【完】これは圧倒的美貌で凱旋門賞馬になる俺の話 作:SunGenuin(佐藤)
2006年シーズン開始!!!!
タイトル回収に向けて頑張るぞ!!!!(サンジェニュインが)
有馬記念も遠い昔、ではないけど過ぎ去って、今は2006年1月。
俺は2週間の放牧に出された。
「おかえり、マイサン」
ただいまタクミ~~!
元気い!?太った!?
「こらっ、腹をつっつくなって。妙なこと覚えちゃってお前は……」
うーん、タカハルといいタクミといい、牧場の仕事は忙しいはずなのになんでお腹に脂肪が?
「はははっ、最後にあったときより大津くんの腹回り、太くてびっくりしたんだ」
「ちょ、新庄さん!」
「マイサン~!おっきくなったね!大津くんはマイサンが勝つ度に祝い酒飲んだくれてたからビール腹になっちゃったんだよ」
「新庄さん!寝藁は!?」
「あいあ~い!」
シンジョー、相変わらず笑い上戸なんだなあ。
あ、新庄っていうのは牧場スタッフのひとりで、タカハルとタクミがいない時の俺の世話係。箸が落ちただけで笑い転げるような元気な女性だ。実際に運んでた寝藁の束が1つ落ちただけでヒィヒィ言ってた。
で、大津ってのがタクミの名字。
本人は「微妙に言いづらくて自己紹介したくない」って言ってたけど。
「まったくあの人は……自分だって祝い酒してたのに……」
タクミよ、そう赤くなるな!
俺が勝って嬉しかったなら素直にいってくれよもお~~!!
えへへ、勝つ度にビール飲んじゃってもお~~!!
くるしゅうない!もっとビール飲んでいいぞ!!
「ああほら、こいつは理解できるから調子乗っちゃう……マイサンお前、ここには休みに来たんだからあんまりはしゃぐな」
休みだからはしゃぐんやろがい!!
俺の綱を持つタクミを横目に頭を振る。
「うおっとと、お前なあ。トレセンじゃ従順だって評判みたいだけど、相変わらずやんちゃ坊主で」
俺はオンとオフを使いわける男なんだよ。
それにしても、入厩して以来の実家── 社来ファーム・
出る前と変わらず……いや、出る前より明らかに発展してんな!
懐かしさを一切感じないレベルで厩舎がピッカピカになってね?
「ん?どうした、馬房行くぞ」
いやいや、なんか、きれいじゃん。
俺が出るときはこう、もうちょい所帯じみた、こう、庶民感のある建物だったはず。
前の放牧でお世話になった
「……ああ、建物が違うから戸惑ってるのか?これな、お前がレースを頑張ってくれたおかげで、本社からこう、いろいろあってな」
ああ、報奨金的な?
馬相手にずいぶん濁すな。
ぶっちゃけちまえ!誰かに言うこともない馬相手だぞ。
「まあ言っちゃうと、GⅠ級ホースの出身牧場としての体裁を整えた感じだな」
ぶっちゃけたな。
「元からあったリハビリ施設も良くしてもらったし、飼い葉の質も上がったから良いことだらけだよ。……お前は本当によく頑張ってくれた、うちの孝行息子だよ」
……んふふ。
まあ、ちょっとは恩返しができたのか、な?
俺の獲得賞金は、クラブから一口の兄ちゃん姉ちゃんへ、他にはテキたちのお賃金になったりする、って聞いてたけど、俺を生産した牧場はどうなるのか不安だったんだよな。
俺が勝てば勝つほど、この陽来が良くなっていくなら、これからも頑張らないと!
「そうだマイサン」
ん?
「マイサンと同じ栗東のトレセンから1頭、うちで預かっている馬がいるんだよ」
ほーん?
栗東にはそれこそ数え切れないほど多くの馬がいるし、俺はこの美貌だろ?普段は他馬を避けて調教してるから……たぶん知らない馬だなあ。
「シーザリオ号っていうんだが」
知ってる馬だなあ!?
アイエエ!?シーザリオちゃん!?
アメリカから帰ってきたあとに放牧に出されてるって聞いたけど、うちだったんだ!?
