小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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第五歩

 

 

 

 

 一週間が経った。

 未だ五階層には行っていない。だが一週間、休まずダンジョンでモンスターを狩り続けた結果。基礎ステイタスは更に上昇した。上昇率から見てもあり得ない速度だ。

 

 ちゃんとエイナさんに言われた通り、四階層までしか潜っていないが、それでも十分過ぎるくらいに上がった。

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 ルージュ・フラロウワ

 

 Lv1

 

 力:I33 → G283

 耐久:I24 → H193

 器用:I39 → G264

 敏捷:I53 → F311

 魔力:I31 → G223

 

《魔法》

【ソニック・レイド】

・加速魔法

・詠唱『駆け上がれ蒼き流星』

 

 

《スキル》

反骨精神(リバリアス・スピリット)

・早熟する

・対抗意識、宿敵意識を持つほど効果向上

・逆境時に全能力に対して損傷吸収(ダメージ・ドレイン)を付与

 

 

星歌聖域(ホーリー・サンクチュアリ)

任意発動(アクティブ・トリガー)

・精神力消費

・歌唱時、自身を中心に『聖域』を構築

 

 

–––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––––

 

 

 この速度なら一ヶ月でランクアップしてもおかしくない。改めて、このスキルの異常性を理解した。いや、寧ろ私だからこそ発現した超希少(レア)スキル。

 

 まだ漠然とした対抗意識でここまで上がるとは思っていなかった。しかし、三日前から経験値(エクセリア)の上昇率が落ちている。単純な話、強くなってしまった分、上層のモンスターの動きが鈍く感じていた。このまま続けても経験値が入らない。

 

 

「五階層……行ってみるか」

 

 

 この基礎ステイタスなら六階層までなら行ける。

 少なからず、新米殺しの最初の一歩(ファーストライン)はいずれ越えなければ、強くもなれない。

 

 

「刃こぼれ無し、籠手も万全。鎖帷子もある……よし」

 

 

 一応装備も万全。

 意を決して、五階層までの階段を降り始めた。

 

 

 ★★★

 

 

 五階層の最初の怪物は『蛙』だった。

 フロッグ・シューター。長い舌を伸ばし、中距離の攻撃を可能とするモンスター。舌の打撃に加え、突進までしてくる非常に厄介な存在だ。

 

 だが……

 

 

「(見える……!)」

 

 

 舌の打撃を躱し、『影淡』で斬り裂き、急接近し一撃で仕留める。流石に何体も攻撃されたら一度引いて、隙を突いて『加速魔法(ソニック・レイド)』で瞬殺する。器用の熟練度が上がったおかげで、加速に対して的確な技でナイフを入れられる。

 

 フロッグ・シューターから奇妙な悲鳴と共に消滅していった。ゲゴッって潰れたように鳴いて死なれると中々堪える。

 

 

「ゴブリンも大丈夫だし、この階層ならある程度問題ないかな……」

 

 

 ちょっと先に進んでみるかと、この時短絡的な考えだったと今思う。

 

 

 

 

 

 

 先に進もうと足を進めて数分後、()()()()()()()()()()が耳に入った。それは冒険者の足音でも、五階層の怪物(モンスター)でもない。ドドドドドドッ!!と轟音と共に私の目の前に現れた。

 

 

「……はっ?」

 

 

 それを見た瞬間、目を擦った。

 二度目は意識が覚醒し、脳が異常な程に警鐘を響かせていた、そして三度見た時は、ただ呆然と目の前の現実を否定していた。

 

 

「嘘……でしょ?」

 

 

 ただ–––––逃げろ、闘えば死ぬ。

 そんな痛いほどに伝わる目の前の存在に驚愕、そして焦燥と同時に脚が動いていた。

 

 

 

 

「ミノタウロス……!?」

 

 

