【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
7/24 23時で予約投稿したはずが7/25 23時の予約になってて慌てて手動投稿した。
すまねえ……すまねえ……!
はい、ほんへ。
今回は菊花賞です。
はー、長かった。
投稿を始めてからざっくり2ヶ月が経とうとしている中でようやくです。
サンジェニュインの大逃げに期待!(巨大ネタバレ)
クラシックシーズン、これにて閉幕。
美貌馬、完!
【お知らせ】
現在パスワード限定にしている美貌馬・番外編ですが、現状、パスワードを公開する予定はないです。
メッセージ等でお問い合わせ頂いてもお返事できません。
すみません。
番外編自体は8月に入ったら全体公開に戻す予定なので、そちらをお待ちください。
【特集:第66回菊花賞直前】
《先頭至上主義 ── 鮮やかな逃げ脚・サンジェニュイン号》
まだ記憶に新しい、第53回神戸新聞杯。
その勝ち馬、サンジェニュイン号の他馬を寄せ付けない大逃げに、私はたまらず「そら見たことか!」と膝を打った。
衝撃の1分57秒。
遡ること29年前、あれは第24回神戸新聞杯勝ち馬・トウショウボーイ号の姿。
刻んだタイム1分58秒9は、それ以前にシルバーランド号が持っていた中京競馬場芝2000メートルの1分59秒9が最短であったところを、1秒縮めたものであった。
これは当時の実況者が思わず「恐ろしい時計」と評したように、あの時代、2000メートルを2分切る馬が現れるとは、誰も思っていなかった。
トウショウボーイ号ののちにハギノカムイオー号の1分59秒8に、キングカメハメハ号の1分59秒と、2分を切る馬は増えたものの、依然58秒の壁は高かった。
それを、1秒9も縮めたのが今年の神戸新聞杯勝ち馬である。
圧倒的だった。もはや語る言葉もいらぬほどの走りでもって、白毛の馬体はゴール板を踏みぬいた。
私は、この馬を本誌の東京優駿前の特集でも紹介した。
力強い脚を持つ馬だ。
豊富なスタミナと勝負根性を併せ持って、白毛のダービー馬も夢ではないと思った。
最高の良血馬と名高いディープインパクト号を相手に、8センチ、3センチ、そして同着。
惜敗の度に大粒の涙を流して、次は、次こそはと思わせてくれた。
迎えた東京優駿、1センチ差と3度目の惜敗を喫するも、涙を見せず頭も下げず、ただ前を見つめる姿に胸を打たれた。
このレースの結果を指して、ディープインパクト号との間に格付けが済んだ、レース後によくある燃え尽き症候群だと、打ち合わせたように並べ立てる、評論などと名乗る感想文には辟易していた。
ゴール後の、あの表情。
左ページに載せた、この表情だ。
これが格付けの済んだ、燃え尽きた馬の顔であろうか。
私には、次のレースへと意識を切り替え、またひとつ、大人になったサンジェニュイン号の顔に見えて仕方がなかった。
負けて強し、を体現した東京優駿の結果ひとつで、私のサンジェニュイン号に対する期待は失われない。
ゆえに、ディープインパクト号に二重丸を打ち、サンジェニュイン号に三角をつける昨今の流れに逆らう形で、第53回神戸新聞杯で私は彼に二重丸を打った。
9月25日。パドックを周ったサンジェニュイン号を見たとき、これまで以上の迫力を感じた。
その迫力そのままに、サンジェニュイン号は誰にも影を踏ませることのないまま、2着馬に8馬身近くも差をつけて圧勝。
これが冒頭の、それ見たことかと叫んだ瞬間だ。
それ見たことか。それ見たことか。
サンジェニュイン号は逃げ切った。格付けが済んだという圧から、燃え尽きたと思われた圧から、敗北から見事に逃げ切ったのだ。
走り切った後のあの誇らしげな表情。
出遅れた弥生賞を除けば全戦、常に先頭を走り続けたサンジェニュイン号。
ゴール後も先頭は譲れないと言わんばかりに走り続ける彼は、間違いなく、先頭至上主義。
続く菊花賞は3000メートルと、どの3歳馬にとっても初めての距離。
血統だけを見れば、同血統のジェニュイン号は菊花賞に向かわずにマイル路線に進む等、一見すると長距離は不向きに見える。
だが忘れてはいけないことがひとつある。
サンジェニュイン号が、これまでのレースでスタミナ切れを理由に失速したことがない点だ。
管理する本原調教師は、サンジェニュイン号の最たる長所としてスタミナを挙げている。
2000メートルを先頭で走り切ってもなお、走り続けることができる体力は、
私は何より、その勝負根性を信じたい。
諦めることを知らず、諦めることを良しとせず、ただひたむきに前を、前を走り続ける。
きっとまた、サンジェニュイン号は逃げるだろう。
ハナをきって、他馬を寄せ付けず、追われても並ばせず、並ばれても抜き返し、最後には1着でゴール板を抜ける。
ふたつめの冠を手に入れ、周りが目の色を変える瞬間を、淀で見ることができるものと、確信している。
「これは……【得意】とか言うレベルじゃないねえ……」
まったくだぜテキ。
「こんなに差がでるんですね」
俺の身体の汚れを拭きながら、イサノちゃんが感心したようにうなずいた。
いやあ、こんなに差が……でるもんなの?
