小人族でも、女でも英雄になりたい   作:ロリっ子英雄譚

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第八歩

 

 

 街中を探しても白兎は居なかった。

 ホームなど分かるわけも無いし、籠もってしまったなら仕方ないのだが、絶対違う気がする。スキルの探知はあくまで邪気や呪い、怪物などには効果があるが、人間はそうもいかない。

 

 

「此処も居ない…か」

 

 

 ダンジョンの四階層まで潜るが、居るはずもない。

 諦めて帰ったのか、ため息をつきながら引き返す。しかし、振り返った視線の先に、あるものが転がっていた。

 

 

「魔石?」

 

 

 よく見ると、魔石が地面に散らばっていた。

 砕けた魔石や、一刀両断されている魔石などが幾つか転がっている。まさか……更に下の階層に行ったのか?

 

 

「ふっ!」

 

 

 襲いかかる蛙を斬り裂き、更に進む。私も未だ来たことがない階層。五階層ならまだしも、此処は更に先の階層。

 新米殺しとも呼べるモンスターが現れるのは六階層。新人の最初の死線(ファーストライン)とも呼べるこの場所で、牙を剥いたモンスターは……

 

 

「……ウォーシャドウ」

 

 

 人の形に近い歪な『影』だった。

 二足歩行であり、鋭い爪を持つ怪物であり、単体では基礎ステイタスでも勝てるだろうが、それが複数に囲まれたらそれ以上の水準を求めなければならない。

 

 

「シッ!」

 

 強靭な肉体を持ち、変幻自在に腕を伸ばしリーチを潰しに来る。それを予備のナイフで弾き、一気に懐に入って魔石を砕いた。一対一ならこの程度でも大丈夫だ。最悪魔法で切り抜けられる。

 

 

「居た!」

 

 

 少年が二対一で戦っている。

 ウォーシャドウは戦えば命を落としかねない。駆け出しならその爪に引き裂かれて終わりだ。今すぐ助けた方がいい、そう思っていたが……

 

 

「ん?」

 

 

 少年の動きが変だ。

 しっかり見切れていて、上手く戦えている。戦闘の仕方はまだ未熟、それこそ私の方が上手いかもしれないが、脚を中心にしたナイフ使い。同系統の戦闘姿(バトルスタイル)としては駆け出しにしては上手いほうだ。

 

 いや、違う。駆け出しならこの場所でウォーシャドウに戦えるはずがない。私は例外として、彼は何だ?

 

 ……スキル?条件起動型のスキルが発動……もしくは急激な成長?

 

 

「倒しちゃった……」

 

 

 まさか、私と同じ成長促進系のレアスキル?

 駆け出しなら少なからず、自力でたどり着くのに半年はかかる。世界最速(レコード・ホルダー)のアイズ・ヴァレンシュタインの記録を見た事があるが、無謀な攻めを繰り返す事でたどり着いたならまだしも……

 

 

「っっ!!」

 

 

 ピキリとダンジョンの壁に亀裂が入った。

 そこから湧き上がるのは、ウォーシャドウの軍勢。20は下らない。少年は逃げないでいるようだが、流石にこの数は危ないだろう。

 

 

「『駆け上がれ蒼き流星』」

 

 

 一体ずつ処理していては流石に間に合わない。半分くらい減らす為に、詠唱を始めた。

 

 

「【ソニック・レイド】」

 

 

 流れる流星が、ウォーシャドウの魔石を潰して行く。器用がだいぶ上がった事により、大した事のないナイフでもウォーシャドウを殲滅しても、刃こぼれが全くない。とは言え、一度の加速で全てを殺すのは難しい。

 

 

「九体受け持つ!十一体を出来る限り減らせ!」

「えっ、は、はい!!」

 

 

 いい敏捷(あし)を持っている。

 未熟さはあれど、反応速度や脚でカバーし、確実に仕留めている。私に似たスタイルを人間が行なっているくらいか。

 

 右腕が伸び、爪が迫る。

 体勢を低くして、躱しては接近して魔石を砕く。それを繰り返し、こっちが八体殲滅していると、彼方は六体を既に倒し切っていた。

 

 ただひたすら闘った。  

 私達は傷だらけになりながらも、闘い続けた。

 

