小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
新展開です。文才がある文に届くにはまだ程遠いが、とりあえず頑張ります。励ましてくれた方、本当にありがとうございます。
此処は冥界。
死後に向かう場所であり、霊魂が行くとされる世界。暗く、寒く、死という結果を得て参列する魂を除いて何も無い。あるのは魂を閉じ込める檻と門、それ以外は虚無が広がる薄汚れた泉程度だ。
砂漠なら地獄でもオアシスという楽園の希望はあるだろうが、此処にはそんな希望すら存在しない地底。そんな場所を彼女は一人で管理していた。
「……貴様はいつも変わらないな」
「えっ?」
「仕事ばかりで何も望まない。此処には花も光も、星空さえ見れぬ空虚な世界だというのに」
軟禁という名ばかりで権能のみ取り上げられた男神は座りながらエレシュキガルの仕事を見続けている。飽きもせずに魂の参列を捌いていく彼女を見て欠伸が出る程につまらない光景に、些細な質問を投げかけた。
どうして、こんな責務を続けられるのか。
神々に押し付けられ、ほぼ永久に此処から出る事が出来ないという癖に。投げ出した所で、それは悪い事ではない筈にも関わらず、彼女の瞳には空虚ではないが、熱が宿るようなものもない。
「望まない訳じゃないのだわ」
「ほう?望みがあるのか?」
「
押し付けられて、尚それを受け入れた女神。
そこに感情すら縛る程の責任の強さは最早神として次元を超えていた。冥界の女神という肩書きだけだと思っていた男神にとって、より一層崇高に見えた。
しかし……つまらない。
彼女は何処まで行っても望まない。感情の無い人形のように振る舞えるだけの存在に顔を顰める。
「つまらんな。欲しいものはあるのか?」
「……そうね」
何処か遠い所を見つめながら彼女は語った。
「私は……私を愛してくれる人が欲しいわ」
彼女は愛を欲した。
誰もが当たり前に持っていて、彼女だけが孤独で、光も当たらない冥界を一人で管理する。望んでいるように見えても、そんな希望を抱いている表情ではない。
「ならば余が––––」
「それは貴方ではない。貴方はどこまで行っても私を見ていない」
彼女は拒んだ。
男神の言葉を遮って彼女は悲しく笑う。
「貴方はきっと私一人を愛せない。貴方はそういう人だから」
男神にとって、愛とは振り撒くもの。
それはきっと誰か一人を愛する事が出来ない。彼は冥界に居続けることなど出来はしない。此処は何も無い場所、ありふれた太陽の光すら届かない冥界。そんな所できっと女神を愛せない。
「太陽は私に微笑まない。太陽が憎い、それを司る貴方も」
だから憎んだ。
太陽を、神々を、そして自分さえも憎んだ。世界に復讐するだけの権利はある筈だ。押し付けられ、何も望まない、こんな薄暗くて、寒くて、何もないこんな場所を管理させる為に蹴落とした神々を殺してやりたいと思える筈だ。
それでも、復讐はしない。
それはこの世界が尊くて脆いものだと知っているから。壊れてしまえば、いつか自分は誰も愛せない女神に愛してもらいたいなんて我儘を抱いている自分が情けなかった。
「だから、私は貴方を好きになれない」
きっと正反対だから。
女神と男神はきっと、永遠に反対の道を歩み続ける。故に彼女は愛を拒み続けた。
★★★★★
「エレ様、大丈夫?」
昨日からずっと、何処か上の空だ。
現在は聞き込み程度に街を回っているが、エレ様は何も無い所で転んだり、壁に頭をぶつけたり散漫不注意で危ない。
「……うん、問題ないのだわ。ルージュ、微精霊の聞き込みは?」
「地下に嫌な感じがするって言って遠ざかってる部分はあるらしいけど、私一人で行くのはなぁ」
多分、場所はある程度絞れたがそこに単独で行くのは流石に危険過ぎる。一応目星がついた所をフィンさんに渡したし、まだ入り口が他にあるか調べてみるが、見つけた所で入れないし、内部については【ロキ・ファミリア】の女性陣が帰ってきて本格調査になりそうだ。
「………」
妙に視線が多い。
私が知っている視線は二人のみの筈、【ロキ・ファミリア】の監視役とバベルだけの筈。あの銀色の女神様が何で私に熱い視線を送るのか分からないが、二人のみ。
その筈なのに……拭いきれないこの不安感。
「っ……!」
いや、違う。
囲まれた。視線が全方位から私に向いた。こんな市民がいる中で、手を出すはずがないと思った次の瞬間、視線から殺意を感じ、剣を抜く。
「……?ルー」
「下がってっ!!!」
飛来したナイフを弾き落とし、エレ様を背に徐々に投擲されたナイフを弾いていく。弾かれたナイフに住民は騒ぎ、悲鳴が街に飛び交う。辺りから黒いローブのようなもので顔を隠し、私達に迫り来る。
明らかに殺意が私に向いている。
手に持つ武器も嫌な気配を感じた。毒、呪詛、魔法、さまざまな可能性を考慮してこの数は多過ぎる。
「エレ様掴まって!!」
エレ様を抱えて跳躍。
ダンジョンから戻ってまだ三日しか経っていないのにこの仕打ち。いや、『
Lv.3になって直ぐに襲われるって、いや境遇を考えれば襲われてもおかしくなかったが、流石にタイミングが良すぎないか!?