「出るにしても、普通は悪くなる、はずなんだけどなあ」
神戸新聞杯から2週間。
昨日までに2日連続で雨が降って、すっかり重くなった栗東トレセンの芝コース。
もう少し状態が良くなってから調教を始めるところを、今日は荒れた馬場での走破タイムを計測していた。
「1000メートルで53秒台ってお前、カルストンライトオじゃないんだから……これ余裕でレコードタイムだぞ」
マジ?
いやカルス、なんとかが誰かは知らないけど、テキが引き合いに出すってことは相当速い馬なんだよな。
それって俺の脚、やばすぎい!?
「芝木くんが言っていた、良馬場より重いほうが得意かも、は本当でしたね、テキ」
「ああ、うん。いやでもほんと、得意とか走りやすいとかのレベルじゃないよコレ」
それはそう。
今日走ったコースの馬場状態は、目黒さんが言うには重から不良のレベル。
脚も重くなって余計にパワーとスタミナを取られちゃうから、こういった馬場を嫌がる馬は多いのだと目黒さんは言った。
滑って転倒、怪我、落馬などを恐れて、鞍上の騎手もなかなか前へ押せなくなるらしい。
良馬場よりはスローペースになるのが通常だとか。
実際にコースはびっしゃびしゃで、最初に見た時はほんとにコレ走れる馬場なのか?って思ってたけど、テキや目黒さんが言うほど走りにくい感じはなかった。
むしろ
一番走りやすかったのはこの前の稍重の時だけど。
「今までも若干、パワーを持て余しているようには見えてたけど、脚に力がある分だと荒れてた方が好きか……神戸新聞杯が全部を物語っているようなものだな」
あんときはブースト掛かりっぱなしって感じだったからなあ。
鞍上が芝木くんでテンション上がってたのもあるけど、それ以上になんか、地面蹴るのが楽しかったよ。
蹴っても蹴っても疲れずにぐんぐん進むのが面白かった。
脚が全然止まらなくてちょっと怖かったけど。
あと、最後にディープインパクトに絡まれた挙句、ヴァーミリアンやアドマイヤジャパンたちにラチ沿いに追い詰められたのは根に持ってるけどな……!!
許せねえ……菊花賞では逃げ切った後マッハで検量室戻ってやるからな!!
影も踏ませないし馬体も触らせない。
イエス俺の顔好き、ノー俺にタッチ!!!!
「……これ、いよいよ
ん?外?
「まあ、いま考えても仕方ない。まずは目先のこと……菊花賞だ」
「残り2週間。神戸の疲れはすっかり取れてますよ。この通りピンピンで、道悪で1000メートル走ったのにまだ走りたそうです」
だってまだ1000メートルじゃねえか。
菊花賞ってすごい長いんだろ?
体力には自信あるけど、積める努力は積んどかないとな!!
カネヒキリくんからのリークだけど、ディープインパクトは坂路調教増やしてるらしい。
俺もやりたい!!
たぶんだけどアイツ、俺と同じかそれ以上に長距離走れそうな感じだよな?
