【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話   作:SunGenuin(佐藤)

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感想&ブクマ&評価&誤字脱字報告、サンクスサンクス~~!!!!

第二部、ぬるっと開始です。

ところで未返信の感想が409件になってました(ドッ)
ワロてる場合じゃないんだよね……ほんとすまん。
そしてたくさんの感想ありがとうございます。無事作者の糧になってます。
毎秒読んでます。
いつか絶対返信しきってやるからな……!!
※一部助走つけて先に返信しているものもありますが他の感想蔑ろにしてるわけではないです信じて


19.まばたく間

「難しいことを承知でお願いします。竹騎手に── サンジェニュイン号に乗って頂きたいんです」

 

僕にはディープインパクトがいる。

全戦乗ると約束している。

だから乗れない。

すぐにそう返すべきだったのに。

 

耐えがたい苦痛が全身に走って、チカチカと目の前に光が飛んで。

制御不能の唇が戦慄いて言葉を発する。

 

「……考えさせてください」

 

もうずっと前から視界の端に佇む、その栗毛の馬が、何か言いたげに僕を見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

放牧中である。

 

『っざけんなディープインパクト……マジで……』

 

隣り合う牧草地から一番離れた場所で、俺はぐったりと横になっていた。

先ほどまでディープインパクトと同じ牧草地に放たれていたのだが、にじりよってくるヤツから逃げ回ってヘロヘロ。

マジであいつ、クッソほど追いかけてきた……言葉通じてないんか?

もしかして俺の馬語って下手?馬語にも日本語英語があるって話だったらもう無理だぞ。

 

そもそもの話、なんで同じ牧場にディープインパクトがいるのかと言うと、俺とディープインパクトが同じタイミングで放牧に出されたからだ。

いや嘘ついたわ。

正確にはディープインパクトは放牧に出されているわけではなく、北海道にあるという、管理調教師の出張厩舎で調教されている。

夏の栗東はクソ熱いので、熱中症やらなんやらを避けるために北海道まで移動してきたようだ。

6月中旬、俺は社来スタリオンステーション早来へ、ディープインパクトは沼江調教師の出張厩舎へ。

北海道に移動した日も馬運車も同じだったが、滞在先もあって7月半ばに入るまでの約1か月間、まったく顔を合わせなかった。

……が、8月まで残り2週間となった昨日の昼、ディープインパクトがここ、早来にやってきた。

そろそろ栗東に戻るということで、最後の一休みをさせに来たらしい。

俺はディープインパクトが来るまでの間、わざわざ生産牧場から世話をしに早来まで来てくれたタカハルと、それはもうのんびりと過ごしていた。

食っちゃ寝て、時々牧草地を走って、そこでも寝転がって、ひたすらぐうたらしていた。

ぐうたらしすぎて丸々太ったくらい。

寝ながら食う草が美味すぎて笑う。草だけに。ドッカンドッカン!

いや笑ってる場合じゃない。自分でも引くレベルの太りっぷりだ。

タカハルは秋のレースに向けて厳しい調教に耐えるための肉だから、と言っていたけど、こんなんテキもブチギレ案件では?

これは9月に向けてしっかり絞らないとな、と決意を固めていたところで、俺がゴロゴロしていた牧草地にディープインパクトが放たれた。

それも昼間ではなく、夜間放牧に出されてしまったのだ。

 

夜の牧草地、牡馬2頭、1頭は笑っちゃうくらいの美貌ホース、メンコなし、何も起きないはずがなく……。

 

ま、何も起きてないけど!起こさないけど!?

絶対起こさないために一晩中走り回ってた結果がこのバテってワケよ。

 

「急に体重減ったな」

 

調教で絞る必要もなくなったね!

ラッキー!!じゃねえわマジで。

 

っていうかさあ、北海道に出張厩舎あるとかディープインパクト、ズルくない?

俺も調教受けたかったんだが。可能なら俺もずっと練習していたかったんだが?

テキの出張厩舎はないんか?

ハ?うちのテキは実績がそこまでない、ってうるせえ、俺が出すわ!!

