小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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 昨日更新できなかった分長くしといた。許してヒヤシンス。


第七歩

 

 

 

 店内に入ると、冒険者が食べては軽く騒ぎながら親睦を深めたりと、活気溢れている。美味しそうな匂いが漂い、麦酒を煽る冒険者を見て更にお腹が苦しくなりそうだ。もう、野生の獣みたいに齧り付きに行きたいくらいだ。

 

 

「お客様二名ご来店ニャー!カウンターが空いてるからそっちに座るのニャ!」

 

 

 茶色で少し癖っ毛のある猫人に案内され、私達はカウンター席に付き、メニューを見始める。

 

 エレ様は赤い外套を纏っている。と言うのも、エレ様は良くも悪くも死と腐敗を司る冥府の女神だ。冥界の管理を天界の神々に無理やり押し付けられたのはあるが、性質上は毛嫌いされている。他の神々が見れば疫病神扱いだ。

 

 だが、エレシュキガルは原初時代。天と地と人界を築き上げた時から存在し、それこそ最古参の神として恐れ崇められ、天界で知らないものはいない。だから下手に悪目立ちを避ける為に外套を被っているのだ。

 

 

「エレ様、何食べます?」

「焼き鳥と、ミートソースのスパゲッティ、オラリオ海老のマヨ炒め!」

「すみません。注文いいですか?」

「はい、ただいま」

 

 

 とまあ、冥界ならまだしも地上に来たらはっちゃけたらしく。世界を見た事がないから地上まで降りてきたらしい。意外とお転婆だったり。

 

 

「ルージュ、大丈夫なの左腕?」

「もう治りましたよ。聖域って凄いですね」

 

 

 私もよく分からなかったもう一つのスキル【星歌聖域(ホーリー・サンクチュアリ)】。

 その性質がよく分からなかったから、病室で試しに使ってみたが、聖域の効果は知り得る限り三つ。

 

 一つが、治癒力の促進。聖域内にいる人間の回復速度を早めてくれるらしい。回復魔法に詳しいアミッドさんに聞いてみた所、常時回復とは違うらしい。治癒力促進である以上、回復とは異なる種類の力らしい。

 

 二つ目、邪気や呪いの解呪。

 アミッドさんが言うには、その場から邪気や呪いを祓う効果を持つらしい。一気に解呪は出来ないが、それこそアミッドさんが使う魔法と同等クラスの力らしい。

 

 その時疑問に思ったのだが、なぜ歌を歌う事によって()()と表示されているのか。聖域を発動するなら()()の方が意味合いとしては正しい筈なのに。

 

 そしてその疑問も解消した。

 聖域を発動する際に、歌の種類によって()()()()()()

 

 例えるなら迷宮英雄譚(ダンジョン・オラトリア)より抜粋。『癒しの泉』は治癒力の促進効果が強いが、解呪は遅め。

 

 古代神話目録より抜粋。『神の楽園(ゴッド・オブエデン)』は解呪の効果が強いが、治癒力促進はイマイチ。

 

 とまあ、私が知り得る限りの歌で効果の強さがやや異なる。私が知り得る限り、歌は30以上あるが、流石に全て調べるのは骨が折れるし、精神力(マインド)的に限界だったので今知るのはこの二つだ。

 

 そして三つ目は探知。

 自身を中心に広げる聖域の範囲は歌が届く範囲までは無制限に広げられるが、維持の時間は自身の精神力(マインド)に依存する。邪気や呪いが聖域内に入ってきた場合、ある程度の感知が可能だ。ただし、横の範囲のみ、縦は無理。

 

 

「痛みもない。まあ安静にしますけど」

 

 

 握っては手を広げても鈍痛はもう無い。

 これも相当な希少(レア)スキルだ。魔法ではない以上、出来る事も多い。あくまで歌える環境下のみに限定される後衛スキルだが。

 

 

「お待ちどう!焼き鳥とミートスパゲッティ大盛り、オラリオ海老のマヨ炒めだよ!」

「うわメッチャ美味そう!麦酒と合いそう」

「まあ病み上がりだし、お酒は駄目よ」

「ですよねー。まあアミッドさん怒ったら怖そうだし、従いますけど」

 

 

 もう、お酒飲める歳なのに。

 こう言う日こそ、ファミリア結成の祝いとして酒を飲みたいが、まあ仕方ない。今日は果実汁(ジュース)で我慢する。大盛りミートスパゲッティを二人で分け合っていると、店が妙に騒がしくなった。

 

  

「おい、見ろよあれ」

「おお、すげぇ別嬪」

「バカ、エンブレムを見ろ。死ぬぞ」

「笑う道化師……」

 

 

 ……ん?笑う道化師?

