熱的で、カッコいい目標も持って、槌を振るうリースに私は友達で居たいと思ったから。

 

 リースはその言葉に動揺を抑える事が出来た。 

 

 

 そう話しているうちに、地上にまで辿り着いた。

 今日はあまり稼げなかったが、ズレの修正にはいい調子だったかもしれない。

 

 

「換金したら今日は……」

「ねえルージュ。この後、一緒に来てくれる?」

「へっ?」

 

 

 換金しようとギルドに向かおうとした私の手を掴んで、リースは工房へと向かう。その顔は何処か苦しそうだが、覚悟が決まったような顔をしていた。

 

 何も言わずに私はリースの手に引かれたまま、ついていく事にした。鍛治工房の中で装備を外し、リースはルージュの手を離した。

 

 

「悪いわね」

「いや、いいよ」

「貴女に……聞いてほしい事があるの」

 

 

 リースは髪留めを外す。

 そうすると、リースの銀髪だった髪の色は()()()()()()()()()()()。その事に私は驚愕し、声が出なかった。

 

 翡翠色の髪色は珍しい。

 私が知っている限り、リヴェリアさんのような翡翠色の髪はハイエルフ特有のものだ。森の色を体現したその色がハイエルフとしては有名な話だが、リースもその髪色と同じだ。

 

 

「私の本名はリースロッテ・ヴァン・アルシエル」

 

 

 リースは自分の胸に手を当て、隠していた事を告白した。

 

 

「没落したハイエルフの血を継ぐ、古の聖女を襲った咎人なの」

 

 

 





 ルージュの二つ名【蒼い歌鳥(ナイチンゲール)
 
 元ネタ:
 サヨナキドリという鳥は美しい鳴き声とナイチンゲールの名を持ち、『夜に歌う』という意味がある。青い鳥は幸福を運び、童話でのナイチンゲールは王様に歌を届けたとされ、美しい歌声を響かせたという。

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