「暗殺集団……!?」
「クソッ!」
同盟関係の中に裏切りがいるのか、密約が漏れたのか知らないが、最悪のタイミングを狙われた。一番怪しいのは内情をよく知らないディオニュソス様だが、そんな事を考えている暇はない。囲まれた以上、離脱しなければエレ様だけでなく、街の人達も危ない。
「ぐっ!?」
「ルージュ!?」
「平気…!直ぐに離脱しないと」
飛来してきたナイフを躱せずに肩と右腿に突き刺さる。遠距離の見張りとはいえ【ロキ・ファミリア】は何してやがる。加勢に来ないとジリ貧過ぎる。
いや、金属音が聞こえる。
見張りの人が戦っているが、許容範囲を超えているのか。
「ルージュ!【ガネーシャ・ファミリア】まで走って!」
「【ロキ・ファミリア】じゃなくて!?」
「そっちの方が早いのだわ!」
確かに街の自警をしてくれている【ガネーシャ・ファミリア】にはLv.5が居る。【ロキ・ファミリア】に向かうよりは近い【ガネーシャ・ファミリア】まで移動した方が早い。ギルドに駆け込むにしても、この暗殺集団は何処の所属かすら分からないのにギルドの介入が出来るか微妙な所だ。
「【血に酔え微睡め愚かな獣】」
「っ!?ぶなっ!?」
呪詛が飛んでくるのを避け、屋根の上を駆け抜ける。
問題なのは、この暗殺集団は周囲の事を全く気にしていない。此処で暴れられたら死人が出る。
「ルージュ!魔法で迎撃は出来ないの!?」
「無理!絶対被害が拡散する!」
光精霊魔法である【ライト・バースト】は無数の光の波動を拡散する魔法。使い勝手はいいのだが、あの暗殺集団は私と同レベルの強さもいる。そんな奴等に魔法で迎撃しても躱されるし、モンスターと違って対人にぶっ放す勇気はない。寧ろデメリットの方が大き過ぎる。
「『駆け上がれ蒼き流星––––【ソニックレイド】!」
私は加速魔法を使い、全力でこの場を離脱する。
暗殺集団と命をかけた鬼ごっこという笑えない状況を作り出した黒幕を絶対にこの手で殴ると決め、暗殺集団を振り切るようにエレ様を抱えて走り続けた。
★★★★★
「ヤバ過ぎるっス!?団長に知らせないと……!?」
彼の名はラウル・ノールド。
暫くの間、ルージュ・フラロウワと女神エレシュキガルの護衛の任務を任された人間だ。ルージュに対して押し寄せる殺人鬼を倒しては留めていたのだが、数が多過ぎて対処仕切れない。
彼には魔法こそないが、深層まで同行し経験が積まれている。都市街の殺人集団に殺される事こそ無いのだが、相手が悪過ぎた。
殺人集団は
目的の為に標的の足を引っ張り、誰かの刃が届けばそれでいい。対象がルージュである以上、足止めの暗殺者はラウルの足を留め続けた。
ラウルは何処か既視感を覚えた。
これではまるで『暗黒期』の時のような、命が一瞬で散っていくあの惨状を……
「とにかくファミリアに連絡、いや【
優柔不断とはいえ、今出来る最善を導き出しルージュ達を追おうとしたその時、地面が擦れる音が聞こえた。
「––––手合わせ願おう。【
ぞわり、と背筋が震えた。
暗殺集団の最後の一人を鎮圧させたラウルの背後には極東の刀を腰に携えた剣士が立っていた。編笠を頭に顔が見えないが声色から女性だと察した。恐らく格好から極東出身の剣士だ。
だが……
「っ……!!」
その威圧感、その殺気は自分と同格の存在である事を無意識に悟った。ラウルと同じ、Lv.4でありながら冒険者には見えない。第二級冒険者は多い訳ではない為、一通り把握しているラウルでさえ正体が分からない。
「アンタは…誰っすか?」