 

「どうどう、どした、急に暴れて。……あ、ディープインパクトに会えて嬉しかった?」

 

逆なんだよなあ!!

あっタカハルそれ、そうそう右側ね、そんまんま掻いて。

 

「あっこら、濡れた馬体押し付けんなって、もー……マイサンお前ってやつは、レース中は格好いいのになあ」

 

レース以外でも格好いいやろがい!!

軽く頭でタカハルの腹を押すと、頭上から「ッヴェ」というおよそ人間から出ないだろう呻きが聞こえた。

タカハルお前、なんか腹が柔らかくなってない?

ちゃんと絞っておかないと三十路とか四十路になったときに響くってテキも言ってたぞ!

 

「や、やめ、やめやめえ!突っつくなってもー、お前ってやつは。わかったわかった、レース以外も格好いいよ」

 

ちゃんと訂正できて偉い!

人間、何事も素直なほうが得するぞ。

素直すぎると弾かれるという人間社会のバグはあるけどな!

俺が鼻息を出すと、タカハルが苦笑いを浮かべながらも俺の頭を撫でた。

 

「……あの甘えん坊のマイサンが、競走馬としてすっごく立派になってさ。皐月もダービーも見に行ったけど、もう、本当に格好良かった。俺もタクミも鼻が高いよ」

 

もお、よせやい、本当のこととはいえ照れるう!

って、タカハルもタクミも見に来てたのか!?

先に言えよもお~~!!

弟の世話もあるだろうけど、次こそはディープインパクトをボッコボコにするから、菊花賞も見に来てくれよ!

 

「マイサンが頑張ってくれてるおかげで、お前の弟も、まだ一口募集始まってないのにもう問い合わせきてるんだって」

 

お、そうなのか!

いいこと、なのかな?

一口募集の集まりがいいと厩舎とかそこらへん優遇してもらえるんだろうか……。

でも、うーん、俺はまあ、身体が丈夫だっていうのと、常にモチベ高いから重い調教熟せてるって恩恵があるしなあ。

弟が確実に走る保証はないけど、競馬はブラッドスポーツだっていうから、同じ母親の弟に注目がいってるのか。

……これ全部目黒さんから聞いたやつだけどな!

 

「これからも楽しく、元気に走るんだぞ」

 

おうよ!

ま、レースは楽しいばっかりじゃないけど、ぶっちゃけ走り終わったときとか辛いし。

でも走るのは好きだから、これからも元気に頑張るよ。

だからそんな心配そうな顔するな。

ちゃんと怪我なく、元気な姿でまた牧場に戻るぜ!

 

「ははは、よしよし……お前は本当に人の感情に敏感だな」

 

これでも元は人間だったんでね。

タカハルまだなんか気にしてることあるだろ?

オラオラ吐いちまいな!

ここには馬しかいないからな!

 

「はぁ……こんなに感情に聡いのに、また乗り替わりなんてどうなるんだか」

 

ほうほう乗り替わりねえ……エッ乗り替わり!?

俺の鞍上が柴畑さんじゃなくなる、ってコト……!?

マジで!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

7月中旬。

それは関東のとある病院の一室だった。

本原佳己(よしみ)と向かい合うのは、サンジェニュイン号の騎手を務める柴畑(しばたけ)喜臣(のぶおみ)だ。

ベッドに横たわる柴畑の傍で、本原は心配そうな表情を浮かべる。

その顔を見て、柴畑はさらに申し訳なさそうに頬を掻いた。

 

「すみません、先生」

「いえいえ!体調は本当に大丈夫なんですか?」

「いやあ……まあ、御覧のあり様で。どうにか9月には間に合うと思うのですが……」

 

柴畑には持病の腰痛があった。

ここ数年、その痛みは増していて、ほんの1か月半ほど前の日本ダービーも、この痛みを押して騎乗した。

サンジェニュイン号という馬は、誰が見ても完璧な逃げ馬だった。

出だしから一切落ちないスピード、終盤になっても伸びる差し脚。

体幹のしっかりした馬で横ブレはしないが、その走りについていくためには、鞍上にも同じくらいのブレなさが求められる。

柴畑は美しく、優れた騎乗フォームの持ち主だった。

しかし、それをもってしてもダメージを完全に軽減するには至らない。

 

