小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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第四十七歩

 

 

 

 ネルガルの策略に隙はない。

 あるとするなら【ロキ・ファミリア】がラウル・ノールドを捜索し、見つかるか否か。

 

 早いうちに【ロキ・ファミリア】はラウルを攫った闇派閥の本拠地という名目で必ずバベル以外の入り口を見つける。そして必ず突入する。それが【勇者】であり王道であり、何より仲間を見捨てないその心が必ずその行動を起こす。

 

 見捨てる選択肢が無い訳ではない。

 頭が酷くキレる【勇者】ならリスクを考えて見捨てる選択肢を選ぶ事は出来るが、それは絶対に起こり得ない。

 

 それは『人工の英雄』たる【勇者】の瓦解を示す。

 間違いなく士気の低下、圧倒的カリスマを持つ【勇者】の威厳が揺れてしまう。

 

 

 盤面の動きは完璧だ。

 見つからなければというハイリスクさえ凌げれば、ネルガルはエレシュキガルを連れて逃げる事が出来る。

 

 唯一の不安要素があるとすれば一人。

 

 

「ルージュ・フラロウワ。……奴の動きは余の眷属が監視している。動きの報告はない」

 

 

 なのに拭いきれない違和感。

 ネルガルの策略は完璧に動いている。その筈なのに、神の直感というべきか、不安感が押し寄せてくる。

 

 広げたチェス盤の駒が倒れた。

 その不吉な予兆と同時にネルガルの足下に広がる()()()に目を見開く。

 

 

「っ、これは!?」

 

 

 地面に広がる巨大な聖光陣(サンクチュアリ)

 仕掛けてきたのはエレシュキガルの星であるルージュ。だが、『聖域』の輝きが違う。赤く、紅く、まるで怒りに染め上げられたかのような義憤に『聖域』が赤く染まる。

 

 ––––美しい。

 

 されど高貴を失わない『聖域』から感じ取れたルージュの心情。怒り狂えば最早『聖域』とは言えない穢れた領域に過ぎないのに、怒りながらもその信念が捻じ曲がらない。感情的なのにそれでも自分を突き通す想いがネルガルの頬に一筋の冷や汗を流させる。

 

 

 ––––見つけた。

 

 

 その言葉が耳に聞こえた。

 気が付けば机の上の駒が全て倒れていた。

 

 そしてそこからは詰み(チェックメイト)だった。

 轟音が聞こえた。武器が交差する音が聞こえた。

 

 そしてそれが十秒で収まった。

 たった十秒。それだけでネルガルの眷属が()()()()

 

 そして隠れ家の壁が吹き飛ぶ。

 そこから出てきたのは最強の漢。現最強の冒険者であり女神フレイヤの最大戦力。

 

 その名は【猛者】オッタル

 そして道を開いた眷属の後ろから悠然と歩く女神の姿をネルガルは捉えた。

 

 

「初めましてかしらネルガル」

「……そうきたか。まさか貴様が出張るかフレイヤ。報告が来ないのも道理か」

 

 

 報告など出来る筈がない。

 美の女神の『魅了』に抗える存在など世界でも一握りだ。ネルガルは耐性こそあれど、本気を出されれば抗えない。眷属が魅了されてネルガルに報告が来なかった。

 

 

「貴方に話があるわ」

「ほう?」

「話があるのは私ではないけれど、この子の話を聞いてもらえるかしら?」

 

 

 フレイヤの後ろを歩き、蒼髪を揺らす一人の小人族(パルゥム)がネルガルの前に現れる。

 

 

「……改めて初めまして。神ネルガル」

「蒼星か。大方要求は見えている。エレシュキガルを返せというのだろう?」

「そう言いたいけど少し違う」

 

 

 ネルガルは眉を顰める。

 ルージュはネルガルの前に立つと右手につけた手袋を脱ぎながら告げた。

 

 

「神ネルガル。【エレシュキガル・ファミリア】団長、ルージュ・フラロウワの名に於いて宣戦布告をしに来た」

「––––何?」

 

 

 手袋を投げつける。

 その行為が指し示す答えは『決闘』。戦う相手に対しての宣戦布告の証明。そして下界でその行為が表す意味はただ一つ。

 

 

「証人は女神フレイヤ。【エレシュキガル・ファミリア】は【ネルガル・ファミリア】に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を申し込む」

 

 

 ()()()()()()()()()()

 二級冒険者が居る【ネルガル・ファミリア】に対して闇討ちではなく、自分の手で奪い返す為に『戦争遊戯(ウォーゲーム)』を提案した。

 

 ネルガルがやっている事は違反行為だ。

 都市外のファミリアだろうと誘拐は誘拐。いずれオラリオの冒険者からの報復を考えれば得策ではない筈だ。

 

 だが、この戦争に勝てば堂々とエレシュキガルを手に入れられる。それと同時にロキの報復を食らいかねない。だが、フレイヤが動いた以上居場所などバレているだろう。

 

 

「……本当は虎の威を借る狐みたいな事はしたくは無かった。けど、私にも譲れないモノがあるから、交渉の場は整えさせてもらった」

「成る程、貴様は馬鹿だな?」

「ああ、でも敗者となった私がエレ様をきっちり取り戻すなら、それは誰かに頼った奪還なんて望まない。きっちり自分の手で取り戻す」

 

