小人族でも、女でも英雄になりたい 作:ロリっ子英雄譚
「ハァ!?ラウルが帰ってきた!?」
「あ、はい……普通に。そして女神エレシュキガルも無事なようで」
「本人はなんて言うてるんや?」
「えっと、
ロキは顔を顰める。
ラウルは気が付けば歓楽街の裏路地に立っていて、自分が何をしていたのか分からない、というよりは覚えていないという話だった。
偶々ラウルはルージュ達の護衛に姿を消して、偶々見つかって、偶々記憶が無い?そんな訳が無い。アホ過ぎる程に必要ない推測を頭から追い出し、ロキは思考し続ける。
「(イシュタルのアホがやった……と考えるのが妥当やけど、ンなあからさまな事するタマか?)」
記憶の操作。或いは忘却。
そんな事が出来るとするなら『魅了』だ。
それを使えるのはオラリオでは二柱のみ。イシュタルかフレイヤのどちらかだろう。ラウルは魅了によって記憶を失った。正確に言うならば記憶を思い出す事が出来ないようにされた。
「(フレイヤの仕業ってのもある。やけど、ラウルを攫うメリットも『魅了』を施すメリットも無い)」
寧ろ抗争の火種を作るのは望む所では無いだろう。
にも関わらずフレイヤが『魅了』を使った?そんな訳がない。いくら自由奔放なあの女神でもそんな事をするはずが無い。
もしやるとするなら、それは目的がある筈だ。
エレシュキガルに尋問しようと動こうとした時、もう一つ重大な報告がロキの耳に入る。
「そ、それともう一つ報告が」
「なんや?」
「二週間後、【エレシュキガル・ファミリア】が【ネルガル・ファミリア】に『
「………………………はっ?」
情報過多により、ロキの思考は停止した。
★★★★★★
女神フレイヤの契約は三つある。
『エレシュキガルを奪い返し『戦争遊戯』を申し込む事までの協力』
『【フレイヤ・ファミリア】による特訓。期限は二週間』
『二週間、エレシュキガルの護衛』
対価は三つ。
『二週間という時間をいずれルージュ自身が返す事』
『二週間は【フレイヤ・ファミリア】でルージュを預かる事。エレシュキガルは毎朝のみ訪問だけ許される。(ステイタス更新などで)』
そしてもう一つがルージュ自身さえ首を傾げていた最後の対価にエレシュキガルは頭を悩ませた。
『来たるべき時に邪魔をしない事』
それがどういう意味なのか分からない。
酷く曖昧だが、ルージュはその対価を受け入れた。エレシュキガルは助けられてばかりのこの状況を許せない。これではルージュに護られるだけの存在。隣で見届けるなら、何か力になってあげたい。
「よし」
エレシュキガルはリースの工房へ向かった。
彼女は剣など鍛つ事は出来ない。だが、剣でなくても作れるものが一つだけ存在する。
下界で創った事はないが、近いものなら出来る。
畏怖させる権能以外にもエレシュキガルには一つだけ出来る事がある。かつて冥界の防衛機構に組み込んだように、最高の一振りを生み出す為に。
★★★★★
「がっ……!?」
槍で貫かれた。
剣が胴を斬り裂いた。
矢が肩に突き刺さる。
槌に脚をへし折られた。
普通ならば意識どころか命を手放してもおかしくない致命傷を浴びても尚立ち上がり、剣を振るう。
「『
待機中の全癒魔法を解放。
即座に詠唱を唱えて再び停滞。並行詠唱しながらでも四方から襲いかかる戦士の攻撃が、限りなく極限状態に陥っているルージュを更に追い込む。
「ああっ、クソッ!?づぅ……!?」
左脚を矢で撃ち抜かれ、動きが鈍るルージュに襲いかかる理不尽の暴力。対応し切れる訳もなく、詠唱完成と同時に再びルージュは死の淵に立たされていた。
「(対応が追いつかない……!瞬きしてたら直ぐに殺される!!)」
文字通り殺しに来ている。
戦士と戦士の殺し合い。血が流れない事などありはしない最も過酷な戦場。剣が魔法が交差し、一瞬でも気を抜けば殺される。殺されても死ぬ三歩前に蘇生され、再び戦場に放り出される。
「っ、ハァ、ハァ……!」
何回死んだのか記憶が定かではない。
斬られ、貫かれ、魔法を浴びさせられ、待機中の全癒魔法が発動しては再び待機させ、死ぬ間際や意識を失う時に強制解放し、蘇る。
汗が止まらず、目は血走り、それでも尚剣で応戦するルージュ。半端ではない密度の戦いが数時間にも渡り、精神的に疲弊、待機を続けているせいか断続的に魔力は消費され、身体は疲労を抜けずに鉛のように重い。意識を失い倒れそうになる所を剣で支える。
「……っ!もう、一本……!!」
それでも精神は折れない。
退けば終わる。【ロキ・ファミリア】といいエレシュキガルといい、いつまでも護られる訳にはいかないと心が叫ぶ。強さを求めて、ただひたすらに戦い続ける。見切り、盗み、自分の技の素材を手にして昇華していく。