「皐月賞と日本ダービーの間隔は約1か月ほど。回復しきれないまま乗っていたので、ちょっと、ガタがきたみたいです」

 

6月半ばに放牧に出されたサンジェニュイン号を見送ると、柴畑は控えていた騎乗依頼を順に熟した。

ハナ取りを苦手とし、先頭集団内で好位追走する乗り方を得意とする柴畑は、馬を損なわない乗り手として、調教師や馬主から好意的に見られることも多い。

しかし、いざ勝負の、レースの結果を見たとき、大事にするあまり勝機を逃がしてしまうことも多かった。

それが、サンジェニュイン号に騎乗してからは少しずつ、見方も変わってきた。

騎乗依頼は例年より少し増え、この夏はほぼ毎週、どこかしらの競馬場にいた。

 

「サンジェニュインにはクラシックを取らせて貰った恩があります。菊花賞であの子が憂いなく走れるよう、上手く乗ること。それが俺にできる恩返しだと思っていたのですが……」

 

9月までには腰も少しは良くなっているだろう。

だがそうだとしても、柴畑は今、サンジェニュインの背に乗るべきではないと考えていた。

 

「入院に至る一番の要因は、この間の落馬だと聞いてましたが……」

「はい。レース中じゃなくてゴール後でよかった。レース中だったら俺も、何より馬が無事ではいられなかったかもしれない」

 

ほんの2日前のレースで、柴畑は馬の背から落ちた。

ゴール後、速度もすっかり落ちて検量室に戻ろうと綱を引いた時、腰に激しい痛みが走った末の落馬だった。

直前に綱から手を放していた事が功を奏したのか、柴畑の落馬で馬自体に影響はなかったが、それがもしレース中に起きていたらと考えたくもない。

そしてそれが、サンジェニュイン号に乗っている最中に起こらないなどと、今の柴畑には自信をもって言うことはできなかった。

 

「大事なレースです。本音を言えば俺が乗りたい……ですが、不安要素はなるべく減らすべきだ。クラブとも相談をしましたが── 乗り替わり、という結論になりました」

「そう、ですか……しかし、サンジェは非常に繊細な馬です。特に自分に乗る相手には、深い信頼関係を要求します」

「わかってます、経験者ですから」

 

初戦から共に戦った芝木からの乗り替わり時、柴畑には1か月近い時間があった。

その時間のうち、7割がサンジェニュインとの信頼関係構築の時間だったといってもいい。

正しく騎乗して調教を行えたのは、最後のわずか1週間ほどだったのだ。

 

「皐月賞、日本ダービーを経て、サンジェニュインは精神的にも成長したと思います。まさに今こそ、人馬一体で挑むべき時期なのも理解した上で、それでも乗り替わりするべきだと思いました」

 

柴畑としては悔しい以外の言葉はなかった。

騎手としてデビューしてから二十年近く、取れなかったクラシックの一冠を共に勝ち得た馬の鞍上を譲る。

今までまったく経験がなかったわけではないが、今ほど、柴畑を乗り替わりの相手に選んだ芝木の苦悩が理解できたことはない。

ただ悔しく、情けなく、叫び出しそうな気持を押し込んで、後任の騎手を推薦した。

 

「マシロはやっぱり、立派な男です。こんな手放しがたい気持ちを、アイツはどうやって誤魔化したんだか」

「それだけ、サンジェのことを思ってくれてました。柴畑さんも、サンジェのことを考えてくれて、本当にありがとうございます」

 

本原は深く頭を下げた。

勝てる馬に乗って、より多くの栄光を得たい騎手は山のようにいる。

でも、自分の栄光よりも馬を、サンジェニュイン号を大切にしてくれているのだと分かる、その思いの深さの分だけ、頭を下げ続けた。

芝木も、柴畑も、サンジェニュイン号に関わるすべての人間が、こうして何よりサンジェニュイン号と言うただ1頭の馬を愛してくれることが、何よりも嬉しかった。

 