 思わず振り返ると、そこには他の冒険者と一線を画す強者の気配が漂う冒険者が、店に入ってきていた。

 

 思わず息が詰まりそうになる。

 英雄を目指す私にとって、今の立ち位置が最も近いとするなら彼等の事を指すだろう。

 

 

「【ロキ・ファミリア】じゃねぇか」

「ってことは、あれが【剣姫】か」

「【九魔姫(ナインヘル)】に【怒蛇(ヨルムガンド)】【大切断(アマゾン)】まで……」

「壮観だな。近づきたくはないが」

 

 

 道化の神であり、オラリオの都市二大派閥の一つ【ロキ・ファミリア】。構成員は多数、冒険者のレベルも基本的に高く、前衛職、後衛職、それら全てのレベルが高い。深層まで潜り最大深度の階層まで突入した実績があるのはこのファミリアだ。

 

 ……出来るだけ早めに食べ終えて出るか。この空気の中にいても無駄に疲れそうだし。

 

 

「よっしゃあ、ダンジョン遠征みんなごくろうさん!今日は宴や!飲めぇ!!」

 

 

 深層の遠征が終わり、ロキの音頭と同時に打ち上げに集まった【ロキ・ファミリア】御一行が盛大に騒ぎ出した。店も大変そうだ。運んでは作って、持って行っては注文を聞いて……ってあの店主めちゃくちゃ手が早くねっ!?全然見えないんだけど!?

 

 

「団長、つぎます。どうぞ」

 

「ああ、ありがとうティオネ。ところで僕は尋常じゃないペースでお酒を飲まされているんだけど、酔い潰した僕をどうするつもりなんだい?」

 

「ふふ、他意なんてありませんよ団長。ささっ、もう一杯」

 

「本当にブレねえなこの女……」

 

「ガレスー!?うちと飲み比べで勝負やー!」

 

「ふんっ、いいじゃろう、返り討ちにしてやるわい!」

 

「ちなみに勝った方がリヴェリアのおっぱいを自由にできる権利付きやあああああああァッ!」

 

「じっ、自分もやるっす!」

 

「俺もやるぜ!」

 

「私もっ!」

 

「ヒック。あ、じゃあ僕も」

 

「団長ォオオオ!?!?」

 

「リ、リヴェリア様……っ?」

 

「言わせておけ」

 

 

 壮観と言うか騒がしいな。

 焼き鳥を頬張りながら、明日どうしようか適当に考えている。ダンジョンに入れないなら武器屋見てくるか?鎖帷子はまだ使えるが、籠手は左腕が罅が入ってしまったから、鍛治士の所に行ってみるか?

 

 そう悩んでいると、声が上がった。

 

 

「そうだ、アイズ! お前のあの話を聞かせてやれよっ!」

 

 

 声が上がった場所に視線を向けると、酒に酔った狼人(ウェア・ウルフ)がひけらかすように笑いながら話し始めた。

 

 

「あれだって、ほらよっ、帰る途中で何匹か逃がしたミノタウロスがいただろうが。その最後の一匹。お前が五階層で仕留めたやつだよっ! そん時の話だってっ!あのトマト野郎の話をよっ!」

 

 

 ―――?トマト野郎?

 野郎って事は男の子か?疑問に思いながらも、話を続けていく狼人(ウェア・ウルフ)の言葉に耳を澄ませた。

 

 

「ミノタウロスって、十七階層で集団で襲ってきたけど、返り討ちにしたらソッコー逃げ出したあの?」

「そうそれっ!あの内の一匹がそれこそ奇跡みてぇにどんどん上に上っていったわけよ!あんときゃ泡食ったぜぇっ!こっちは遠征帰りで疲れてるってのによっ!最後になって追いかけっこだっ!」

 

 

 それって私の事か?

