小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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 長い上に過去一の難産。


第四十四歩

 

 

 

 屋根の上を駆けて逃げ回るルージュと抱えられたエレシュキガル。ダイタロス通りを越えさえすれば、【ガネーシャ・ファミリア】まで一直線なのに。

 

 

「(くそ、振り切れない……!)」

 

 

 常に先回りされる。

 獣を追い詰める狩人の如く、行先を誘導されている。ルージュは『加速魔法(ソニックレイド)』を使いダイタロス通りの裏路地に一度身を隠す。

 

 

「ルージュ……?」

 

 

 息切れが酷い。

 エレシュキガルがルージュの額に触れる。身体が熱く、汗が滝のように溢れ、顔色も悪い。

 

 

「凄い汗……!?まさかこれって!」

「多分毒、取り立ての【耐異常】じゃ防げなかった」

 

 

 突き刺さった二本のナイフを抜き、ポーチに入っている包帯と回復薬で応急処置。魔法を使えば居場所がバレる。聖域もスキルも魔力を撒き散らす為、どちらを使っても居場所が捕捉される。

 

 

「直ぐに魔法を––––」

「伏せて!!」

 

 

 エレシュキガルを抱えて後方に跳ぶ。

 次の瞬間、ダイタロス通りの一角が爆発しその衝撃から身を守るようにエレシュキガルに来る衝撃波を背中で受け止める。上手く躱して受身を取る事が出来たが、背中に少しだけ鈍痛が走る。

 

 投げ込んだ場所に視線を向けると、大量に投げ込まれた爆弾が目の前に存在した。エレシュキガルを抱え、全筋力を最大にルージュは逃げ出した。

 

 

「火炎石の爆弾……!?」

「詠唱されてる途中にこんなの投げられたら流石に危険過ぎるんですけど!?」

「でも…!」

「最悪やばかったら『聖域』で毒を軽く解毒する!」

 

 

 ルージュはスキルを使えば『聖域』を展開可能な為、完治できずとも毒の進行を緩和出来る。だが、敵側にどれだけの強さがあるのか分からない以上、消費を抑えたいのも事実。

 

 

「(トワとの同化は消耗が激しいし一気にケリをつけたいけど……仕方ない)」

 

 

 毒が巡り身体が痺れ始めた。

 エレシュキガルを抱える右腕の感覚が少し鈍い。流石にこのままだと逃げ切るのに支障が出る。多少の消費を割り切ってルージュはスキルを解放し、魔法の詠唱を始めた。

 

 

「『集え小さな星々の願い』」

 

 

 ルージュはスキルを使い『聖域』を身体に収束し、効果を増幅させながら毒の進行を止める。微力ながら回復効果を持つ『聖域』は歌によって効果を変えられる。トワと同化したルージュは歌わずとも『聖域』を思うがままに展開し、効果を変えることが出来る。そして魔法【スター・エクステッド】はスキルを収束できる。範囲に広がる聖域を自身の体に収束し、効果を高める。

 

 

「……ん?」

 

 

 いつも使う感覚が変わっている。

 前まで微力程度の治癒促進とかだった筈だが、普通の回復魔法のように上がっている。いくら効果を高めたとはいえ、此処まで回復するのか?と疑問に思うが、毒の巡りを抑えるどころか、完全に解毒まで持っていけた事にとりあえず安堵する。

 

 

「解毒が普通に終わった」

「回復魔法も使ってないのに!?」

「効果増幅もあるけど…これって」

 

 

 ルージュには心当たりがあった。

 それは『アンタレス』の戦い。アルテミスの『神の力(アルカナム)』を掌握していたせいか、今まで魔力を垂れ流すだけの感覚からどうすれば効率的に使えるか分かる。自分の中にある『聖域』の力をいつも以上に引き出せるのは嬉しい誤算だ。

 

 

「(毒はなんとか……後はこのまま追手を潰すか、逃げるか)」

 

 

