小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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第四十五歩

 

 

 

 ──ザァザァと雨が降っていた。

 裏路地で倒れて動けなくなって、着ていた服は血で染みがついていて真っ赤に染まっている。鼓動が聞こえるのに、徐々に消えていく暖かさ。雨が限りなく死に近い私の体温を奪っていく。

 

 身体が動かない。唯一聞こえる雨の音に声を出そうにも喉から血の味で口を満たす。

 

 ただコツコツと言う足音が雨音に交じって聞こえている。暗殺集団が殺しに来たのか分からないが顔を上げられず、身体に力も入らないから動く事もできない。辛うじて生きている私に迫る死に希望を捨てかけていた。

 

 

「──────────────」

 

 

 雨音がするのに濡れなくなった。

 目を開けようにも今は身体が動かない上、何も見えない真っ暗な中、誰かが手を握ってきた。その手はどこか温かく、警戒する力も抜け、私は辛うじて繋ぎ止めていた意識を手放していた。

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「……はあ!?ラウルが攫われたやと!?」

「そ、そうなんです。結果は芳しくないとの事で」

「誰やウチらに喧嘩売った阿呆は!?」

 

 

 ロキが憤慨して叫ぶ。

 ロキから受け取った依頼と同時に起きてしまった事件。ティオナ達の救出に人員を割き、ラウルを中心にオラリオでルージュの護衛及び監視をしていたのだが、ラウルがいなくなった事を居残り組のロイドから聞き、メレンまで走ってきた。

 

 

「情報が少ないですが、ギルドは【セクメト・ファミリア】と断定。都市街の暗殺集団だと」

「セクメト……狙いはなんや?」

「そして女神エレシュキガルとルージュ。現に姿が見当たらないとの事です」

「っ」

 

 

 最悪だ。

 最高の切り札を最悪のタイミングで奪われた。ルージュは精霊に関しては鬼札とも言っていい。盤面をひっくり返す回復魔法と精霊の恩恵はそれこそ二軍に匹敵する力がある事は知っている。

 

 そして、何より精霊と契約しているルージュが誰かに連れ去られたか、既に殺されたか。穢れた精霊を考えるならどちらにしても不味い。

 

 

「そして矢文が館に届いたんです」

「……内容は?」

「『眷属を五体満足で返して欲しくば何もするな』と書かれていました」

 

 

 ロキはその言葉に舌打ちする。

 徹底抗戦、相手の顔すらわからないのに正体不明の犯人が残した脅迫。無論、それで【ロキ・ファミリア】が引き下がる訳はないのだが、ラウルの命を盾に動きを抑制された。

 

 

「場所の推測は出来とんのか?」

「矢文に付いていた匂いから歓楽街のアマゾネスが使う香水だと獣人の団員達は言ってましたので、見張りを張らせましたけど、主犯が本当に神セクメトなのか断定出来ず」

「オマケにルージュもエレちゃんも失踪。いや、ラウルと同じ誘拐の線やろな」

「ルージュが敵に寝返るという事は考え難いしね。とにかく事態は良くない」

 

 

 護るという約束まで守れずにルージュが襲われたのは【ロキ・ファミリア】の過失でもある。そういう同盟だったからこそ、守れなかった事実にフィンは顔を顰めた。

 

 タイミングが最悪過ぎる。

 まるで見計らったかのようなこのタイミング。間違いなく裏切り者がいる。そして家族と他派閥を秤にかけるなら家族を取るのは当然だが、約束を果たせなかった事は重いものだった。

 

 

「イシュタルの線は?」

「時期が良過ぎるし悪過ぎる」

 

 

 この港町(メレン)に【カーリー・ファミリア】と秘密裏に同盟を結ぼうとしていたようだ。イシュタルが居なくなった今にわざわざそんな怪しい事をすれば秘密裏に結んだ同盟がバレる筈だ。セクメトが犯人なら矢文に匂いがつくなど無い。セクメトとイシュタルが組んでいる可能性はある。

 

 

「僕等に何もするなと忠告する為の材料の確保としては最適なタイミングかもしれないけど、都市街にこっそり出て【カーリー・ファミリア】と接触している。抹殺依頼ならまだしも拉致、僕等と本気で敵対するつもりならこのタイミングで行うのはおかしいけど」

 

「そもそもラウルはLv.4だ。そこらの冒険者に負ける要素はない。勝てる存在は推定でも同レベル以上となると他の候補が居ない」

 

 