前に聞いたときは放牧先は早来だって言ってた気がするけど。
「……お、もしかして知ってる馬か?」
知ってるも何も併せ馬フレンズだわ。
「もうこの際、お前が明らかに名前に反応しているのは無視するが、そのシーザリオ号がな、リハビリのために早来から移動してきたんだよ」
エッ、リハビリってことは、シーザリオちゃんどっか悪いのか!?
前に脚元が不安って言ってたから、もしかしてそれ絡みだろうか。
……心配だなあ。
うちのリハビリは結構評判がいいって前にタカハルが言ってたけど、ほとんど知り合いのいない牧場での生活は窮屈じゃなかろうか。
俺が早来にいたときも、周りの馬が「なんだこいつ、顔イイけどしらねー馬」って顔してきたしな。
なあタクミ、シーザリオちゃんに会わせてくれよ。
なに、暴れたりしないって。
俺が暴れない大人しい馬なのは知ってるだろ?
「会いたいのか?」
頼むよ~!
「……うーん」
何に悩んでんだ、俺は別にシーザリオちゃんをひっぱって「野良レースしようぜ!ギャハハ!」なんてする気もないんだぞ!
善良なオッス馬だ!!!!
「牡馬と牝馬だしなあ」
オッス馬であることが問題だったか……。
いや、よく考えりゃそうだったな、俺とシーザリオちゃんは異性だから同じ牧草地に放てないか。
でも会いたいなあ。
せめて柵越しでも会えない?
マジで大人しくしてるよ俺、なんだったら近くで監視してていいから。
「隣の牧草地ならいいか。……連れてかないと駄々こねるだろうしな」
やっりい~~!!
最後の一言は聞かなかったふりをしてやるよ!
「どうどう、暴れるなって。お前がいるとほんと、賑やかだな」
でもその賑やかさが楽しいんだろ?
口元がにやけてるぜ、タクミ!
1人と1頭でにやにや笑いながら、シーザリオちゃんの牧草地を目指した。
『……あ!おーい、シーザリオちゃあん!!』
牧草地に1頭、青鹿毛の馬体が見えた。
美しい毛並みが風に揺れる、その姿は見覚えがある。
振り返った顔の、小さな流星がきらりと光った。
『あらまあ、サンジェニュインさん!おひさしぶりですね!』
『ひっさしぶりー!いやマジで久しぶり!!』
シーザリオちゃんと最後にあったのは確か皐月賞が終わってすぐのころ。
だいたい9か月くらいは会っていないことになる。
……会ってなさすぎい!?
あの頃は俺も日本ダービーが控えていたし、シーザリオちゃんは日米オークスがあったから、結構すれ違っていたんだよなあ。
本当に久々の再会だったが、前に会ったときよりは馬体は大きく見える、気がする。
『怪我したって?レースで怪我したのか?』
『ああ、いえ、実家に── 生まれ育った牧場にお休みに行ったときに判明したので、実はいつ怪我を負ったのかは……こちらに移動してからはずいぶんよくなりましたよ』
そう言って笑うシーザリオちゃんだったけど、怪我は思ったより大きかったらしく、まだまだ治るには時間が掛かるらしい。
産まれ故郷のノータンファームから、社来ファーム・早来で軽い治療を受けてたみたいだけど、本格的に治療・リハビリに専念すべく、牧場内にリハビリセンターがある俺の実家・陽来に移動してきたようだ。
『まだ痛いのか?』
『いいえ、痛みはもうほとんどないのですけれど……前みたいにうまく走れないのです。治るまでもうちょっと時間が掛かりそうですし、それに』
シーザリオちゃんの表情はあんまりよくない。
……あ、表情とは言ってもたぶん、ヒト目線ではそんなに変わんない。
ただ同族になった影響なのか、俺もずいぶんと喜怒哀楽がわかるようになった。
シーザリオちゃんは明らかに落ち込んでいる。
『それに、って?どうしたんだよシーザリオちゃん』
『……どうも私、ここまでみたいなんですよね』
『ここまで、って?』
言いにくそうにシーザリオちゃんが頭を下げる。
俺がそれを覗き込もうとするので、観念したのか口を開いた。
『もう走れないってことです』
『……えっ!?』
あまりのことで反応が遅れてしまった。
走れないって、シーザリオちゃん、日米オークス制してこれからってところじゃん!