 二択は取れるが、エレ様を危険に合わせるリスクを考えるなら逃走した方がいい。しかし、火炎石を改造した投擲爆弾は街に被害を及ぼしかねない。逃げて被害が大きくなるなら迎撃した方がいいのもまた事実。どちらもリスクがある。

 

 エレシュキガルに視線を向ける。

 リスクは承知、このままではマズイのも事実である事を悟ったエレシュキガルはルージュの視線に頷いた。

 

 

「……?」

 

 

 屋根から降りてダイタロス通りの噴水近くの広い所へ出る。エレシュキガルを後方へ下がらせ、『七星剣(グランシャリオ)』を抜く。その時にルージュは嫌な静寂さに目を細めた。

 

 静か過ぎる。

 追ってきた暗殺集団の視線が殆どない。否、()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 まるで仲間割れでもしたかのように、命が消えていく感覚。二十四階層の時と同じような、そんな感覚にルージュはより一層警戒を強めた。

 

 

「……えっ?」

 

 

 ドサリ、と屋根の上から何かが落ちた。

 血を流し、命が潰えていく暗殺者の姿と、その背後に槍を突き刺し、乱雑に貫いた骸を捨てる三人の人間がそこにはいた。槍と大剣と杖、狼人(ウェアウルフ)の戦士、犬人(シアンスロープ)の豪兵、兎人(ヒュームバニー)の女魔導師。側から見たら異色すぎるような組み合わせだ。

 

 

「見つけたぜ。アレだろ?」

「ああ、標的に間違いない」

「殺さないように、です」

 

 

 ゾワリ、と殺気が此方を向いた

 狼人(ウェアウルフ)の戦士と犬人(シアンスロープ)の豪兵が接近してくる。狙いは自分である事を悟ったルージュは剣を構え、迎撃する。先程の暗殺集団と違って正面からくる事に戸惑いこそあるが、多数で攻める辺り同類だ。

 

 

「ッ!!」

「ほお……お前」

 

 

 槍の一撃を受け止めると後ろから犬人(シアンスロープ)の豪兵が大剣を振り下ろそうとする。それを身体を捻って回避し、詠唱を唱える。スキルは今は使っていない。アレは長期戦になればなるほど自分の首を絞める諸刃の剣。援護が来てくれる前提ならば長期戦を想定した動きじゃなきゃあとが続かない。

 

 

「『駆け上がれ蒼き流星––––【ソニックレイド】!」

 

 

 脚を加速させ、動きを翻弄する。

 ルージュのステイタスは恐らく二人より優っている。体感的に全員がLv.3であるのは察することが出来たが、全アビリティオールS以上、敏捷に至ってはSSSのルージュの脚に追いつけない。

 

 

「『兎よ兎、豪雪を踏み締め嵐を越えよ』」

「なっ!?」

 

  

 ルージュは脚を止めて詠唱する兎人(ヒュームバニー)の女魔導師に視線を向けた。魔導師攻略の方法は詠唱が終わる前に潰すのが定石だが、それを狼人(ウェアウルフ)の戦士と犬人(シアンスロープ)の豪兵が邪魔をする。

 

 ()()()()()()()

 詠唱を潰すという定石から行動パターンから動きを遮られる。ルージュが未だ味わった事のない経験。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

「(クソッ、詠唱を潰せない!敏捷(はやさ)なら私の方が速いのに!?)」

 

 

 ルージュは一対一ならば対人戦の経験はある。

 だが、人との戦闘で多対一に関しては数が全く無い。というより、そんな機会がまず無かった。いつか来る可能性は覚悟していたが、今やっている事はステイタスに物を言わせた単調な動き。幸い、速さで翻弄出来ているが、一対一の土俵に持ってこれない。

 

 

「『凍てつく大地を疾く走れ、吹雪纏いて駆け抜けよ』」

 

 

 此方も魔法で対抗する事は出来る。

 だけど、いくら広いとはいえ街中。精霊魔法は威力が過剰で手加減して潰せる程相手も弱くない。強すぎても街を破壊しかねない。

 

 

「【リアスノー・ラビット】」

 

 

