【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
シコシコ書いてたテキストファイルが破損してました(爆笑)
リプで助けてくれた有識者ニキネキ、サンクスサンクス!!
竹さんのターンッッ!!ドロー!!
トラップカード【(竹の)逃げ馬頂上決戦】発動ッッ!!(嘘)
※注意※
作中の竹さんにはモデルがいますが、ここの竹さんの独白や感情描写は作者の妄想によって生み出されており、モデルの方の感情とは直結していませんのでご了承ください
ところでこちらは素晴らしく優しい方が描いてくださった美貌のウッマ娘です!!!!
あかがちEX さん、心からサンクスサンクス……!!!!
https://img.syosetu.org/img/user/361271/82567.png
100万回見てください。
希望で胸がいっぱいだった。
勝てる気しかなかった。
競馬に絶対はないけれど。
あの日の彼と、僕には、輝かしい未来しか見えなかった。
まばたく間に消えた栗毛の馬。
最後に俺を睨み付けた目が焼き付いて離れず、すこしボーッとしていた俺の手綱を目黒さんが引く。
顔を前に向けると、そこにはレースで嫌になるくらい見慣れた騎手が立っていた。
目が合うと目尻が下がって、どこか懐かしそうに俺を見た。
エッ、この人、ディープインパクトの鞍上じゃねえか!
今日は新しい騎手と会わせるハズじゃ── この人なの!?
嘘だろ!?なんで!?敵だっただろ!
というか俺に乗るならディープインパクトはどうすんだよ!
竹騎手は素晴らしい実績を持つ名騎手で、ディープインパクトとの組み合わせはすごく高く評価されてるって。
ダービーまで無敗で制したから、この1人と1頭が離れることはないって。
だから菊花賞の最大の敵もこいつらだぞ頑張ろうなって言ってたのに~~!!
菊花賞まであと3ヶ月ってタイミングで、よりによって俺に乗り替わりとか……!
うぐぐ、嫌だ……!
俺はガッチガチに強いディープインパクトに、今度こそ勝つって決めてるんだよ!
この乗り替わりで仮に俺がディープインパクトに勝っても、ディープインパクトは騎手交替で調子が良くない、逆に俺は凄腕騎手を乗せて調子が良いから、とか言われるぞ。
絶対言われるッ!!
そうなったら俺だけじゃなくてテキも、目黒さんも、なんだったら竹騎手もイロイロあることないこと言われちゃう。
竹騎手もさあ、そりゃ負け通しではあるけど、一応ディープインパクトと一番競り合う馬ってことでライバル位置にいる俺に乗り替わりとか、ディープインパクトの関係者に恨まれそうじゃん。
というか揉めたよな。揉めないわけないでしょ勝てば三冠だもんな!
次のレースでディープインパクトに会ったときに「この泥棒馬!」とか言われちゃうんじゃ……。
嫌だ。嫌すぎるそんなの。
このひと乗せるの嫌だ~~!!
竹騎手そのものが嫌なわけじゃないけどさあ!!
タイミングってモンがあるだろお!!
ねえ目黒さんん……!!
「うわっ、どうどう、どうしたどうした。落ち着けサンジェニュイン」
落ち着けるかってんだよお!
なあ、いったん厩舎に戻ろう?
戻ってもうちょっと冷静に考えようぜ。
竹騎手以外に声かけなかったの?
もっとこう、なんか穏便な騎手をさあ……前にヴァーミリアンに乗ってた海外の
オー!ペガサス!って言いながら俺の写真撮りまくりだったあの兄ちゃんノリが合いそう。
弥生でゲート抜けしてたアドマイヤジャパンの鞍上とかも優しそうだし……ラインクラフトちゃんやシーザリオちゃんの鞍上貸して貰えないかな。
もうとにかく竹騎手はまずいですよお!!
あれから俺なりにいろいろ考えたりしたんだぞ?