「……サンジェニュインは、愛した分だけ愛し返そうとしてくれる。俺が注いだ以上に、後任の騎手(アイツ)もきっと、注いでくれます。それだけ、アイツもサンジェニュインを愛しているはずだから」

 

照れくさそうに柴畑が笑うと、本原も笑顔で頷いた。

サンジェニュイン号が栗東トレーニングセンター・本原厩舎に帰厩したのは、それから2週間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

北海道から栗東に帰厩して2日が経った。

輸送の疲れを取る名目でゴロゴロしていたが、やっぱり栗東の夏はクソあっつい。

馬房前には氷がぶら下げられて、大型の扇風機がずっと回されているので幾分かマシレベルだけど。

北海道のほうが断然涼しかったなあ。

こんなクソ真夏に栗東で調教を受けてたとか、カネヒキリくんすごすぎるわ。

芝以上にダートコースとか暑そうだし……え?そうでもない?馬房のほうがやばい?

マジかよ、それはそれで嫌だな。

 

眼前でちょっとダルそうにしているカネヒキリくんとは、芝コースに向かう途中で偶然会った。

最後に会ったのは俺が放牧に出される数日前だから約1か月半ぶり。

6月4日開催のGⅢユニコーンステークスにカネヒキリくんが勝った時以来だ。

次走が7月中だからその時は直前の応援もできないな、と言った時のカネヒキリくんのショック受けた顔に胸が痛んだ。

俺はいっつも応援してもらってたというのに……ごめんなカネヒキリくん。

帰厩したらすぐに会いに行こう、とは思ってたんだが、思った以上に夏の栗東が暑くて馬房に引きこもってたら2日経っていた。

そしてさっき。

目があった瞬間、当然のように日陰まで移動して立ち止まる俺たちに、厩務員たちもすっかり慣れた様子だ。

順応力たっけーな!

 

「そういえば遅くなりましたが、カネヒキリ号、おめでとうございます」

「ありがとうございます~!いや、もう、厩舎みんな嬉しくて嬉しくて」

「かなり差をつけたとか」

「そうなんですよお!もう圧倒的強さで!後続に4馬身!」

 

4馬身!?

すげえじゃんカネヒキリくん!!

ぶっちぎってるじゃねえか!!

も~!もっと主張してよ威張ってよお!!

ジャパンダートダービーで4馬身差つけて圧勝しましたって看板首から下げてよお!!

今日の俺のおやつ人参の予定だから後で厩舎まで届けにいくわ!

人参好きだったよな?

え?カネヒキリくんのおやつは林檎なのか。

エッいいっていいって!俺が人参あげたいんだよ、ほんとにおめでとうカネヒキリくん!

ああ、友達が勝つってめちゃくちゃ嬉しいなあ……!!

やばい、テンションブチ上がってきたわ。

ちょっとスリスリしていい?

あ、ダメですか、そうですか……。

 

「シーザリオ号も米オークスを勝ったとかで。めでたいことが続きますね」

「えっへへへ、そうなんです、頑張ってくれまして、へあっへへへ」

 

笑い方めっちゃやばいけど相当嬉しいんだなこの厩務員。

 

そう、カネヒキリくんに続き、シーザリオちゃんもオークスを勝った。

オークスとはいっても日本で行われた優駿牝馬ではなく、アメリカのGⅠであるアメリカンオークスだ。

これはもう管理調教師もうっはうは、喜びの雨でびっしょびしょに違いない。

 

