小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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 ※ネタバレ入ります。十六巻見ていない人は気をつけてください。


第四十六歩

 

 

「………っ、ぁ」

 

 

 目が覚めると知らない天井だった。

 声が掠れて上手く出ない。ぼやけた視界を擦り、辺りを確認する。そこは人が一人住んでいそうな小さな部屋。そしてベッドの横のランプの近くには水筒が置かれていた。気が付けば私はベッドの布団の中に居て、誰かの部屋の中に居た。

 

 

「此処、は?」

 

 

 起き上がり、此処が何処なのか確認する為に立ち上がろうとする。

 

 

「づぁ……!」

 

 

 大激痛に疼くまる。

 胴体と腰の部分は包帯で巻かれて、動こうとして力んだせいか血が滲んでいる。痛くて傷を抑えて悶えていると、あることに気がついた。

 

 

「手当て、されてる」

 

 

 包帯が巻かれているって事は誰かに助けられた。

 しかもおそらく魔法による治癒が施されている。とはいえ応急に近い治癒魔法。傷を塞ぐ程度で糊付けしたような感じだ。大分重傷だったようだ。

 

 包帯を取ると傷が酷い。

 深く付けられた刀傷と腰に関しては深すぎて治癒魔法でさえ塞ぎきれずにガーゼを貼ってキツく巻かれていたようだ。不治というわけではなく、此処までの重傷は万能薬でもなければ治癒し切れないという事か。

 

 あの抜刀、剣線だけを予測して『七星剣(グランシャリオ)』を振るったが、それでも斬られた。置いてなければ腰だけじゃなくて腹まで斬られていた。

 

 あの時、魔法が斬れてトワまで損傷した理由を考えるとあの魔法の正体が分かった。

 

 トワの身体は私の魔力で出来ている。

 そして同化しているトワごと斬られた。魔力で出来ているトワに攻撃が通るのは大抵魔法なのだが、魔法が斬られた部分の魔力は間違いなく()()()()()()。その効果を考えるに、あの斬撃は恐らく……

 

 

「対魔力を持つ不可視の斬撃か……」

 

 

 対魔力斬撃(アンチマジックスラッシュ)とでもいうべきか。

 まさか精霊の魔法すら斬るとは思わなかった。置かれていた水筒を取り、喉を潤す。

 

 

「っっ、そうだエレ様…っあ"」

 

 

 腰から血が更に滲む。

 このままじゃ動く事に支障が出る。体力も精神力(マインド)も完全に戻ったわけではないが、私は歌を紡ぐ。

 

 

「『紡がれし命をここに、永遠に輝く(ソラ)の星よ、汝の名に基づき力を振るう事を赦してほしい』」

 

 

 全癒魔法を行使できるだけの魔力は回復した。

 多分、体感的に二時間。精神力(マインド)は全快にも程遠いし、体力もまだ全然戻っていないが、少なからずこの傷はなんとかしないとキツい。白い魔法円(マジックサークル)が周りに広がり始める。

 

 

「『(ソラ)より来れ星の加護よ、穢れを祓う聖光を纏い、巡れ我が白き箒星よ』」

 

 

 ガリガリと削られる精神力(マインド)

 神聖のおかげで多少は軽減されているようだが、それでも体力も戻っていない中でこの消費量は結構辛い。

 

 

「【フロート・エクリエクス】」

 

 

 血が滲んだ腰と胴体の傷は消えたが、疲労感が一気に広がる。

 どうやら『精霊同化(スキル)』の力の反動までは回復し切れなかった。それだけ精神力(マインド)の回復が出来てない。

 

 

「きっつ……」

 

 

 身体が重い。

 傷は無くなったが、今度は『精神疲弊(マインドダウン)』で動けなくなる。枯渇に比べれば大した事はないが、血が足りてないから身体がいつもより重く感じる。全癒魔法でも血液の欠乏まで回復は望めるほどの魔力は圧倒的に足りてない。

 

 

「エレ様……」

 

 

 ベッドから降りてもふらつく。 

 血を流し過ぎた状態で時間が経ち過ぎてまともに動けない。頭が痛くて脚が進まない。掛けてあった私の服を着て、剣を取って外に出ようとした時、

 

 

「あっ、目が覚めたんですね!」

 

 

 部屋のドアが開いた。

 目の前に広がったのは薄鈍色と緑の制服を身に纏う女の人。

 

 

「……酒場のウェイトレスさん?」

「はい、シル・フローヴァです」

 

 

 この人が助けてくれたのか。

 となると、此処は『豊饒の女主人』の給仕達が住んでいるアパートか何かだろう。

 