ゴール後の俺をギリギリまで追ってくるのアイツだけじゃん。
それに神戸は俺が勝ったけど、あれが終わりじゃないし。
菊花賞を勝って、弥生の分を返さないと。
「無理のない範囲でやれるとこまで積もうか。……サンジェが勝つために、できることはなんだってやろう」
て、テキ……!
感動で涙が出そう!!
「そう、やれることはなんでもする!不正以外はね!大量のてるてる坊主作って逆さに吊るして雨ごいだ!!」
いやそれ神頼みじゃねえか!!!!
2005年 10月23日 京都 第66回菊花賞 芝右 外回り3000メートル
「まもなく発走時刻。これが3歳馬によるクラシックレース、最後の大勝負です」
「最も速い馬が勝つ、皐月賞。最も幸運な馬が勝つ、日本ダービー。そして今回のレースは【最も強い馬が勝つ】菊花賞。この大勝負に、3歳馬たちはどのように立ち向かうのでしょうか」
観客の声は遠くに聞こえる。
耳当てを着けているからだ。
時は返し馬。
立ち止まった俺の頭を、鞍上の芝木くんが優しくなでる。
「本日は残念ながら曇り。昨日の午前中は雨も降りましたが、今はその気配もなく、馬場も先ほど【良】の発表がなされました。予報ではもう少しで青空が見えるというところ。最初から晴れていて欲しかったですね」
そう、今日は曇り。
けど良馬場。
良馬場である。
「昨日、雨が降ったときは【やったじゃん!】とか思ったんだけどなあ」
ほんっとそれな!!!!
大量に吊るされた逆さのてるてる坊主に囲まれた2週間。
なんの儀式?なんて思いながらも、2週間も一緒に過ごせば愛着も湧く。
稍重、よろしくな!と毎晩毎朝、てるてるフレンズに祈ったけどダメだったな。
午前中だけだったけど、曇りとか小雨とか続けば明日は稍重くらいにはなるんじゃね?とか思っちゃったよ。
思ってわくわくしてすやすや寝たわ!!!!
はあ、芝、良質。
けど今はこの良質が恨めしい。
湿っててくれよ……重馬場とはいわん、ちょっぴり柔らかくあれよ……!
「馬場はちょっと残念だったけど……サンジェ、お前の脚は良馬場で劣るわけじゃない。重い方が得意なのと、軽い馬場では走れない、はイコールじゃないからな」
芝木くんが宥めるように俺の頭を撫でる。
わかってるけどさあ。
やっぱりちょっと、稍重だとありがたいなって。
脚への負担の差が段違いだったからな。
でもまあ、芝木くんが言う通り、良馬場で好走できないわけじゃない。
今までディープインパクトと接戦だったのは良馬場なわけだし。
それにさ、どのみち【逃げ】るんだ。
良でも重でも、駆け抜ければ一緒!
「返し馬は最後、サンジェニュインがしばらく立ち止まっているように見えましたが、動き出しました。さあゲートへの誘導が始まります。今年の3歳馬、例年より少し賑やかなのが特徴でした。クラシック最後のゲート入りですが、どうでしょう」
「いやあ、はは、最後まで騒がしいですね。ちょっと笑ってしまいました。とはいえ、この世代は賑やかでも強い馬が多いことでも知られています。その中心が、今回も1番人気、ディープインパクト。そしてデビュー以来ずっと競い合ってきたライバル、今回も2番人気に推されていますがオッズに差はありません、サンジェニュイン。この2頭でしょう」
「周りにいる馬たちも並の馬ではありません。愛すべきブロンズコレクター、アドマイヤジャパン。今日は金を狙いたいところ。セントライト記念勝ち馬のキングストレイル、もう1頭の逃げ馬・ストーミーカフェはそろって古馬戦線、天皇賞・秋を選び、今日はいません。期待のインティライミも故障の影響で回避の発表がなされました」
「例年なら菊花賞、多くの馬たちが脚をそろえてやってくるのですが……強すぎる馬2頭を前に、回避が相次いでなんとか17頭立てです」
ゲート前、誘導されていくほかの馬たちを見ながら、ふと、これが最後なんだなあと思った。
別に、これが終わったら人生、いや馬生が終わるわけじゃない。