ちなみに優駿牝馬の方もシーザリオちゃんが勝ってる。

しかも後方から追い込む競馬で上がり33.3秒というクソヤバスピードである。

中山と東京で競馬場は違えど、皐月賞2000メートルで同じ追込・差し型のディープインパクトが出した上がり3ハロンは、えーと目黒さんが言ってたのは確か34秒台。

出遅れたのに34秒台のアイツもアイツで可笑しいのだが、脚元があんまり良くない、って言ってたシーザリオちゃんがこの活躍だよ。

この快勝で弾みをつけて挑んだアメリカンオークス。

シーザリオちゃん、レースレコードを叩き出して圧勝した。

初めて聞いた時は思わず盛大に嘶いてしまった。当然だろこんなん嘶くわ。

それもレースレコードだけじゃなくて、シーザリオちゃんはお父さんが内国産で、かつ日本で調教された馬として初めての海外GⅠ制覇を達成したんだとか。

他にもいろいろ『初』尽くめだったらしく、テレビでも連日シーザリオちゃんが話題になってるみたい。

すっげえ、マジですっげえよ!!

俺と入れ違いで早来に放牧に出されちゃったみたいでまだ会えてないけど、今度併せ馬する時は盛大に祝おう。

っはー、やっぱり友達が勝つってテンション上がるう!!!!

カネヒキリくん、ちょっとスリスリしていい?

……あ、やっぱりダメっすか。そうっすか。

 

休憩に入るカネヒキリくんを見送り、じゃあ俺もそろそろ芝のコースに向かうか、と目黒さんに引かれて歩き出した。

カネヒキリくんと会えて喋れたことで幾分か気もまぎれたが、いざコースが近くなるとだんだん気分も下がってきた。

別に調教を受けたくないわけではない。

むしろ早く受けて勝負勘を取り戻したいレベルなのだが、今日ばかりはちょっと憂鬱だ。

 

「……カネヒキリ号と会えてすっかり気分も良くなったと思ったら、サンちゃんやっぱり元気ないですね」

「ああ、ま、なんとなくだとしても解ってるんだろうな── 柴畑さんから乗り替わるの」

 

そう、乗り替わり。

アレ別にタカハルの妄言でもなんでもなくマジだったわ。

嘘じゃん、芝木くんから乗り替わったのが3月半ばくらいだぞ?

そこからまた4か月ちょいで乗り替わりとか。

俺、今回は怪我してないし柴畑さんだって危険な乗り方はしてないのに。

一体全体なんでだよ、と思っていたら、どうも柴畑さんの方が怪我をしたらしい。

落馬して腰を打ったんだそう。

マジか、柴畑さん大丈夫なのか?

コース練習の時に何度か柴畑さんを落とした俺が言うのもなんだが、落馬っていうのは一歩タイミングがズレると死に繋がる。

各馬が死力を尽くして走るレース中に落馬なんてしたら、後続の馬に蹴られてそのまま、っていうケースもあると前に目黒さんが教えてくれた。

ダービー前のコース練習では、万一を想定してヘルメットやクッション性の防具などを着用して貰っていた。

今回は幸いにもゴール後に十分減速した状態だったから大惨事には至らなかったみたいだが。

 

目黒さん、俺のおやつの人参を持って見舞いに行ってきてくれよ。

あ、今日の分はカネヒキリくんにあげるから明日以降のやつで頼む。

明日のおやつが林檎だったとしてもそれを見舞いに持ってってくれ。

乗ってる最中に腰が痛くなって思わず落馬しちゃったんだろ?

前から腰の具合はあんまり良く無そうだったし……確実に俺とのコース練習も響いてるよな。

ごめんねって代わりに言ってきてほしいお願い。

 

「おおどうしたどうした。柴畑さんが気になるのか?……大丈夫、もう退院してるよ」

 

お、そうなのか?

よかったあ!!

柴畑さん、何度か腰を摩ってるとこ見たことあるけど、マジで俺のコース練習での無理が今回の落馬を引き起こした可能性が高いと思ってる。

そこに落馬の衝撃が加わってさらに痛いことに……本当にごめん柴畑さん。

もう退院してるみたいだけど、あんまり無理しないでほしい。

とはいえ、馬の背に乗って走るのが職業である以上、俺がどうこう言える話じゃないのは解ってるんだけど。

 

……うん?今まだ7月だし、退院済なら別に、俺の鞍上を乗り換えなくてよくない?