 魔法円(マジックサークル)から6匹の白銀の兎が召喚され、此方に走ってくる。殺すのは気が引けるが、召喚魔法の類なら殺した所でまた蘇る。『七星剣(グランシャリオ)』で兎を斬り裂き、詠唱を唱えようとしたその時。

 

 

「っっ!?」

 

 

 斬った兎が爆発し、()()()()()()()()

 襲いかかる兎が脚に触れると今度は左脚が氷塊を纏って動きを阻害する。

 

 

「凍結属性の追尾魔法か!」

 

 

 てっきり召喚魔法かと思ったが、全く違った。

 触れた存在を凍結させる追尾型魔法。しかも兎、紛らわしい上に地味に厄介だ。

 

 

「チッ!」

 

 

 兎は六体、二体消えた今残りの四体が此方に迫ってくる。迎撃しても爆発し、一定範囲は凍りついてしまう。後方に下がろうとした瞬間、槍が下から脚払いが飛び、思わず跳躍してしまった。兎から逃げるルージュの動きを予測され、先回りされて攻撃してくる連携にルージュはいつも以上に判断が鈍り、視野が狭まる。

 

 

「しまっ……!」

「遅いわ」

 

 

 致命的な隙を晒し、犬人(シアンスロープ)の豪兵が大剣を思いっきり振り抜く。それを『七星剣(グランシャリオ)』で受け止めるが、体重の軽いルージュはぶっ飛ばされ、市街地の壁に身体がめり込む。

 

 

「ぐっ……!」

「終わり、です」

 

 

 そして追ってきた兎がルージュに一斉に飛び込む。爆発する兎達は氷柱を生み出し、氷塊となってルージュを閉じ込めた。

 

 

「ルージュ!?」

「あの餓鬼、もうLv.3か。流石に恐怖を覚えたぜ」

「とはいえ、経験が足りなかったよう…です」

 

 

 氷塊の中で動けないルージュを見てエレシュキガルは絶句する。そして三人は傅くように膝を突き、エレシュキガルに挨拶する。

 

 

「エレシュキガル様、お迎えに上がりました」

「っ、お前達は」

「ネルガル様が貴女をお待ちしております」

 

 

 逆らうならばとルージュに視線を向ける。

 此処で同行を拒否すれば、ルージュを殺さなくてはならないと視線が告げていた。

 

 ピシリ、と氷塊から音が聞こえた。

 ルージュは凍らされた筈なのに、氷柱から罅が入り、まるで氷の中で熱が溢れ出すかのように膨大な魔力が内側から圧迫しているようだ。その光景に思わず目を見開く三人。

 

 

 

「––––っざっけんな!!」

 

 

 

 バキリ、と氷の柱が砕けた。

 青みがかった翡翠色の羽が浮かび、ルージュから膨大な魔力が溢れ出し、凍らされた部位が完全に動いている。まるで凍り付く事に耐性でもあったかのような……

 

 

「なっ、氷が!?」

「『駆け上がれ蒼き流星』」

 

 

 Lv.4の階位昇華 +【魔導】ありの加速魔法

 その加速だけならLv.5に届くその脚で、兎人(ヒュームバニー)の魔導師を殴り飛ばした。圧倒的な敏捷(はやさ)にモノを言わせた超加速に脚を止める二人組ですら反応出来ず、振り返った時には既に殴り飛ばされていた光景が広がる。

 

 

「なっ」

「遅い!」

 

 

 加速したまま犬人(シアンスロープ)の顎を蹴り飛ばし、意識を飛ばす。耐久値が高いようだが、顎を強打すれば脳を揺らせる。いくら冒険者といえど臓器や脳などの中身を鍛える事は出来ない。大剣を落とし、倒れる光景を見た狼人(ウェアウルフ)は迎撃に最速の突きを放つが、ルージュはそれを紙一重で回避し、脚払い。

 

 

「うおっ!?」

「お返し、だ!!」

 

 

 腹部に力一杯の拳を叩き込む。

 一対一に強引に持っていったのと、階位昇華におけるステイタスの差に狼人(ウェアウルフ)の戦士はなす術なく気を失った。

 