悔しいけど、世間的にはハナ差1センチだろうが3センチだろうが、勝ち負けはハッキリついてる。
実力差の無い対等なライバル2頭として見る人もいれば、結局はディープインパクトに負けてるんだから勝負にならない、と考える人もいる。
そこはしかたない。
着差を抜いた純粋な結果として、俺がディープインパクトに負けてるのは確かだから。
でもそれを、俺は混じりけの無い【対等なライバル関係】にしたい。
今は俺がディープインパクトの背中を追ってるだけ。
アイツに勝つまでは死ねない、強い未練があるだけ。
神戸新聞杯で、菊花賞で、有馬記念で。
これからのあらゆるレースで、俺は、ディープインパクトに勝つ。
俺が勝つレースのディープインパクトの鞍上には、竹騎手じゃないとダメなんだよ。
「うーん、一体どうして……あ、もしかして。サンジェニュイン、竹騎手が新しい騎手だと思ったのか?」
……ほ?
違うんか?
そういう流れじゃないのかコレ。
「違う違う。竹騎手はディープインパクト号の騎手だからな、サンジェニュインに乗るのは難しいよ」
「……今日は用事があって来てたんだよ。誤解させてごめんね、サンジェニュイン」
2人が苦笑いで俺を見る。
……ああ、なんだもう~~!!
俺の早とちりかよハッズ!!!!
ごめんな竹騎手、めっちゃ拒否って。
いや違うんスよ、別に竹騎手に乗られたくないってんじゃないです。
普通にね、こう、タイミングを考えて貰ってですね……。
んもう……いやよかった。
もし乗られたらあの手この手、いやあの脚この脚で振り落としてた。
竹騎手に罪はないが……あなたにはディープインパクトに乗ってて欲しい。
あなたが乗ったディープインパクトをボッコボコに負かすのが今のとこの目標だからな!
「しかし驚きました。サンジェニュインは賢いとは聞いていましたが、乗り替わりも理解しているんですね」
竹騎手が感心したように頷いた。
フフ、もっと褒めていいんスよ?
「人の区別がしっかりついてるんですよ。誰が自分を世話してて、誰が自分と一緒に走るのかわかってるので……その分、乗り替わりは大きな負担です。前の騎手を恋しがるので」
「なるほど……後任の騎手は決まったんですか?」
「ええ。3日前になんとか」
俺の次の騎手、決まったの3日前かよ。
俺が帰厩する前じゃねえか!
ギリギリにもほどがあるだろ。
「それは……その節は、お返事が遅れて本当にすみません」
「ああっ、やめてください竹騎手、頭を上げてください。大丈夫です、むしろしっかり考えて貰えたと、クラブもテキも納得していました。もちろん俺もですよ」
「……そう言って頂けると助かります」
これ、一応、竹騎手にも騎乗依頼が入ってたけど、ディープインパクトに乗るから断ったってことか。
で、断るまでに時間が掛かって結果的に他の騎手に声を掛けるのが遅くなったから、正式な後任は3日前に決まったって感じ?
クラブ── 俺の馬主はサイレンスレーシングという法人クラブなわけだが、ここがどうやって騎手に依頼を出してるのかはわからないけど、その依頼に対して受けるかどうか、って時間かかるもんなのかな。
竹騎手は超売れっ子らしいし、あっちこっちから依頼がありそうだからしゃーなしか。
……そういえば前まで一緒だったハルノメガミヨさん、ラストランは竹騎手が乗ったんだっけ。
なんか脚が軽くなって身体も軽くなってスピードもガンガン出てテンション爆上がりしてずっと走れそうとかなんとか……竹騎手はゲームのバフアイテムか何かか?ちょっと気になるな。
……いやいやっ!この人は俺の鞍上には乗せん!!
次相まみえるときはレースでディープインパクトの背に乗ってるときだ……ッ!
「後任の騎手は今日からですか」
「そうなんですけど……なにやらトラブルがあったみたいで。今テキが電話で話をしているのですが── ああ、テキ、電話終わりましたか」
目黒さんが顔を向けた方へ俺も視線を向ける。
テキが小走りでこっちに向かっているのが見えた。
表情はあんまり良くない。
「ダメだなあ。向こうの手続きが長引くって、午後から来るみたいだ」
「そうですか……それじゃ、いったん厩舎に戻って休ませますか」
エッ、戻るのか?