『人間たちの雰囲気が、なんといいますか、そんな感じなのですよ』
『えっ、でもそれって、えっ、どうなるんだ!?』
『……母たちのいる群れに合流、ですかねえ。つまり、繁殖に入るということです』
『はん……ッ!?』
繁殖。
生命体の子孫が増えること。
つまり、子作り。
そ、そりゃあ馬という、血統がものを言う生き物である以上そりゃあ、いやわかってたけど。
シーザリオちゃんは俺と同い年、2006年1月1日付けで4歳になったばかり。
馬の繁殖がいつから可能なのかは知らないけど、俺の感覚的にはこう、ちょっと若いんじゃない!?
『えっ、えっ、俺たちくらいでその、は、はん、繁殖とか入れるの!?』
『さあ……でも、走れなくなった次は、命を繋ぐのが役目だって母は言っていました。私は2つの大きなレースで勝てたから、きっと良縁に恵まれるだろうって』
『……シーザリオちゃんは、それでいいのか?』
口にしてから、ああ聞くべきではなかったな、と思った。
俺たち馬は、例え嫌だと思ったことでも反抗する術はない。
反抗するべきでもない。
ヒトは常に俺たちの最善を考える。
何がこの馬の『最良』たりえるかを模索している。
そのために、時には俺たちの小さな望みさえも、費やす必要があるから。
『いやですよう』
やっちゃったな、と思った俺の目の前で、シーザリオちゃんがあっけらかんと言った。
『もっと自分の脚で走りたいですよう、そりゃあ』
でもね、とシーザリオちゃんが続ける。
『走って、怪我をして、二度と戻って来られない虹の向こう側まで行ったら。……それが一番悲しいことよって、母が言ったのです』
戻って来られない場所。
架かる虹の向こう側。
『それよりは命を繋ぎなさいって』
── 為せなかった夢は、その血が繋ぐでしょう
『いつか彼女も繁殖に入るでしょうね。彼女だって大きなレースを制したのですから。……きっと遠くない未来、私の仔と、彼女の仔が同じレースを駆けるかもしれません』
シーザリオちゃんの瞳は、未来を見ているようだった。
いつの日か見た、ラインクラフトちゃんのあの、まっすぐな瞳に似ていた。
『……サンジェニュインさん、寂しそうな顔』
『……そんな顔してないし』
『していましたよう。……あなただっていつか、その血を広める日が来るでしょう』
来るかな、まったく想像できないんだけど。
そもそも俺、今まで自分が牡馬にうまぴょいされない事を考えてきたけど、自分が牝馬とうまぴょいすることは考えてなかったから。
シーザリオちゃんやラインクラフトちゃんほど、血を繋ぐことにまだ自分なりの意味を見いだせていない。
そんな俺が血を繋げていいものか……でもきっと、いつか、俺の血を繋ぎたいって言われたらきっと、頑張ろうとはするだろう。
俺たち馬は、ヒトに望まれて生きているのだから。
『
『かもなあ』
ふわっと風が吹いて、シーザリオちゃんの鬣が揺れる。
凛とした彼女は、まだまだ走れそうな輝きを持っていた。
けど遠くはない、いつの日か、仔を生む母になるのだ。
そして我が仔に強さを伝えていくんだろうな。
『……でも本当は、やっぱり、自分の脚で勝ちたいですねえ』
こぼれた小さな嘶きは、次いで吹き抜けた風の鋭さにまかれて、俺にしか聞こえなかった。
陽来での放牧はあっという間に過ぎた。
別れ際のシーザリオちゃんは笑顔で、元気そうに見えた。
タクミたちも見送りに来て、道中のおやつにとりんごをバケツごと渡される。
そうして用意されたお馴染みの馬運車に乗って、合間にりんごを食べながら、俺は栗東トレーニングセンターに帰厩した。
「おかえり、サンジェニュイン」
ただいま目黒さん。
もうくったくただわ、やっぱり北海道からこっちって遠いな!
「体重は、見目はそこまで減ってないな。乗ってる時もちゃんと食べられたか?」
りんごたくさん貰ったからな。
あ、ちゃんと飼い葉も食ったぞ!
水も飲んだし。
「よしよし、偉いぞ」
んふふふ、もっと褒めてもいいぞ?