次のレースもあるだろうし、引退したって牧場に戻るだけだろう。
けど、確かにコレが、最後。
皐月賞、日本ダービーと続いて、俺が、確かな強さを証明できる、最後のレースだ。
「大丈夫だよ、サンジェ」
ほんのちょっとの緊張感や不安に気づいたのか、芝木くんが俺の首を撫でる。
「今日も、お前は最高だ」
……その言葉が、何よりも好きだ。
「── 続いて4枠7番、ディープインパクトが誘導されていきます。前走、神戸新聞杯で無敗記録は途絶えましたが、しかし、しかし三冠にはまだ手が届きます。手ごたえ、気合ともにダービークラスで十分にある、と厩舎からも自信の声。鞍上
「抜群の末脚。長距離の今レース、ペース配分にさえ気を付ければ最終コーナーで一気にまくっていけるだけの実力があります。期待の1頭です」
鹿毛の馬体がゆっくり、ゲートにおさまっていく。
ちらりとだけ視線があって、そらさずに見つめ返してやる。
今日は負けない。
今日も負けない。
勝つのは、俺たち。
「奇数組の最後は17番、サンジェニュイン。安定した脚運びは自信の表れか。神戸新聞杯で1分57秒のレコードタイムでもって優勝したその脚が、菊花賞でどう動くでしょうか。管理する本原調教師からはスタミナ、スピード、パワー、どれをとっても最高クラスまで仕上げたと力強い宣言。今日も手綱は若手1番の実力と呼び声高い、芝木騎手が握ります」
「逃げ馬といえばこの馬。突出したそのスピードは、出走した全レースで他馬にハイペースを強いるほど圧倒的。今回も大外枠ですが、神戸新聞杯でもわかる通り、この馬に枠順は大した影響はありません。今レース、間違いなく注目すべき馬でしょう」
ゲートの幅は芝木くん2人分くらい。
でもそれが、やっぱり狭く感じる。
落ち着かなくなる。
ゲート嫌いな馬の気持ちを、今日になってから思い知るなんて。
確かに嫌だな、これ。
ざわざわして落ち着かなくて、でも、最高に、レースって感じがする。
「さあ、これで16番マルカジーク。つい1週間前、堀川特別で約1年ぶりの勝ち上がりを見せたばかり。前走の疲れは大丈夫か。距離適性はやや不安だが、力強い走りを見せてほしいです。……なんなくゲートにおさまりました」
小さく綱が揺れる。
そろそろだぞ、という合図。
「ようやくこの時がやってきました。本当に、本当に、これがクラシック最後。泣いてもいい。笑ってもいい。けど最後まで見てほしい。3歳馬たちの激走── 第66回菊花賞、スタートしました」
押し開かれたゲートは、栄光へ続く道筋だ。
「スタートは乱れなし。先頭、先頭、ハナを切るのはやはりこの馬、サンジェニュイン。抜群の出だし、他馬を突き離して優々と3コーナーを曲がります。続くのは下り坂だ。それを見る2番手はアドマイヤジャパン、シャドウゲイトが横並び、ややシャドウゲイトが前か。そこから2馬身差ピサノパテック、内沿いにローゼンクロイツ、回って外1馬身のところにコンラッド、フサイチアウステル、1馬身半離れてディープインパクト。いつもより前の位置です。サンジェニュインはホームストレッチまでまもなく。ディープインパクトから斜め1馬身差にディーエスハリアー、半馬身差でアドマイヤフジ、差がなくシックスセンスが続きます。3馬身ほど離れた位置にエイシンサリヴァン、マルブツライト、ミツワスカイハイが三つ巴。すぐ後ろで追うのはレットバトラー、2馬身差マルカジーク、シンガリにぽつんとヤマトスプリンター」
菊花賞は3000メートル。
俺が今まで走った最長は、日本ダービーの2400メートルだ。
そこから600メートルの延長。
正直、イケる、気しかしない。
「飛ばす飛ばすサンジェニュイン!スピードそのままにぐんぐん進みますがこれは正解か。歓声にも怯まず直線1000メートルを通過、この時点でタイムは……58秒台!?は、ハイペースです!桁違いだ!これは
芝木くんの鞭はまだない。
「大丈夫、だろ?サンジェ」
お?
