小さき者・光の使者……ゴースト。
ゴーストを生み出しし者……トラベラー。
FPSゲーム……「Destiny」の世界に、金カムの尾形が居たら、きっと彼はハンターだろうと思い立って書き出しました。
光の戦士……ガーディアン。
小さき者・光の使者……ゴースト。
ゴーストを生み出しし者……トラベラー。
聞くだけで頭を混乱させるようなものばかりだ。だがこれは、自分が今いる世界では事実で、どうして自分が「光の戦士なるガーディアン」になったのかも解らなし、目が覚めた時にはゴーストと名乗った良く分からん、菱形を崩した形をしているロボット?…みたいなのが浮いてた。
「おはようございます!目が醒めましたか?」
やたら明るい、機械的な声で話しかけられ煩く感じた。そもそもここは何処だ、自分の名前さえ分からん。どのくらい眠っていた?今は何月何日だ。
「大丈夫ですか?……少し混乱しているようですが……」
「お前、誰だ?…」
率直な意見というよりも疑問だった。その質問に答えるように、小さな存在が声を発した。
「私はゴースト、貴方の相棒となる存在です。そして貴方はガーディアン。宇宙から迫る危機に立ち向かってくれる、心強い戦士です」
なにを言っているのか全く理解が追いつかない。自分が戦士で、目の前のキューブ野郎が相棒?……
「あぁ~~……」
「ちなみに貴方の名前は“オガタ”…東洋人なんですね?」
知らん、全く記憶が無いのに疑問形で聞いてくるな。なんて思っている彼を他所に小さいのは「さ、移動しましょう」と言いながら、宙を移動し始めてしまう。振り回されているのか、弄ばれているのか判断が付かない。
整理の付かない頭のまま、こんな寂れた場所に置いて行かれるのは勘弁してほしい。
覚束無い足取りで、尾形は必死になって小さな存在に付いていった。これが1人と1つの出会いだった。
山猫……そう呼ばれるようになったのは、シティーに辿り着き、ハンターバンガードに配属されてからだ。初めは騒がしい野郎が多い印象だったが、その実、姑息で卑怯な奴等が転がっている事に気が付いた。
ハンターの連中は、仕事の為なら動く。ではなく「報酬の為なら動く」連中が多い。
仕事を持ちかけて来ても、報酬次第では引き受けない。こいつ等は宝が無いなら動こうなどとはしない。
賭け事もする。それも節度や品なんてものは無い。中には冷静な奴もいるが、ほとんどがぶっ飛んでいる。例えばこの間で目にしたのは、負けたら独りで、地球の奥地でのさばっているアルコンプリーストを落としに行け。と、言われていたものだ、自分は興味が無いから遠くで見ていたが、ものの見事に負けた奴は、本当に単独でアルコンプリーストを落としに行った。結局、数日戻らないことを不審に思ったバンガード司令官の「ザヴァラ」が、捜査班を送り出し、地球の奥地で見つかったゴーストの破片と、光を失い殺されたガーディアンが回収された。勿論それを受け、ザヴァラはハンターバンガード全体に釘を刺していた。
ハンターの連中は、指揮官を失ってから荒れ始めていると、小さく語ってくれた人が居た。前はその人物のおかげで秩序の均衡が保てていたが、指揮官を失ってからは少しづつその均衡が崩れ始めていると、話してくれた。
どこの組織体制もそうだろう、上に立つ者を失い、後を継ぐ人材が直ぐに見つからなければ、体制は崩れていく。今のハンターバンガードは正にそれに当て嵌るものだ。
「その指揮官は何処に行ったんだ?」
興味があった、何故、指揮官が姿を消したのか、単に抜けたのかそれとも座を降ろされたのか、はたまた造反して姿を消したのか……
「………死んだ。殺されたんだ…」
聞かなければよかったと思うことは、そうそう感じないのだが、今回に関しては違った。聞かなければよかった。無粋な考えを持ってしまった自分を僅かに恥じた。
「そうか…」