 だとしたら殴りたいんだが、いや死にかけた事は自己責任だけど、あの時猫人(キャット・ピープル)がミノタウロスに殺されかけていたんだし。

 

 

「そのトマト野郎。アイズに助けられた直後に叫びながらどっか行っちまったんだよ!くっ……う、うちのお姫様。た、助けた相手に逃げられてやんのぉっ!!」

「「―――ぷっ」」

「ぷはっ!っアハハハハッ!そ、そりゃ傑作やぁ!流石にそれはないわぁ!ぷふっ、ぼ、冒険者怖がらせてまうなんて、アイズたんマジ萌えーっ!!」

「っくく、ふ、ふふっ……ご、ごめんな、さい……あ、アイズッ!―――流石に我慢できなかったっ!」

 

 

 ギシリと音が聞こえた。

 その方向に目を向けると、隠れて震えて手を握りしめている白髪の少年がいた。私の話ではなかった。逃げてしまったトマト野郎って、もしかしてこの人か?

 

 

「しかしまぁ、なんだ。久々に見たぜあんな情けねぇ野郎はな。ああもう胸糞わりぃわ。野郎のくせして泣くわ泣くわ」

「……あらぁ~」

「ほんとざまぁねえって。はんっ、泣き喚くぐれぇなら最初から冒険者になってんじゃねぇっての。ドン引きだよな。なぁ、アイズ?」

「…………」

 

 

 聞き流すが、隅で震える少年を見てそうもいかない。

 止めろといっても止まらないし、止められない。飲んでもいないが、酒が不味くなりそうな話だ。

 

 

「……ベート、酔っ払ってんの?」

「ああ黙れ、で、どうなんだ?選べよアイズ。雌のお前はどっちの雄に尻尾を振るんだよ?どっちの雄に滅茶苦茶にされてぇんだ?」

「……私は、そんなことを言うベートさんとだけは、ごめんです」

「―――っふ、無様だな」

「黙れババァッ!!っ……、んじゃ何だ?お前はガキに好きだの愛してるだの目の前で抜かされたら受け入れるってのか?」

 

 

 少年の肩が揺れる。

 明らかに意識がベートと呼ばれた獣人の男とヴァレンシュタインと言う女剣士に向けられている。

 

 

「はっ、有り得ねえっ!有り得ねぇよなそんな事ァ!自分より弱くて軟弱で救えねぇっ!気持ちだけが空回りしてる雑魚野郎になぁ!お前の横に立つ資格なんざねぇんだよっ!それは他ならないお前が認めねぇ!」

 

 

 トドメとも呼べる声が少年に突き刺さった。

 

 

 

「雑魚じゃあ、アイズ・ヴァレンシュタインには釣り合わねぇ」

 

 

 

 その言葉に崩れ落ちるように、少年は走り出した。涙を流しても言い返せずに、叫びたくとも強くない。勘定も払わずに腰に据えたナイフだけを握りしめてただ、店から走り去っていた。

 

 

「っ……ハァ、エレ様」

「行くのね?」

「うん。放っては置けないし、自棄になってダンジョンで死んだら目覚めも悪いから」

「会計は私がしとく。–––ちゃんと帰ってくるのよ?」

「分かりました」

 

 

 幸い、『影淡』と予備用のナイフ。ポーションが一つある。ステイタスもだいぶ上がったし、上層も深く潜らなければ死なないだろう。万が一が無ければ大丈夫だ。

 

 

「……あの」

「ん?ああ……大丈夫。ちゃんと連れて帰ります。あと、美味しかったです」

「……ベルさんの事、お願いします」

「はい」

 

 

 銀髪のウェイトレスさんが心配そうにあの少年が向かった方向を見つめる。自棄になったら何処に向かう?性格上から判断したら、ファミリアのベッドで泣き寝入りか、もしくは……ダンジョンで自傷も厭わない危険な攻めで鬱憤を晴らす。私なら後者だ。

 

 

「……ん?君は……」

 

 

 げっ、見つかった。

 見覚えがあるように見える。恐らく気を失った私を助けてくれた人だろう。金髪の小人族(パルゥム)であり、【ロキ・ファミリア】の団長。

 

 

「【勇者(ブレイバー)】……だっけ?」

「怪我は大丈夫かい?」

「………おかげさまで」   

 

 