乗り替わりは憂鬱だったけどさ、調教を受ける気だけはあったんだけど。
俺が早来でゴロゴロしている間もディープインパクトは調教を受けてたし、早いところ遅れを取り戻したいし。
目黒さんかテキか、俺の背中に乗ってパッパカやることはできないのか?
見習いの
俺がテキに顔をすり寄せると、ちょっと笑顔を浮かべて俺の頭を撫でた。
撫でてくれのサインじゃないんだが……あ、もうちょい右で。
「いやあ、このまま調教はすすめたいな。……竹騎手、ご挨拶遅れてすみません。お久しぶりですね」
「こちらこそ、すぐご挨拶に伺えず。……その節は、その」
「ああ、いいんですいいんです。無茶を言ったのは分っていたので」
すごく気まずそうな竹騎手の背をテキが叩く。
騎乗依頼断っただけでそこまで気まずい顔するか?
テキは怒ってないって目黒さんも言ってたでしょ!
あ、いまいい音したな。
「隈作るほど悩んでくれたんでしょう?もうそれだけで十分ですよ」
テキにそう言われて初めて気づいたのか、竹騎手が自分の顔に手を当てていた。
このホースアイでは竹騎手の目の隈はわからなかったけど、テキが真っ正面から指摘するくらいにはクッキリついてるんだろうな。
ていうかそんなに悩んだのか……三冠まであと1つの馬なら速攻でディープインパクトを選びそうなもんだけど。
ハッ、まさか俺の溢れ出る才能に惹かれて……?
ま、負けっぱなしなのは認めるけど、俺も何も得ずに負けたわけじゃないし……強がりじゃないしい!!
「実績出せば出すほど、自分のココロだけでは選べないもんが増えます。それは当然のことなんです。あなたが悩んだ時間は、あなたの優しさの証だ。そして選んだものは、あなたの誠実さの証。少なくとも俺たちにはそう見えましたよ」
テキが優しい声で竹騎手に語りかけた。
自分のココロ、の下りはわからなかったけど、竹騎手が悩んだ理由もわからないけど。
俺に乗せるために出されたたくさんの誘惑を振り切って、約束したディープインパクトの背に乗ると答えたのなら。
確かにテキの言うとおり、これ以上誠実な騎手もいないだろう。
でもまあ、菊花賞は俺が勝つけどな!
……鞍上が誰か知らんけど。
「ま、どうしても申し訳ないって気持ちが抜けないなら── ちょっとサンジェに乗って貰えませんか」
「え?」
いましんみりした空気だったのにナー!
竹騎手の目がまん丸。
ていうか乗らないって話だったでしょテキ!
「これからもし、時間が余っているなら。後任の騎手が来るまでの間、調教を手伝ってくださいよ」
そう言ってテキがニッコリ笑う。
ハハーン、調教ね。
新しい騎手は午後から来るって言ってたし、俺は調教受けたいし。
……ええやん、調教で乗るだけなら問題ないよね?無いな!
「そ、れは……」
「ああ、そうしていただけると助かりますね。サンジェニュインは朝から走る気満々だったので、馬房に戻しても不貞腐れそうで……よかったなサンジェニュイン、レジェンドが乗ってくれるぞ」
やっほーい!!
ここで竹騎手のクセを掴んでレースに活かそうなんて、思ってないんだからねっ!
……盗める技術は盗んどこう!!
「え、いや、あの……」
竹騎手 は 完全 に 混乱 している!
「乗ります?乗りません?」
テキの後ろからヒョッコリ、と顔を出す。
こちとら美貌の白毛馬だぞ。
このイケメンかわいいホースに乗ってターフを駆け抜けたくない?
ディープインパクトは後方からの追込タイプの馬……ハナを突っ走るのは気持ちいいぞお!
超高速で芝の果てまで連れてくぜ!
あ、コーナーカーブでは馬体に体重掛けてくれよな!
そうじゃないと俺と竹騎手、そろって芝に埋まっちゃう。ドッ!
「……の」
「の?」
キラッキラの目で竹騎手を見つめると、竹騎手が俺からそっと視線を逸らした。
おい、この目から逸らすとは……美貌のウッマやぞ!