 ルージュは息を切らしながら『精霊同化(スキル)』を解除する。体力も魔力も大幅に持っていかれた。回復薬(ポーション)魔力回復薬(マジックポーション)も今はもう無い。凍り付いた箇所を見て手を握っては元に戻す。どうやら凍った部分は血液まで凍るほどの出力は無かったようだ。軽い霜焼け程度に収まっている。

 

 

 

「(あっぶな……【祝福】が無かったらマジでヤバかったかも)」

 

 

 凍結属性の魔法は凍り付いていたが、芯まで凍るに至らない。これが精霊の【祝福】。かなり強力なモノだ。耐冷、耐熱だけは既に護符がある事が証明されている。

 

 決して舐めていたわけではないが、どれほどの敵がいるか分からない中で『精霊同化(スキル)』は使いたくは無かった。とはいえ、消耗を抑えて負けるくらいなら出し惜しみはせずに三人組を最初から圧倒すればよかったのだが、やはり反動が大きい。レベルが上がって持続時間こそ長くなったが、いいとこ十五分、魔法を使えばもっと短くなる。

 

 

「……エレ様、さっきの言葉」

「……ネルガル」

 

 

 その名は太陽神でありながら、冥界に一年幽閉された神の名。

 

 

「––––––そう、余だ」

「っ!?」

 

 

 振り返ると、屋根の上には赤黒い髪の色をした厳格そうでありながらその風貌はまるで王のような雰囲気を纏う神がそこに立っていた。

  

  

「ネルガル……貴方がまさか下界に居るとはね」

「余を誰と心得る。太陽神にして冥府の神、そして何より貴様が下界に居るのなら余も当然居るに決まっておろう」

 

 

 神に傲慢な存在はいる。

 人間と神の価値観は違う。神だと傲慢になる存在はいるが、傲岸不遜という言葉がこの神には似合う。

 

 

「暗殺集団を仕掛けたのは貴方?」

 

「そこな黒装束は知らん。セクメトの阿呆の仕業であろう。そこの三人は余の戦士だが、どうやら貴様の見定めた星には勝てなかったようだ」

 

「暗殺集団に乗じて私達を狙った理由は?」

 

「知れた事、貴様を手に入れる。余の妻として迎えに来るのが夫の務めだろう」

 

「きっっしょ」

 

「全否定してるけど!?大丈夫かこの神……」

 

 

 ルージュでさえ見た事ないくらいエレシュキガルの顔が歪んだ。相当嫌悪しているというより、まるで虫を見る眼で見ている。エレシュキガルにとって、ネルガルは夫ではないし夫と言い張るあの神を殴りたくて仕方ないようだ。

 

 

「その為には先ずは貴様の星には退いてもらおう。そこな蒼星、我が妻を渡せ」

「断る。蒼星って……」

 

 

 条件反射でルージュは断った。

 ネルガルはその答えを予測していたのか、眷属に命じた。

 

 

「ならば是非もない。略奪せよ()()

「––––拙は色恋沙汰には手を出すつもりは無いのだが」

 

 

 ネルガルの後ろから声が聞こえた。

 そして屋根から一人の女剣士が顔を出す。

 

 

「––––手合わせ願おう【蒼い歌鳥(ナイチンゲール)】」

「っ」

 

 

 目の前に降り立つ存在にルージュは眼を見開いた。

 

 

「エレ様下がって。この人ヤバい……!」

「ルージュ…?」

 

 

 編笠に刀を携え、両目を瞑りながらルージュの前に立つ存在は剣士という枠組みに入らない程の圧力(プレッシャー)を放っていた。否、それだけではない。この剣士も相当な実力だが、ネルガルの隣にいる存在の方が恐らく強い。

 

 対怪物に特化した冒険者とは方向性が全く違う対人戦に特化した人間。武器から怨嗟が聞こえてくるような血の気配。レベルだけならルージュより遥か上。()()()()()()()L()v().()4()()()()