なんのことかわからんけど、スピードとスタミナなら問題ないぞ!!
そりゃあこの前の稍重の時よりはやっぱりね、脚はつらいんだけど、正直まだ余裕なんだよな。
終盤で疲れたとしても、ここで時間と距離を稼ぐことが大事だし。
一番いいのは、俺につられて他の馬たちのスピードが上がって、そこから体力がガンガンに削れることだけど!
ディープインパクトとかどうせ今日も最後方、大外イッキぶち抜き!だろ?
後ろからだと俺の馬体が見えづらいから、あいつそんな早々に前に来たりしないんだよな。
……まあ、
っていうか観客うるさっ!!
スタンド前ってこんなにうるさかったっけ?
なんかプリケツって叫んでるやついなかった?
「第1コーナーを抜けて早くも第2コーナー目前。ここからサンジェニュインに追いつく馬は現れるのか、それともサンジェニュインが力尽きるか。後続ももうすぐ第1コーナー、ここでアドマイヤジャパンがシャドウゲイトを抜いて2番手集団の先頭!徐々に突き放していくっ!シャドウゲイト疲れ始めたか、しかし依然3番手以下とは4馬身以上の開き、おおっとここで中団に潜っていたディープインパクトがひょいとフサイチアウステル交わして、ゆるやかに先頭集団に交ざろうとしています。鞍上竹、どうにか綱を引くがこれは、折り合いを欠いているのか竹!竹!折り合いの天才、竹!」
スタンド前を抜けきって次のコーナー、曲がるときにちらっと右横を見ると、第1コーナーに差し掛かったアドマイヤジャパンが見えた。
そういやこいつも先行逃げのスタイルだったな。
俺がいつも先頭だから、後続の馬がどういった走りで来てるのかイマイチわからないんだよなあ。
ただあの、うっかり中団スタートになった弥生賞ではアドマイヤジャパンの背中が見えてたから、早めに前につけて差し切るっていうスタイルなのかも。
それより、うん……なんかアドマイヤジャパン、いつもより早くない?
気のせいか。
「ペース速いな」
えっそれ俺のこと?
「アドマイヤジャパン、割と早めに脚を使ってきた……サンジェ」
1発、鞭が入る。
ややスピードを上げて、第3コーナーまでの直線を駆ける脚に力を入れた。
ペース速いってアドマイヤジャパンか。
そうだよな、今日のあいつ速いよな。
かなりのスピードで走ってる自覚はあるから、前半15馬身くらいはつけられる!って気持ちだったけど、差はそれよりも短い。
縮まった分のスピードでアドマイヤジャパンが走ってるってことだ。
……こんなんちょっと脚ゆるめてたらヒィン!うまぴょい!だったかもしれないわ。
神戸新聞杯の時も先行で追いかけて来たけどバテてはいなかったから、アドマイヤジャパンは元々スタミナもあるんだろうな。
侮りがたしアドマイヤジャパン。
やっぱどの馬相手でも油断とかダメだな!
いやあ、逃げ打っててよかった!!
逃げ!逃げてればもう大抵のことはカバーできるからな。
ツインターボ師匠もそう言っている。ね、師匠!
「先頭サンジェニュインから2番手アドマイヤジャパンまで依然10馬身以上の差!これを詰めようとシャドウゲイト、エッ!?ディープインパクト!ディープインパクトがもう上がってきたこれは!?第3コーナー手前で内沿いにディープインパクト、シャドウゲイト、ディープインパクトシャドウゲイト!2頭並んでアドマイヤジャパンが眼前まだ3馬身差リード!竹、巧みな綱さばきで脚を溜めながらも2番手集団に交ざろうとディープインパクトが詰めています!」
第3コーナーにはドデカい坂がある。
テキが「魔の坂」とか呼んでたやつだな。
上がり下りがキツいからパワーもスタミナも溜めとけって言われてたけど、まだ、なんか、余裕だな?
これ、一気に上がっていけそう。
なあ、ちょっと一気にドカンとやってみないか芝木くん!?
「いけるかもしれない……サンジェ、ここから一気に上がろうか!」
よしきた!!