「ちなみに、沼江先生にはもう許可を頂いてます」
「乗らせて、ください……」
勝ったわ!!!!
……ていうかテキ、沼江先生が誰かは知らんけど、事前に許可取ってるとか最初から調教で俺に竹騎手乗せる気だったのでは?
俺は訝しんだ。
「はい、これ綱です」
目黒さんから竹騎手に俺の綱が渡される。
ヘヘ、旦那、俺は大人しい馬ですんでね……。
手荒な真似と牡馬にうまだっちされない限りは鞍上落としませんので。
竹騎手が俺に跨がり、綱を握った、その瞬間。
俺は彼を振り落とした。
『栗毛の馬、いるじゃん!?!?』
どうしてこうなったのか。
「ブモモッ!」
「……ああ、ごめんごめん、ちょっと考え事してたよ。じゃあ、行こうか」
「ヒィンッ!」
まるで僕の言葉を理解しているように、サンジェニュインが嘶く。
芝を蹴る脚は軽やかで、柴畑さんから聞いていたとおり、横ブレのしない体幹の良さが解る。
走ること自体が好きなのだろう、ただまっすぐ前を向いて走っていた。
コースをゆっくりとしたスピードで1周し、綱を引いて止まらせると文句を言いたげに僕に振り向いた。
【なんで止まるんだよ】
言葉はなくても、なんとなくそう言っているのがわかる。
本当に感情表現の豊かな馬だ。
時折、それでは済ませられないくらい僕らの話を理解しているときもあるけど。
僕はサンジェニュインの頭を撫でて宥める。
ごめんな、と声を重ねると、仕方なさそうに鼻を鳴らした。
「サンジェお前、なんてエラソーな……」
そう言って苦笑いを浮かべた本原先生に声を掛けた。
「脚は非常にいいです。久しぶりに人を乗せたとは思えないくらい……指示にも素直に従いますし」
「うんうん、よかった。これなら十分、9月に向けて仕上げられるな。竹騎手」
「はい」
本原先生の目は、時々直視できない。
あまりにもまっすぐだから、僕の中にある溶かしきれない思いまで見透かされそうな気分になる。
いや、もう見透かされているのかも知れない。
だから先生は、沼江先生に── ディープインパクトの管理調教師に許可を貰ってまで、僕をサンジェニュインに乗せたのだろう。
「いつもならここで休憩、にするのですが……サンジェがまだ走り足りなさそうなんでね。申し訳ないのですが、最後に2400メートル、走ってきて貰えますか」
「……わかりました」
僕がスタート位置に進むようサンジェニュインを促すと、彼は嬉しそうに嘶いた。
どうやら本当に走り足りなかったようだ。
本原先生が「サンジェ、本番のつもりでいいぞ」と声を掛けると、返事をするように身体を揺らした。
覗き込んだ目は、前だけを見ていた。
「……行きます」
「お願いします!」
綱を揺する。
するとサンジェニュインは美しい姿勢で走り出し、ぐんぐん、前へと進む。
やはり、この馬は出だしが良い。
瞬発力がある馬は他にもいるが、それを中盤から終盤まで保てる馬はそうそういない。
サンジェニュインは高い瞬発力でハナを取り、先頭をトップスピードでキープできる。
中盤、他の馬が上がってきても変に掛かることなく、勝負所を見逃さない。
ただ、弥生賞の時のように中団からのスタートになると、焦って前へ行きたがるクセが在るようだ。
自分が先頭じゃないことが許せないのだろうか。
負けん気の強さも、この馬が強い理由のひとつだと思うけれど。
……その姿がなおさら、僕に幻視させるのかもしれない。
コーナーカーブで馬体に体重を掛ける。
スピードがある分、ここでブレーキの役目を果たすのも騎手の仕事の一つだ。
上手く曲がれたのを感じて、身体を浮かせる。
サンジェニュインはまるで本当に追走者がいるかのように、第3コーナーカーブを目指して加速を続けた。
僕もそっと鞭を構える。
もし、コレが本番のレースだったら。
この場にディープインパクトは確実にいるだろう。
ディープが勝負を仕掛けるなら、ダービーのように第3コーナーからだ。
それより前は早すぎて、それより後は遅すぎる。
思考を巡らせ、想像力を働かせ。
ここにいないディープインパクトを見る。
サンジェニュインを抜かそうと上がってくる末脚を捻じ伏せるには──……ここだ!