隣に居る奴もそうだが、お互いは常に死との隣り合わせだ。そしてその「死」は、ゴーストが破壊されない限りはやってこない。自分も既に何度か味わったが、気分の良いものではない。勝手に生かされている感が凄まじい。
「いい指揮官だった。ハンターだけでなく、他のバンガードチームにも目を向けていた。視野の広さと彼の不器用な気遣いが、周りを支えていた」
「周りをよく見る奴ほど、穴を突かれることがある。油断したんだ…」
「多分な…」
実に惜しい人を亡くした。と、そう言い残しながら彼は立ち上がってその場を後にした。
ある日、無理矢理にファイアチームを組まされクルーシブルに連れていかれた。
対戦は嫌いじゃないが、行く気分でもなかったので、少々、気が立った。故に、愛用していたスナイパーライフルが猛威を振るった。後になってその愛銃を捨て置く事になるが。
虫の居所が悪い時は大抵、物事に集中できなくなりミスを犯しやすくなるのだが、今回に関してはそうではなかった。
頭が冴えていて、良く集中できた。
トランスマットされた瞬間に高い場所を目指して走り抜け、周りの状況が掴みやすい場所を陣取る。
素早く身を伏せてライフルを構え、倍率の利くスコープを覗き込む。置いて行かれた連中から無線が飛んできて、何処に居るのかと尋ねられる。
「対戦相手の動向が良く見える場所だ。まだ姿を捉えていないから、到着していない可能性がある」
『見えるのか?』
お前らそれでも戦士か…
文句のひとつでも言いたくなったが、そこは敢えて伝えない。死んで気が付くか戦いながら学んでもらうしかない。
「見えたぞ。ひとりそっちに向かってる」
『分かった』
返事と同時に無線が切れる。どうも相手の動きを見ていると、味方のリスポーン位置に向かっているらしいが、残念なことに此方は相手よりも先に到着し、陣地を確保している。今更リスポーンの場所に向かっても誰も居ない。無駄足だ。
後続から2人見えた。ある程度、固まって動いているのか、見えた2人は揃って南西に向かっていった。そう、自分の居る位置だ。
「来ます」
「分かってる…」
クロークの隙間から少しだけ姿を見せたゴーストが囁き掛けて来たので、了承の返事を返す。
スコープを覗き直し、慎重にトリガーに指を掛ける。
息を整えながら、移動している相手2人の頭に狙いを付け、トリガーが引けるその時を待つ。
まだだ……もっとこっちに寄って来い…
少しづつ距離が縮んでいく。
「見つかってしまいますよ?」
「黙れ……」
話しかけてくるゴーストを静かに一喝しながらチャンスを伺う。もう少しだ。もう少し前に出ろ。途端、ずっと一緒に移動をしていたはずの、前の1人が左に折れた。
ここだ。標準の中央から若干ずれた位置に頭を捉え、息を静かに吐き出したタイミングでトリガーを思いっきり引いた。
超光速でマズルから飛び出した弾丸は、1~2秒程で相手の頭に喰らいついて貫通し、弾丸の勢いに押し負け派手な倒れ方をする。
銃声に気が付いたもう1人が、直ぐに身を翻して戻ってきたのが見える。尾形は急ぎその場を後にするため立ち上がり、ライフルを抱え込みながら高所から飛び降り、崖に背を預け息を潜めながら、壁伝いにゆっくりと移動を始める。相手から見えないようにするため、死角に入り込む作戦だ。
反対方向からホバリングする音が聞こえた。相手はウォーロック、馬鹿でなければ此方が何を考えているのか感づくはずだ、ゆっくりそっと、ライフルを構え直す。奴がこの位置から見える様に頭蓋を差し出すかどうかで、この場での勝敗が決まる。
「くそ……足の速い奴だ。何処に行った?」
無神経にも下を覗き込んだウォーロックの旦那は、こちらの要望通りに頭蓋を差し出した。
頭の回らん奴だ。相手がそこに居ないのなら“居ない”のに、その場に留まるとは愚かだな…