 

 

 

「っと、終わった」

「ふう……あ、ありがとう」

 

 

 汗を拭い、疲れたような顔をしている少年に、私は反射的に返した返答に冷たい目で睨み付けた。

 

 

「何やってんの君は」

「!」

「食い逃げしたと思ったら、こんな真夜中にダンジョンに潜って。自殺願望者か?」

「ち、違……」

 

 

 違わない、と口にする。

 ため息をついてナイフを仕舞う。正直な話、怒ってはいる。馬鹿にされた事を言い返せない事じゃなく、自棄になってダンジョンに潜った事にだ。それで迷惑かけたならお前は悪くないとは絶対に言えない。

 

 

「酒場で馬鹿にされたトマト野郎って君だろ?」

「!!」

「……ハァ、馬鹿にされて悔しい気持ちは分かる」

 

 

 この子も相当屈辱だったのだろう。

 と言うより、【ロキ・ファミリア】に笑い者にされて、弱い自分を許せなくてこのザマだ。そしてその無鉄砲さにダンジョンに向かった。気持ちは分かる。けど、これは決して冒険などではない。

 

 

「けどな、これを冒険とは言わない。これは()()()()()()()だ。それで店にも迷惑かけてるんだ。ちゃんと考えなよ」

「……すみません」

「謝るなら明日酒場にちゃんと金持って行きな。銀髪のウェイトレスさんが心配してたからね」

 

 

 いや本当、女将がカンカンだったわ。

 あの形相からしたら、明日この少年顔がボコボコになっている可能性も否めないわ。

 

 

「……気は済んだか?」

「ううん、もう少しだけ……闘っていきたい」

「……ハァ、少し付き合うよ。死なれたら寝覚め悪いし」

 

 

 ナイフを構え、次の敵に構える。

 こうして私達は朝までウォーシャドウと闘っていたのだった。

 

 

 

 ★★★★★

 

 

 

「っ……重い」

 

 

 ダンジョンから抜け出てオラリオの朝日を拝みながら私は白兎を担いで歩いていた。六階層にて少年は最後の一体を殺すと糸が切れたようにパタリと倒れた。

 

 

「だからって、気を失うまで闘うとか…私がいなきゃ死んでたぞクソッ」

 

 

 背中で眠っている白兎に悪態をつきながら、市街地付近を歩く。スヤスヤと寝掛けている兎の身体は傷だらけだった。スキルで治癒促進はしたが、塞がったのは小さな傷のみだ。脚は止血しているが、まだ治っていない。ポーションぶっ掛ければ一発だ……おいコイツ私の服に涎垂らしてねぇ!?

 

 

「いい加減起きろ!」

「ふぁ!はい!?」

「……ったく、お前のホームは何処なのよ」

「降ります、降りますから!」

「脚、ポーションがなくてまだ血が流れてる。送ってやるから早く教えて」

 

 

 もうこの際、服はしっかり洗って今日はしっかり寝よう。エレ様も心配しているだろうし。指を刺して、歩く方向を教えてもらい、たどり着いたのは……

 

 

「廃墟じゃん。降ろすよ」

「あ、ありがとう。そういえば、君の名前は?」

「……ルージュ。ルージュ・フラロウワ」

「僕は、ベル・クラネル。ありがとう。助けてくれて」

「そう思うなら、二度と自棄は止めてよ?次は助けないからね」

 

 

 食い逃げして、ぶっ倒れるまで闘って、おぶってやったら涎垂らされてもう散々だ。廃墟の階段を降りる白兎に私は声をかけた。

 

 

 

 

「ベル」

「ん?」

「お前はまだ弱い。それは事実だよ」

「!」

「だから……次は勝てるように、頑張ろうね。お互いに」

 

 

 ミノタウロスに負けたのは事実だ。

 まだ弱い。始まったばかりだ。どんだけ嘆いても、アイツらに比べたら途方もなく遠くて、私達はまだ弱い。その敗北は潔く受け入れよう。受け入れた上で次は必ず––––

 

 

「––––うん」

「強くなろう。まだ始まったばかりなんだから」

 

 

 次は必ず勝つために。

 私達は冒険者として脚を止める事はしないと此処に決意した。

 

 

 




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