1発、2発。
サンジェニュインの最もいいタイミングで入れた鞭に反応して速度を上げる。
首がぐっと沈み、前だけを追い求める走りに変わる。
あるはずのない、耳を
あとすこし、あとすこしだ。
第3コーナーを曲がりきる、その瞬間。
真横を、
「な……ッ」
鞍上には誰もいない。
ただ風に揺れる、1番のゼッケン。
サンジェニュインの目にもハッキリと映ったのか、スピードが上がり差が縮む。
大歓声の中を縫って、ひたすらに栗毛の馬体を追いかけた。
僕は、僕は、ただサンジェニュインに乗ったまま、目の前の光景から目を逸らせない。
2度、3度、瞬きをしても確かにそこにいた。
栗毛の馬体に、緑のメンコ。
鼻先に向かう白い流星が、
どういうことなのか、まるでわからなかった。
わかりたくなかった。
どうして、なんで。
いつも視界の端にいた彼。
僕に向かって何か言いたげな顔ばかりする彼。
【忘れるな、誰のせいでああなったのか】
聞こえるはずのない声が頭に響く。
わかっている。
忘れていない。
誰のせいで── 僕のせいでああなったこと。
どうして鞭を打ったのか。
どうしてスピードを上げ続ける彼を止めなかったのか。
どうして、どうして、どうして。
絶え間ない自己への問いかけ。
尽きぬ後悔と、フラッシュバックするあの瞬間。
浅くなる息と意識を、鋭い嘶きが切り裂いた。
「ヒィン──……!」
ずっと前を向いていた白い顔が、僕を振り返る。
疾走の中で無理矢理響かせた
一瞬だけ見たサンジェニュインの目は丸く、力強く。
僕に訴えていた。
【負けるのは嫌だ】
僕は自然と、鞭を握っていた腕をしならせた。
サンジェニュインが再び前を向いて、脚がさらに前へ、前へと動く。
栗毛の馬はまだ、ずっとずっと先にいた。
驚くほどの大逃げ。
疾駆する馬を追って、サンジェニュインの馬体全体に力が入っていくのが解った。
徐々に距離が縮まっていく。
3馬身差から2馬身差へ、1馬身、半馬身、そして第4コーナーへ。
あと少し、あと少しで栗毛の馬体を追い抜く。
その時になって、僕の目から、涙があふれて止まらなくなった。
「やめてくれ」
2頭が並ぶ。
「抜かさないで」
サンジェニュインが必死に走る。
「待ってくれ」
サンジェニュインが頑張って走る。
「まだ、まだ」
サンジェニュインが、先頭を、走る。
「スズ──……!」
思わず振り返った。
離れていく栗毛。
その鞍上に── あの日の僕がいた。
希望で胸がいっぱいだった。
勝てる気しかなかった。
競馬に絶対はないけれど。
あの日の彼と、僕には、輝かしい未来しか見えなかった。
まだ青臭い顔をした僕が誇らしげに鞭を振るう。
彼は── サイレンススズカは、僕と目が合うとどこか、満足げに笑った。
「サンジェニュイン」
鞭を振るう。
残り400メートル。
前に誰もいない、正真正銘の先頭を、サンジェニュインが駆け抜けていく。
その風に吹かれて乾いた涙が跡になって、僕を前へと向かわせた。
あと少し。あと少し。
離れていた栗毛の馬体が横に並ぶ。
僕はもう、振り向かない。
その代わりただ、ただ前だけを見た。
ラスト100メートルの競り合い。
僕らだけの、競り合い。
「負けるな、サンジェニュイン」
首を押して、鞭を振るって。
行け、行け、行け、サンジェニュイン!