この位置ならスコープをきっちりと覗く必要もないので、軽く標準を合わせてトリガーを引き、338ラプア・マグナム弾の餌食にさせる。
派手に落下してきた相手は、綺麗に頭から落ち、首の骨の折れる音が響いた。
「おぉー、こうはなりたくねぇーな」
「性格が悪いですよ?」
「おいおい……冗談だ…」
真面目な反論をされ面白さが半減しつつも、まだ戦闘が続いているのは変わりがないため場所を移動する。
こっちもそうだが、相手を落としたとしても直ぐに蘇生される。つまり、時間制限まで殺し殺されするので、油断ができない。残り2人の動向が気になるし、味方からの無線が先程から全く飛んでこない。どうしたんだ。なぜ無線が飛んでこない。
胸のざわつきが抑えきれず、こちらから回線を開いて飛ばしてみる。
「おい、聞こえてるか?そっちはどうなってる?」
ところが、スピーカーから聴こえてくるのはノイズの音ばかりで、人の声は全く聞き取れない。様子が可笑しい。
「まずいな……」
急ぎ、味方のリスポーン位置に向かう。下手をしたらそこで弄ばれている可能性があったからだ。
廃墟も当然となった家屋に入り込み、先程と同じように高所を陣取る。今度は此方が見えていて、相手からも味方からも死角になり見えない場所を選び、敵の位置と場所を探る。と、ひとり味方が蘇生されリスポーンされて来た。が、瞬間に頭を打ち抜かれダウンした。
「!」
一瞬の出来事だった。場所は自分のいる位置からほぼ対角線上、しかも地上だ。ここでは特定が難しい。
「くそ!」
おそらく同じハンターだ、やり方が物凄く卑劣で汚い手だ。
先程1人、こっちに向かって行った人物だろう。
手出しの出来ない相手を嬲って楽しんでやがる。自分もそれと同じ分類なのかと思うと、非常に遺憾だし腸の煮えくり返る気分だ。
大凡の位置は特定できた、後はしっかりとした陣地取りさえできれば此方が有利になる。姑息な手を使いやがって。
自身の位置は気が付かれていないはずだ、味方を嬲り倒している相手は、メンバーが1人居ない事を疑問には思っていないだろう。試合を放棄し途中で抜けたか、或いは元からマッチングしていないものと思っているはず。つまり、それを逆手に取ればいい。
その慢心した心がお前の弱みになる。
慎重に家屋の中を移動して、相手チームに出来るだけ遭遇しないように忍び足で地上を移動し、林の中に身を潜める。
林の中を移動していると、手持ち無沙汰になり単に時間が過ぎるのを待っている相手がいた。様子を伺おうとばれない程度に距離を詰め耳を傾ける。
「あいつ、またやってるのか?」
「好きだよな…こっちは暇になって仕方が無いってのに…」
話をしていた。どうやらこっちのリスポーン位置を陣取ってキルを稼いでいる相手の話だ。
「これだからハンターは嫌われるんだ…姑息だし、卑怯で下劣だ…」
言われるまでもなく理解している事だ。自分だって同じ扱いを受けながら居座ってるのが堪らなく虫唾が走る。
「だが、彼らが居なければ難しい偵察は出来ない。彼等のおかげで詳細な敵の数と陣営が把握できるのだ…」
先程、自分の弾丸で餌食になったウォーロックがそういう。ハンターは私達よりも身軽だ、だからこそ潜入を行い忍ぶ事が出来る。もしかしたら相手のチームにそんな奴が居るかもしれないぞ…
的中している。そんな奴が此処に居る。ばれていない…大丈夫だ。奴らを落とすつもりはないので、静かにその場を離れていく。さて、汚い手口でキル数を稼いでいる野郎の丁度、左隣に居る訳だが、全く姿が見えない。上手く身を隠している様だ。ダウンを取られ続けた味方は、嫌になったのか無理矢理に連れてこられた尾形を置いて、途中抜けを決め込んだようだ。
いい度胸だ。だが、そのおかげで一気に此方が不利になった。