 リヴェリアの言葉は正しい。

 ラウルはLv.4の中盤。此処までの手際の良さを考えればおかしな話だ。候補に上がるとするなら【男殺し】だが、メレンでアイズを襲っている。暗殺者という冒険者特効の存在ならラウルを捕らえられるかもしれないが、イシュタルとセクメトが組んでいる可能性は高いのは確かなのに、拭いきれないこの違和感をフィンは感じ取っていた。

 

 

「闇派閥、エニュオの可能性は?」

「あり得なくはないし、可能性はあるけど……」

 

 

 フィンにしては珍しく歯切れが悪い。

 ()()()()()()()()()()()()()()。そういう意味ではエニュオの線は考えられる。雲を掴もうもしても掴めない虚無感、間違いなく相手はキレ者、犯人候補に押し付けて犯人候補にすら上がらないのだから。

 

 

「とにかくラウルの救出に尽力するとしても、手が足りない」

「直ぐに帰るで。ラウルの人命優先や」

「ルージュと女神エレシュキガルは?」

「犯人が同じなら目的は変わらんわ」

 

 

【ロキ・ファミリア】は速やかに帰還する事となった。

 

 

 ★★★★★

 

 

「余が【勇者】なら間違いなくイシュタルを監視し、並列で『入り口』を探す」

 

 

 ネルガルはエレシュキガルに語る。

 エレシュキガルは塞ぎ込んだ。助けを呼ぶ事も出来ない。ルージュが気紛れに生かされているなら気紛れに殺されてしまう事も分かっているから。ルージュが次にネルガルと相対すれば殺される。

 

 折れない心で立ち向かい今後の脱出の為の情報を探るように屈しないエレシュキガルだが、枕を抱きしめるその手は震えていた。それでもネルガルから情報を引き出し、脱出する機会を窺う。

 

 エレシュキガルには今はそれしか出来ないから。

 

 

「セクメトの阿呆の暗殺集団による隠れ蓑となり、余の存在を知る事が出来ぬ。念を押して人払いの結界魔法まで使ったのだ」

 

 

 そして、戦闘娼婦(バーベラ)がよく使う香水を少しだけ滲ませて矢文を放つ。そうすれば監視の目は間違いなくイシュタルの歓楽街に向かう。あの時の状況をわざわざ人払いまでさせて、現場を見届ける存在が居なかった。

 

 つまり目撃者がいなければ現場の状況から犯人を推測するしかない。そしてその場合であるならば、【ネルガル・ファミリア】は対象外。都市街のファミリアでそもそも存在していた事すら知らない者の方が多い。転々と世界を周る傭兵集団で少数精鋭だからだ。

 

 

「ガネーシャの門番は精々Lv.2程度、今出てもオラリオに戻るロキの眷属を考えれば、逃げるのは得策では無い」

 

 

 イシュタルが居ない今、強引に突破する事は得策ではない。道化の眷属は全力で帰ってきて犯人である存在を探し、報復する為に動く。下手に動けば情報を漏らされて行方を辿られる。

 

 

「モンスターの密輸を考えれば、バベル以外にも入り口が存在する。【イシュタル・ファミリア】の動きを考えれば、奴等は必ず入り口を探し、歓楽街とダイタロス通りを調べるだろう」

 

 

 闇派閥がラウル・ノールドを攫った。

 その事実をカモフラージュに【ロキ・ファミリア】にバベル以外のダンジョンの入り口を探させる。そしてラウルを救出に入り口に侵入する。隠れんぼには自信がある。この隠れ家はそういう場所だ。入り口が見つかるより先に見つかる可能性もあるが、ファミリアの特定が出来なければ問題など無いし、神威をゼロにすれば神であることを把握出来る存在はほぼ居ないだろう。

 

 

「そして入り口を見つけるだろう。そこに突入した時こそ余の好機。ガネーシャの門番を強引に突破しても構わん。奴等に警告を出しても必ず助けに来るだろう。それが【勇者】であるからだ」

 

 

 【勇者】は仲間を見捨てない。

 その選択を取らないし、取れない。切り捨てるという事はつまりは積み上げてきたものの瓦解を意味するからだ。良くも悪くもラウル・ノールドは使える。中堅担う頼りないリーダーだが、凡才にしてよくここまで来たとネルガルでさえ舌を巻くくらいだ。

 

 そしてバベル以外の入り口。

 ネルガルはもう一つの入り口がある事こそ知っているが、何処にあるかは知らない。だが十五年前の事を考えても闇派閥の動きは何処かおかしい。ガネーシャがバベル入り口を取り押さえていたというのにLv.7の()()()()()()()()()()()と闇派閥が隠れ家としている場所が存在するのは推測は出来る。