「––––素晴らしいわ」
それを見ていたフレイヤは目を奪われる。
未だ未熟だった原石。蒼いラピスラズリにも思える蒼い魂と夜の心象が磨かれていく。心の強さと折れない意志、そして何よりルージュ自身の負けず嫌いな性格が、砥石となって魂を磨く。
「ハァ、ハァ……!!」
息を荒らげ、地面に零れ落ちる血と汗を拭い、また死にかけたのにも関わらず立ち上がって剣を構える。凄まじい精神に【フレイヤ・ファミリア】の戦士達も肩で息をしている。
前から襲いかかる戦士に気を取られては背後から迫る戦士に斬られる。前も後ろも警戒し過ぎては矢を躱す事が出来ない。ルージュは思考を加速させる。一々相手にするのではなく、受け流して次に繋げて相手の土俵から自分の土俵に誘導させる。
右から矢が飛んでくる。紙一重で躱す。
前から大槌が迫る。受け止めずに振りかぶる方向へ飛びながら直撃の威力を避ける。
背後から剣が振り下ろされる。
ルージュは素早く反応し、剣線に剣を置く。
「ぐっ!?」
「っし、よし」
剣が鍔迫り合い受け流し、同じLv.3の団員の胴体にルージュの拳が突き刺さる。四方八方から攻撃し、駆け引きも読み合いもルージュより上、それだけ戦場で殺し合った団員の一人が駆け引きに負けた。それもたった半日で。
「(コイツは何だ……)」
戦士の一人は戦慄する。
死にかけて、何回も臨死体験をすれば精神が壊れかねない。敬愛する主神はそれを望まないから手加減するつもりではあった。だが、戦えば戦うほどに速くなり、技も冴えていく。手加減が出来ないほどに能力が上がっていく。魔力を断続的に消費し、身体の躍動から見てももう動けなくなってもおかしくないのに、明らかな消耗の中でその能力は飛躍しているようにも見える。
否、これはもはや飛躍というより進化だ。
一合一合の鍔迫り合いの中で、恐ろしい速さで登っていく。殺されては生まれ変わり、新しい自分を手にしては捨て、更に新しい強さを手に入れ、前人未到の領域までひた走るその速さに初めて怖いと一人は思う。
「「「「上々だ」」」」
「!」
四つの声が聞こえた。
「僅か半日でここまで至るか」
「だがもうそれも終わり」
「此処からは休む暇すら与えない」
「絶望を叩き込んでやる」
ルージュの顔が引き攣る。
あっ、これ絶対に死ぬ奴だと直感で悟った。だが、それと同時に連携はあのネルガルの眷属より上な事を知っている。四人で隙のない超絶連携、噂通りなら更に強くなれる。何回殺されるかなど考えない。
「ハッ、絶望ねぇ…私は絶えず絶望してるよ……」
だからこそ、ルージュは思いっきり啖呵を切った。
「自分で護り通す事が出来ない弱い自分に絶望してんだ……!手加減すんなよ【
惨めな自分に絶望している。
勝たなければ、強くならなければ振り切れないその絶望を噛み締め、ルージュは剣を突き出し、己より強大な力を持った同胞に挑む。
「言ったな」
「ああ、言った」
「その覚悟は称してやる」
「さあ死ね」
立ち向かうルージュは叫びながら突貫するも、四人の連携に十秒も保たずに地面に転がされ、通算11回目の死を迎えた。
★★★★★
今日だけで18回。
私の臨死体験をした回数だ。その内14回は停滞の強制解除からの蘇生。私の全癒は魔力さえあれば血さえ元通りになるから長く戦闘出来たが、それでも血と汗を流した量は計り知れない。身体は重く、魔力も使い切り、幹部達は動けない私を尻目に陽が落ちたのを確認して『
「クソッ……一回も攻撃が当たらないとか……」
「生きてますか」
「……辛うじて。でも疲労困憊と…全癒魔法使い過ぎて精神疲弊で動けない」
「全く……」
話しかけられた綺麗な女の人にとりあえず返答する。そして装備が最早原型をとどめていない中、私を持ち上げて『
いくら私が諦めないからって魔力は切れる。
枯渇寸前になる前に『
「えっと、貴女は?」
「ヘルンです。このまま風呂に行きます。血と汗でかなり臭いです。その状態で女神の前に立たせられません」
「……あの、風呂入るのはいいけど、動けないんですけど」
「脱がします」
「えっ」
耳に届いたが、心に届かなかったようだ。
思考停止して動けない所をヘルンさんは容赦なく剥いてきた。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!?いや風呂はしょうがないけど脱がされるのは」
「屈辱ならさっさと動きなさい」
「動けないって言わなかったか!?ぐっ!?バッキバキに関節が痛い!?」
「なら大人しく屈辱を受けなさい。大丈夫、女同士恥ずかしがる事なんてありません。ほら脱ぎ脱ぎしましょうね〜」
「い、いやー!?」
この人絶対わざとだ!?