菊花賞は10月だしさ。

これ、腰を痛めた以外にも理由があるんじゃないか?と目黒さんに視線を合わせると、目黒さんが苦笑いを浮かべた。

 

「レース中に腰を痛めて、お前にも怪我をさせるかもしれないって、柴畑さんから申し出たみたいだぞ」

 

そんなの起きないぞ、とは言えなかった。

俺だって弥生の時みたいに、騎手を乗せたままターフにダイブする可能性だってある。

だけど、だけどさあ……ここまで一緒に走ってきたんだ。

クラシックレース最後の菊花賞も、俺は柴畑さんを── その柴畑さんを後任に選んでくれた芝木くんをも乗せて走るつもりだった。

皐月賞やダービーと同じ、一生に1度のレースなんだよ。

来年はもう走れないんだ。

すべてのレースが一度きりだと言われればそれまでだけど、クラシックレースはそれらとは一線を画すレースだ。

ここで走って勝った馬に贈られる称賛の声はそのまま騎手にも向かう。

俺は、俺が勝つことを通して柴畑さんにも恩返しがしたかったのに。

 

「さみしいよな。けど、どうかわかってくれ。こんなお願いはしたくないが……みんな、お前の最良を考えてるよ」

 

解ってるよ、それが痛いほど解るから苦しいんだ。

理屈じゃないんだぜ、目黒さん。

芝木くんの時の悲しみが、今だって完全に溶け切ったわけじゃない。

それは結構長く、ずっと長く、引きずっていくかもしれないって最近になって受け入れられたよ。

その痛みごと、走る覚悟ができただけなんだ。

それも柴畑さんっていう、芝木くんのことをちゃんと評価してくれてる人が俺の背中に乗ってるからこそ、できたことなんだぜ。

今日これから会う騎手はどんな人だろう。

芝木くんや柴畑さんと走った日々を否定しない、優しいやつだったらいいな。

嫌なやつでもいいよ。それを理由で全力で拒否してやる。

 

「お、見えてきたな」

 

入り口を抜けて、目黒さんの声に反応して頭を上げた。

こんな真夏に芝のコースを走る馬は少数派だ。

ちらりとあたりを見回すと、俺以外の馬はいないようだった。

 

「あ、こんにちは── 竹騎手」

「はい、こんにちは。……ダービー以来だね、サンジェニュイン号」

 

その人が振り返ったとき、この人か、という驚きよりも先に、その背後に目がいった。

美しくなびく栗毛の馬体。

鼻まですっと伸びた白い流星の持ち主と確かに、目が合ったはずなのに。

どうしてかまばたく間に、その馬はいなくなっていた。

ただ脳裏に焼き付いて離れない。

吊りあがった目に、俺は強く、強く睨みつけられていた。




秋レースだし、竹さんのターン(ドッ)

投稿初期の頃を必死で思い出しながら書きました。

サンジェニュイン 牡3
放牧で丸々太ったのにディープさんと夜間放牧に出されてすぐ減った
ディープ式ダイエット(笑)
お友達が勝つとうれしいうれしい
が乗り替わりはさみしいさみしい

ディープインパクトさん 牡3
涼しい北海道でも調教調教
この夏1番ハッピーな過ごし方をした

カネヒキリくん 牡3
現在重賞2連勝中でブイブイ言わしてる
夏バテにも負けず元気に調教中
主人公にスリスリされるのを回避したが、されたいかされたくないか、で言えばメチャクチャされたい
理性の勝利

シーザリオちゃん 牝3
このたび無事、2つの国の女王になった
主人公と入れ替わるように社来スタリオンステーション早来へ
また併せ馬できる日は来るのだろうか……

竹さん ヒト族 男
人生のデカすぎるターニングポイントを迎えてしまった

完全素人ニキの愛馬名アンケート

  • サニードリームデイ
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  • タイヨウノムスコ
  • タイヨウハノボル
  • ブライトサニーデイ
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