4対1なんて、誰がどうみたって不戦敗にしてしまいたくなる状況だ。だが、捨てるつもりは毛頭なかった。嫌々、連れ込まれたんだ。完膚なきまでやらねば腹の収まりが悪すぎる。
「面白れぇー。こういうのは慣れておかんとな…」
ひっそりと姿を現したゴーストは、尾形の顔に張り付いている笑みに厭なものを覚えた。
裾の破けたクロークをしっかりと被り直し、その場に身を屈ませてライフルの倍率スコープを覗き込み、相手の位置に探りを入れる。
どこだ……少しでも相手の位置を掴めるものがあれば十分なんだが…
そうやって暫くスコープを覗いたまま、右に左に偵察をしていると、左奥の方で動きがあった。
青々と茂った草の中で何かが身動きしているのが見えた。奴だ。辛抱が出来なくなったのか、のこのこと屈めていた身を起こしたのだ。
「馬鹿な奴だ…」
姿を現したことを後悔させてやる。
ゆっくりと標準を定め、トリガーを引いた。
銃声が林の中で充満する。しかし、相手にはその弾丸が届かなかった。最悪な事にトリガーを引いた瞬間、相手が何かを拾おうと屈み、相手の頭蓋を目がけて飛び出した弾頭は、クロークの布表面を僅かに焦がしただけだった。
「!」
慌てた様子で身を起こした相手は、銃声のした方向に顔を向けて周りを逡巡する。
その姿が此方からは丸見えになっている。
しくった、これでは相手にも自分が見えている可能性がある。加えて後ろから相手チームの増援が来ている音がする。
「ちっ……」
わざとらしく舌打ちをして、身を屈めている事を諦めて立ち上がり、さらに林の奥へと誘い込むことにした。勿論、相手からも自分からもお互いの姿が諸見えなので、向こうはこちらを狙って撃ってくる。
撃ち損したハンターがライフルを構え直し撃ってきたが、頭上を掠り飛んでいく。続け様に撃ってくるがどれも明後日の方向に弾が逸れ、幹を抉り取っていく。
「まだ1人いた!林の奥に逃げ込んでる!」
1人が言うと、すぐさま追いかけてこようとする。そうだ、来い。
「待て!…罠かもしれんぞ…」
ウォーロックが気が付き差し止める。
「奴は独りだ、彼奴を落とせば試合が終わる…時間ももうそんなに無い」
「こちらの方が人数は有利だしな。どうする?」
相手チームの各々は、互いにどう動くべきかを議論し始める。ここまで来てみすみす見逃すか、それとも追いかけて来て俺を追い込むか。さぁ、どうする?…
人の重さに耐えられそうな大木が聳えているのが見えた。
腰に手を回してナイフを幹に突き刺し、それを足場にして低い位置に生えている太い枝に飛び移り、何とかよじ登って逆さにぶら下がりナイフを回収し、腹筋を使って起き上がる。これを何度か繰り返して完全に見上げないといけない位置を陣取る。
「面倒なことしないで、ジャンプで上に登ればいいのに…」
確かに、その方が楽だった事に気が付いた。まぁいい、相手に姿を見られなければいいだけだ。
遠距離狙撃用ライフルから、中距離狙撃用ライフルに持ち替える。これなら連射が可能だしスナイパーよりも銃身が軽い。
左脚を立て左腕を膝の上に乗せ、それを軸にする形で右手で銃身を構えて左手で固定するという、独特なスタイルを取った。ゴーストは、それがどう見ても撃ちづらい姿勢にしか見えず「誤って反動で下に落ちない様にしてくださいね。」と、伝えてくる。
「あぁ、分かってる…」
今度は倍率の付いていないスコープのうえ威力も弱いので、一発で頭を打ちぬけたとしてもヘルメットに罅を入れるくらいだろう。それなら、足の関節、膝を狙って跪かせればいい。或いは首だ。
負傷したガーディアンを治療するためにゴーストが展開するはずだ。そいつを破壊して殺しても構わないだろう。兎に角、こちらが有利な立場になれる環境を作る。
向こうの動向を見るためにじっとする。戦況が変わればシャックス卿から無線が飛んでくるはずだ。相手が完全に試合を放棄し抜けてしまえば……の、話しになるが。