抵抗するにも節々の痛みに身体が動かずに赤ちゃんプレイよろしくあっさりと剥かれ、羞恥心で涙目になりながら、ヘルンさんに抱えられて大浴場へと入っていった。
そしてめちゃくちゃ広い大浴場のシャワー前に座らされた。何故か過程だけで涙が出そうだ。別の意味で心が折れそう。
「お嫁にいけない……」
「問題ないでしょう。貴女なら」
「……?どういう意味?」
「髪を洗いますよ」
シャワーのお湯を浴びさせられ、動けない私は抵抗せずにただ座る。シャンプーが目に入らないように目を閉じ、ただ身を委ねると頭に手が置かれゆっくりと動き始める。
「うおお、きもちー」
「……変な声を出さない」
「すみませーん」
いや本当に気持ちいい。
上がった後に三割増で髪質が良くなってもおかしくない。いつも泊まっている宿の場合はシャワーのみだし。まあ設備と防犯面がいいからその分高いけど良い場所だし。
「ヘルンさんは侍女さん?」
「何故そう思うのです?」
「佇まい」
「まあ概ね正解です」
この物腰の柔らかさといい、死闘中に覗きに来ては
「……辛くないのですか?」
「んぇ?」
「いや、殺されては治されて殺されて、私なら心が折れていた」
普通は何回も殺されたら精神が壊れてしまう。
18回は臨死体験して、心が折れていない事にヘルンさんは心配してくれている。
「……辛いっちゃ辛いけど、それ以上に悔しいな」
「えっ?」
「今まで頂天を知らなかった。現最強を知らな過ぎた。まだ知れてもないけど、幹部にすら一蹴されてる」
私は多分まともじゃない。
強くなりたいという渇望と負けず嫌いからあんな出鱈目なスキルが発現していた。だからだろうか、心が折れるより負けたくないという闘争心によって支えられている。
「だからこそ、やっぱり負けっぱなしは性に合わないからさ。悔しくて悔しくて、頭おかしくなりそうだけど」
痛いのは嫌だし辛いし、怖い部分はある。
「ちゃんと成長出来てる。だから怖くても立ち向かえる」
「成る程、貴女は馬鹿だ」
「っ、ひっ…ひゃ!あははははははっ!?脇、脇は止めっ!?」
そして明日は絶対に四ツ子の誰かに一太刀は入れる。シャンプーの泡が流されて身体が洗われる。手つきが良過ぎてくすぐったくて脇を触られた時、激痛が走りながらも笑いが止まらなかった。
それが五分続いて私の残された体力は消費されてグッタリしていた。めちゃくちゃヒーヒーと口から疲れが漏れていた。ヘルンさんって結構ドSだ。
「……あと、一つ聞いていい?」
「何でしょう」
「ヘルンさん、
何故か会ったことがあるような気がする。
この形容し難くて、上手く言い表せないが、ほんの少しだけ
「なーんかどっかで会った雰囲気なんだよなぁ」
「初対面で、しかも大浴場でナンパとは。貴女は屑だ」
「ちょっと!?誤解すぎる!?」
私に女色の趣味はない。
というか、前もこんな展開があった気がする。泡を流し終えた瞬間に私はヘルンさんにアンダースローで風呂場に放り投げられた。
フレイヤの交流やリースの話は次回。
課題あるので少し投稿遅れます。
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