 

 そしてその後方、男が横抱きする存在にルージュは瞠目した。

 

 

「っ、おい!あの人、【ロキ・ファミリア】の」

「ああ、【超凡夫(ハイノービス)】の事か。殺してはいないが、人質に過ぎない」

「殺されたくなかったらエレ様と交換する提案でも」

「いやそんな事する程、余は下劣ではない」

 

 

 いやこの惨状撒き散らしておいて何言ってんだ、と心の中で叫ぶ。ただ、エレシュキガルがもしも連れていかれた場合、【ロキ・ファミリア】に助けを求める事が出来なくなる可能性が浮かび上がった。当然【ロキ・ファミリア】は報復に動くだろうが、恐らく【ネルガル・ファミリア】は都市外の派閥だ。行方を晦ませるくらい造作もないのだろう。現に【ガネーシャ・ファミリア】の見張りを素通りしている。

 

 時間稼ぎに徹するか、倒す気持ちで挑むか。

 

 

「(いや駄目だ。時間稼ぎは無理だ…粘れる自信がない)」

 

 

 初めての感覚だった。

 初めて、()()()()()()()()()()

 

 身体が戦闘を拒否している。恐怖や武者震いという訳ではない。いつも相対する敵には勝てると思えるだけの僅かな余裕があった。

 

 初めて、勝てないとルージュは悟った。

 勝機を見出せない事に怖いと身体が硬直する。

 

 

「(っ、弱気なままでどうする!)」

 

 

 接近戦に於いて死のイメージが脳裏を過ぎる。

 対人戦闘で決して勝てないと悟ったルージュは『精霊同化(スキル)』を発動する。少なからず、この状態でなければ相手にすらならない。

 

 先に動いたのはルージュだった。

 

 

「『駆け上がれ蒼き流星––––【ソニックレイド】!!」

 

 

 周囲を巻き込んだ変速移動。

 街の被害は今は考えない。不幸中の幸いと言うべきか、死人が出て騒ぎになって、住民達は家に篭るか避難している。この広い場所なら被害は最小限に収まる筈だ。

 

 

「『––––閃光よ、駆け抜けよ、闇を切り裂け、代行者たる(わたし)が命ず、光の化身、光の女王よ』!!」

 

 

 並行詠唱。

 変速移動の中、魔力を制御し遠距離攻撃を狙う。接近戦を捨て、遠距離からの攻撃に集中する。

 

 間合いに入れば終わる。

 あの女剣士を中心に濃密な死の気配を感じる。その範囲に踏み込んだ瞬間、ルージュは敗北を悟った。

 

 

「『––––無窮の空、色なき黄昏、零を以て我が斬り拓く』」

 

 

 女剣士も詠唱を唱えた。 

 発展アビリティに【魔導】がない為、魔法円(マジックサークル)は浮かばない。そして何より自陣から一歩も動かない。

 

 威力だけならルージュに分がある。

 最大魔力で街に被害が出ないように女剣士の頭上から魔法を放った。

 

 

「【ライト・バースト】!!!」

 

 

 光の波動が女剣士に降り注ぐように落ちてくる。

 遠距離の精霊魔法、脅威である筈なのに避けようともせずに女剣士は光の波動を前に……

 

 

 

 

 

「【一閃】」

 

 

 

 

 

 指をなぞった。

 次の瞬間、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

「えっ……?」

 

 

 

 鮮血が溢れ、何が起きたかも分からずに落ちていくルージュ。気が付けば()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。意識が飛びそうな痛みと落ちていく感覚が辛うじて理解出来た、そしてルージュは死の気配を放つ間合いに落ちていく。

 

 

「ルージュ!!」

 

 

 最後に聞こえたエレシュキガルの声に歯を食い縛り、残された力で剣を振るったのがルージュの最後の記憶だった。力が入らずに身体の浮遊感と共にルージュの意識は暗転した。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「––––驚きました。まさか、あの間合いを反応されるとは」

「いや、偶然だろ」

「……偶然、というには」

 

 