わかってんなあ芝木くん!
おお、上がっちゃおうぜ!
「サンジェニュインが、白毛の馬体が淀の坂!淀の坂をためらいなく、疲れた様子も見せず、一気に駆け上がってきたぁ……っ!まだ尽きないかスタミナ!このままいけばレコード勝ちだ!」
……いやキツいな!!
思ったよりキッツい!!
イケるとか舐めたこと言ってごめんな芝木くん、これ普通にキツかったわ。
上がるときにいつも以上に脚に力いれたからなんかちょっとジーンってキてるし!!
マジごめん、ちょっとだけ息入れてもいいか?
「ッまだいけるか、サンジェ!」
……やってやらあ!!
おおやってるよ、そうだよな弱気になってる場合じゃなかったわ、ぶち抜こうなやったろうな!!
「坂を上って少し脚が緩んだサンジェニュイン、これを待っていたとばかりに竹、すかさず鞭を振る!三つ巴からディープインパクトが抜け出して、サンとの距離を縮めにかかる!しかしまだ5馬身差あるぞ!このままサンジェニュインを逃がしていいのかディープインパクト!淀の下り坂、先頭はサンジェニュイン!!その後ろからディープインパクト、その鹿毛が風に乗って駆け行く……!」
2回、連続で鞭が入る。
ディープインパクトが来たって合図。
そうだよな、竹騎手、ここで仕掛けてくると思っていた。
俺たち、結構タイミングが合うよな。
栗毛さんとのレースの時、竹騎手が想定していた差し馬
自分がディープインパクトに乗ってる状態で、もし、あんたが俺に乗ってたら。
第4コーナーで追うには短すぎる。
第2コーナーで追うには早すぎる。
第3コーナー、中盤。
俺がここでもう1段階、息を入れるって気づいて、あんた、ここしかないって思ったろ。
……俺も、そう思ったよ。
「最後のクラシックも、この2頭の大接戦で終わるのか!?残り400メートルを通過して先頭はまだサンジェニュインだ!ここまで乱れぬスピード、口から出るのは「もうすごいスピード」それだけだ!しかし、しかしディープインパクトここは二冠馬の意地!負けてられない、負けていられるものかと猛追を仕掛ける!縮まる、縮まる残り2馬身差……っああ!」
俺が芝木くんに出会う前に、竹騎手、あんたが俺の背に乗ってたら。
きっと俺たち、それはそれでいいコンビになれたと思うよ。
1回キリの騎乗でさえ、怖いくらい、あんたとは息が合う。
鹿毛の気配がぐんぐん近づく。
叩きつけられた闘気に身が竦みそうになって、いや、それは俺も同じだと叩き返す。
負けらんないのは同じだよ。
俺も、お前も、他の馬も。
負けるために走ってるやつなんかいない。
だから。
『負けねえぞディープインパクトォォオオオ!!!!』
お前が意地なら、俺も意地。
「ッしかしサンジェニュイン!まだ伸びるのか!?どこに、今までどこにその脚を隠していたのか!それでもディープインパクト追いすがる!残り200メートル!まだ差が、差がある!!」
闘気が刺さる。
それを刺し返す。
痛い。
お前の覚悟が。
痛い。
前に進む脚が、まだやるのかと内側から叩いてくる。
痛い。
痛いよ。
でも、負けたらもっと、痛いから。
『俺が勝ぁぁあああつッ!!!!』
お前がどこまで自覚しているのか、わからないけれど。
お前が背負っていたモノも重かっただろうな。
俺はお前じゃないから、三冠目前の馬ではないから、その苦しみを表面でしか知らないけれど。
期待されて、愛されて、それに応えられない痛みだけは、よく解るよ。
「ここで並んだディープがサンの影を踏み抜こうとしかし、サンはしかし、しかし、サンだ!サン!サンッ!」
その痛みを癒す術が勝利にしかないことも、よく解っている。
解っているから、勝つことを切望するんだ。
ディープインパクト。
俺の人生にも、馬生にも、ずっとずっと刻まれた馬。
今まで痛みを知らなかったお前に、今日、誰が傷をつけたのかを覚えていろ。
『ッサンジェニュイン──……!』
ああ、お前、そんな声だったのか。
「決まった!決まった!雲晴れ行く淀の空に!真白の太陽が昇ったぁ──ッ!」
独りで抜けたゴール板は、思ったよりも広かった。