「答える義理は拙にはない」
ラウルには逃げる手は残されている。
だが、
「ルージュ・フラロウワ」
「………」
「それが、アンタらの目的っすか!?」
揺さぶりをかけてみたが、全く動じない。
「……一つ、訂正するならば拙はこの暗殺集団とは別の存在」
「なっ…嘘だ、なら何故こんなタイミングで!?」
殺人集団とは別の集団が【
「問答など、今は無粋であろう」
「っっ!!」
「構えよ」
刀の柄を握り、構える女剣士にラウルは武器を取り出す。ラウルには特別なスキルも魔法も存在しないが、武芸百般ではある。全て二流で一流にこそなれないが、全ての武器を使う事は出来る。武器の扱いを全て覚えるというラウルのような特出した存在はファミリアの中でも少ない。選択したのは槍、リーチの長さを活かして間合いの外から攻撃する。刀と槍では得物の長さ故に圧倒的に槍の方が有利だ。
ラウルは間合いを見極める。
抜刀のタイミング以上に注意すべきは間合い。抜刀は決められなければ返りが遅く、致命的な隙を晒す諸刃の剣。間合いを見極め、その外で攻撃すれば抜刀は自分の身体に届かない。
「っっ、ああああああっ!!!」
ラウルは間合いを見切り、槍を間合いの外から女剣士に向けた。抜刀はラウルには届かない。リーチの長い槍が女剣士を捉える。
「–––––––––」
次の瞬間、ラウルの視界が真っ赤に染まった。
自分の持つ槍の先が消えて、ガランという音を立てて刃先が落ちていて、気が付けば自分の胴体から血が噴き出していた。
何が起きたか分からない。
一瞬過ぎて何が起こったのか、よく見ると女剣士の右手にはいつの間にか刀が握られ、刀身からは血が垂れていた。
「マジっ……すか……」
同じレベルのラウルでさえその抜刀の瞬間を見る事すら出来なかった。気が付けば武器ごと斬られていた。痛みを自覚する事さえ遅れてしまったようで、痛みが身体を巡るとラウルは地面に倒れ、意識は暗転していた。
「……こんなものですか、期待こそしていたのですが」
「言ってやるでない、貴様のソレはLv.5にも劣らんわ」
息はあるようだが、瀕死で動けないラウルを見て女剣士の主神はため息をついた。
「どうするのですか我が主神」
「恐らくセクメトの仕業だろう、奴まで狙う無粋な輩は殺せ。その男は死なない程度に治療して持ってこい」
「ルージュ・フラロウワはどうするのですか?」
「殺すな。だが、それは死なない程度で構わん」
あくまで目的はルージュではない。
神にとって優先すべきはルージュではなく、ルージュの主神であるエレシュキガルにある。
「俺の出番はねえのか、
「貴様では殺してしまうだろうが。余は闇派閥とかいう存在に落ちぶれるつもりはないわ」
「騒動起こしといて何言ってんだよこの神」
この盤面を動かし、エレシュキガルを奪おうと画策するその神の思考はある意味【勇者】より厄介なものだ。盤面を把握し、情報を得て、実行に移すだけのプランの組み立て。そして何より、【ロキ・ファミリア】を敵に回すだけの豪胆さと傲慢さを兼ね備えている。
太陽の神でありながら思慮深く、そして狡猾という意味でも強さを誇る神が直々に英雄の都オラリオに足を踏み入れていた。
「我が妻よ。余が直々に迎えに来たぞ」
その神の名前は
太陽の神でありながら、伝承に於いてエレシュキガルの夫であったもう一人の冥界の神が、一人の女神を手に入れる為に盤外から駒を乱入し始めた。
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