白い馬体が少しだけ、先を走った。
スピードを落として、やがて立ち止まったサンジェニュインが振り向いた。
上がる息を押しとどめて、その視線の先を見る。
「……僕を、ずっと見守っていたんだね」
栗毛の彼は、何も言わなかった。
その代わりに、レース以外でよく見せる大人しい、優しい目で僕を見つめ返した。
ずっと恨まれているのだと思っていた。
追い立てて、走らせて。
君は誰よりも走るのが好きだったから、あの瞬間、どれほど無念だったろうと思った。
けど違った。
今日、走って。
君が僕を見つめる、あの言いたげな顔の意味が少しだけわかった。
「情けないところを見せたな」
まったくだよ、と言いたげに彼が鼻を鳴らす。
「……いますぐに、は、やっぱり無理だけど。でも、たぶん、今日からは」
言葉が詰まりそうになって口をつぐんだ。
目がまた熱くなって、必死に耐える。
「今日から、は……新しい夢を見るよ」
僕がそう言うと、彼は嬉しそうな顔をした。
ぐるり、左旋回。
鞍上の【僕】を揺らして、そのまま僕らに向かって駆ける。
空が透けるほど薄い希望の塊が僕らを貫いて、振り返った先にはもう、彼らはいなかった。
耐えていた涙があふれる。
歯を食いしばって止めようとしても止まらず、白毛の馬体をぬらしていく。
サンジェニュインがちらりと僕を振り返ると、小さく身体を揺らして首を逸らした。
柔らかい鬣が顔に触れる。
「……涙を拭おうとしてくれたのか?」
「……ヒィン」
照れ臭そうな声を笑って、笑って、涙があふれて。
僕は、その優しさに甘えて顔を伏した。
ふわりとした鬣が重く濡れる。
くぐもった呻き声が漏れる。
濡れて気持ち悪いだろうに、嗚咽が煩わしいだろうに。
サンジェニュインはじっと、黙って、僕を乗せてくれた。
いつか、この痛みを思い出にできる日が来るだろうか。
胸にできた空洞を見つめて、ここに傷があったのだと、何気ない記憶にできるだろうか。
それはいつかな。
来年かな。十年後かな。それともずっとできないでいるだろうか。
答えはまだない。答えをくれる誰かもいない。
でも少し、これだけはと思うことがある。
僕は一生、サイレンススズカを忘れないだろう。
心に傷があったことや、涙を忘れて、空洞を撫でる手が止まっても。
今日、僕らのずっとずっと先を走り抜けた栗毛の馬体を、何度でも思い出す。
例えば東京競馬場に来た時に。
例えば栗毛の馬を見た時に。
例えば大逃げする馬を見た時に。
ふっと、重苦しい記憶として現れるだろう。
けどそれにはきっと、もう苦しさだけじゃない。
繰り返してきた楽しい思い出が、記憶に花を添えてくれるのだ。
僕の視界の端に、もう栗毛の馬体はない。
言いたげな顔もない。
その代わり、記憶の中にしっかり刻んで、忘れはしない。
僕の傷を連れ去ったスズカの、去り際の満足げな顔が、これからの僕を支えてくれる。
できた空洞に花を詰めて、僕は少しだけ、これを愛おしく思えた。
「……いつかまた、僕を乗せてくれるかい」
そう囁くと、サンジェニュインは「仕方ないな」と言いたげに小さく嘶く。
鼻息を吐く姿は大人ぶっている子供にも見えて、僕は今日、1番大きな声で笑った。
次回、おばけとサンと新騎手と神戸新聞杯!
サービスサービスゥ!!!!(詰め込みすぎ)
竹さんのターン、終了!(ドッカンドッカン)
サンジェニュインに(調教で)乗れないとは言ってない。
(レースで)乗れるとは言ってない。
何一つ嘘はない。
彼を忘れるのは無理だろうし、というか忘れる必要は無いのでは?とボブが怪しんだのでこうなりました。
スズカさんに傷(あの日の竹さん)を連れてってもらい、空いた場所に、竹さんの次の夢を詰めて頂こうと思います。
※あくまでこの世界線の話です。
……数年後、美少女と化したスズカさんとサンジェニュインをお出しされる竹さん!?!?
完全素人ニキの愛馬名アンケート
-
サニードリームデイ
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サンシカカタン
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タイヨウノムスコ
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タイヨウハノボル
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ブライトサニーデイ
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ラブディアホワイト