 

 此処で【フレイヤ・ファミリア】に頼ってエレシュキガルを取り戻してもルージュは納得しない。それでは頼ったまま何も出来ないのと同義だ。

 

 

「期限は二週間。エレシュキガル様は一先ず返してもらう」

「ほう?」

「代わりに、対決形式は貴方が選んで構わない。攻城戦でも総力戦でも好きな方を取ればいい」

 

 

 随分と悪条件、と言いたい所だがルージュの成長速度を考えるならば間違いなくエレシュキガルが居るだけで場所以上のメリットがある。

 

 

「そちらが勝ったら私とエレ様の全権利を譲渡する」

「!」

 

 

 それはルージュを含めた全権。

 負ければ人権までも失われ、ある意味英雄としての『死』である。ルージュが持つ今の手札(カード)全てを全賭け(オールイン)し、宣戦布告をした。

 

 負ければ全てを失う。

 その上、対決方法はネルガルが決める。余りにも分が悪い賭けだが、ルージュの眼に迷いはなかった。

 

 

「……いいだろう。だが一つ条件がある」

「何?」

「この『戦争遊戯(ウォーゲーム)』において、精霊の使用の禁止だ」

「!!」

 

  

 そう来るとは思わなかったのか、ルージュは顔を顰める。トワの力は強力だ。襲撃時、トワの力が無ければまともに戦えていなかった。ルージュ自身の弱さを見抜かれている。

 

 

「あらネルガル。怖いの?」

「ああ怖いな。余は精霊の力を見くびるつもりはない。代わりに『旗争奪戦』は無しとしよう。貴様が勝てば要求は好きにすればいい」

 

 

 ネルガルがそこまで要求出来る立場ではないと思ったが、それは違う。ネルガル自身は気付いている。フレイヤとルージュの関係性を考えれば『戦争遊戯(ウォーゲーム)』をしない手は残されていなくとも、それなりの要求が通る事を。

 

 フレイヤは恐らくルージュを気に入っている。

 ある意味、ルージュに対しての試練の舞台を作り上げる為に協力したに過ぎない。悪条件であれど舞台がなければ試練は成立しない。ならば舞台を作る為に出来る限りの要求が可能だという事に。

 

 

「……トワはそれでいい?」

 

 

 召喚されたトワは迷いながらも頷き、ルージュは覚悟を決めネルガルに返答を渡した。

 

 

「分かった。その条件で構わない。場所は一週間後の『神会』でエレ様と話し合って」

 

 

 精霊の力の禁止に決戦指定。

 ルージュにとってかなり悪条件ではあるけれど、フレイヤの介入を除けば、あくまで【エレシュキガル・ファミリア】としての公平な取引としてはこのくらいが妥当ではある。

 

 絶対に苦戦を強いられるだろうが、ルージュは関係ない。勝つと決めた以上、勝たなければいけないのだから。

 

 

「いいだろう。これは渡してやる。好きにせよ」

 

 

 渡されたのは地下の鍵。

 それを渡されるとルージュは一目散に地下の階段を降りていく。あったのは三つの扉だが、何処にいるかなんてルージュには分かっていた。

 

 鍵を開ける。

 そこには愛してやまない女神の姿がそこにいた。

 

 

「……エレ様」

 

 

 枕を抱きながら、涙を溢し眠っているエレシュキガル。ルージュはそっと涙を指で掬い、軽く頰に触れる。するとエレシュキガルの瞳がルージュを映し、トロンと微睡んだままの瞳で名前を呼ぶ。

 

 

「………ルー…ジュ?」

「はい、私ですよ」

 

 

 名前を呼ばれてルージュは笑う。

 

 

「起きられまうぷっ」

「良かった……本当に」

 

 

 夢ではないかと抱き締めて温もりを感じる。痛い程に抱き締めたエレシュキガルにルージュはまた笑い、エレシュキガルを抱きしめ返す。

 

 

「ちゃんと居ますよ。私は」

 

 

 本当に良かったと安堵するルージュと抱き締めながら泣き続けるエレシュキガル。たとえ、神と人と互いに違う運命を生きる定めだとしても、分つ事の出来ない絆がある。

 

 二人は再会を喜び、そして家族として泣いていた。

 

 

「……オッタルさん、フレイヤ様」

「何だ?」

「一先ず、ありがとうございます」

「……礼を言うならば、この後の地獄に耐え抜き、奴らに勝てた時にとっておけ」

「当然、契約を忘れちゃ駄目よ?」

「分かってます。でも、それでも手を貸してくれなきゃエレ様を取り戻せなかった」

 

 

 ルージュは頭を下げた。

 フレイヤの介入は本当に偶然。助けてくれるとは思わなかったルージュだが、当然フレイヤにも打算がある。助けるに当たっての契約は交わしている。

 

 

「ど、どういう事なの?」

「簡単な話ですよ」

「えっ?」

「正念場です。この二週間は」

 

 

 フレイヤの後ろを歩き、ルージュ達はバベルへ向かっていく。最強のファミリアが死力をもって殺し合う戦場と、そして二週間後の『戦争遊戯(ウォーゲーム)』に向けて、ルージュは闘志を煮え滾らせながら、エレシュキガルの手を握り覚悟を決めていた。

 

 

 





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