 冗談じゃない。

 ここは上層の五階層だ。エイナさんにある程度のモンスターについて教えてくれたりしたのもあって知ってはいる。だからこそ、絶望とも呼べる感情が溢れ出す。ミノタウロスの()()()()()()()()L()v().()2()。何より、中層に居るはずの怪物が上層まで上がってくる事は異常事態とも言える。

 

 あんなもの、駆け出しには死神と同義。まともに戦っても強靭な肉体と耐冷、耐熱持ちな剛皮を兼ね備えた怪物だ。今の私じゃ魔法を使っても勝てる相手じゃない。

 

 今来た道は覚えている。

 魔法を唱えて逃げれるだけの距離はある。しかし、詠唱を始めようとした時に、聞こえた。聞こえてしまった。

 

 

「た、助けてくれぇ!!」

「––––っっ!?」

 

 

 思わず振り返ってしまった。

 そこに居たのは猫人(キャット・ピープル)で私と同じ駆け出しの冒険者。助けを求めるその声が聞こえてしまった瞬間、僅かに思考が鈍る。ここで見捨てても、ダンジョンで起きた事は自己責任だ。別に私のせいではない。逃げ出せれば、確実に私の命は助かる。

 

 

「クソッ!『駆け上がれ蒼き流星』!!」

 

 

 なんて言い訳をして逃げたら絶対に後悔する。

 見捨てるという選択肢が浮かべず、自身の首を絞める甘さに後悔するが、今はそんな事すら頭から消えていた。

 

 

「【ソニック・レイド】!!」

 

 

 加速を最大に、猫人(キャット・ピープル)の襟を掴んで地を蹴った。ドゴォ!!と、今居た場所に響く轟音。あと一瞬遅かったら巻き添えで死んでいた。あの拳を食らったら間違いなく潰されて挽肉確定だ。

 

 

「あっちに逃げて!階層を上がれば逃げられる!!」

「う、え…あ……?」

「ッ!!早くッ!!」

 

 

 ミノタウロスの視線が此方に向いた。

 加速魔法の効果がまだ残っている。ミノタウロスの股を潜り、同時に足下を『影淡』で斬り裂く。

 

 

「(硬ッ……!?全力で斬ったのにかすり傷程度……!?)」

 

 

 だが、それでもヘイトは此方に向いた。

 ミノタウロスの視線が此方に向けられた瞬間、私は叫んだ。

 

 

「行けッ!!」

「ひっ、うわあああああっ!?」

 

 

 呆然としていた猫人(キャット・ピープル)の冒険者も四階層まで続く階段へと走っていった。それはとりあえず良かったとして、問題は此方。ミノタウロスにヘイトを向けさせたはいいが、残念ながら私があの階層を逃げれば追いかけてくるだろう。猫人(キャット・ピープル)を助けた意味がなくなる。

 

 敢えて、()()()()()()()()()()()()()()

 五階層は複雑ではないが、それなりに広い。焦りもあり、知っていた正規ルートも分からない。今どこを走っているのか、それすらも覚えてない。

 

 

「っっ!やばっ–––」

 

 

 加速魔法(ソニック・レイド)時間切れ(タイムリミット)

 僅かながら、ミノタウロスに対して小柄で脚の速さがあったからこそ、先程の攻撃をギリギリ躱せていたに過ぎない。

 

 飛んできた拳を反射的に跳躍して躱す。それは余りにも悪手だった。もう一つの拳が私の眼前に飛んできた。空中で回避出来るはずもなく、左腕を盾に籠手で防ぐしか無かった。

 

 

「ガッ––––––!?!?ゴホッ!!」

 

 

 小柄な身体はミノタウロスの剛腕に最も容易く吹き飛ばされた。籠手を巻いた腕を盾にしなければ首の骨が折れていた。とは言え、左腕はダラリと地に落ち、鮮血が流れていく。視界がチカチカと眩み、口元から少なくない血を吐き、痛みが意識を飛ばさないように必死に争っている。