 

「まだ寝てないとダメですよ。まだ目覚めてそんなに時間が経ってないのに」

「いや、エレ様を探さないと……!」

 

 

 ひょい、と私の両脇を掴まれ、持ち上げられる。

 この人恩恵を持たないから下手に暴れられない。とはいえ、暴れるだけの力も湧かないのも事実だけど。

 

 

「恩恵も持たない私の手を払えないくらい弱ってるんです。仮に探し出せても出来る事はありませんよ」

「でも……!」

「起きたのかいあの小娘は」

 

 

 リゾットを片手に荘厳というか山とも思えるようなドワーフの女将が入ってきた。

 

 

「ミアさん…助けてくれてありがとう」

「待ちな。そんな身体で何処いくつもりだい?」

「エレ様を探しに––––」

 

 

 シルさんの掴む手を離させて、横を通り過ぎると、私の頭に拳が突き刺さる。唐突な拳骨に、反応出来ていたのに躱せずに頭に鈍痛が走る。めちゃくちゃ痛いし、手がデカいから衝撃が満遍なく頭に届く。

 

 

「っ〜〜〜!?」

「仮にも手加減したアタシの拳を避けられないならアンタに出来る事はないよ」

「っ……!」

「寝な。じゃないと鎖で縛って起き上がれなくするよ。今のアンタじゃ何をしても無駄だよ小娘」

「だからって!!!」

 

 

 私は叫んだ。

 

 

「私にとって、大事な神様なんだ…!!」

 

 

 だから行かないと遠くに行ってしまう。

 叫んだ言葉の後の静寂にミアさんはため息を吐いた。

 

 

「……だったら尚更飯食って寝る事だね。今のアンタが行っても犬死にだ。それを大事な神様とやらが望んでいるのかい?」

「っ……」

「都市街に出れば【ガネーシャ・ファミリア】が騒ぐ。まだ都市内に居る、早くても遅くても今は事態は変わらないよ」

 

 

 そうかもしれない。

 けど、だからって割り切れるものじゃない。今の私が冷静じゃないのは分かってる。

 

 

「い''っ!?」

 

 

 片手で頭を掴まれ、ベッドに放り投げられる。

 抵抗すら出来ずに私はベッドの上に落ち、手に持っていた剣も落としていた。前から何となく強そうとは思っていたけど、この人多分第一級冒険者だ。力といい強すぎる。

 

 

「ハァ……シル、アンタが拾ったんだからちゃんと面倒見てやりな」

 

 

 ため息を吐き、リゾットを置くとミアさんは部屋から出ていった。情けない。助けてくれた人に当たって……私は何やってんだ……。

 

 

「ルージュさん」

 

 

 シルさんの両手がそっと私の頭に触れる。

 何のつもりと言おうとした時、頰に触れながらシルさんは優しく笑う。

 

 

「先ずは、泣いたらどうですか?」

 

 

 その言葉に私の心が揺れた。

 泣いていたら、きっと情けないから泣きたくない。

 

 そう思っていつも強くあろうとしてた。

 なのに、この人の言葉が。私が張っていた見栄を容易く見破って、その言葉だけが私の中で響いた。

 

 

「辛い気持ちを抱えるより、吐き出した方が楽になれると思います。私が受け止めてあげますから」

 

 

 優しく抱擁され、背中を撫でられる。

 圧し潰されそうな重圧。私にエレ様を救えるのか、そんな囁きが頭の中でリフレインしている。自信が無くても乗り越えられる。約束と、それに見合うだけの努力はしてきたつもりだ。

 

 でも、今回は初めて勝てる自信がなかった。

 初めて、怖いと思ってしまったのだ。対人戦闘がなかったわけではない。だが、あの人は明らかに出会って来た人の中で格が違う。

 

 灰色の女帝さんとは違う。

 何人、何十人、何百人を斬り殺してきたあの剣に恐怖を覚えてしまっている。

 

 

「……悔しいよ」

 

 

 無意識の内に言葉に出していた。

 ずっと押し留めていた感情が爆発する。決壊してしまえばもう止まらない。

 

「強くなったって自惚れてて、切り抜けられると思って、でも負けて、護らなきゃいけないエレ様を連れ去られて、私は生かされて……!」

 

 

 シルさんの胸に顔を押し付けて弱さを吐き出す。

 ずっと、今まで努力してきて助けてきて、強くなって戦う事が誇らしいと思っていた。

 

 

「初めて、戦うのが怖くなった……」

 

 