「鞍上芝木、ガッツポーズ!ここに、ここに白毛の菊花賞馬の誕生!史上初の白毛のGⅠ勝ち馬、サンジェニュイン!同着の皐月賞を除いては、これが初のGⅠタイトルです!」
芝木くんが俺の頭を撫でる。
よくやったと繰り返し褒める声は、少し潤んでいた。
「ディープインパクト、三冠達成ならず……!しかし上がり3ハロンは驚異の32秒7を刻みました!この馬もコースレコードだ!ディープインパクト、まさに負けて強しの馬……!」
「今回はただ、ただひたすらにサンジェニュイン、強かった……!走破タイムは3分2秒ジャスト!ディープインパクトも3分2秒コンマ5とレコードを大きく更新しましたが、サンジェニュイン、それをコンマ5、上回りました」
「1998年にセイウンスカイが刻んだ3分3秒コンマ2を、ディープインパクトがコンマ7、サンジェニュインが1秒とコンマ2、更新した形となります」
観客の声が身体を震わせる。
それは歓びでもあったし、怒りも含んでいるように聞こえた。
「2005年クラシックは、2頭の皐月賞馬による、ダービーと菊花賞の分け合いで終わりました。変則二冠を除けば史上初、2頭の二冠馬が、今、みなさんの目の前にいます!」
「すべての馬に大きな拍手を。勝ち馬サンジェニュインに、より盛大な歓声をお願いします」
そして鳴り響いた拍手は、地鳴りのようだ。
俺は、まだ走っていた。
脚はずっと痛い。
休みたい。
止めたい。
それなのに、心がまだ、走りたがっているから。
「ゴールしてもなお、走り続ける。これが先頭至上主義、これが逃げ馬。美しき逃亡者、サンジェニュイン……──!」
今日、負けたわけでもないのに込み上げてきた涙は、不思議といつもより、傷に沁みた。
クラシックシーズンはこれで終わりだが作品は完結ではない!!(確信)
次回、ウマ娘回!
その次に掲示板回と裏・菊花賞を挟んで2005年シーズンも終わりに向かっていきます。
引き続き応援、よろしくナス!
サンジェニュイン 牡 3
二冠馬になった
初めての長距離なのに1000m 58秒台で他馬のペースをめちゃくちゃにした馬
そんな逃げで大丈夫か?
大丈夫だ、問題ない(実際は割とギリギリだった)
ディープさん相手にお前に傷を刻んでやったぞ!した
実況によりその美貌が全国に知れ渡るウッマ
ディープインパクトさん 牡 3
2度目の敗北で何かに目覚めてる
2000m の感覚で走ってたら3000m だった、ということに途中から気づいたのにすごい追い上げてきた怖い
初期からの登場馬にもかかわらず30話を経て初発声
刻まれた傷の名前は【サンジェニュイン】
史実よりさらに強くなってる(確信)
芝木くん ヒト族 男
フルネーム:芝木
実況者:そんな逃げで大丈夫か?
芝木 :大丈夫だ、問題ない(ほんとに問題なかった)
竹さん ヒト族 男
息が合うせいで上がってくるタイミングを読まれてしまったが、
サンジェニュインが坂を一気に登ろうとすることをこちらも読んでいた
君たち気が合うね
テキ ヒト族 男
雨乞いしたけど叶わず
でも良馬場で走れないわけじゃないからな!!と思いながらレースに挑んだ
1000m 58秒台だしたときは失神しかけた(そこまで逃げろとは言ってない)
目黒さん ヒト族 男
うわあ、よく走るなあ、と思ってた
帰厩したら山ほど林檎を用意してくれる
今回参照した資料
・第66回菊花賞 - Wikipedia
・netkeiba.com の第66回菊花賞の通過順位、タイム、動画
https://db.netkeiba.com/race/200508040611/
完全素人ニキの愛馬名アンケート
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サニードリームデイ
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サンシカカタン
-
タイヨウノムスコ
-
タイヨウハノボル
-
ブライトサニーデイ
-
ラブディアホワイト