「目黒くんおつかれ。サンジェの調子はどう?」
「テキ。ええ、問題ないです」
「……ウン、ちゃんとリフレッシュできたみたいでよかった。もっと馬体重増えるかと思ってたけど、割と絞れてていいな。ウン」
テキがうんうんと頷く。
放牧中も元気に走り回ってたからなあ。
シーザリオちゃんのリハビリにも付き合ってたし。
それ以外は食っちゃ寝してたから、やっぱりトレセンにいる時よりは太ったんだけどな。
「目黒くん」
「はい」
「クラブから出されたローテ通り── まずはドバイに行こう。ドバイシーマクラシックだ」
ドバイ!
俺の次走は海外って決まってたけど、どこの国の何のレースかは決まってなかった。
ドバイの── しーまくら?シック、らしい。ん?いや、シーマ、クラシックか?
「海外初挑戦でGⅠは正直想定外だけど……サンジェニュインの実力なら問題ないだろう」
「同意します」
テキ、目黒さん……!
はじめてのレースでめちゃくちゃ期待されるとこう、弥生賞前に「絶対うちのサンジェが勝つ!」コールされたこと思い出しちゃうな……。
いやでもまあ、今の俺は、前の俺とはひと味違うから!
国内GⅠも勝てたし、ギリギリとはいえ、いやほんっとギリギリとはいえなんとかハーツクライさんにも勝てたし。
っていうか去り際のハーツクライさんなんかキレてなかった?
めちゃくちゃ鬣を噛まれたんだけど。
こう、グッグッと噛まれて、しまいには尻尾近くまで噛まれたけど。
絶対怒ってたってアレ、怒ってませんって顔してたけど怒ってたってアレえ!
「……でもテキ、そのレースの馬場って」
「……あー、けどまあ、日本よりは」
「それはそうですけど」
身体もすごい押されたから……なんでえ?
俺が勝ったから?
いやでも負けたからって噛むような狭量なひと、じゃねえや馬には見えなかったし。
ディープインパクトとハーツクライさんとおんなじ馬運車に乗って帰ってきたけど、降りるときは「また次のレースで」って言って別れたし。
たぶん怒っては……じゃあ俺なんで噛まれて……っていうかテキと目黒さん、なにコソコソしてるんだ?
ハーツクライさんが怒ってるかどうか考えてて聞き逃しちゃったからもう1回言ってくれ。
「……まあ、現地についたら解るか」
「それでいいんですか、テキ」
「なるようにしかなるまい。俺たちは最善を尽くすのみ。クラブとしては、ドバイはあくまで
「それはまた、豪華な前哨戦ですね」
「まったくだ。……だが、一切手を抜くつもりはないよ。コレまで以上にサンジェには頑張って貰う必要があるし、俺たちもそれ以上に頑張る必要がある」
テキが俺の頭を撫でる。
「頑張れるか、サンジェ」
……おいおいテキ、誰に聞いてるんだ。
今まで俺が頑張ってこなかったとでも?
テキたちが俺のために最善を尽くして頑張ってきたのと同じように、俺もまた、いろいろなものを尽くしてきたよ。
ドバイでも頑張れるか、否か。
答えはもちろん、頑張れる、だ!
「おお、いい嘶きだな」
ドバイでもアメリカでもダートなんでも、かかってこんかい!!
……いやごめん、ダートは走ったことなかったわ許して。
「テキ、今期のローテーションは」
「ウン。ドバイの次はフランス、シーズン初戦をガネー賞で慣らして一度帰国。6月のサンクルー大賞のあと、翌月はキングジョージ6世&エリザベス女王ステークス。調子を見てインターナショナルステークスとフォワ賞、だが、ここはスケジュールがきついかもしれないから、ま、戦績を見て判断。そしてその次は……」
テキが両手で俺の顔を持ち上げる。
「凱旋門賞だ、サンジェ!」
目黒さんが言っていた。
凱旋門賞は、日本の馬が何度も挑戦して、挑戦して、それでも取ることができなかった冠。
日本生まれの、日本調教の馬でその頂に立つことが、日本競馬の目標の一つだと。
「お前なら、きっと取れる」
テキの目がキラキラと輝く。
疑うことのない……いいや、信じることだけを決めた、まっすぐな目だった。
次回、正式なローテーション発表!ひさびさだねカネヒキリくん!はっぴーらぶらぶ!
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