小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
ダンジョン三階層。
ダンジョンの一階層から三階層は大したモンスターは出てこない。ゴブリンやコボルト程度で、Lv.1でも普通に無理なく倒せる。
「ふっ!」
『影淡』でゴブリンの首を斬り落とし、近づいてきたモンスターに対しては脚技で対応する。故郷でも、対人戦の護身術は学んでいた為、戦闘の心得はちゃんとある。
「いいね」
製作者不明だが『影淡』使いやすい。
切れ味も中々、上層部なら結構通用すると思うし、脚を軸にした速さ重視の動き。
「よしっ、試してみるか」
丁度コボルトが二体いる。
初めて使う魔法に心躍らせながらも、詠唱を紡ぐ。身体の芯から熱い何かが込み上げてくるような感覚と、それを制御する為の自分の意思とバランス。集中し、詠唱を開始した。
「『駆け上がれ蒼き流星』」
紡いだ詠唱と同時に地を踏み抜き、魔法の名を唱える。
「【ソニック・レイド】!」
それは瞬く間に流れる星のように、蒼の流星が一瞬でコボルト二体を通り過ぎ、気付く間も無く首を刎ね飛ばした。シンプルな速度増強系の魔法であり、持続時間は約二十秒と言った所だが、強い。体感的に自分の速度が通常の七割増しで上がっている。
ただし……
「やっぱ速いと技が雑になる……」
斬った感触に僅かながら手応えがあった。
しっかり斬れたのなら、感触はそんなに無いはずだ。ナイフも同じく、摩耗する速度も落ちる。壊れ難いナイフではあるが、命を預ける以上は大切に使う事にしている。
「五階層が新人殺し……なら四階層までかな。流石に無理するわけにはいかないし」
その後、ダンジョンで休息と戦闘を繰り返し、四階層のモンスターに何回か攻撃を喰らい、魔法を使って一気に逆転したところから、此処以上は対応が遅れてしまうので潮時だと思い、今日は切り上げる事にした。
★★★
2800ヴァリス。
今回の稼ぎの中で食事込みの宿代と、二人分の食事料金で1300ヴァリスが無くなる。部屋は同じにしてるから取られないが、毎日1300ヴァリスも取られるとなると、早く強くなるか、パーティーを組むか。
「とはいえ……か」
最速でランクアップした記録は【ロキ・ファミリア】のLv.5の幹部。【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタインの一年が最速。しかも自傷も厭わない無茶なモンスターの殲滅をほぼ毎日繰り返して達成したもの。
宿に戻り、ドアを開けると干してあった黒いドレスに身を包んだエレ様の姿があった。
「ただいまー」
「おかえりなさい。ルージュ」
側によると、軽く抱きしめられ背中を撫でてくる。意外と人肌が気持ちよくて嫌いじゃない。無事だったことに安堵しているように見える。
「鎖帷子、結局外していったのね?痣あるのだわ」
「ああ、序盤でカッチリしてると耐久が上がらないってエイナさんが。一階層から三階層は重傷になる程のモンスターがいないそうで」
「まあ、よく頑張ったのだわ」
多分それコボルトの傷だ。
死角から突進させられた時につけられたな。あの後、魔法でどうにかなったが、基礎ステイタスがまだゼロだししょうがないのはあるが。
最初からしっかりした装備だと、耐久値が伸びない。
三階層まで死ぬ危険がないから揉まれろと言う事だろう。まあ、その助言通りやったら、この様だが。
背中を出し、ステイタスの更新を始める。
血を垂らし、施錠を解除して、背中をなぞる。更新し終わったエレ様は何故か目を見開いて呆然としていた。
「……うそーん」
「?エレ様?」
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ルージュ・フラロウワ
Lv1
力:I0 →I33
耐久:I0 →I24
器用:I0 →I39
敏捷:I0 →I53
魔力:I0 →I31
《魔法》
【ソニック・レイド】
・加速魔法
・詠唱『駆け上がれ蒼き流星』
《スキル》
【】
【
・
・精神力消費
・歌唱時、自身を中心に『聖域』を構築
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「全ステイタス上昇値150オーバー!?」
羊皮紙に写された自分のステイタスを見て驚愕の声を上げた。おかしい。この上昇値はかなり異常だ。四階層まで行ってコレならもっと下層に行ったら更に上がる。それを考えてもA以上になるのに三週間もかからないだろう。
「エレ様、やっぱ何か隠してますよね」
「うっ…何の事かしら?」
「いやスキルと書かれてる部分から大分下に書かれてるし、本当は何があるんじゃないですか?」
最初から違和感があったが、エレ様が何か隠しているのは知っていた。スキル欄が擦れている部分が二回も同じ事が起きるはずがない。そこまでドジじゃないはずだと睨んでいる。
「……それは」
「ああ、怒ってはいないです。勘ですけど、成長促進系のレアスキルみたいなもの……だと思うんですけど。まあそんなスキル知られたら騒ぎまくられますもんね」
「……ごめんなさい。ううん、貴女の素質だし、隠しておく方が悪かったのだわ」
そう言ってエレ様は再び写したスキル欄を見せてくれた。
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【
・早熟する
・対抗意識、宿敵意識を持つほど効果向上
・逆境時に全能力に対して
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………おい。負けず嫌いがこんな所で発現するのかい。
しっかし、これは確かにレアスキルだ。
経験値に補正ではなく、早熟すると書かれている。多分だけど早く成長できるものだろう。その効果は身に染みて理解した。
このスキルは多分、オラリオで前代未聞のスキルだろう。過去に【ゼウス・ファミリア】【ヘラ・ファミリア】にいた英雄と呼ばれた者達の素質があっても、長年の戦闘と経験によって器を昇華させた者が多い。だがこれは、ある意味のチート。
成長促進系のスキルで向上の上限が書かれていない。それを知れば私が初日から無茶をしていたかも知れない。
「成る程……エレ様が隠す理由も分かるわ」
「魔法は兎も角、貴女のそのスキルは多分どちらもレアスキル。他の神に知られたら頭が痛いのだわ……」
「ですよね」
しかし、対抗意識を燃やす。
宿敵を意識すればするほどに強くなるスキルか。
古代の英雄という漠然とした存在に対して対抗心を燃やせるかと言われたら少し微妙なのだが、それでこの上昇率か。明確な目標を意識したら、どれだけ上昇率が上がるのか。
「コレは凄いけど……隠すの難しくないですか?」
「そうなのよねー」
どうしたものかと頭を押さえる二人。
少なからず、私はこのスキルで誰よりも早く成長する。多分ランクアップも早いだろう。ランクアップの報告を隠すとギルドから
だが、バレてしまった場合。
このスキルの異常性を知られたら、世間どころの話ではない。いっそ開き直ってもいいけど、流石に変なちょっかいを出されるのは嫌だ。
まだ零細ファミリアだし、下手にちょっかい出されたら跳ね除ける力がないのもまた事実だ。残念ながら。羊皮紙と睨めっこしてうんうんと悩んでいると部屋の扉にノックが聞こえた。
「飯の時間だが……食うか?」
「「食う!」」
宿の長からの伝言に一瞬で悩みは飛んでいた。
因みに今回出されたメニューは辛すぎない麻婆豆腐だった。
スキル、魔法の発現理由
【ソニック・レイド】
・誰よりも早く英雄の道を駆け上がりたい
【反骨精神】
・負けず嫌い。舐められたくない。
【星歌聖域】
・御伽噺の歌をよく歌い、英雄譚に出てくる歌い手が何よりも好きだから???