樹木の上に登って数十分、向こうの動きは見えてこない。周りの音は静かで風が草や葉を揺らす音だけが耳に入る。
邪魔になったヘルメットを脱ぎ捨て、狙撃のやり易い状態を作り、いつでも対応が出来るようにトリガーから指を離さずスコープを覗き続ける。首の筋が伸びて痛みを訴えてくるが無視をする。
頭上から一枚の葉が落ちて、被っていたクロークの隙間に滑り込んでくる。その感触を首に感じながら息を静かに吐き出した。と、ひとり真っ直ぐ此方に向かって来ていた。この数十分で動きが無かったが、動向があるということは何かしらの作戦か会議をしていたのだろう。
見えているのは2人、もう2人はおそらく、ばれないように後ろに回り込んでいる可能性がある。なんとしても生き抜いてみせたかった。
尾形は意固地になっていた。死んだとしてもゴーストの光によって蘇生させられる身体なのに、死ぬことを避けて通ろうとしていた。だからこそなのか、頭が働いた。
「まずは正面から来てるお前らを喰らってやる……ガーディアン狩りだぜ…」
言うなり狙撃し、手前を走っていたハンターの首に命中する。しかし、首というのは高所からでは狙いづらい。にも関わらず的中させた。
「…す、凄い……この距離から首を狙えるなんて…」
「まだ狙える位置だ。次は膝だ」
2発目は、後続から続いてやってきたウォーロックの膝に入る。
膝の皿を撃ち抜かれた相手は悶絶しながら倒れ込み、身悶えて苦しそうにしているのを眺めながら、場所を移動するために降りていく。
う~う~、と、唸っている2人を見兼ねて声をかけてやる。
「どうした?…ゴーストに頼んで回復してもらえばいいだろ……」
「お、お前…お前にゴーストを見せたら……破壊されそうだからな…」
なんでそう思ったのか理由は分からないが、展開したくないのなら放っておけばいいか。このまま失血死したとしても、勝手に蘇生させられる運命だ。
1人は完全にくたばって蘇生済みの様だ、回り込んできている残り2人を迎え撃ちにするだけだ。さて、単に迎え撃つだけではつまらないので、餌を撒く事にしよう。まずは自分の外したヘルメットを捨て置く、その付近に感知型の煙玉を設置する。
相手が近づけば発動して目くらましになる。次いで、まだ弾薬は残っているが愛銃を地面に置いて枯葉を少し被せる。
敢えて不自然にすることで、足を止めようというのだ。上手く行くかどうかは分からないが、これが上手く掛かってくれれば、一気に片が付く。
慣用的な餌は出来た。後はこの場を離れて狙撃ポイントを確保するだけとなる。
「良し…」
速足でその場を離れては暫く走り、自分ひとりの身が隠せそうな木の陰に腰を落として、様子を見ている。
数分とせずに後方に回っていた2人がやってくる。先程、膝を撃ち抜かれ意地を張っていたタイタンは、既に蘇生されリスポーン位置に戻された。
残ったタイタンと、味方を貶すようにリスキルしていたハンターが、尾形が撒いた餌に喰らいつく。
不自然に捨て置かれたライフルとヘルメットを見て、確認をしようとタイタンがヘルメットに手を触れた瞬間、付近に設置した煙玉が起動し相手の視界を遮った。
待ってました。とばかりに、尾形は中距離用ライフルを構えスコープを覗き、奥側に見えているタイタンに狙いを定め膝を撃ち抜いてやる。
「うがぁー!」
布を破き、皮膚を突き抜け肉に喰らい付いた弾丸は、容易く膝の皿を割り立たせなくさせた。
「おい!…くっそ…下手に動けない……」
視界を遮られる中、味方の悲鳴に恐怖心を煽られたハンターは吐き捨てる様に文句を言う。
煙玉の持続時間は長くは無いはずだ。もう少し留まっているか煙の外に飛び出すか。などと考えていた彼は、薄れ始めていた煙幕の向こうから、1人の男が踊り出てくるのを捉え身を固めた。
尾形だ、生き残りだった彼が接近していて、気が付かない内に懐に入り込まれていたのだ。