 あの剣が怖い。

 今まで出会って来た存在の中で一番怖い。人を殺す剣に初めて怯えた。今まで遠かった『死』があの人から感じ取れてしまった。

 

 幾多の人を斬り殺す殺人術。

 その刃が私に向くのが怖い。殺されるかもしれないと言う恐怖が初めて闘争心を、負けたくない意志を揺らがせた。

 

 負けたら死ぬなら戦いたくないと思えてしまう。

 

 こんな事が初めてで、混乱して、動揺して……

 

 

「情けなくて、私…悔しいよ……」

 

 

 こんなんじゃ英雄にもなれない。

 臆病な心を曝け出して精一杯の感情を吐き出し、私は泣き続けた。

 

 負けた事は悔しい。けどそれ以上に辛い。

 あの人が居ないのが辛い。私自身の弱さが誰よりも辛くて苦しい。もっと強ければエレ様を護れてた、もっと私が戦い方を知っていれば少なくとも戦えていた筈なのに。

 

 弱い。私はまだ弱い。

 最速でLv.3に至れたからって、慢心していた。

 何より、恐怖に脚が竦んで負けてしまう事を心の何処かで悟っていた。

 

 

 

「なら、ルージュさんはどうしたいですか?」

 

 

 シルさんの問いに私は噤んだ。

 どうしたいか。そんなの決まってる。

 

 

「強くなりたい……」

 

 

 弱くても、情けなくても私はエレ様の眷属だから。

 

 

「エレ様を護れるくらいに強くなりたい……!」

 

 

 英雄の前に、当たり前に出来なければいけなかった。大切な人を護り通す事。私が一番にやらなければいけない事で、出来ていなければいけなかった事だった。冒険者になってから二ヶ月程度しか経っていないから、そんな事が言い訳になるのなら私は死んでいた。

 

 だから今は力が欲しい。

 誰かを護れる意志を突き通せる力が……!

 

 

「私の『理想』を私の手で叶えたい!!」

 

 

 英雄になりたい。エレ様を護りたい。

 そのどちらも私が譲れないものだから。弱ければそんな願いは戯言に成り下がる。力が無い私が夢を語る事も出来ない。

 

 強くなりたい。

 

 私は『理想』を追い続ける事しか英雄になれる事を知らないから。だからそれを突き通し、走り続けるしか出来ないから。

 

 その意地を張り通す。

 誰よりも強くなりたいという渇望から私は叫んだ。

 

 

「……少しだけ、嫉妬してしまいますね」

 

 

 シルさんが背中を撫でながら、私の耳に顔を近づける。

 

 

 

 

「けど、それが貴女がしたい事なら()()()()()()()()

 

 

 

 

 囁かれたその声に私は目を見開きシルさんの顔を見ると、笑っていた。顔が真っ赤になって顔を見れなくなりそうだ。

 

 

「っ……」

 

 

 一瞬、ほんの一瞬だが心がその声に震えた。精神が弱っているせいなのもあって、その声は甘いと思えてしまう程に甘美なものだ。

 

 間違いない。『魅了』の力。

 体験した事はないけど、間違いなくそれだ。

 

 それは本当に一瞬だったが、直ぐに心は正常を取り戻す。

 

 それは『約束』かエレ様の『誓い』か、『聖域』の副産物なのかは知らないけど。

 

 それを使える神は……

 

 

「夜の二十一時。あの噴水場に来てください。それまではそのリゾットを食べてゆっくり寝て、体力を戻してくださいね?」

「貴女は…やっぱり……」

 

 

 あの時の……銀髪の女神様。

 そして間違いなく美を司る女神。この世界で魅了を使える美の神は指で数える程度しか存在しないが、都市には二柱存在している。

 

 一柱は戦と美の神イシュタル。

 そしてもう一柱は豊穣と美を司る最強のファミリアの主神。

 

 という事はこのウェイトレスさん。

 いや……この女神様は多分間違いない。

 

 最強の派閥【フレイヤ・ファミリア】を統べる銀髪の美の女神。

 

 

 主神フレイヤ。

 

 

 二大派閥の【ロキ・ファミリア】と対を成す【フレイヤ・ファミリア】の女神様だ。

 

 なんでそんな女神様が給仕やっているのか疑問に思うと笑みを浮かべて答えてくれた。

 

 

「女は秘密を飾るのが美しくなるコツですよ?」

「……説得力があり過ぎてなんか怖い」

 

 

 美の神様が言うと説得力があり過ぎて素朴な疑問が寧ろ怖くなったので理由は聞かなかった。

 

 

 






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