 振るった剣が居合の一閃を逸らした。

 偶然なのだろうが間合いを見極め、自分の最小限のダメージにするように剣を斬られる位置に置くように。無論、傷は深く立ち上がれるような身体ではない。血を流し過ぎている。

 

 

「ルージュ…ルージュ!!」

「無駄だ。間違いなく立ち上がれる損傷ではない筈だ」

 

 

 ルージュは小人族、その分だけ血が流れれば人間より早く失血死する。体内に巡る血の量を考えると、出血量は不味い。

 

 

「来るがいい、エレシュキガル」

「ふざけ––––」

「それともその星、余が直々に砕いても構わんぞ?」

「っ……」

 

 

 エレシュキガルは唇を噛み締め、ネルガルを睨み付ける。

 

 

「ほらよ、コレさえあれば死にはしねえよ」

 

 

 コトリ、とルージュの近くに置かれる高等回復薬(ハイ・マジックポーション)。エレシュキガルはそれをルージュの傷口にかける。呼吸が浅く、何より血を流し過ぎている為、このままでは死に至る。

 

 

「(お願い…ルージュ…!!)」

 

 

 高等回復薬(ハイ・マジックポーション)により深い傷は止血程度までは収まった。意識さえ取り戻せば自分で回復出来る程度の生命線は保証された。

 

 それだけで安堵の涙を流す。

 だが、もうこの状況ではエレシュキガルに打つ手などない。ルージュが殺されない為に、エレシュキガルはネルガルに従うしかない。

 

 

「……ルージュ」

 

 

 ルージュをそっと地面に置き、ネルガルの元へと歩いていく。唇を噛み締め、自分の判断に従い、ネルガルの元へ近づく。

 

 

「……っ」

 

 

 エレシュキガルは瞠目した。

 それは最後の意地にも思えて、意識の無い筈なのに、弱々しくもルージュの手はエレシュキガルの脚を握っていた。

 

 涙を堪え、その手を払う。

 引き止めても、ルージュが殺されるだけだから。

 

 そしてエレシュキガルはネルガルの側へと立ち止まった。

 

 

「行くぞ」

「……ええ」

 

 

 エレシュキガルはネルガルと共に消えていく。

 気を失った眷属を連れ、街から離れていく。時間にして二十分の間に起きた出来事。

 

 

 エレシュキガルとラウルの誘拐と暗殺集団のルージュの殺害実行を聞き付けた【ガネーシャ・ファミリア】と【ロキ・ファミリア】はその場に駆けつけた時には死体と、一つの血溜まりを残して何一つ手がかりのない光景だった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 雨が降り始めた。

 身体が重く、喉に血が溜まり声も出せない。魔力はまだ少し、残っているのに詠唱が出来ない。あの時の斬撃にトワまで傷付いたせいでスキルも使えず、『聖域』を展開できない。

 

 壁に手をつき、エレ様を探す為に立ち上がったのに脚に鉛がついたかのように動かせない。力めば胴体から血が噴き出す。

 

 

「(クソ……力が…入らない……)」

 

 

 やがて力を失ったかのように倒れていく。

 負けた。負けて、護られて生きている。エレ様に護られて、アテも無い場所を探し続けて、惨めに倒れていく。

 

 

「(護られた……エレ様を犠牲に……)」

 

 

 私は護られた。

 英雄になりたいと言った私の道を信じて見守ってくれる神に私は護られた。弱くて、負けて、そして護らなきゃいけない主神に護られて、生き恥晒して生き延びている事に。

 

 

「(ち……く…しょ…う)」

 

 

 どうしようもなく、悔しかった。

 倒れて立ち上がれない。身体が動かない。

 

 声にならない叫びが裏路地に響き、私はみっともなく泣き続けた。弱くて負けて、奪われた自分が許せなくて、声を上げる力もない中、雨が涙と共に溢れ落ちた。

 

 

 






 護りたい人に護られて生き延びる。
 死にたくないと思っているのに生きていることが恥ずかしい。

 その葛藤が何よりも辛いんだ……


 
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