しまった!と、思うのは遅く、バイザー越しに男と目が合った。
黒く、漆黒の色を纏うその瞳は光を吸収し、全てを飲み込まんとする“暗黒“そのものに見えて怖くなった。
これは猛獣だ。人の皮を被った獣だと肌で感じた時には遅く、彼の喉にナイフの切っ先が入り込んで切り開き、真っ赤な鮮血が芽吹いて倒れた。
原始的な方法で狩りを行い、相手を打ち負かす。それが何故か身体に沁みついている気がして勝手に動いたのだ。脊髄反射の様に。
殺らなければ殺られる。それを再認識した試合となり、尾形は小さく溜息を吐き出す。それに加えて、相手も弱かった。これが何よりも救いだった。
膝を撃ち抜かれたタイタンは、首を斬られた味方を見て「酷い…」と、小さく吐き出していたので、尾形は静かにこう返す。
「酷い?…こっちは蘇生位置に張り付かれて試合にもならんかったのに、勝手を言うな」
止めに入ることも出来たであろう事をしなかった此奴らに、慈悲を見せる必要は無い。だが褒めて欲しい。誰1人だって、ゴーストを破壊してやってない。慈悲を向けたからではなく、単にそうしなかっただけに過ぎない。そんなことをすればシティーを追い出され放浪する羽目になる。今は避けたい現実であるからそうしたのだ。
結局、尾形は試合に飽きて抜けた。相手からしたら後味の悪い不戦勝となったことだろう。いい気味だ。これで今後は狡猾な行動は避けるだろう。
シティーに戻った時、既にこの件の話は広まっていて、どのガーディアンも冷めた目で自分を見ていた。試合を放棄したとなれば、良いイメージは持たれないのは分かっているが、先程の試合に関してはまた別の念が含まれている。
「相手チームを弄び戻ってきた」と、そんな念だ。しかし、クルーシブルを仕切っているシャックスは違ったようだ。
「戻ったか、山猫よ!」
ヤマ……ネコ……?それはなんだ。俺の新しい仇名か?
「お前の新しい呼称だ。抜かりの無い狙撃と、一瞬でも敵の注意を逸らした。そして何よりも、素早く好戦的な姿勢。それは猛獣に匹敵する。尾形よ…お前は忍ぶ力が強い。まるで猫だ。そして襲い掛かるときは一気に喰らい付く。それこそが強みとなっている。お前は山猫だ…間違いない」
何が間違いがないのか分からないが、人に変な仇名を付けるのは上手い様だ。
「勝手に変な仇名を付けるのはよしてください。物好きじゃない…」
反論を伝えるなりシャックス卿は高らかに笑い、遠慮深いところが東洋人らしいと、言ってくる。
「確かに日本人ではありますが、誰でも勝手に変な名前を付けられたら断ると思いますがね…」
「すまない。私の悪い癖だ。はははっ!」
絶対に謝る気が無いのが見えているし、言葉で既にわかるので、対して気持ちの籠らない声で「そうですか。」と、返すと、シャックス卿は更に言葉を重ねて来た。
「お前の戦いがもっと見たい。また。クルーシブルに戻って来てはくれるか?」
返事は自ずと決まっている事だった。
「いいえ、残念ですが今回の事で心底、疲れました。暫くは参加せんでしょう…」
それを聞いた彼は、そうか…と、実に残念そうに答える。尾形はその返答を最後まで聞かずに身を翻しその場を後にする。
立ち去り際に1度だけ毛髪を後ろへ撫で付けると、クロークが脱げて彼の全容が見える。
両側を深く刈り込み、頭頂に残った毛髪を後部へ撫で付けたオールバックのスタイルで、口元に無精ひげを生やしている。おまけに両頬に同じ様な縫合痕がある。
目は一重なのか重たい印象を持つが、やや大きめな瞳と長めの睫毛が特徴的なので、完全に暗いイメージを持たせてはいない。加えて骨格もしっかりとしているし、筋肉量も程よい感じだ。
見た目は大変危ない雰囲気を持つ彼が、誰からも“山猫”と呼称されるようになる日は、今しばらく先の事になる。そして、造反することも。