 

 

「ゴホッ、ゴホッ!!!」

 

 

 既に満身創痍。

 脚は何とか無事だが、左腕は使えない。多分骨が粉砕しているだろう。僅かながら感覚があるが、酷い痛みに感覚が無かった方が良かったのかもしれない。しかも……

 

 

「行き…止まり……クソッ……」

 

 

 吹き飛ばされた方向が最悪だ。

 仮に加速魔法を使っても、精神力(マインド)的に恐らく一回で打ち止め。それ以降は間違いなく追いつかれて殺される。超短文詠唱でも、連発出来るほどの魔力はまだない。だから使うのは三回までが限界だ。

 

 既にフロッグ・シューターで一回。先程ので一回。計二回使ってしまっている。三回目からは精神疲弊(マインドダウン)になる。そうなれば動きも悪くなるし、体力と精神が同時に削られながらミノタウロスから逃げ切るのは難しくなる。

 

 

「だったら……」

 

 

 ここでミノタウロスを退ける。

 もしくは追跡を不可能な状況に持っていくしかない。多分、勝率は僅か一割にも満たない。だが、逆境時の損傷吸収(ダメージドレイン)により、ステイタスが一時的に高補正が働いている。左腕が使えない状態でも、追い縋る程度には…….

 

 

「『駆け…上がれ…蒼き流星』!」

 

 

 ミノタウロスも突進の構えを取ってきた。

 此処で突っ込んでぶつかれば即死。一瞬の判断に身を任せ、右手のナイフを強く握りしめた。

 

 

「【ソニック・レイド】ォォォ!!」

「ブモオオオオオオオオオオオ!!!」

 

 

 お互いに近づくその刹那。私はミノタウロスの突進の()()()()スライディングで潜り抜ける。振り返るミノタウロスの視界から一瞬にして姿を消す。

 

 

「ハアアアアアッ!!!」

「ブモオオオオオオ!??」

 

 

 視界から外れた瞬間に大跳躍。

 ミノタウロスの視界から消え、隙を晒した怪物の首へとナイフを振り下ろした。肉を貫く感覚、溢れ出る鮮血。血が滲むほどにナイフを握りしめて首へ刃が貫く。

 

 ミノタウロスは怪物でも()()()()()()()。生体的に言えば頸には脳と直結する神経が通っている筈だ。そこさえ断ち切れれば、ミノタウロスの四肢は動けなくなる。

 

 

 

「あと……少し……!!!」

 

 

 刃がズブズブと肉を貫いていく。

 ミノタウロスの肉はLv.1が幾ら高補正したところで武器も力も圧倒的に足りてない。小人族であり、女として生まれた所もあり、速さは高くても力は圧倒的に足りてない。何ならナイフにかけた全体重すら軽い。

 

 あと少し力が有れば神経を斬れるのに……ッ!!

 

 

「ブモオオオオオオ!!」

「なっ……ガッ、アッ!?」

 

 

 ミノタウロスは首に乗っかった私を掴んで地面へと叩き付けた。意識が朦朧とする。血を流し過ぎて状況が理解出来ない。『影淡』がミノタウロスの首に刺さったまま。

 

 しくじった。賭けに失敗した。

 叩き付けられて足も折れた。逃げれる力もなければ、身体を動かせるだけの気力ももう無い。

 

 血が流れる。

 視界が真っ赤になって身体が冷たくなる。

 

 

「………覚……えてろ……」

 

 

 ミノタウロスの足音が近づいてくる。

 もう戦う力は残されていない。だが、それでも未だ消えない闘争心。地に伏せたまま、負け惜しみにも等しい弱者の遠吠えを口にした。

 

 

「次……は……必ず、お…前に………勝…つ」

 

 

 振り下ろされる剛腕。

 迷宮に鳴り響く叫びを最後に、私の意識は此処で途絶えた。

 

 

 




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