 

 十五年前の抗争時の事を考えるならその入り口から繋がる隠れ家に闇派閥がいる。そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。何故なら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。いくら【ロキ・ファミリア】でも攻略には時間がかかる筈だ。

 

 

「後はあの凡夫を置いて去れば良い」

 

 

 そうすれば後は逃げ回ればいい。

【ロキ・ファミリア】は都市の大手派閥、そう簡単に報復出来る人数を外に出す事はギルドが許可しないだろう。行方をくらませるくらい造作もない。

 

 ネルガルは知略に優れていた。

 都市街の情報の把握といい用意周到だ。

 

 ネルガルは曲がりなりにも冥界を侵攻し、七割のシステムを壊し、冥界を半壊まで追い詰めた太陽の神。エア神から病魔の権能を譲り受け、冥界に来る前に万全の策を持っていた。冥界の女神エレシュキガルでさえ、太陽の軍勢には手を焼いたのだ。傲岸不遜だが馬鹿ではない。なんなら策士としては一流だろう。

 

 

「……どうやってオラリオに入ったの?」

「イシュタルを利用したに決まっておろう。メレンに行く前に門番を魅了すれば侵入は容易だ。奴はフレイヤを引き摺り下ろそうとしているなら、天界こそ因縁はあるが、傭兵集団というスタンスはうってつけであろう。金を払えば戦力が増えるのだしな」

 

 

 【ネルガル・ファミリア】のスタンスは傭兵集団。

 手っ取り早く金を稼げて、外では抑止力と成る程の戦力を育て上げた。外には暗殺集団、外の怪物にラキア、極東の朝廷、魔導大国も存在する。敵も多ければ、対人戦が寧ろ多い。Lv.4に至れたのはそのおかげとも言える。

 

 

「にしては……」

 

 

 イシュタルの戦力になるつもりはなさそうに見えた。

 イシュタルの監視とラウルの拉致の罪をなすり付けてトンズラする気だ。友好的ではなく利用し合う中にしてもイシュタルの方に負担が大きい気もする。

 

 

「まあ極力嫌がらせして逃げるがな」

「最低過ぎる……」

「エレシュキガルよ、仮にもイシュタルがフレイヤを引き摺り下ろし、頂点に立った光景を想像してみよ」

 

 

 想像してみると高笑いし、地上を見下ろすイシュタルの姿を連想する。バベルを乗っ取り、フレイヤが座る椅子にイシュタルが座り、優雅に酒を飲みながら、

 

 

『私の魅了の前に屈せよオラリオ、あっははははははっ!!!』

 

 

 なんて言っている光景が目に浮かんだ。

 

 

 

 

「––––これはウザい」

「そうであろう」

 

 

 初めてエレシュキガルはネルガルの考えに共感した。ため息を吐き、布団を被り、ネルガルに背を向けて用意されたベッドに顔を沈める。そしてランプを消す。

 

 

「……貴方の計画は分かったわ。今日は一人にさせて」

「よかろう。だが忘れるな、貴様を助ける者は居ない」

「……分かってるのだわ」

 

 

 ネルガルのその一言にエレシュキガルの希望は打ち砕かれる。それでも心は折れない。折れてしまったらきっと絶望を受け入れる事しか出来なくなるから。

 

 ネルガルの計画は上手く事が運べばエレシュキガルはオラリオから離れる。そして何よりエレシュキガルは決行の日まで声の届かない地下の部屋に閉じ込められる。ラウルも声を封じる魔導具で縛られて幽閉されているだろう。

 

 

「………っ」

 

 

 逃げ出したい。

 逃げて、ルージュに会いたい。

 

 無事なのか分からない。

 致命傷は避けただけであの後、ルージュがどうなったのか分からない。

 

 助けを求めたい。 

 でもそれはルージュを殺しかねない。ルージュだけでは返り討ちにされてしまうからだ。

 

 

「う……ううぅ………」

 

 

 涙が止まらない。

 胸が痛くて、喉元に溜まる寂しさを枕を抱いてエレシュキガルは擦り減っていく心の傷を吐き出していく。

 

 隣にルージュがいない事が辛い。

 ずっと一人ぼっちには慣れていたのに、こんなにも手に入った星を手放したくないという執着がエレシュキガルの胸を痛めつけていた。

 

 





 改めてダンまち読み直して分かった。
 私の文才力の足りなさに絶望し、難産中。作者ってやっぱ凄えわ。


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