 まあ、もう傷はない。

 軽い疲労は残ってはいるけどもそれだけだ。……って後ろのアマゾネスが滅茶苦茶暴れてる!?双子の妹が抑えてくれてるけど「あの雌犬がァ!!」と女が見せちゃいけない形相をしていた。

 

 

「少し、時間を取れるかな?」

 

 

 ロキ・ファミリア団長の誘い。

 これはある意味命令に近い。断って敵対すれば、弱いファミリアなら潰されてしまいかねない。

 

 

「––––()()()()()?」

 

 

 だが、()()()()()()

 そんな時間を割く暇などない。()()()()()()、死ぬかもしれないあの少年を追う方が、私にとって優先的だ。

 

 

「……理由を聞いてもいいかな?」

「いや、怪物輸送されて殺されそうな冒険者も居たのにそれを肴にして笑っているファミリアの為に誰が時間を取りたいって言うの?」

 

 

 ピシリ、と空気が凍った気がした。

 酒場で騒いでいる冒険者も思わず、視線が此方に向いた。浮いた熱を発散させるには丁度いい薬とも呼べる言葉だった。

 

 

「私は別に死にかけたのは自己責任だと思ってる。治療費はありがたかったけど、謝罪金(こんなもの)貰っても上っ面にしか見えない。だから要らない」

 

 

 二十万ヴァリスが入った巾着袋を放り投げる。

 正直な話、私は【ロキ・ファミリア】に入らなくてよかったと思った。ハッキリ言って敵対関係になるつもりはないが、少しだけ不愉快だった。気に入らないし、この話を見たらまるで『笑える事に感謝したその礼金』みたいじゃないか。道化に成り下がって吐き気を催すくらいに反吐が出る。

 

 

「はっ、死にかけた雑魚なんざ知るかよ。テメェらが弱かった自業自得だろ」

「そうだね。でも引き起こしたのはお前らだろ?––––それで人が死んだら本当に笑えるの?頭大丈夫かお前」

 

 

 思い出したのは私が助けた猫人(キャット・ピープル)

 あの時、私が居なかったら死んでいた。【ロキ・ファミリア】の尻拭いみたいになってしまったが、アレで死にかけたのもまた事実だ。死人が出るかもしれない話で笑う神経に異常としかいえなかった。

 

 

「んだと……ん?ああテメェ、アレか。フィンにお姫様抱っこされてミノタウロスに殺されかけた雑魚チビじゃねぇか。どうせ大成もしねェんだし、大人しく餓鬼に混ざってチビらしく生きてろよ」

「ベート、黙れ」

「––––()()()()()()

 

 

 その言葉もまた事実だった。

 私はまだ、大成もしていない。餓鬼と同じでミノタウロスに殺されかけて、助けられたから生きてるだけにすぎない雑魚だ。

 

 

「私は弱いし、偉業も達成してない駆け出しの雑魚だ」

 

 

 今はただ、吠える事しか出来ない。

 身の程を弁えないチビで女で、ただの道化にも等しいだろう。

 

 

「だが––––()()()()()()

 

 

 だが、()()()()()()()

 その侮辱は今は大いに受け止めよう。その悔しさは絶対に忘れない。何故なら、私の本質はずっと前から決まっているから。

 

 

「高台から見下ろしてるつもりならそこでただ笑ってろ。絶対に追いついてやる」

 

 

 何処までも負けず嫌い。

 追いつく場所は遥か先。英雄と呼ばれ、英雄譚に名を刻んだ存在。【ロキ・ファミリア】は通過点に過ぎない。先を見据えすぎた愚か者、身の程を弁えない雑魚。

 

 それでも私は吠えた。

 此処で、この場所で誓いとも呼べるその覚悟を。

 

 

「私は絶対––––お前らを越えてやる」

 

 

 英雄の道を駆け上がるその誓いを吠えた。

 弱くて小さくて、届かない高みへとただ走る為に覚悟を口にして振り返り、店を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 この日、この店に伝説が生まれた。

 

 言葉の重みに耐え切れず食い逃げをした弱き少年はナイフを振るい、ただ真っ直ぐに。

 

 そして弱者と認めながらも覚悟を吠えた弱き少女は自分の弱さを捨て、ただ駆け上がる為に。

 

 

 今日、この日、この時から。

 英雄の道を駆け上がる二人の【眷属の物語(ファミリア・ミィス)】が始まったのであった。

 

 

 

 

 

 





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